魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~
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第3章 『ネコにもなれば』
第41話 『機械士の実力』
オーリス・ゲイズたちは資料を持ち帰り、その中で選んだ人以外は帰らせて資料の再確認をさせた。ただし、無理をさせるわけにはいかない為自分の体調を考えてと念を押した。
「ふぅ」
デスクに着いている彼女は背後を通り過ぎたウラカン・ジュショーにとある映像を見せた。
「ウラカン査察官」
「はい。なんでしょう」
「この映像なのですが」
そういってこの前の空中ガジェット戦の映像を見せる。この映像の確認は彼の担当である。
「このヘリを防御した人物は誰ですか?」
「はい」
ウラカンはその映像を担当した人物を呼び出した。
「この映像の人物、だれだ?」
「コタロウ・カギネ三等陸士です」
彼の後ろにつき解散を命じられ部署を離れようとする男は資料を見ることなく答える。
「……そう」
ウラカンはその時にはもう会釈をして立ち去っており、いかにもやる気の感じられない男に尋ねるしかなかった。人物の名前を聞くくらいであれば誰でもできるため、二人も必要ないのは事実であるし、また、ウラカンが査察官としては優秀であっても人物として必ずしも優秀でないことを理解していたため気にはならなかった。
(どこかで聞いた名前ね)
と彼女はそこから画面の誘導に従い別にパネルを開くと局員名簿の羅列に確かに記載があった。そして最新版との差分も右に表示してあり、備考欄の期日で『出向期間終了』とグレイアウトされていた。
映像の詳細は特に興味はなくその男が現在どこ所属かが気になり、その名前をタップすると本来の所属、顔写真が表示された。
「……電磁算気器子部工機課コタロウ・カギネ。古代遺物管理部機動六課出向後、地上本部本局……査察部に出向……」
顔写真を見ただけで気がついたが、ゆっくりと彼女は顔を上げた。光の加減で男から見れば彼女の表情は読み取ることはできなかったが気にはならなかった。
「カギネ査察官、あなた六課にいらしたのですか」
「はい」
オーリスの冷たい応対とは別の無表情で抑揚の無い言葉でコタロウは頷いた。
「それがなぜこの査察部に?」
「機動六課での出向期間が終わり本局レジアス・ゲイズ中将代理オーリス・ゲイズ三等陸佐により命じられたからです」
「……」
もっともな事でありオーリスは窮した。だが、他の局員であれば自分のいままでの応対でたじろぐのを自覚しているオーリスはこの動じない男に眉を吊り上げた。
「私を揶揄っているのですか?」
「揶揄う。ですか? ……今の私の発言を検証いたしましたが、揶揄うに値する言葉が見つかりません。失礼を承知でお尋ね申し上げますが、私のどちらに揶揄うに値する文言がございましたでしょうか?」
コタロウは深く頭を下げたあと疑問符を投げかけたがそれがまたオーリスをいらつかせる。
(この男は、なんだ?)
レジアスが言うにはこの工機課は『頭のいいやつにそれはわからん』らしいが、この融通の利かない男の何が分からないのか見当もつかなかった。
もう結構と彼を散らせたあと、興味からかウラカンとコタロウの調査報告を見比べてみた。
「……これは」
ウラカンはテスタロッサ・ハラオウンとの会話による調査でありコタロウはデータでの調査報告である。オーリスは確か見回り時にコタロウのほうが早く報告が終わっていることを覚えていた。であるのに、この男のほうが調査の量は多く、なおかつ質もよかった。もちろんウラカンは口頭調査というものもあり、粗さは出ていると思うが、それを差し引いてもなお彼のほうがよくまとめられていた。というより、このまとめ方は他の査察官の誰よりも読みやすいように思われた。それは自分も含まれている。
(工機課とはいったい……)
思うところがあり彼女は連絡をとるために回線をつないだ。
「失礼します。オーリスです」
「なんだ、査察の報告なら結果だけで十分だ」
「レジアス中将、ただいまお時間よろしいですか?」
「......構わん」
「工機課の人間に査察を依頼したのは彼らが優秀だからですか?」
そんな質問か。とレジアスは呆れるように目を逸らす。
「そうだが」
「……それは私よりも、ですか?」
