魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話
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第五十二話
背後から"ナニカ"が追って来る。
「え?誰もつけて来てない筈なんだけど…」
と刀奈が言った。
そう。確かに"誰も"ついてきてない。
なぜなら…
"ヒトじゃないナニカ"に追われているのだから。
形の無い、不定形の黒いモヤ…
怪異と呼べないような、負の集合体…
まさに"穢れ"や"淀み"と呼ぶべきモノ…
大きさは…二メートルほど…
道行く人々を"すり抜けながら"追ってくる。
きっとアレに触れられるのはチャンネルが合う者だけだろう…
この面子で確実にチャンネルを持ってるのは俺と箒、残りの面子も持ってる可能性はある。
「一夏。なんなのだアレは?あんなモノ初めて見たぞ」
「ああ。俺もだ…まさか東京が魑魅魍魎が跋扈する街だとは…」
俺達の街ではあんなモノは居ない…
いや、少し違う。
『あんなモノは存在するが俺達の目に見える範囲には居ない』と言うべきだ。
俺は、以前にアレになる前の物を視たことがある…
そう。北白蛇神社に集まっていた負のプシオンや呪い一歩手前のサイオンなどの負の霊的エネルギー…
つまり初代怪異殺しがエネルギーとしていた物だ。
何が言いたいかって言うと…
俺達の街では"穢れ"や"淀み"になる前に初代怪異殺しによって浄化されるのだ。
目覚めさえしなければ役に立つんだが…
なるほど…負の霊的エネルギーを放置すると集まって形を為すのか…
「刀奈」
「何?」
刀奈に近づき、耳打ちする。
「俺達は今化物に追われている」
「なんですって?」
「箒についてここから離れろ。俺の式神もつける」
「貴方は?」
「ちょっとあの化物を倒して来る」
「出来るの?」
「昨日の突入より簡単だ」
刀奈から離れ、箒の方へ行く。
「箒。橙をつける。皆を連れてホテルへ戻れ」
幸い、階は違えどここの面子は全員同じホテルに宿泊している。
それに、あまり好ましくはないが、暴力陰陽師も同じホテルだ。
まぁ…臥煙伊豆湖は別のホテルだがな…
そして、ウカノミタマに暴力陰陽師の部屋番号を送る。
「なんだこれは?」
「一応この部屋に行け。俺の名前を出せば話くらいは聞いてくれる筈だ」
「了解した…勝てるんだよな?」
「無論だ」
「わかった」
箒は、エレンとリムの手を取り、刀奈は更識の者を連れて、ホテルへ向かった。
俺は、箒達とは逆の方向へ…普段押さえているサイオンを少し垂れ流しつつ、歩を進めた。
ナニカとの距離が20メートル程になった所で路地に入る。
ナニカは俺を追って進路を変えた。
「よし…そうだ…そのまま着いてこい…」
なんとか人の居ない所まで誘導しないと…
暗く狭い裏路地を、おぞましき"物"に追われながら駆ける。
やがて、空地に出た。
だいたい30メートル四方くらい…空地の隅にある建材と重機から工事間近なのだろう。
空地の真ん中に位置取る。
「さぁ来やがれ。俺が現代魔法だけじゃねぇって教えてやんよ」
さっき通った路地から、ユラリと顕れた黒いモヤ…
「あ"…あ"…う"う"…う"ぁ"…」
意味の無い呻き声を上げながら、モヤの形が定まって行く。
「う"…あ"あ"あ"あ"あ"!」
「あー…なんか…めんどくさそうになったな…」
そのモヤのとった形はヒトガタだった。
しかも背格好は俺と似通っていた…
「まぁ…いいか…」
さて、おそらくこのナニカに物理攻撃は通じないだろう。
それ以前に出来るだけ触りたくない。
正直な所を言えば分解系で吹き飛ばしたいけれど、それをやったとしても負の霊的エネルギーが霧散するだけだ。
時間が経てばまた集結してしまう。
面倒だが"祓う"しかない。
「どうしようか…取り敢えず…」
祝詞かなぁ…
「高天原に神留まり坐す。皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を。神集へに集へ給ひ……」
「う"う"う"う"う"う"!」
大祓詞を唱え始めると、ナニカは苦しみだした。
「ヲヲヲヲヲ!」
ナニカが、こちらへ迫って来た。
ユラユラとした手を、ナニカが持ち上げ…
ドシュゥン!
