名探偵と料理人
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第十五話 -6月の花嫁殺人事件-
前書き
このお話は 原作8巻 が元になっています。
「結婚式?」
「ああ、俺達が中学の時三年間ずっと担任をしてくれていた女性の音楽教師がいてな。その人が今度結婚するんだ」
「へえ。三年間同じって珍しいんやない?」
「まあ珍しいっちゃあ珍しいけど、ないことはないってとこだな。紅葉も招待が来てるんじゃないかな?」
「ウチに?でもウチとそのセンセ、なんの接点もあらへんよ?」
「招待してそうなのは花婿からだよ。『高杉グループ』って知ってるだろ?」
「高杉グループなら、ウチも知っとるよ。……花婿ってあの高杉グループの御曹司?!」
「あの?なんか気になる接頭語がついてるけど問題ある人なの?」
「問題いうか、優柔不断で頼りないって皆いうとるんよ。高杉グループは彼で終わりや言う人もおる」
「そいつはまたひどい言われようだな。けど、結婚相手が松本先生だからなあ」
「どういう先生なん?」
「何と言うか、姉御肌?豪快?まあ人を引っ張っていく素質はある人かな。多分何とかなるんじゃないか?」
「そないな人なんやね。ウチ、招待されてても行く気なんてあらへんかったけど皆が行くんなら行ってみよかな」
「あ、俺は招待と言うか、当日は披露宴まで一緒に行動できないと思うから蘭ちゃんたちと一緒に行動してくれ」
「どういうことなん?」
「ちょっと一緒に挨拶に抜け出すのは行けるだろうけど。今回俺に披露宴パーティの料理の依頼が来ているんだ……というか、俺が卒業式のときに『結婚式でも挙げるときは俺が料理作りますよ』って言ってたのを覚えていたらしくてな」
「そないなこといったんや?」
「まあ三年間お世話になったしね。それで朝から準備に追われるから挨拶をちょっとしたらまた厨房に戻らないといけないことになるね」
「そういうことならウチは蘭ちゃんたちと動くわ」
「頼む」
―
結婚式当日、俺は早朝に結婚式が行われる教会に来ていた。披露宴は教会の近くにある会場で行われる形だ。
「おはようございます、松本先生」
「あ、おはよう緋勇君。今日は本当にありがとうね」
「約束したんですから当たり前ですよ。それにしても」
「それにしても?」
「いつもの松本先生ですね」
「?ああ!そりゃあそうよ、こんな早くからウェディングドレスとかお化粧とかしないわよ!」
「それじゃあ、先生が綺麗になったくらいにもう一回挨拶に来ますね。蘭ちゃんたちと一緒に」
「そういえばいつも一緒にいたわね、あなたたち。緋勇君、前にも言ったけど毛利さんたちの世話ばかりじゃなくて自分のこともしっかりやりなさいよ?高校入って彼女とか出来たの?」
「世話なんてしてるつもりはないんですけどね……彼女ですか?ふふ。後で紹介します。びっくりしますよ?」
「紹介?え、彼女?」
「ええ、また後で」
「何よー?気になるわね。まあ良いわ。それじゃあまた後でね」
「園子―!紅葉ちゃーん。ごめん、遅くなっちゃって!」
「もういっつも蘭は遅くなるんだから!」
「あー、蘭ちゃんひさしぶっり!」
「あ、香ちゃん!」
「毛利、元気してたか?」
「山田君に佐藤君!なんか同窓会みたいだね!」
「そらあ、龍斗から聞いとったけど三年間同じクラスの担任やったんやろ?そらそうなるよ」
「そうそう、紅葉ちゃんの言うとおり!さっき話をしてたけど披露宴であの綺麗な歌声聴けるかもよ……そういやあやつは来ないの?先生に音外すたびに怒られてた」
「ああ、新一なら『誰がんなもん行くか』って断られちゃった」
「それで、同じ音痴のそやつを連れてきたってわけか」
(音痴は余計だっつーの。オレはあのババアの旦那になる物好きの顔を見に来ただけだ)
今日、オレは三年間担任だった松本小百合先生の結婚式に来ていた。もちろん工藤新一には招待状が来ていたが行ける筈もなく、こうしてつれて来てもらったってわけだ。
「そういえば龍斗にいちゃんは?紅葉ねーちゃん」
「ん?龍斗なら暫くしたら控え室に行く言うとったからそこで合流になるんやないかな」
「それにしても松本先生も豪華な披露宴になるわよね」
「ホントホント!私、龍斗君のパーティ向けの料理って食べたことないから結構楽しみにしてるのよね!ねえコナン君?」
「うん!」
確かに、オレもガキん時から龍斗に色んなものを作ってもらってきたけどパーティに参加してあいつの料理を食べるなんて機会なかったからな。どんなウメーものを作ってるのか今から楽しみだぜ!