彼女の常に冷静な表情と対比するような質問を聞き彼は眉を吊り上げた。
「何を考えてるかわからんが、そもそも優秀さなぞ能力が違えば計れるものでもないだろう。少なくとも工機課の人間が上に立って指導者になることはありえない」
「では――」
「ただもし」
彼は繰り返した。
「ただもし、査察部に2人いたとしたら……お前を含め必要ないだろうな。そういう人種だ工機課の人間は」
「どういうことでしょうか?」
「説明が面倒だからこれ以降は自分で調べるでもしろ。今ある管理局の今まさに踏んでる床、点いてる灯り等の耐久性向上、また戦中質量兵器の分析、デバイスが決して不具合が起きないように調整。戦火の中で壊れた防壁の即時修復、紙媒体から電子データへの速やかな移行と以降のペーパーレス化の確立、給与システムの移管。我ら地上部隊は多くの血を流してきたが、アイツらは泥をすすり死人の血を飲んでも生を望み、今ある環境を整備した人間たちだ」
はっきり言おう。と彼は続けた。
「お前のそのプライドの高さを形成し見下してきた人間だ。それを望んでその立場でいるんだ。見てきた場数と人の数、読み込んだ情報の量が違う」
「……」
「理解しようと思わない時点でオーリス、お前とは人種が違うのだ。まあ今の現役ではそこまで劣悪ではないが培った質は受け継がれているはずだ」
「……わかりました」
話を変えますとオーリスはめがねを上げる。
「仮にもし六課にその工機課の人間がいたとしたら査察はどうなりますか?」
「あァ? そうだな、仮にもしいたら……査察の必要も意味も無い」
ヤツらが機械士を知るはずも無いと鼻を鳴らし、
「機械士の不備を見つけることができるのは機械士だけだ。もし自分の書類を自分で見たとすれば、第三者として確認できる感情を抜いた目をアイツらは持ち合わせている。それぐらい機械士は書類、機械類に対し絶大だ」
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第41話 『機械士の実力』
六課の隊長室には新人たちを外した隊長、副隊長たちが査察ほどではないが緊張感をもち、電磁算気器子部工機課に連絡をとろうとする部隊長八神はやてを見ていた。
「ほんなら、掛けるで」
邪魔にならないように少し後ろで隊長陣は頷いた。
『CALLING』という数秒の間のあと、
「はいこちら電磁算気器子部工機課ドグハイク・ラジコフ三佐」
画面に映し出されたのはレジアス・ゲイズのほうがまだやさしく見れる強面の顔で、心臓が跳ね上がった。
お互いの画面は大きく写し出され背景のほうが人物より比率が多く、工機課はがらんどうでデスクライトと画面の明るさ以外に光るものはなく、六課の部隊長室と対比になるようなものであった。
[顔、怖ェ]
思わずヴィータは念話で言葉が出てしまったが、顔で動揺することが失礼であることは誰もがよく知っていたので、その言葉は無視した。
「嬢ちゃん、お前ェ名前と階級は」
「え、あの、はい! 古代遺物管理部機動六課課長八神はやて二佐です」
「これは失礼。上官でしたか。それで何日間そちらに派遣させればよいので?」
第一印象といきなりの単刀直入さに動揺してしまったが、再び彼を呼び寄せることは難しくはなさそうで、すぐに期間を思案する。
「9ヶ月でお願いしたいのですが」
「9ヶ月ですか。それはまたえらく……3月末まで、か……」
向こうで別画面を操作しようとしているのが目線を落とすが、すぐに動作が止まった。
「ヤガミ・ハヤテ? あ、アイツが依頼したところか」
ドグハイクはただ視線を彼女に合わせただけだがはやてからすればじろりと睨んでるように見えた。
「もしや、工機課の若いのが修繕等で不具合でもやりましたか?」
「あ、いえ――」
「おい! コタロウ!」
呼び出すが向こうでは反応がない。
「まだ終わってないのかアノヤロウ」
「ドグハイク二佐」
「工機課のものが失礼しましたね」
「いえいえ。そうではなく、ですね」
はやては頭を振って否定して、丁寧に説明をする。
「あの、そちらのコタロウ・カギネ三等陸士がとても優秀なので延長をしたく、ご連絡した次第でして」
「なるほど......ん、機動六課といいましたね」
「え、ええ」
彼はひとつ指でタップするとその背景を埋め尽くさんばかりの無数の画面が出現しそれにより少し部屋が明るくなる。
