英雄伝説~西風の絶剣~
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第31話 ボース地方での災難
前書き
ゲームとは時間の流れが違う場面がありますのでご注意ください。後リィンの服装はSAOのキリトの服装と一緒だと思ってください。
side:リィン
「エステルさん達がボース地方に向かって3日がたっちゃったな……」
あの衝撃の事実が発覚してからもう3日が過ぎた、エステルさんとヨシュアさんはカシウスさんの行方を探るためにボース地方へと向かった。
それにシェラザードさんもついていったためロレントの遊撃士支部はリッジさんしかいないので人手が足りてなかった。アイナさんが応援を要請したが他の地方でも最近魔獣が活発的に行動しているそうで中々ロレントに来れないようだ。
見かねた俺は本当に猫探しや道具の搬送など簡単な依頼を代わりにやらせてほしいとアイナさんに頼んだ。最初は渋っていたアイナさんだが流石に手が周らなくなってくると仕方ないという感じで了承してくれた。
「本来なら保護した子にこんなことさせるのはよくないんだけどね……ごめんなさい」
「いえ、好きでやってることですから」
「それにしてもリート君って結構手際がいいけどなにか遊撃士関係のお仕事でもしてたの?」
「あー、父さんがそれに似たような事をしてるんですよね。その縁でカシウスさんとも知り合うことができたんですよ。最初は驚きました、あの剣聖に出会えたんですから」
「そういえば貴方もカシウスさんと同じ八葉一刀流の使い手だったそうね、なるほど。同じ流派の弟弟子だったからカシウスさんも貴方を気にかけてたのね」
「あはは……まだ俺は未熟ですけどね」
流石に猟兵やってますなんて言えないので愛想笑いでごまかした。
「失礼します」
アイナさんと話しているとデバイン教区長がギルドを訪ねてきた。
「あら、デバイン教区長。どうかなさいましたか?」
「はい、実はボースのホルス教区長にお送りしたい物があるのですが定期船が止まってしまい困っているんです」
「なるほど、そのお荷物をボースのホルス教区長に届けてほしいと依頼にこられたんですね。因みに中身は?」
「ベアズクローです。以前に向こうで作っている薬の在庫が切れそうだから送ってくれないか、という手紙を貰いエステルたちに集めてもらったんですがその矢先に定期船が止まってしまい……」
「それは大変ですね、でもリッジは魔獣退治に向かってますしまだ時間がかかりそうです、ごめんなさい」
「そうですか、無理を言って申し訳ない……」
「……あの、アイナさん。良かったら俺が行きましょうか?」
「えっ……?」
俺はアイナさんに自分が代わりに行くと提案した。
「流石にそれはできないわ、街道には魔獣も出るし……」
「大丈夫です。俺も八葉一刀流を学んでますし極力魔獣は避けていきます、要件が終わったら直に戻りますしそれでも駄目なら引き下がりますが……」
「……そうね、事が事だしできれば早く届けた方がいいわよね……わかりました、責任は私が取ります。リート君、お願いしてもいいかしら?」
「はい、任せてください!」
俺はアイナさんに了承を貰いボースに向かうことになった。その前にアイナさんに多量のミラを貰った。
俺は受け取れないといったが装備が十分じゃないのに行かせることはできないと言われたのでありがたくいただいておくことにした。それからエルガー武器商店で装備品を買ってからギルドに戻った。
「これならどうですか?」
「……リート君って変わった服装が好きなのね」
「えっ、似合っていませんか?」
黒一色でキメたんだけど似合わなかったかな?
「そ、そんなことはないわ。それより……はい、これを受け取って頂戴」
アイナさんが渡してくれたのは戦術オーブメントだった。
「これは戦術オーブメントじゃないですか」
「いくつか予備があるんだけど一応渡しておこうと思ったの。アーツを使えるなら自分の身を守ることもできる、あなたが無事にボースまで行けるように持っていって頂戴」
「すみません、本来なら貴重なはずの戦術オーブメントを貸してもらうなんて……」
「気にしないで頂戴、ちゃんと返してもらえれば問題はないわ。クオーツは初心者用に設定してあるからもし使いにくいようだったら自分の好きなようにカスタマイズしてもいいわ」
そこまでしてもらえているなんて有難いよ。本当にアイナさんには色々お世話になってばかりだ。
「後コレも渡しておくわね」
「コレは太刀じゃないですか!?」
アイナさんが渡してくれたのは何と太刀だった。八葉一刀流は太刀を使う流派だが西ゼムリア大陸ではそこまで広まっておらず使い手も数えるほどしかいないらしい。故に取り扱っている店も少なく確かカシウスさんも特注品で作ってもらったって言っていたのにどうしてアイナさんが持っているんだろう?