「ねえ、式の前に先生に挨拶しに行かない?ウェディングドレス姿見に行きましょう?」
「行こう行こう!」
「ウチもええで!」
ウェディングドレスだあ?っへ、笑っちまうぜ……
「あら、毛利さんに鈴木さんに……?そちらの子は初めましてかしら。どう?似合う?」
「「と、とっても綺麗です先生!」」
「とてもお綺麗です」
オレ達は先生の控え室に来ていた。中にはウェディングドレスを着た松本先生が窓際に立ちオレ達の方を見ていた。……た、確かにき、綺麗じゃねーか。
「っちぇ、なーんだ、工藤君来られないのか。この姿、あの小生意気な小僧にも見せてやりたかったのにな」
「あははは……」
なんでい、中身はそのまんまかよ。
「そういえば、あなたはどちら様?帝丹中学の子じゃないわよね?」
「ああ、ウチは京都の泉心中学やったんでちゃいますよ。大岡紅葉言います。今年の一月から東京に出てきて、蘭ちゃんたちと同じクラスになったんです。縁あって今回の結婚式に招待されたんです」
「私じゃないってことは」
「花婿側からの招待ですよ。松本先生」
先生の言葉に続けて答えたのは扉から入ってきた龍斗だった。結婚式に参加するようなスーツや学生服でなく清潔感のある白い服……あれはコックが良く着る服か?…を着ていた。
「あ、龍斗。披露宴の料理の準備はもうええの?」
「いや、あんまり良くないんだがなんとなくこのタイミングなら皆がいるんじゃないのかと思ってね、抜け出してきたよ」
「緋勇君……なんというか、似合ってるわね。その姿」
「私、龍斗君のその姿始めて見たかも」
「まあ、普段は厨房かパーティで挨拶するときくらいにしかみる機会はないだろうからね。普段からこんなかっちりしたものは着ないよ」
オレも初めて見たがいつもの雰囲気より張り詰めているというか仕事モードに入ってるみたいに見えるな。
「そうそう、緋勇君?」
「あ、そういえば言ってませんでしたね。そのウェディング姿とても綺麗でお似合いですよ」
「あ、ありがとう。……じゃなくて!朝言ってた紹介したいって誰のこと?その大岡さん?」
た、龍斗のやつまたナチュラルに人をほめるなあ、先生も赤くなってるし紅葉さんがムッとしてんぞ。
「そうです、俺が紹介したかったのはこの……どうしてむくれてんだ?紅葉」
「べっつに!なんでもあらへんよ!!」
「??まあ、この娘が俺の紹介したかった彼女兼婚約者の大岡紅葉です」
「!!?!??!?っこ、婚約者?!え?」
おーおーおー、あんな先生初めてみたな。そりゃあそうか。先生視点で三年間龍斗のことみてりゃあ「あの」龍斗に恋人が出来るなんて想像もつかないだろうし。
「なんや、照れるなあ。初対面の人に「婚約者」って紹介されるのって」
「……これは、衝撃だわ。多分今日来てる同僚に話しても私と同じになると思うわ」
「そんな大げさな」
「いや、だって私たち教師の中でも緋勇龍斗は女に興味がないってもっぱらのうわさだったのよ?」
「……」
流石にひくついてるな。龍斗はそのことについて先生と蘭たちに散々からかわれてからまた厨房に戻っていった。
オレ達は引き続き先生の部屋にいたが、先生に祝福の言葉を言いに入れ替わり立ち代り来客があり途中女子高生三人衆はビデオカメラの電池を買いに行ったりした。そして、花婿が部屋を訪れ式場に移動しようとしたとき
―――カンッ!!!