ドグハイクは椅子をくるりと一回転させると、
「特に、うちの部下からの報告によれば、そちらの規模を考えても修繕修理箇所が今以上にあるとはないのですが。どこか落ち度でも?」
一目で全部見れたとは考えられないが、相手が工機課の人間である限りあり得なくはない。
また、コタロウの六課での働きに落ち度はなく今現在彼の仕事は発足時に比べると格段に少なくなっている。設備に関しては日々の調整や整備を怠らなければ十分であった。
「それは......」
「ありましたら、それ相応の処分をこちらで行ないます。人間ですから失敗はありますが、許されない課なので」
「いえ、そんな……先ほどの通りでそちらの課の方々が優秀であるということはこちらに派遣されてきた……カギネ三等陸士から判断できます」
「なるほど」
「こちらは臨機応変に行動するのを優先する機動課の中でも特に高い機動性があると自負しています。ですので――」
「失礼ながら個人的意見を申し上げさせていただきますが」
はやての言葉を打ち切り背景にあった画面をすべて閉じた。
「若いながらよく工機課の仕事内容を理解しているようで」
つまるところ、と彼は続ける。
「自分たちが臨機応変に動けるような何でも命令できる人材がほしいというわけですな」
「はい」
「そうしたら、と」
数少ない人材の中から選ぼうとする彼を、
「あ、あのっ」
「はぁ」
「コタロウ・カギネ三等陸士をこちらに出向させていただけませんか?」
「……コ、いえ、カギネを? 別に以前そちらにいたからといって、うちの課の人間であれば誰でも言われればそつなくこなしますが?」
「コタロウ・カギネ三等陸士でお願いしたいと思います」
それを聞いてドグハイクは「ふぅん」と顎に手を当てたあと彼の状況を確認し、いくつか操作しているのが見えた。
「今は査察部だったな、確か一日早めに、ん、そうかそうか」
はやてはとりあえず、再びこちらに彼を呼び戻せそうだと初めの頃の緊張が抜けてきた。
「わかりました。一応ですね、そちらの機動課の規模ですと期限は3ヶ月程度でできませんかね。一応そちらの整備は完了しているので、随時となると進行基準に則らなければなりませんから」
「わ、わかりました」
今度は忘れないようにしようという思いが自分の背後にいる隊長陣たちからビリビリ届き心に決める。ドグハイクはパネル操作をしながらぼそぼそと愚痴をこぼす。
「最低階級は三等陸士か、ならそれだな。この短期更新がなぁ。査察部で准陸尉、で五課で3等陸士、六課でも『同』と」
(ん? なんやて?)
「あの馬鹿息子はまだ連絡とれんか。メールか」
(『……息子?』)
「これでよし。八神二佐」
「え、あはい!」
「書類等はこちらで済ませましたので明後日にはそちらに向かわせます」
「あ、ありがとうございます」
「ん、別に上官なのですからそれほど畏まらなくてもいいとは思いますがね」
「は、はぁ」
「では、何かありましたら、また」
「はい」
「失礼いたします」
そうして通信は切られた。
「……ふぅ」
「はやてちゃん、お疲れさま」
「お疲れ、はやて」
全員がそれぞれ彼女を労う。
「でも、あのドグハイク三佐、息子って言ってたよな」
「確かにそう言ってたな」
「複雑なんだと思うよ」
ヴィータとシグナムの会話にフェイトが加わるとそれもそうだと気にはしなかった。
「でもさ明後日ってことは三佐の独り言からだと明日は五課にいるってことになるんだよね」
「そうやね。あぁ、いい機会やし連絡とってみよかな」
「それがいいと思う」
そう言うと今度は機動五課に連絡をとろうとパネルを叩こうとするが、はやての手は止まった。
「どうしたの、はやて?」
フェイトが心配そうに覗き込む。
「一回休憩してもええ?」
それはもっともだった。
△▽△▽△▽△▽△▽
機動五課に連絡をするとロビン・ロマノワが出た。
「あら八神二佐、お久しぶりです」
「こちらこそロマノワ二佐、お久しぶりです」
彼女はにっこり微笑んで、
「ネコの『ついでに』私たちへのご挨拶かしら?」
「……そんなこと、と言われると嘘になりますね。ですが、挨拶をしようと思ったのはそこまでではありませんよ? 先日のヴィータの件もお礼をと」
「あら、ありがとう。それで課長に?」
「ええ」
「少々席を外していますのでお待ちください」
