儚き想い、されど永遠の想い
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375部分:第二十九話 限られた時その六
第二十九話 限られた時その六
「この味は」
「どうですか?」
「不思議な食感ですね」
こう述べるのだった。
「何かお魚を食べている気がしません」
「貝の様ですね」
「はい、食感が」
魚ではなくだ。そちらだというのだ。
「そうした感じですね」
「それがてっさなのです?」
「てっさ?」
「河豚、つまり鉄砲の刺身ですから」
それを略してだというのだ。
「そうした呼び名になります」
「それでてっさなのですか」
「そうです。食べやすくあっさりとしていますね」
「ですからお酢とお醤油にも」
合っていた。それもよく。
「そういうことなのですね」
「はい。それではまずはこのお刺身を食べて」
「それからですね」
「次は唐揚げと天麩羅です」
揚げ物のこの二つだった。
「そしてそれからいよいよです」
「鍋ですか」
「河豚鍋はいいものです」
目を細めさせてだ。義正は述べた。
そしてだ。真理にこんなことも述べたのだった。
「これからですが」
「河豚鍋の後で、ですね」
「他にも冬を楽しんで頂きたいと思っています」
「食べもので」
「冬には冬の食べ物の楽しみがあります」
だからだというのだ。
「鮟鱇もそうですし鱈等も」
「そうですね。鍋ものですね」
「それを召し上がって頂きたいと思っています。日本の味を」
「我が国の味を」
「鍋は我が国の最高の料理の一つです」
義正は刺身を食べ終えても尚こう述べている。
「ですから是非共。しかもです」
「しかもとは」
「鍋ものは身体にもいいのです」
だから余計にいいというのだ。
「ですから」
「鍋を食べてそうして」
「次の次の春を迎えましょう」
義正は言った。その彼の言葉に真理も頷きだ。
微笑んでだ。こう夫に返したのだった。
「では」
「そうされますか」
「そうさせてもらいます。それで今日は」
「はい、河豚をこれからも」
「頂きます」
答えたところで早速だった。天麩羅と唐揚げも来た。それも普通の魚では味わえない食感、そして味だった。その揚げ物を楽しんでからだ。いよいよだった。
鍋が来た。既に温められできた鍋が運ばれてくる。それを食べると。
真理はまただ。顔を綻ばせて言うのだった。
「鍋もまた」
「絶品ですね」
「これだけ美味しいお魚があるのですね」
「河豚を食べれば他の魚は食べられません」
義正もだ。その河豚を楽しみながら笑顔で述べる。
「そう言われています」
「あまりにも美味しいからですね」
「そしてです」
「当たるからですか」
「これは洒落でもあります」
微笑みだ。そうしたものでもあるというのだ。
「河豚はどうしても毒がありますから」
「それで食べられなくなるというのですね」
「面白い洒落ですね」
微笑んでだ。また言う義正だった。
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