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十六夜咲夜は猫を拾う。

作者:ねこた
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第4話

『…とりあえず、猫になってくれるかしら?』
『あ、はい…!』

焦りながらもちゃんと猫になってくれた。
人間の方のまま微温湯をかけるとさすがに
乾かすのが大変だと思い、猫の姿の方で
全部済ませてしまえば楽、という
ちょっとめんどくさがっただけの理由である。

『その姿でも言葉は話せるのかしら?』
『一応話せます…でも、いつもは話さないようにしてて…』

そりゃそうだろう。
妖怪や神、吸血鬼などが住まう幻想郷ならまだしも
外界で猫が言葉を話していたら相当危ない。
そっちには猫叉という概念は無いに等しいため
猫が人間の言葉を話していたら人は恐れ、
きっとこの猫を殺めてしまうだろう。

『あ、あの、貴方の名前は…』
『あぁ、申し遅れたわね。私は十六夜咲夜よ。
貴方は?』
『私、名前が無いので…』
『……』

名前が無い、と聞いてふとお嬢様と
出会った時のことを思い出した。
私には名前が無く、もちろん呼び名もないため
お嬢様が私に名前をくれた。

夜に咲く花で咲夜。
あの時初めてお嬢様から貰ったもの。
貰った当時、とても嬉しかったのを今でも覚えている。

『…じゃあ、私が名付けてさしあげますよ』
『あ、でも私…名前なんてあっても無意味ですので…』

キュッ、とシャワーの栓を閉めた。
名前があっても無意味、ということは名前を呼んでくれる人がいないのだろうか。
日常生活で名前を使わないことなんてまずないだろう。
閉じ込められていた中で、この子は一体なんて呼ばれていたのだろうか…。

『………白夜』
『え…?』

この子は身体をぶるぶるっと左右に振り、
身体についた水をはらってから、きょとんとした顔で
こちらを向いた。

『今日から貴方の名前は白夜よ。白い夜で白夜。』
『でも…わっ』

言葉を遮るように、身体にタオルをかけた。
そしてそのタオルでわしゃわしゃと雑に体を拭く。

『今からあなたは白夜よ。わかったかしら?』
『…は、はい…咲夜さん』

白夜にした理由なんて極めて単純明快だった。
髪の毛、肌ともにとても白く、綺麗だったために白。
そして自分の咲夜という名前の夜をとって
白夜。

…悪くは無い、と思う。


ドライヤーで湿り気のある毛を乾かし、
櫛で毛を梳かし、やっと人間の姿に戻った白夜。
頬も血色が良くなり、ほのかに赤く染まっていた。

『なんか…申し訳ないです。ここまでしてもらって…』
『違うわよ、白夜。そこは礼を言うのよ』

『…あ、ありがとうございます…!』
『そう。』


ふと、目に止まった白夜の右目。
包帯が巻かれていて、片目が見えない状態となっているが、怪我でもしているのだろうか。

『白夜、その右目はどうしたの?何故包帯が巻かれているのか、教えてくれる?』

包帯が巻かれた右目に触れようとした時だった。


『…だめ…!!』


『…えっ?』

____________白夜に触れようとした手が、何かによって
振り払われた。

 
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