ジャニカが戻るまでいくつかの談笑の後――ヴィータは少しいじられた――彼に繋がれた。
「ん、はやて二佐か」
「お久しぶりです」
「お前、やらかしたろ」
「へ?」
「工機課の更新」
お見通しのようで苦笑いするしかできなかった。
「ドグハイク二佐に連絡をとりましたところ」
「もう五課が押さえてたと」
「……」
「機械士がいたところに査察したんじゃ、絶対当日終わるからな。六課にまさか機械士がいるとは思わないだろうなぁ、レジアス中将」
それで予約を入れてたのか。と、工機課の詳しさに感服した。
「と、次はまた六課か」
「はい」
「なら丁度いいかな」
どういうことでしょう? とはやては首を傾げた。
「実はな、お願いしたいことがある」
「お願い?」
「そうだ」
「なんです?」
今夜出動要請がでたらしい。
日付としては明日ということだが、すでにコタロウの管理下は五課にありすぐに作業に当たらせたいという。交通網を考えると五課のほうが近いが、直線距離なら六課のほうが近く、そちらのほうが都合がいいそうだ。なので、作業スペースの確保と、万事を期すためコタロウに出した仕事が疲労過多になるかもしれないので、回復処置をお願いできないか。とのこと。無論こちらにも医療スタッフはいるが出動に備えているためと、そちらの医療スタッフのほうが有能である――現時点ではとジャニカは強調していた――からという。スペースのほうは問題ないが、一度主任医務官シャマルに伺ってからご返信してもよろしいでしょうかとたずねたところ向こうは頭を下げた。
はやてはそれをシャマルに話したところ、コタロウが帰ってくるのを知り目をキラキラさせて頷いた。
△▽△▽△▽△▽△▽
それからのすぐにはやてはティアナに案内役を当たらせ、作業スペースには監視役にリイン、医務官のシャマル、そしてどこで聞きつけたかシャリオが自ら願い出てきたのでそれも加えさせた。
ジャニカがいうには『一人でさせたほうが早いし簡潔である』らしいので極力――彼の口から出るとは考えられないが――コタロウが何かいうまでは見ていることをシャリオに伝えた。
そしてはじめに隊舎に訪れたのは飛行許可を得た二人で、
「機動五課のエピカ・デルホーン一等空士です」
「同じくスタンザ・オレット二等空士です」
「機動六課ティアナ・ランスター二等陸士です」
大きな箱をひとつ二人で持ってきていた。
「この度はご依頼了承の件、二佐によろしくとのことです」
「はい。お伝えいたします」
三人は挨拶ののちに敬礼を解くと、ティアナがあたりを見回した。
「ネ、いえカギネ三等陸士は、どちらに」
「いえ、こちらも真っ直ぐ向かわせるとしか」
「そうですか」
隊舎のドアが開くと、
「到着したんやね、こんばんは」
「こんばんは」
はやてとなのはが挨拶がてら出てきた。実のところフェイトたちもドアの奥のほうでそわそわ行ったり来たりしていた。
査察部での彼の扱いがあんまりだったので心配だったのだ。ただ、コタロウにあったらおくびにも出さないよう自然に振舞うと心に決めていた。
はやてとなのはの知名度の高さは当然五課にも及んでおり『SSランク魔道士』と『エースオブエース』を間近で見れるとはエピカとスタンザは思いもよらなかった。
また二人はトラガホルン両二等陸佐を尊敬し憧れていた。二人は五課が生まれ変わった経緯を目の当たりにしており、局のためになることより二人のためになることなら何でもやろうという決意があった。初めのうちは二人が夫妻であることに驚きを隠せなかったが、ロビンとジャニカに見合う人間は二人以外にありえないことは理解できたし、普段言葉の応酬をしている二人が一人でいるときは決して相手に対して愚痴をこぼさないところに愛を感じていた。
[まさか、かの有名な二人に会えるとは思いもよりませんでした]
[スタンザ、しかもよ]
と敬礼しながら念話を送った。
[ここには他にも八神二佐の個別戦力ヴォルケンリッターもいるみたいよ]
[トラガホルン二佐がいうには優秀な若手が多くいる場所だから『ここも』勉強して来いということですよね]
「そんないつまでも敬礼してなくてええよ?」
『は、はい!』
はやてたちもティアナと同じよう見回し、
「コ、んとカギネ三等陸士はまだ来てないの?」
「は、はい!」
「まだかと……」
[ねえ、カギネ三士のことさっきこのティアナって子は『ネ』といってたわよね?]