「コレはカシウスさんがもしもの時にリート君に渡してくれと言って置いていかれた物よ。きっとこうなるんだって分かっていたのね」
「カシウスさん……有難くお借りします」
俺は鞘から太刀を取り出して軽く振ってみる。うん、手入れもちゃんとされているしこれなら問題なく使えそうだ。
「ふふっ、良く似合っているわよ。後ベアズクローが入った袋と通行許可証を渡すわね、関所でそれを見せれば通してもらえるはずよ。ボースに着いて荷物を届けたらボース支部に向かいなさい、あらかじめ向こうに連絡しておいて泊まれる場所を手配していてもらうから」
「そんな、直に戻ってこれますよ」
「駄目よ、今からボースに向かったら夕方になるじゃない。夜の山越えは危険なんだからちゃんと一泊してくるのよ」
あ、そっか。今の俺は猟兵じゃなくて唯の一般人だった。夜戦には慣れているとはいえそれを説明なんてできないからここは従っておこう。
「わかりました。俺の為にそこまでして頂きありがとうございます、それでは行ってきます」
「くれぐれも無茶はしないでね」
アイナさんに挨拶をして俺はミルヒ街道に向かった。
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ミルヒ街道を歩いてヴェルテ橋の関所についた俺はそこの隊長さんにアイナさんからもらった通行許可書を見せた。
「ああ、遊撃士関係の……こんな小さい年でおつかいか?魔獣も出て危ないが……」
「心配して頂きありがとうございます。こうみえても俺は武術の心得がありますので」
「そうか、子供扱いしてすまなかった。今ボースでは盗難事件が相次いでいてね、気を付けていくんだよ」
「わかりました」
そんなやり取りを終えて俺は関所を通りボース地方に入った。しばらく東ボース街道を歩いているとアイゼンロード方面とボース方面の分かれ道が見えてきた。
「ハーケン門か……」
アイゼンロード方面に向かえばリベール王国とエレボニア帝国の国境を塞ぐハーケン門がある。そこを超えれば帝国南部にある紡績町パルムに続く街道がある。
「団長達は元気にしてるかな……」
つい帝国にいる団長達のことが気になったが自分の我儘でここに残ったんだ、なら自分がやるべきことを果たすことにしよう。
俺はそう考えてボースに向かった。
「ここが商業都市ボースか……賑やかだな」
ボースの町に入るとそこには沢山の人で賑わっていた。流石はリベール王国が誇る商業都市と言われるだけの事はあるな、帝国のケルディックにも負けない人の数だ。
「取りあえずボース礼拝堂に行って届け物を渡してからこの町の支部に向かうか」
俺はボース礼拝堂に行きホルス教区長に届け物を渡してから遊撃士協会ボース支部に向かった。
「こんにちは、ロレント支部からの使いですが……」
「おお、お前さんがそうか。待っておったぞ、わしはボース支部を預かっとるルグランというジジイじゃ。気楽にルグラン爺さんとでも呼んでくれ」
「わかりました、ルグランさん。俺はリィンと言います」
ボース支部を預かっている責任者のルグランさんに挨拶をして俺は今日はどこに泊まればいいか確認した。
「アイナから話はすでに聞いておる、この町のホテルに部屋を取っておいたから今日はそこに泊まると良い」
「すいません、ご迷惑をかけてしまって……」
「なあに、気にしなくてもいいんじゃよ。むしろ今人手不足で手が回らないロレント支部の手伝いまでしているそうじゃないか、アイナも褒めとったぞ」
「え、そうなんですか?てっきり迷惑ばかりかけていると思っていましたが……」
「まあ本来ならお前さんは保護された立場なんじゃから遊撃士の手伝いをさせたりなぞできんわ。だから表立って褒めることも難しい。だが事実お前さんにも助けられておるからアイナも感謝しとるんじゃよ」
そうか、迷惑ばかりかけていると思っていたがアイナさんはそう思っていてくれたのか。なんだか嬉しいな……
「じゃが調子にのってはいかんぞ?アイナからお前さんは中々に無茶をする子だから注意してほしいとも言われているんじゃからな?」
「あはは……肝に銘じておきます」
俺はルグランさんとの会話を終えて今日はもうホテルに泊まる事にした。
「さてと、今日は山越えして疲れたし早く休んでしまおう」
「おや、そこの君。ちょっといいかい?」
ホテルに向かおうとしていた俺に誰かが話しかけてきた。俺は振り返ると金髪の白い服を着た男性が立っていた。
