| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

インフィニット・ゲスエロス

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

15話→ターニングポイント

 
前書き
悪には悪の考えがあり、全ての物事が主人公勢の思うままには進まない。 

 
貴方はコカ・コーラを飲んだ事があるだろうか?

恐らく世界中、多くの人間は『ある』と答えるだろう。

だが、作るとなると話は違う。

例えその筋のプロでも、その中で『コカ・コーラを作れますか?』という問いに対して、回答を出せる人間はほとんどいない。

それは何故か?

単純に、このレシピは特許として公開情報とされておらず、現代にいたるまで誰もその成分をコピーしきった人間がいないから(コカ・コーラ社内でも詳細なレシピを知っているのは数人だから)である。

ちなみに余談だが、このレシピ元は特別な金庫に仕舞われ、見れる人間はほぼいないらしい。

話がそれた。

つまりは、世界では、発明品を作ったとき、二つの道があるのである。

一つ目は、詳細な製造法を付して特許庁に出願し、それをもって後追いで類似品を作った人間に対してライセンス料を支払わせるルート。

そしてもう一つが、前述したコーラのように、製造法が難解で他社に作り方を真似できる可能性が皆無なため、『企業機密』として製造法を秘匿し、他社に対するアドバンテージとするルート。

並べると後者の方が良い気がするが、話はそう単純ではない。

当然、商品として世間に出回る以上、他社はその中身を研究する。

その時、もし特許を取得せず、その製造法がバレた場合、最初に作った会社は、前者に比してそのコピー品に対して損害賠償を請求する事がほぼ出来ない。

前者と違い、客観的に『どちらが先に開発したか?』が分からないからである。

そのため、普通、『企業機密』に出来るのは、世界中で毎日数億本レベルで飲まれているにも関わらず、現時点において正確なコピー品が出回っていないコーラのような、ごく一部の例外だけであるはず、である。

だが、ISは違った。

これまで篠ノ之束が作り上げ、山田太郎が出願し、登録してきたものと違い、このISについては、全ての起点となるISコアの製造法がほぼ全ての分野において不明。

そう、不明。ISコアは既存の技術では解析できないシステムを多数積んでおり、解析が不可能なのである。

そのため、他社が模倣することは当然できない。

幼稚園児に古代文字の解読を頼むというレベルで、読み手と作り手の解離が激しいからだ。

これだけ見ると、非常に優秀である。

実際、計画時点では好評であった。

当社の優秀な開発スタッフ達はそのとっかかりすら見つからないISコアに嫉妬したものの、裏を返せば、そこから10年、いや20年はこの兵器のメイン開発を独占できると。

問題は、開発途中に起こった。

役員の一人は言った。

『企業機密にするにしても、そろそろわが社のスタッフにも、ISコアの製造法を教えて頂けないか?』

結果はどうなったか、言うまでも無いだろう。

篠ノ之束による拒絶により、その願いは断られる。

で、当然槍玉に太郎と自分は挙げられた。

現時点で作った500に満たないコアが全てで、それ以上の量産の見通しは不明。

工場で外装となる装備品は作り、その出し入れの際に使う一部の技術(量子化等)は個別に特許を取得したが、拡張性等も機密。

これではどんなに機能が良くても、売り物としては失格だと。

だが、これでも私はここまで企業を維持してきた立役者である。

一部の維持費等を採算がとれるまでポケットマネーで支払う等の措置を講じ、ここまでは文句を言われながら企画を引っ張ってきた。

まあ、奴等の気持ちは分かる。

製造した商品は稼働はしているものの、現時点では『四桁に満たない初期ロット以外、作る見通しが分からない謎の兵器』である。

ハイパーセンサーや絶対防御など、オーバーテクノロジーが多数使われているというメリットを考えても、商品として見る以上、数を作り、売らなければ意味がないのだ。

その点から見ると、このISは性能面では合格だが、販売面で見ると不合格である、と言える。

「全く、太郎君には頭が下がるよ。あんなキチガイの相手を、何年も続けているのだからね」

『貴方も含めてね』

虚空に放った時法の呟きに、何処からともなく聞こえてきた女の声が応えた。

気づけば、時法の後ろには、一人の少女が。

その姿は、息子のAI、アリスに似ていた。

髪の色が黒髪で、その服が黒のワンピースであることを除けば、瓜二つと言っても過言ではない。

だが、それ故に。

その顔に宿る邪悪な笑みが、本来のアリスとの違いを際立たせていた。

「なんだね、盗み聞きかね、『クリス』」

そう答える時法の顔に動揺はない。

まあ、息子を騙してアリスのデータをフルコピーし、この形に成長させたのは時法なのだから当然だが。

『まあね……それにしてもずいぶんと乱暴なこと言ってたじゃない。本当にあんな穴だらけの作戦、やる気なの?』

「やるわけないだろう」

さらりと、時法はクリスの問いにそう答えた。

「先程まで太郎に長々と、説明していた暴論は簡単に言えば『罠』だよ。しかも慎重な人間が引っ掛かりやすい類のね」

子供に言い聞かせるように、時法は続ける。

「太郎は私の暴論を聞いて考えるはずだ。実際に私がこの妄言を実行する確率を。そして必ずこういう結論に達する。『亡国企業』の世界各国への影響力の全容がわからない以上、『可能性はある』と」

そこで出てきたのが、彼が放った『テロリスト』発言である。

「あれは私を含めた『亡国企業』に対する警告だよ。もし自分の大事な人間たちに手を出せば、テロリストと化して容赦はしない……と」

『太郎がISに乗れる事は、貴方以外誰も知らないからねえ』

どんな技術を使用しているかは不明だが、アリーナで戦闘する前後等、彼とISを結びつける映像を撮ろうとすると、強制的にジャミングがかかり全くの別人が映る。

直接目にしない限り、彼とISを結びつけることは難しいのである。

「彼が千冬君のように戦闘しか能がなければ話は簡単だったんだが……」

あくまで太郎が対外的に雇われている肩書きは企業付き弁理士であり、パイロットではないのだ。

『それにしても、何故今動くの?このタイミングに意味が?』

「まあ、下準備が済んだということもあるが、問題はこれだよ」

目の前のディスプレイが映した大量の文字の羅列を見て、すぐにクリスはその意味を理解した。

『へえ、正規版のISにはそんなロックがかかってたんだ……知らなかったよ』

頭を抑えた時法に、クリスは答える。なるほど確かに、これは時法には都合が悪い。

からかうようにクリスは続けた。

『違法コピーしたISの操縦と、電子制御された各国の兵器の使用のために、せっかく『人間』辞めたのに、万能とはいかないねえ』

「全くだ。だが諦めるつもりはないさ……気に入った人間を裏切ってでも、私は私の欲望を完遂する」

そう言い切った彼の眼には、人前では決して見せない欲望がたぎっていた。


 
 

 
後書き
黒のアリスが導くのは、地獄か冥界か? 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