名探偵と料理人
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第二十九話 -世紀末の魔術師(2/6)-
前書き
このお話は 劇場版 世紀末の魔術師 が元になっています。
姿を現したエッグは大きさはダチョウの卵くらいで緑をベースに花の銀細工が施されていた。頂点部とその周りはなぜか窪みがある。ロシアの人間が動いている割には…
「これがインペリアル・イースター・エッグ…」
「なんや、おもてたよりぱっとせえへんなあ」
「なんか、ダチョウの卵みたいやねぇ」
「歴史がある物、いうのはなんとなくわかりますけども。ウチにある古い美術品と同じ感じがしとります」
「ははは。ああ、西野君皆さんに冷たいものでも」
「分かりました」
そう史郎さんに言われた西野さんは、俺達の飲み物を準備するために会長室を退室した。
俺も口には出さなかったが、平ちゃんと同じ感想だ。
「これ開くんでしょ?」
「そうなんだよ。コナン君、よく分かったね」
そう言って史郎さんはエッグを開いて見せてくれた。中にはニコライ二世の家族の模型が作られていた。それは純金で作られており、個々の表情がしっかりと分かるほどの細工だった。
史郎さんはその後、エッグにある面白い仕掛けを見せてくれた。ねじを巻くと、模型がせり上がりベンチに腰掛け家族に囲まれたニコライ皇帝が持っていた本を開くという物だ。
「へえ~!おもろいやん、これ!!」
「ファベルジェの古い資料にこのエッグの中身のデザイン画が残っていてね。正式に『インペリアル・イースター・エッグ』の1つとして認められたんだよ」
「メモリーズエッグっていうのはロシア語を英語にしたものなんですか?」
「ああ、ロシア語ではボスポミナーニエ。直訳すると「思い出」だそうだ」
ВОСПОМИНАНИЕ、思い出か。なんで思い出なんだ?そう思ったのはオレだけではなかったらしく。新ちゃんも聞いていた。
「ねえ。なんで本を読んでいるのが思い出なの?」
「バーカ、皇帝が子供たちに本を読み聞かせているのが思い出なんだよ!」
「エッグのふたの裏にあるのは宝石ですか?」
「いいや、これはただのガラス玉だよ」
「え?」
「史郎さん、じゃあエッグの外周にある黄色いものも?」
「ああ、これもガラスらしい」
「皇帝から皇后への贈り物なのに?なんか引っかからない?」
「うーん、だがこのエッグが作られたころにはロシアも財政難になっていてね。そのせいじゃないかな」
「引っかかる言うたらキッドの予告状。なんで光る天の楼閣が大阪城なんや?」
「あほぅ、大阪城を作りなさった太閤ハンは大阪の礎を築いて今の大阪をおつくりになった、大阪の光みたいなもんやん」
「その通り!」
「ん?」
おやま、会長室に突然入ってきて俺らの会話に割り込んだのはキッドに「漆黒の星」を狙われた時に警備していた中森警部と茶木警視だ。
「キッドが現れるのは大阪城の天守閣!それは間違いない。だが…」
「秒針の無い時計が12番目の文字を刻むとき。この犯行時刻がどーしてもわからん…」
「それってあいうえおのことなんちゃう?」
「なに?」
「あいうえおの12番目ってことは「し」?」
「じゃあ、四時ってこと!?」
「いや、キッドの予告にしては単純すぎる…」
「ふっふふ、分かりましたよ中森警部。あいうえおではなくてアルファベット、ずばり「L」!」
「なるほど、さすがは名探偵!おみごとです!!」
「なーに、私にかかればこのくらい!」
「確かにL、つまり午前三時なら黄昏の乙女にも合致する!」
「待ってろよぅ、怪盗キッド!」
いや、あいうえおもそうだがロシアの宝物で英語は使わないんじゃないか?キッドって盗むものになぞらえて暗号を作っている節があるって新ちゃん言ってたし。
「なあなあ、龍斗。ホントに三時やと思う?ウチにはどーにもしっくりきません」
「俺も。ロシアのもので英語というのは何とも…でも今は他に手がかりはないからな…」