「えっと、何か俺にご用ですか?」
「おや……すまない。どうやら人違いだったようだ。前に知り合った遊撃士の男の子によく似た髪の色をしていたからついその子かと思ってね」
「(黒い髪に遊撃士……?それってヨシュアさんじゃないのかな……)いえ、気にしないでください。じゃあ俺はこれで……」
「ああ、ちょっと待った」
俺はそう言ってその場を後にしようとしたが何故か金髪の男性に呼び止められた。
「あの、まだなにか?」
「いや、人違いをしてしまったお詫びに一緒にディナーでもいかがかな?一人で食べるよりも二人で食べたほうが美味しいじゃないか……それに君の風になびく黒髪やアメジストのような淡い紫の瞳……綺麗で素敵だ。是非これを機にお知り合いになりたいな」
うわ、もしかしてそういう趣味の人だったのか……!?マズイ人につかまってしまったようだな……
「いえ、お気持ちだけで……ってなに腕を掴んでるんですか!?」
「まあまあ、恥ずかしがらずに一緒に行こうよ。大丈夫、最初は誰だって慣れないものさ。ボクが手取り足取りと教えてあげるよ」
「なに頬を赤く締めているんですか!?というか力強いな!?」
「さあて、二人きりの夜のデートに行こうじゃないか」
「嫌だ―――――!!誰か助けて―――――!?」
俺は必至で逃げようとしたがかなわず俺の叫び声がボースの町に空しく響いていった……
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「いやー、期待していた以上の味だね。流石はボーズが誇る名店の事はあるよ。リート君もどんどん食べるといいよ、僕のおごりだ」
「そーですか、ありがとうございます……」
俺は結局逃げることはできず今はボースにある高級レストラン『アンテローゼ』で食事をしていた。因みに彼とは嫌々だが自己紹介を済ませてあるので互いの名前を知っている。
「おやリート君、食事が進んでないけどもしかして口に合わなかった?」
「いえ食事は美味しいんですが……オリビエさん、本当に大丈夫なんですか?ここ如何にも高そうなお店ですけど?」
「大丈夫さ、路銀は大目に持ってきたからね。それに万が一ミラが足りなくなったらこれの出番さ」
オリビエさんはそう言ってどこからかリュートを取り出した。
「オリビエさんは演奏家なんですか?」
「まあそんな所かな?どちらかといえばピアノの方が得意なんだけど……今度機会が会ったら聞かせてあげるよ、勿論二人っきりでね」
「謹んでお断りさせていただきます」
「つれないねえ……でもそんな所も嫌いじゃないよ」
……フィー、お兄ちゃん本当に貞操の危機かもしれない……助けてくれ……
「う~ん、困りましたね……」
ふと誰かの声が聞こえたのでそちらを見てみるとこのレストランの支配人らしき人が大きなグランドピアノの前で首を傾げていた。
「何かあったんでしょうか?」
「う~む……良し、何があったか聞いてみよう」
「あっ、オリビエさん!?」
オリビエさんは俺が止める間もなく支配人さんの所に向かった。
「失礼、ちょっといいかな?」
「おや、お客様。いかがなされましたか?なにか料理に問題でもありましたか?」
「いや料理は満足させてもらっているよ。何かお困りのようだったからつい声をかけてしまったのさ」
「さようでございましたか、しかしこのような事をお客様に話すのも……」
「もしかしてそこのグランドピアノに関係がある事なのかな?」
オリビエさんは支配人さんの傍にあるグランドピアノを見てそれに関係がある事なのか訪ねた。
「僕は演奏家でもあるからもしかしたら力になれるかもしれない」
「さようでございますか?……実は当レストランにはこのグランドピアノがあるのですがピアノを弾く者が長らくおりませんでした。そこでエレボニア帝国からピアニストを呼んで今日お披露目しようと思っていた矢先に定期船は停止してしまいピアニストの方がこれなくなってしまったんです。今日はそれを目当てに来ているお客様も多くこのままでは……」
「なるほど、それなら僕に弾かせてもらえないだろうか?ピアノなら一番得意なんだ」
「よろしいのですか?」
「ああ、任せてほしい。最高の一曲を披露しよう」
オリビエさんはそう言ってピアノに座り演奏を始める。
「おや、これは……」
「素敵な曲ね……」