[そうですね、八神二佐は『コ』といってました]
[資料によるとコタロウ・カギネよね]
[ええ、八神二佐のいい間違いはわかりますが]
なんですかね、と彼らはまた念話で話し始めたがそれは打ち切られた。
外にいた犬にしては大きい獣が海のほうへ向かって吠えた。
「ザフィーラ?」
「向こうから何か音が」
「音?」
(『犬がしゃべった……』)
日は完全に落ちており海を見ても遠くまでは見渡せない。
はやてとなのは、ティアナが海辺に近づくとエピカとスタンザもそれに倣い歩き出した。
「なにか見える?」
「んー別に」
目を細めても何も見えない。が、音は聞こえた。乾いた金属音のような音だ。
「だんだん近づいてるね」
「うん」
そして見えてきた。
「海の上を走ってる……?」
『……うそ』
ティアナの言葉に一番驚いたのはエピカとスタンザである。飛沫の音は聞こえず海を踏む音だけが耳に届いていた。
ある程度近づいたところで、コタロウは跳躍し腰に差してある傘を引き抜いて着地寸前で開き空気抵抗で重力加速度を緩和し音を殺して着地した。
「ロマノワ二等陸佐、今機動六課に到着しました」
彼はすぐにパネルを開き連絡をとると促され回れ右をして敬礼をした。
「デルホーン一等空士、オレット二等空士、電磁算気器子部工機課より派遣されました。コタロウ・カギネ三等陸士です」
△▽△▽△▽△▽△▽
『カギネ三等陸士の仕事ぶりをよく見ておけ』
エピカとスタンザは六課へ向かうときにロビンとジャニカにいわれた言葉を思い出していた。
彼らが案内されたのは15人くらいが収まるくらいの小会議室である。そこにたどり着くまでに数人と挨拶をしたが、エピカとスタンザはずいぶんと格式ばらない朗らかな課だなと感じた。自分たちの五課は四月当初は課内の整備のために厳しさはあったが今はずいぶんと柔らかくなった。それと比べても六課は朗らかな雰囲気であるような印象を受けた。
「カギネ三士」
「はい」
「この機動六課に以前いたころがあるらしいな」
「そうです、オレット二等空士」
「どういう課なんだ?」
「どういう課……? 主に何について訊ねておられるのでしょう?」
「何についてって、そりゃ――」
「お待ちしておりましたです! ネ、えと、カギネ三等陸士」
「失礼いたします、リイン曹長」
「コタロウさん、はやてちゃ、いえ八神二佐より言付かっております」
「八神二等陸佐より?」
こちらの話です。とシャマルは話を流すとコタロウは気にはしなかった。
コタロウは面識のない人たちの仲介を果たすとエピカとスタンザは敬礼して名前を発し自己を紹介した。
[この小さいのが曹長??]
[シャマル主任医務官、美人ですね]
[バカ、それはどうでもいい]
エピカは自分のそばかすと体質からくる緑と白の斑模様の髪から女性でいることをあきらめている。美人を目にしてもなんとも思わないが、美人と言われるとむずがゆさを覚えていた。実際は彼女のそばかすも年齢を追うごとに薄くなり始め短所ではなく長所になり始めていたが、元来から短所であると感じていたためにそうとは露ほども思っていなかった。
「シャーリーも後で来るそうですよ?」
「なんでも、勉強したいとのことで」
「……勉強」
「なんでもないですぅ」
ティアナは案内をすますと敬礼しその場を離れた。
[しかし、曹長は私たちの管理だと思うのですが、どうして医務官もいらっしゃったのでしょう]
[トラガホルン二佐が言うには回復要員だそうだ]
[回復?]