小声で俺に聞いてくる紅葉。彼女もどこか引っかかっているようだ。とはいえ、俺もこういうまどろっこしいものを考えるのは得意ではないからなあ。ちらっと見たら新ちゃんも納得していないようだった。
―
俺達未成年組は大阪住みが二人もいるとのこともあり大阪観光をすることになった。最初に訪れたのは難波布袋神社。ここのおみくじは良く当たるとの評判らしい。
「わあ!私大吉!!」
「え?どれどれ!」
「えっと。『待ち人:恋人とは秋の祭りで再会します』だって。…秋のお祭り?」
「秋のお祭り言うたら岸和田のだんじり祭りがあるなぁ」
「ウチは東京に移ってから秋は今年が初体験ですからお祭りはよう知りませんなあ。園子ちゃん、なにか思い当たる物あります?」
「うーん、なんだろ。あ。東京よさこいが10月にあったような。そこに新一君が現れるってこと!?」
(んなわけねーって)
「もしそうならよかったやん!東京のお祭りってあんま行ったことないしウチも行こうかな。ウチだけ工藤君に会うたことないし今度こそ会わせて―な!」
はて?秋に何かあるのかね。まあ元に戻るなら俺も近くにいるだろうし心の隅にでも置いておくかな。
「さて、と。問題は午前三時までどうやって過ごすかやけど、まあとりあえず何か美味いもんでも…うん?」
平ちゃんが何かを言いかけて新ちゃんを見て、俺を見て。もう一回新ちゃんを見た。その新ちゃんはというと何やら思案している様子だ。
「和葉。お前その3人を案内したれや」
「え、平次は?」
「オレは龍斗とこのちっさいのを案内する」
「どうして?一緒に行こうよ」
「男は男同士がええんや。なあ龍斗。コ、コ、コナ、コ、コナン君?」
「うん!」(早く慣れろよな、おい)
(ほっほー。エラそやないか、ばらしてもええんやで?)
(っ!ど、努力してください!)
(せやせや。人にものを頼むときはな、笑顔を忘れたらあきまへんで?)
(んにゃろう)
しゃがみこんで小声でやり取りをする二人。まあ俺に当然聞こえているわけで、苦笑を浮かべながら女性陣にはこういった。
「じゃあ集合は…そうだね、とりあえず9時にホテルってことで。予定変更とかトラブった時は携帯に電話して。すぐに≪飛んでいく≫から。じゃあ平ちゃん、コナン君。行くよ?」
「おう」「うん」
そういって俺達三人は神社を後にした。
その後ろでは……
「なーんか、妙に仲がいいのよね。コナン君と服部君」
「龍斗君と仲がいいのは当たり前として。なんか3人兄弟で龍斗君が長男、あとの二人が歳の離れた双子って感じ?」
「そら平次は子供っぽくてやんちゃやけど。小学生のコナン君と双子って…あかん、そう言われたらそんな気がしてきたわ…」
「まあまあ。そんなら二人の面倒はお兄ちゃんの龍斗にお任せして。ウチらはどないします?」
「んー……そうだ!女は女同士で浪速のイケてる男どもにご飯をおごらせちゃおうよ!」
「そんなら、ひっかけ橋にでも行ってみる?」
「あ、でも紅葉ちゃんは……」
「大丈夫です。龍斗はそないなこと気にしません。他の男にウチがなびくようなことは無いって知っとりますから」
「オーオー、御馳走様」
「ああ、でも龍斗の方はなあ…」
「え!?龍斗君浮気するの!!?」
「うっそー…それって何かの勘違いよ、絶対!だって龍斗君紅葉ちゃんにメロメロだもの!!」
「ああ、いや。浮気とちゃいます…」
なんて会話が繰り広げられていたことは二人は知らない(俺は聞いていたけど)
「オマエ、12番目の文字引っかかってるんやろ?」
「ああ、キッドの予告上にしては英語って言うのが唐突に感じるんだ」
「唐突?」
「今回のインペリアル・イースター・エッグはロシア由来のものだ。奴ならそれに即してロシア語を絡めてくるはずだ」
「ロシア語言うたら…」
「К(カー)。英語で言うKのことだね」
「龍斗の言う通り。でもそれだと…」
「時間の文字盤に当てても時刻にはならへんな」
