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NARUTO日向ネジ短篇

作者:風亜
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【誰が為、何の為に】

「──おじさんはさ、何で忍になったんだ?」


 ネジの家を一人訪ねたボルトは、唐突にそう聞いた。茶の間に通されて向き合うように座り、もうすぐアカデミーを卒業する上で、ボルトにとって“従兄おじ”のネジに改めて聞いてみておきたかったのだ。


「守るべきものの為に、強くあらなければいけなかった。里の為……というより当時は、必然的に日向一族の為にな」

「前にも聞いたことあるけど……、呪印制度のことだよな。おじさんは分家で、宗家を守らなきゃいけない立場だったって」

「そうだ。──今では呪印制度は廃止され、新たに日向の呪印を額に刻まれる者は居ない」

「呪印制度ってのが廃止されても、おじさんの額の呪印って、消えてないんだよな」


 ボルトはちらっとネジの額に目をやった。……額を覆うようにして白のヘアバンドがされていて、その両端からはサラッとした長い黒髪が流れている。

「あぁ……、日向の呪印は特殊で、刻まれた者が死に至る事によってしか消えはしない。白眼の能力を封じた上でな」

「……おじさんが分家の立場で守らなきゃいけなかったのって、オレの母ちゃんやハナビ姉ちゃんだったんだよな」

「今は立場に関係なく、家族として守りたいと思っている。……ボルトやヒマワリの事もな」

 ふっと微笑まれ、ボルトは少し気恥しくなってネジから目を逸らす。


「母ちゃんはさ、昔と違って忍者になる必要性はないし色んな道が開かれてるから、自由に自分の道決めていいって言ってるけど……、オヤジのダッセー時代とは違うクールでスマートな忍者になって、オヤジの鼻あかしてやろうっつーかさ……オレはぜってー火影にはなるつもりねーけどなッ」

「ボルトの言うそのダサい時代の忍に、俺も含まれているんだな……」

 ネジは別段、不快に感じた訳でもないらしいが苦笑を浮かべている。

「い、いや、おじさんのことダセーとは思ってねぇってば。現役の上忍だし、柔拳すげぇし……」


「──ボルト、お前は忍には向いていないかもしれないな」

「な、何だよ急に。落ちこぼれだったっつーオヤジとは違うってばさ! 成績だってそれなりに──」

「お前の言う落ちこぼれに、俺は負けた事があるんだがな」

「けどそれってアレだろ、おじさんの柔拳でチャクラ使えなくなったオヤジが九尾のチャクラもらって逆転したとかいう……、チートじゃね? それが無けりゃぜってーおじさんの方が勝ってたろ」

「ナルトがその時、俺を負かしてくれなければ……俺は闇の中で、救われないままだったかもしれない」

 遠くを見つめるような表情のネジ。

「……? よく分かんねぇけど、オレが忍に向いてないってどういうことだってばさ」

「全く向いていないとは思っていない。……ただ、俺達の時代とはやはり“覚悟”が違うとは思う。この平穏な時代に覚悟というのを強要するのは酷なんだろうが……」

「忍になるカクゴってやつ? とりあえず任務ってのをこなしてきゃいいんじゃねーかな」

「ただ与えられた任務をこなすだけというのもな……。一見平穏そうでもいつ何が迫り来てもおかしくはないし、その為に備え自身を鍛えておくというのも大事だろうと思うが……。ボルト、お前は筋が良いのに努力が足りていないように見える。そのままだといざという時、大切なものを守りきれないんじゃないか」

「平気だってばさ、そんなに努力しなくてもオレとっくに影分身使えるし、他の忍術もそれなりだし日向仕込みの掌底だって軽く使えんだからさ!」

 ボルトは強気な表情をネジに見せる。

「いや、だから……まぁ、あまり俺が口を出すべきではないんだろうが」

 ネジは小さく溜め息をつく。


「つかおじさんはカクゴっての、いつから持ったんだってばさ?」

「──日向の呪印を刻まれた時から、分家として宗家を命を懸けて守るという覚悟を持たざるを得なかった、と言うべきか……。父が亡くなってからは、“諦め”の方が強かったかもしれない」