[私もそれ以上は『行けばわかる』としか言われなかった]
エピカはジャニカから詳しい説明は受けておらず、他にも『通信するときはエピカ、お前が主導で話をしていることにしろ』と指示を受けていた。疑問にあるところばかりだが追求はしなかった。
「私たちの今日の仕事は」
「『見る』ことですものね」
そうして彼女は頷いた。
小会議室はデスクが四角くサークル上に設置してあり、リイン、シャマルはエピカたち三人の右に座る。リインはモニターを、シャマルは自分の指輪型アームドデバイス・クラールヴィントとキラリと瞬かせた。
スタンザとコタロウは持ってきた箱を開けると中には一般局員のデバイスとその予備のデバイスが合わせて50ほどあった。
「カギネ三等陸士」
「はい」
「本当にこの数をお前一人で行なうのか?」
「そのように命令を受けています」
「確かにそうだが」
「もし、手伝いが必要なら言うんだぞ」
「多大なるご配慮ありがとうございます」
二人とも前線および整備員を兼ねている。
コタロウは傘を出すと、
「っと、間に合った~」
「あ、シャーリー。こっちですよこっち」
シャリオはコタロウと含め三人に挨拶を済ませるとリインの隣に座った。
「そのモニターはなんですか?」
「ん、はやてちゃんたちも見たいみたいです」
「なるほど」
小声でのやり取りの限り見たい人たちは別室で様子を伺っているらしい。もちろん査察部から連絡が来たときはその対応を優先しなければならない。
「トラガホルン二等陸佐?」
「カギネ三等陸士、すまんな大変な仕事頼んで、命令はデータの通りだ」
「問題ありません」
「お詫びはまたするわ」
「及びません」
トラガホルン両二等陸佐から通信が入り、コタロウをやり取りをしているのを会議室にいる全員が見た。
『よろしく頼む(わ)、機械ネコ』
「任せて、ロビン、ジャン」
エピカたちは二人がコタロウに労ったことと、その彼が両二佐に対して愛称で呼んだことが信じられなかった。また、六課の通信で見ていた人たちはそのやり取りを見て、自分たちには見せたことも無いほころばせた顔のコタロウとの信頼関係に胸が温かくなり。
(『いいな』)
と心より感じていた。
通信が切られると、コタロウは無表情でも僅かながら引き締まったようにも見え、さらに焦点が合っているのかわからない目になり暗く沈んだ。
そのまま傘を開き彼は命令する。
『傘、MR』
以前付いていた「リトル」は無かった。傘の布と骨組みが分離すると布は広がりデスクに、骨組みは足元と手元に配置される。
『……』
エピカたち二人は驚きで黙ったが、リインたちは邪魔にならないように何も言わなかった。
コタロウの周りに五課の局員の身体情報が映し出すと作業に取り掛かった。そこからは異質以外の何ものでもなかった。
まず彼がやったことは、
「#$%&#$%&!!¥¥」
声ですべてのデバイスに起動し各使用者情報と同期した。
そして、右手と両足の指を使って調整をしだす。
<これは>
「え、なに、クラールヴィント」
<彼の声音言語は全てのデバイスを起動します>
彼の周りで画面が開いたり閉じたりしている中、その端のほうでは六課の面々の情報も映し出されていた。
点いては消え点いては消えと、身体情報のほかにそれぞれの実戦データも映し出され個人の癖や稼動範囲にあわせ調整されていく。
彼の時々出す声は普段のものとは言えず、高音、低音と使い分けられており、各デバイスが点滅、点灯するのが声なのか右手に持っている傘の柄を各指それぞれで振動させているからなのか、足の指で行なっている操作なのか見当が付かなかった。普段なら『耐久性よし』など確認する言葉も今回は無かった。
「;:&&;:;--##-<><>」
それぞれの手足の速度は六課の局員たちが今まで見たことのあるどんなものよりも早く、動いているのか止まっているか前述の通り振動していうようにしか見えない。
通信の向こうでは、
「なに、これ」
リインのモニター越しのなのはは以前彼が「操作をゆっくりしていた」という言葉を思い出していた。
「ティア、これ」
「……」
ティアナはスバルの問いかけが聞こえず、ごくりと唾を飲み込んだ。
「前の外でやってた整備とは、比較にならんな……」
「……うん」
はやてもフェイトもこれ以上何もいえない。
(勉強……そんな次元の話じゃない)
シャリオは真っ直ぐ彼から視線を逸らすことができなかった。
これはエピカたちも同様であり、座っていた椅子から落ちた。
「な、なんなの」
「わかりま、せん」
なおもコタロウは手、いや身体を止めることは無く「&#$%」と聞き取れない言葉を発してはデバイスの調整、整備と行なっていた。
「■□■■■□□」