…え?
………きゃああああああ!
!!!紅葉の悲鳴?!
俺は先生の部屋を辞した後、厨房に戻り最後の仕上げを行っていた。そんな時、教会のほうから紅葉や蘭ちゃんたちの悲鳴が聞こえた!
俺は厨房を飛び出し教会のほうへ急いだ。向かっている間にも情報を収集する。 『きゅ、きゅうしゃをお願いします!』『園子ちゃん落ち着いてーな!』『だ、だってせん、先生が!』
『くっそ、ないか、何かないか!』先生になに…これは血の匂いか!
「三人とも!」
「た、龍斗!先生が血を……!」
「わかってる!」
俺は急いで部屋の中に入ると、新ちゃんが先生の口を洗い流しているところだった。
「た、龍斗!?」
「この匂いは……水酸化ナトリウム!?先生の意識は?!」
「ああ!苛性ソーダだ!先生の意識はない!龍斗!!オメー厨房に行って卵か何かとってきてくれ!」
「大丈夫、あるよ!それから意識がないなら任せてくれ!」
俺はポケットからとったように見せてとある牛乳とグラスを取り出した。
「先生に意識がないなら気管に入らないように俺が体を操作して飲ませる!体を起こして!!」
「!わかった。これでいいか?」
俺は新ちゃんに体を起こすように指示を出しながら俺はグラスにシンデレラ牛乳をいれた。
「いい新ちゃん?俺が指示を出したらゆっくり飲ませるんだ」
「分かった」
俺は先生の喉頭蓋が閉じるように体を刺激し食道入り口部分を広げさせた。
「今!」
新ちゃんがグラスに入れたシンデレラ牛乳をゆっくり飲ませる。食道に到達したあたりから胃に流れるように筋肉を操作しながらある程度流し込んだ。後は呼吸と飲ませるを繰り返して救急隊員が来るのを待った。自発呼吸が弱くなってきたので新ちゃんは止めたが人工呼吸をした。
「誰か、一緒に乗られる方は!?」
救急車が来たのは俺と新ちゃんが延命措置を始めてから10分程経ってからだった。どうやら事故が途中あったらしい。その頃には牛乳を飲ませ終わり、新ちゃんは周りの人に知らせに行っていた。
「誰もこの部屋から出てはならん!娘に毒を飲ませた犯人なのかも知れんからな!」
「で、ですが彼は一緒に病院に!」
俺の口の周りは先生に人工呼吸した際についた先生の血でべっとりと着き、きていた服も血にまみれていた。そして、
「龍斗、口の周りがただれとる……」
そう、強アルカリを飲んだ先生の口に口をつけたんだ。大勢が見ている中で瞬治するにもいかず俺はそのままにしていた。
「俺は良いです、早く先生を病院に!」
「わ、わかりました!」
そういわれて救急隊員の人は部屋を飛び出し暫くすると救急車が離れていくのが聞こえた。
「君……確か緋勇君だったか。いいのかね?」
「俺も容疑者の一人……そうでしょう?それに先生は出血はひどいですが食道、胃には高蛋白で特別な牛乳を。呼吸のほうも弱いですが人工呼吸を続けたので深刻なダメージになっていないはずです。そうでしょう?目暮警部?」
「た、確かに救急隊員はそういっておったよ。普通これだけ時間が経っていれば病院までもつかどうかと言うところだがこの状態なら何とかなりそうだと」
「そ、そうか。小百合を助けてくれた君を疑うのは心苦しいがわかってくれ」
「ええ。ですが口をすすぎたいのですが。後、座って待ってもいいですか?」
「あ、ああ」
俺はそう言い、控え室にある椅子に座り、頼んで持ってきてもらった牛乳とバケツを使って口をすすいだ。
「た、龍斗君。大丈夫なの?」