「それに予告状の最後の『世紀末の魔術師』ってのも気にかかる。奴は一度も自分の事をそう呼称したことは無かった。何か意味があるはず…」
「ったく。気障な奴やでほんま」
「もう一つ引っかかるのは、今まで宝石しか狙ってこなかった奴がなぜ今回に限ってそれから外れてエッグを狙ったのかってこと…」
「確か、キッドは宝石は盗んでも警察に郵送とかで送り返しているんだっけ?だから被害金額は盗む過程における器物破損、警備員の人件費及び治療費とかが大半で宝石本体の値段は入っていないとか何とか」
「なんや?えらい詳しいやんけ」
「俺も一度奴に会ったことがあるし気になって調べてみたんだよ。被害総額は約400億円。…何を探しているかは知らないけどお金が降って湧いてくるわけでもないし人に要らぬ被害を与える奴は好きになれないかな。…早く捕まえないと俺が力づくで捕獲しちゃうよ?新ちゃん、平ちゃん」
「勘弁してくれよ、龍斗…」
「ははは……そうや、お前ら引いたおみくじはどないやったん?」
「え?そんなんまだ見てねーよ」
「俺も」
「なんでや?キッドとの対決を占う大事なおみくじやろ?」
「ったく……」
そう言ってさっき引いたお神籤を開き目を通していく新ちゃん。そしてその後ろから覗き込む平ちゃん。
「なんや、小吉かいな。中途半端なモンひきよってからに。こんなんやったらキッドとの対決、勝てるか負けるかようわからんやんか」
「…ん?」
おや?新ちゃんがとある項目で目を止めた。なになに…
「『旅行:失言で秘密が明るみに出ます。やめましょう』だと?」
(おいおい、まさか蘭に…まさかな)
「ここのおみくじ、よう当たるからな」
「え!?うそぉ!?」
「ほんま♪」
「んにゃろう…」
「…あ、でも対処法も書いてあるよ」
「え?あ、ほんとだ。なになに…『周りの人に助力を求めれば苦難の回避、又は乗り越えられます。一人で抱え込まず、信頼できる友人を頼りましょう』か。…頼りにしてるぜ、平次君、龍斗♪」
そういって覗き込むためにしゃがんでいた俺達二人の肩を笑顔で叩く新ちゃん。
「良い笑顔をしよってからに。やけど、なーんでオレには君付けで龍斗はそのまんまなんや?納得いかん」
「まあまあ」
「はっはっは。それで?龍斗の方はどうなんだよ?」
「俺?俺はね―――……」
―
その後、俺らはあーでもないこーでもないと議論をしながら平ちゃんに連れられて大阪観光にしゃれ込み、7時を過ぎたあたりで一度鈴木近代美術館に戻ってきた。
ん?
「――と申します。こちらは執事の沢部です。このパンフレットに載っているインペリアル・イースター・エッグについて是非とも会長さんに会ってお話したいことがあるんです」
「生憎と、会長は今出ていまして…」
「エッグの写真が違うんです!曽祖父の残した絵と」
美術館のゲートを入って少ししたところで西野さんが誰かと話していた…あれ?あの人は…
「お?こらおもろいな。午前3時が「L」なら今は「へ」や」
「へ?」
「今、7時13分やけど20分になったら完璧な「へ」の形になるで」
「!!」(黄昏の獅子から暁の乙女への「へ」は頭から数えて12番目!)
「服部、龍斗!キッドの予告した時刻は午前3時ではなく午後7時20分だ!」
「なんやて!?」
そう言うと、新ちゃんはスケボーを持ってゲートの方へ走り出した。
「お、おい工藤どこに行くんや!?」
「大阪城だ!二人はエッグを守ってくれ!!」
俺達にそう言うと今にもスケボーで走り出そうとする新ちゃん…?雨…か?
「ん、雨?確か天気予報やと今日は晴れ…!?ちょ、ちょっと待てぇ工藤!「光る天の楼閣」は大阪城やない。通天閣や!」
「通天閣?」
「通天閣のてっぺんはなぁ、ひかりの天気予報なんや!」
「なに!?」
なるほど。警察は「光る」部分を無視して大阪城の天守閣からキッドは現れると考えていたが「光る天の楼閣」、「光る」は「光の天気予報」のこと。楼閣とは高層の建物の事。全てに合致するのは通天閣の方だったか。名前にも「天」が入って…いるし……!?