 ネジはふと、目を伏せた。

「ネジのおじさんの父ちゃん……、オレとヒマワリにとってはもう一人のじぃちゃんだよな」

「そうだ。里や仲間、家族の為に自らの自由な意志によって、宗家の兄に代わって亡くなった俺の──。その事実を知らず、宗家に逆らえるはずもなく父はあくまで分家の立場で殺されたと思い込んでいた時期があって……俺は日向宗家の為、この籠の中の鳥の象徴ともいえる呪印と共に消える……死ぬしかない運命だと思って、諦めていたんだ」

 片手をそっと額に添えるネジ。

「そんなに、深刻に考える必要ないじゃんか。その気になれば、逃げれたんじゃねぇの?」

「そんな単純な話じゃない。宗家に呪印を使われれば頭部に激痛を与えられ、その気になれば脳の神経細胞を破壊する事も可能だからな」

「⋯⋯───」

 淡々と述べるネジの表情は読めず、ボルトは少しの間言葉が出なかった。


「おじさん……使われたことあんの?」

「さぁ……どうだろうな」

 ネジは瞳を閉ざし、ボルトの問いに対しては答えなかった。


「俺が諦めるのをやめられたのは、お前の父親……ナルトのお陰なんだ。『運命がどうとか、変われないとか、そんなつまんないことメソメソ言ってんじゃねぇよ。お前はオレと違って、落ちこぼれじゃねーんだから』──と、言ってくれてな」

「ふーん……、そりゃおじさんはオヤジと違って天才だもんな」

 何の気なしに言ったボルトに、ネジは少し困った微笑を浮かべる。

「……凡小にすぎないよ、俺は」

「ぼんしょう……?」

 ボルトは聞き慣れない言葉に首を傾げるが、ネジは意味を教えてやるでもなく話題を変える。


「──ボルト、俺は正直、この先のお前が心配だ」

「は…? 何言い出すんだってばさ」

 ネジの表情は、微かに憂いを帯びている。

「お前はどこへ向かおうとしているのか……お前に秘められた力は何なのか、お前が守るべきものは何か──俺には、ボルトを見守るくらいしか出来ないからな」

「変な心配すんなよおじさん、オレなら大丈夫だって! とりあえず下忍になって、おじさんみてぇに飛び級で上忍にでもなってみせるってばさ」

「そんな簡単に捉えられても困るんだが……。まぁ、ダサい時代の人間が新しい世代にとやかく言った所でぼやきにしかならないな。──自分を見失わない程度には、お前の好きなようにやっていけばいい」


『……お兄ちゃーんっ?』


「あ、ヒマワリの声だ」

「ボルト……そろそろ時間だ、ヒマワリと一緒にお帰り。お前と色々話せて、良かったよ」

「あぁ、オレも──⋯あれ、ネジおじさん?」




「──ボルトお兄ちゃんってば!!」

「うわッ、何だってばさヒマワリ…!? 近くでいきなり大きな声出さないでくれよ。……なぁヒマワリ、ネジのおじさんどこ行ったか知らね? 急に居なくなっちまって──」

「え? ネジおじさんの夢見てたの? いいなぁ、ヒマもおじさんの夢見たいなっ!」

「何言ってんだってばさ、ついさっきまでオレの目の前に……」

「お兄ちゃん、離れのおじさんのお家に来て寝ちゃってたんでしょ? ヒマも一緒に行くって言ったのに、お兄ちゃん今回は一人で行くとか言うから……。ヒマはハナビお姉ちゃんと日向のお家で待ってたんだけど、戻って来るの遅いからヒマが迎えに来てあげたの! そしたらお兄ちゃん、おじさんのお家の中で眠っちゃってて何だか寝ごと言ってたよ?」

「へ…? 夢……??(──そっか、ネジおじさん、居ないんだった……。けどオレ、何か一人でおじさんの家に行きたくなって───)」


「お兄ちゃん、首飾り外れてるよ?」

 妹のヒマワリに言われて、いつも身につけているはずの捩れた形状のペンダントがいつの間にか外れ卓上に置かれているのに気づいたボルトは、不思議に思いつつも自分の首元にそっと掛け直す。

(ネジのおじさんの夢見てたのは覚えてるけど、何言われたかはヒマワリに起こされた時に忘れちまったな……。何か、心配されてた気がするけど……オレってば、大丈夫だよな)



《終》


 
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