……なるほど、演奏家というだけあってオリビエさんの演奏はかなりのものだ。食事をしていたほとんどの人が手を止めてオリビエさんの演奏に夢中になっている。
しばらくして演奏が終わるとオリビエさんを称賛する人たちの拍手がレストランに響き渡った。
「いやー、我ながらいい一曲が疲労できたと思うよ」
オリビエさんは上機嫌でこちらに戻ってきた。
「驚きました、オリビエさんってピアノが上手なんですね」
「どうだい?惚れ直したかい?」
「最初から惚れていませんから」
「つれないねえ……」
その後は支配人さんがお礼といって結構高そうなワインを3本ほど無料で提供してくれた。俺は未成年だったので飲まなかったがオリビエさんは美味しそうにワインを飲んでいた。
「それにしてもリベール王国はいいところだね~、最初のボースでこれなら残りの都市も周るのが楽しみになってきたよ」
「そういえばオリビエさんはエレボニア帝国から旅行に来たんですよね、ということは貴族の方なんですか?」
「うん、僕は貴族の生まれさ。まあそこまで偉い貴族じゃないから畏まらなくてもいいよ。僕はそういうのがあまり好きじゃないからね」
「そんな風に顔を真っ赤にしている人が偉い貴族とは誰も思いませんよ」
オリビエ・レンハイムか……猟兵をやっている都合上名のある貴族は知っているがレンハイムという名前の貴族はあまり聞いたことがない。まあ本人が言う通りそこまで位の高い貴族じゃないんだろう。
「あや~、ワインが無くなっちゃったね。ちょっと貰ってくるよ」
「まだ飲むんですか?呂律も回ってないしもう止めといたほうが……」
「大丈夫だって。じゃあちょっと行ってくるよ」
オリビエさんはそう言って席を立つ。というか注文すればいいのに態々自分で取りにいくのか……
「ただいま~」
「おかえりなさい、結局自分で貰ってきたんですね」
「まあね、それよりも見てよ、リート君。これ美味しそうなワインだと思わないかい?」
「ワインには詳しくないんで俺には分からないですよ……」
「リート君、これ美味しいよ。君もどうだい?」
「だから飲めませんってば……」
俺はそう流してオリビエさんがワインを飲むのを見ていた。お酒は飲んだことないわけじゃないけど積極的に飲もうとするわけでもないからな、それに酔っ払った団長達を見てるとああはなりたくないって思うのもあるかもしれない。実際目の前に凄い酔っ払いがいるしね。
「ああ!何てことをしてくれたんですか!?」
「うん?」
その時だった、何やら慌てた様子でこちらに来た支配人さんがオリビエさんの飲んでいるワインを見て驚愕していた。
「あの、何かあったんですか?」
「何かあったんですかじゃありませんよ!そちらの方が飲んでいるワインは『グラン=シャリネ』というオークションで50万ミラもする一品なんですよ!!」
な、なんだって!?一本50万ミラもするワインをどうしてオリビエさんが飲んでいるんだ!?
「しかもそれはこの町の市長であるメイベル様から直々に保管しているように頼まれていたものです!!それを勝手に持ち出して飲まれるとはどういうことですか!?」
しかもこの町の市長の為に保管しておいたワインをオリビエさんが勝手に持ってきたって事なのか?それは怒るよ、店側からすれば市長の信頼を裏切ってしまったとしか思えないだろう。
「オリビエさん、マズイですよ!!早く誤ってください!!」
正直謝っても許してもらえるとは思わないが何もしないよりはいいだろう、そう思ってオリビエさんに謝るよう話すが……
「う~ん、ミュラー君……流石にそれは僕も死んじゃうから……むにゃむにゃ……」
オリビエさんは酔っ払って寝てしまった。起こそうと体を揺すっても一向に起きない、そんなオリビエさんを見て支配人さんも痺れを切らしてしまったようだ。
「誰か!兵士を呼んでください!」
しまいには支配人さんが怒って兵士を呼ばれてしまう事にまで発展してしまった。こうして俺はオリビエさんと共にハーケン門の牢屋に入れられることになってしまった……最悪だ……
後書き
どうでもいい話なんですがエステルたちがオリビエと自己紹介してるときにヨシュアが「余計タチが悪いです……」と言ったのを見て「あれ、どっちかはネコになるんじゃ……」と思った自分は疲れているのかもしれない。
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