――ドォーン!ドン!ドン!
「大阪城の方で花火が上がり始めたね」
「服部、通天閣はどっちだ!?」
「あっちや!……あっちの方は花火が上がってへんぞ?」
「花火はオレ達の目を通天閣からそらせるためのものだ。でも何故だ、なぜ奴は通天閣に…」
「くっそ、今から通天閣に行っても間に合わへんな」
「ここで迎え撃つしかないね…」
そう言いあっている合間に新ちゃんは西野さんに近づいて。
「西野さん!エッグは今どこに?」
「それが中森警部がどこか別の場所に持って行ったみたいなんだ」
「なんやて!?」
おいおい、奇策のつもりか?今回に限っていうなら最悪のタイミングだ。彼らは8時間後が犯行時刻だと思って今は油断しているだろうしな。
「くっそ!エッグの場所が分からないとどうしようもねーぞ!……な、電気が!?」
……かなり遠いけど爆発音が聞こえた。周りの電気が一斉に消えたってことは変電所か何かを爆破しやがったな……大阪の都市機能がマヒするぞ、くそ…
通天閣はあっちって言ってたな…確かにてっぺんにいるな。白いシルクハットにモノクルを付けた奴が。周りは真っ暗だが≪よく見える≫。…口が動いてる、何か言ってるな?なになに…『ホテル堂島センチュリー』『天満救急医療センター』『ホテルチャンネル10』『難波TMS病院』『…ん?ビィーンゴ!』なるほど、ね。だから停電させたのか。うん?
「あれ?新ちゃんは?」
「あいつなら、スケボーに乗って通天閣の方へ行ってしもたわ!オレ達も追うで、龍斗!」
「…あー、俺はいい。新ちゃんのスケボーって確か夜だと30分しか持たないらしいしバイクは2ケツまで。スケボーの温存のためにも新ちゃんを乗せてあげてくれ。それからエッグは通天閣から南西約2kmの雑居ビルの、多分四階だ。≪そこから匂う≫。明かりがついているから分かると思うから新ちゃんと合流してすぐに向かって。ほら早く!」
「お、おう!任せとき!」
そう言うとバイクを走らせてゲートを出ていく平ちゃん。…新ちゃん、平ちゃん、キッドの位置から考えて先にエッグにつくのはどうやらキッドになりそうだな。しっかり取り返してくれよ?
さて、と。俺は突然の停電で戸惑っているであろう女性陣の回収にでも動きますかね。変電所が逝ったせいで携帯もつながらないしな。えっと、紅葉の現在位置は――…
―
結局、エッグは一度キッドに盗まれてしまったが空を飛んできたキッドが何者かに狙撃されその際に落としたエッグは新ちゃんが無事回収した。
「すごい豪華客船やなー!ウチも乗ってみたいわ!」
「オレもや!そうそうないで、こないな機会」
「じゃあ二人とも、一緒に東京来る?」
「行く、行くで!」
「アホ!平次足怪我しとるやん!」
「あ…」
翌日、つまり今日。エッグに傷がないかを確認するため美術館の展示を取りやめ鈴木家の船で東京に持ち帰ることになった。
平ちゃんは、キッド追跡中にトラックと事故になりそうになり軽い捻挫をしてしまった。今は大阪港に見送りに来てくれたというわけだ。
「こっちでキッドを仕留めきれへんかったのは悔しいけど、東京に帰って何か進展があったらちゃんと連絡せーよ?」
「ああ、オレが詰まったら連絡してやるよ」
「何やと!?」
「まあまあ。それじゃあ俺達も乗船するから。平ちゃん、和葉ちゃん。またね」
「おう!」
「またな、龍斗君、蘭ちゃん、園子ちゃん、紅葉ちゃん!」
こうして東京組とエッグの交渉に来ていた4人、そして昨日の7時過ぎに西野さんと話をしていた二人を乗せて船は出港した。
後書き
この作品の紅葉は仲がいい人がようやくできて砕けた感じになっています(原作を見ると結構遠巻きにされてるっぽいし。ハブではなくて近寄りがたい感じ?)
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