「舌がひりひりするのと顔がただれただけだよ」
「だけって……それを見てウチが何も思わんと思うん?」
「……ごめん、無神経だった」
涙目で俺にすがる紅葉をなだめながら俺は犯人を見つめていた。カプセルについた匂いの持ち主はすぐに分かったがココには新ちゃんがいる。俺と同じくらい怒っている新ちゃんが。俺の役目は先生が死なないようにするところまでで後は新ちゃんに任せよう。
俺は先生の部屋に挨拶にきたが先生に近づいていないこと、ましてや毒の入っていたレモンティーに触れていないことから早々に容疑者から外れた。
新ちゃんがビデオの情報、そして乾燥剤入りの小瓶が外の廊下にあることなどから犯人を特定された。新郎である高杉さんが。
犯行の動機は20年前松本先生のお父さんに母親を見殺しにされたこと。家族を失う悲しみを味あわせるために犯行に及んだそうだ。
先生の友人である竹中さんから先生が過去の話を知っていて悩んでいたこと、そして先生の初恋の相手で……そして高杉さん自身の初恋の相手同士であったことが語られた。……それが本当なら……
高杉さんもそのことに思い至ったらしく、それと同時に先生の意識が戻ったことが伝えられ安心した表情で連行されていった。
―
数か月後、先生は無事退院した。後遺症もなく肌の荒れも化粧をすれば気にならないくらいの回復だった。
「先生、ほんとによかったです。元気そうで」
「ホンマに。見た目なんもなかったみたいや」
「それに、俊彦さんも罪が軽くなったみたいだし」
「当たり前よ!私が勝手に飲んだんだから!緋勇君もありがとうね。あなたのお蔭で命拾いしたわ」
「……先生」
「なーに?」
「先生が助かって本当によかったです。下手したら二人の命が無くなっていたんですから」
「へ?」
「……俊彦さんですよ。もし先生が死んでその後に竹中さんからあの事実を知らされていたら俊彦さん、きっと自殺していたと思います」
「あ……」
「先生、20年も想い続けるっていうのは並大抵の事じゃないんです、お互いになんて事はなおさら。だから些細な掛け違いで悲劇になるってのは今回の事で分かった筈ですから、これからについては何も言わないですけど。先生が最愛の人を殺したなんてことがありえたことを忘れないでください」
「…そっか、そんなこともありえたのね」
「ええ、ですがそれを知っているならもう大丈夫でしょ?今度こそ、披露宴の料理食べてくださいね!今より腕を磨いて待ってますから!」
「もう、結婚なんて懲り懲りよ!」
しかしその三年後、俺は再び料理の腕を振るうことになる。先生のお相手はもちろん―――
後書き
最後の方はちょっと駆け足気味だったので時間を見つけて改稿したいと思います。
苛性ソーダ、水酸化ナトリウムを飲んだ時は水または牛乳、卵を飲みましょう。これが一番良い応急処置らしいです。無理に吐き出させたりしたらいけません。ハイターが手に着いたらぬるぬるしますよね?あれが体の中で皮膚より弱い粘膜で起きるんです。ヤバイです。
この話で龍斗がしたように人工呼吸なんてのは論外です。絶対にしないようにしましょう。
なんかよさげなトリコのもの出そうかなと思ったんですが、治す=激しい細胞分裂とか弱った人にしたらむしろとどめさすんじゃないか?しかも毒物除去してないのに。と思い、応急処置にとどめました。
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