その手が、棘か槍のように、俺の心臓を貫いた。
ゴプリと、血が溢れる。
「ゴファッ!グファッ!」
あぁ…痛い…痛いなぁ…
痛みで意識が飛びそうだ…
手を…手を伸ばす。
手刀を作り、サイオンで覆う。
その手刀を掲げ…
ザシュ!
俺を貫く槍を断ち切る。
移動魔法でナニカから距離を取り、槍を引き抜く。
「がっ!げふっ!ざい…ぜい…!」
再生により、俺の体は貫かれる以前の状態へ巻き戻された。
サァァ…と、ナニカから切り離された槍は霧散した。
しかし、それはゆっくりとナニカへ向かっいき、再びナニカの一部となった。
「はぁ…はぁ…マジかよ…ブレイン・バースト、キャスト」
キィィィィィィィン!
世界が、静止する。
精神干渉系概念拡張加速魔法ブレイン・バースト。
自身の思考を数千倍に加速する魔法だ。
名前は…まぁ…某ラノベの技術から取った。
ふむ…どうすべきか…
空を飛んでいいならばあんな攻撃は避けられる。
しかし、こんな街中で飛ぶ訳には行くまい。
認識阻害は万能ではないのだ。
と言う訳で…
「ミストディスパージョンで散らしてから祓うか…」
ブレイン・バースト、ディキャスト。
キウゥゥゥゥゥン…
世界が、動き出す。
目の前で、再び俺を貫こうとするナニカ…
「去ね!穢れた者よ!」
ナニカに、掌を向ける。
ミストディスパージョン…キャスト…
一切情報強化が無かったナニカは、抵抗すらなく分解された。
今の内に!
「高天原に神留まり坐す。皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を…」
「今日の夕日の降の大祓に祓へ給ひ清め給ふ事を諸々聞食せと宣る!」
パァン!と音がして、負の霊的エネルギーが消滅した。
ふぅ…
バタン!と後ろ向きに倒れる。
「あぁぁぁぁぁぁぁ…疲れたぁぁぁ…」
倦怠感と達成感の中、空地に大の字になっていると、風切り音が聞こえた。
ガッシャァァァン!
土煙が発ち、轟音が鳴り響き、建材が宙を舞った。
「なんや、いきなり"たすけてー"って部屋に突撃されたからきてみたけど…
もう、終わっとるやないか」
この人か…
「御手数掛けてすいません、影縫さん」
土煙の中から現れたのは、建材の上に乗った長身の女性だった。
「いや、ええよ。小さい子供助けるんは大人の役目やからね」
ははっ…
「カッコいいですね」
「一夏君の方がカッコええよ。女の子逃がして残ったんやからな」
「アレをどうにか出来るのは俺だけでしたから…」
「せやなぁ…でも、女の子に心配かけたのはアカンなぁ」
「大丈夫です。俺はそうそう死にませんから」
「ほう?」
一瞬、影縫さんの視線が鋭くなった。
俺は彼女…いや、彼女達が対不死身専門なのを思いだした。
「俺は箒を任されてますから」
「ほうか、なら心配あらへんな。
箒ちゃんも心配しとったさかい、はよ戻らんと」
「わかりました」
「よう、箒。戻ったぜ」
皆は、ホテルのロビーで待っていた。
ロビーに入ると、箒が駆け寄って来た。
箒の方が頭一つ分大きいので、覆い被さるように抱き付かれた。
箒が抱擁を解き…
俺は突然、キスをされた。
それも唇同士で。
「心配したんだからな」
「俺は死なないよ。お前も知ってるだろう?」
「だとしてもだ。あんなのと戦おうなんて…」
「ごめん…かなり心配掛けたみたいだ」
箒は何も言わず、再び俺に抱き付いた。
箒の背中に腕を回し、撫でてやる。
それはそうと…
「おい刀奈。そのカメラはなんだ?」
「えー、いいじゃない」
「却下だ」
刀奈の手のインスタントカメラを"分解"する。
「あぁ!?」
「そのフィルムはもうダメだな」
「むぅ…」
子供っぽく頬を膨らます刀奈を虚さんが引っ張っていった。
簪とのほほんはエレンとリムの目を手で隠していた。
「おい、箒。結構目立ってるんだけど…」
と俺に抱き付いたままの箒に言った。
「もう少し、このままでいさせてくれ」
「はいはい」
その夜、俺は大人しく箒の抱き枕になるのだった。
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