新訳紅桜篇
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21 過去は垢のように染み付いて、 取れるもんじゃない。
広間に戻ると、万斉から船に戻る、と伝えられた。
_「アンナ、否 零杏、と呼んでも良いでござるか?」
_「ええ。構いませんわ。
どちらも私の名前ですもの、お好きな方でお呼びくださいませ。」
_「そうか、では零杏と呼ぶことにするでござる。
もうそろそろ船に戻るが、用意はできているでござるか?」
_「はい、できておりまする。
ですが万斉殿、春雨の誘導はどうするのですか?」
_「大丈夫でござる。
彼らは我らの船の後ろをついてくるだけでござる。」
_「そうでございますか。
それなら大丈夫でますね。:)」
_「あぁ。きっと大丈夫でござるよ。
では、戻ると致そう。」
ということで、船に戻ってきた私たちは、春雨と一緒に地球へ戻ることとなった。
帰りの船のなかでもまた、万斉とおしゃべりして過ごした。そこで初めて、晋助以外の人に、自分の経緯について話すことになった。
_「1つ聞いてもいいでござるか、零杏殿の過去について。」
突然、なんのことか、と思ったが万斉になら話してもいいかもしれない、と思い、話すことにした。
_「…ええ。構いませんが、信じて下さいますか?」
_「信じるでござる。」
_「分かりました。」
さて。何から話せばいいか…。
_「では軽く、お話致しましょう。」
私は、物心着いたときから独りでした。
両親の名前も、自分の名前も、
私がどこで生まれたのか、も。
とにかく、何も知らない状況でした。
そして生きるためにスラム街を徘徊し、
必要とあらば人を殺すことさえも厭わないような、
そんな生活を送っていました。
そんなある日、ある男に出会いました。
彼はのちに、私の師となる方でした。
その当時の彼は、ある暗殺組織のトップをしていましたが、かくかくしかじか、色々な出来事が重なり、ある塾の先生となりました。
彼のその塾で学んでいたときに、晋助を始め、のちに「最期の武士」と呼ばれた仲間たちに出会いました。
そしてその師が殺されたのをきっかけに、攘夷戦争に参加し、仲間たちともお互いに散り散りになって、そして結果的に負けてしまったのを期に、
私は他の星に旅立ちました。
そこで私はスパイとして働いていたところに、上から殺すように命じられた人間が、まさかの晋助でした。
私は晋助を殺すかとても迷い、彼を殺そうとしたのですが、逆に彼に捕まり、鬼兵隊の隊士となった次第です。
_ ですが、まだ正直言って、まだ彼に馴染めません。」
_「それは何故でござるか?」
_「…彼が変わってしまったから、です。」
_「どんな風に、でござるか?」
_「… すべてを壊す、と言うようになったことでしょうか。ですが私は、それは仕方のないことなのではないか、と思います。
今なら彼の気持ちが解る気が致します。
彼が一番慕っていた師を戦争によって奪われ、一番大事に思っていた仲間たちを理不尽な理由で失い、彼は精神的にとても追い込まれていたのでしょう。
そしてその心の傷が獣となって晋助の中でのたうち回り、すべてを壊す、等といった考えを持つようになり、仲間を集って新しく組織したのが、今の鬼兵隊です。鬼兵隊は、彼にとって最期の砦なのではないでしょうか?」
だが万斉はただ、そうでござったか、としか言わなかった。
結局会話はそこで中断されてしまったが、とりあえず船が鬼兵隊に戻ったので、そのまま晋助の部屋に向かった。
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