彼は時々柄から手を離して別の工具へ変換させ整備をしていく。そして、箱から出されたデバイスはもとあった箱に収納されていった。
時間にして30分経つか経たずして全ての画面が消えた。同時に六課のデバイスも光を失う。整備はされておらず起動させただけのようだ。
次にコタロウはロビンに連絡をとると、すぐにエピカとつなぎ、
「エピカ! いいわね。これからのことは全てあなたの声に変えますよ!」
これは六課を出るときに命令を受けた疑問の残る指示であった。
通信の向こうの五課では、
「いいか、整備員たち! これからエピカが指示を出す。全て滞りなくすませろ!」
『はい!』
『わかりました!』
向こうではヘリや滑走路と有しない輸送機が十数台並べられていた。
「指示は以上よ。スタンザ。一人で辛いだろうがデバイスをもって戻って来い」
「……」
「おい、聞いているのか」
「は、はい!」
すぐに作業に取り掛かった。
「カギネ三士」
「はい、トラガホルン二等陸佐」
「これらどれくらいかかりそうだ」
「各5分から10分で終わります」
輸送機の情報を見、操作準備を始めている
「もっと早くだ。エピカ!」
「はい!」
「終わり次第できるだけ早く合流しろ」
「わかりました!」
ロビンは整備員たちの士気をあげている。
「ネコ! それが終わったらこちらは契約終了、明日は好きに使え」
「わかった」
「またね、ネコ」
そうして通信が切れるとコタロウはその十数台の輸送機を映しだし、今度は輸送機の情報を羅列しながら、輸送機そのものを透過していく。
「A機から取り掛かります」
向こうではエピカの声で届いていた。
△▽△▽△▽△▽△▽
「終了」
通信が切れると口の端が切れて血を流しても気にならずコタロウは傘を納めた。
エピカは彼の作業中にジャニカから通信が入りそろそろ合流しに向かっていいと言われコタロウに「が、頑張ってください」と敬語で挨拶をし六課を離れた。
「……さて、ご飯でも買いに行こう」
と何気なしに立ち上がった。ただ、足はおぼつかない。
「コタロウさん!」
「何でしょう、シャマル主任医務官」
力の無い目のコタロウは疲労が見えているのは明らかであった。シャマルはぐいと手をとると、シャリオがデスクをどかし寝かしつけた。
「シャマル主任医務官?」
「黙っててください!」
彼女はクラールヴィントに口を合わせると姿を変え彼の身体を診た。
(筋力疲労は無い、けど)
上から下まで手をかざす。
(視、三叉、内耳、迷走神経……あらゆる神経が疲労過多。そうか……)
命に別状は無く視力も問題なさそうだが、先ほどの作業能力をみても反動が無いはずがなかった。
「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」
回復詠唱をする。
「大丈夫ですか?」
「……」
シャマルは答えない。だが、光がコタロウを包んだ後、彼女のため息と表情でリインとシャリオは顔を緩ませた。
心配からか隊長たちも来て、声をかけた。またなのははヴィヴィオのために先に宿舎に帰っていた。
「大丈夫ですよ、安心してください」
医務官がそう伝えると全員が息を漏らした。
コタロウはむくりと立ち上がり、
「みなさん、どうされたのでしょうか?」
全員の心配をよそに、回復の礼をした後に彼は小首を傾げる。
『機械士の実力』とのギャップにそこにいた人たちは嘆息せずにはいられなかった。
後書き
久しぶりにあとがきを書かせていただきます。
エルンです。
稚拙な文章読んでいただきありがとうございます。
内容は原作を離れたオリジナル展開になっています。
査察の詳細を書いてみたい! というより彼を知ってもらうために査察部分を取り入れてみました。
時系列を確認していくとここまで結構怒涛に過ぎてるんですよね。
ここに来て日々に隙間が出てきているのでオリジナルをはさんでいこうと考えています。
原作を期待された方は申し訳ありません。
そして、小説の誤字報告機能。。。
あの、本当に誤字多くてすみません。
これでも推敲しているのですが……
直す直さないは自分で決めていいんですかね?
ここまで書いて、まだヴィヴィオでてきてないことに気が付きました。
主人公とのからみを彼女登場時にやってしまうと場面転換が多くなりすぎて大変なので、書かなかったら今回も出てこない始末に。
次回以降で話を書けたらいいなと思います。
遅筆で申し訳ありません。
次回も書けたら投稿したいと思います。
前回から今回はスパン短めでかけましたが、次回は結構かかりそうです。
それではまた次回も頑張って書きたいと思います。
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