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真田十勇士

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巻ノ百二十三 山を出てその八

 その前に広い袖を持つ丈の長い忍装束の女がいた、女は微笑んで幸村に言ってきた。
「真田源次郎殿だよね」
「如何にも」
 その通りだとだ、幸村は女に答えた。
「そしてお主は伊賀十二神将筆頭」
「あれっ、伊賀のことも知ってるんだ」
「忍の者でもあるが故」
 忍の世界もというのだ。
「承知」
「そういうことなんだ」
「左様、妖花殿であるな」
「名乗るつもりはなかったけれどね」
「最初から知っていたこと」
 妖花のこともというのだ。
「既に」
「じゃあ話は早いね」
「拙者達に大坂に向かうな」
「戦が終わるまででいいんだ」
 少女の言葉であ、妖花は幸村に話す。
「それまでの間九度山にいてね」
「戦に加わるな」
「そう、多分戦が終われば流罪も終わるよ」
 幸村達に課せられていたそれもというのだ。
「だからね」
「ここは退き」
「大坂には入らないでくれるかな」
「戦が終わるまでか」
「本当にその間だけでいいんだ」 
 妖花は微笑んだままだ、だがそれでも恐ろしいまでの殺気が全身から立ち込め続けている。
「それまでね」
「戦が終われば拙者達の流罪が解かれ」
「そうして大名にも戻れるから」
「それは貴殿の考えではあるまい」
「半蔵様が言われているよ」
「即ち大御所殿のお言葉」
「そう、悪い条件じゃないよね」
 幸村を見据えたままでだ、妖花は彼に問うた。
「そうだよね」
「確かに。大名に戻れることは」
「決してね、大御所様はこうした時は嘘を言われないよ」
 若い頃から天下の律儀殿と言われているだけあってというのだ。
「そして人を見る目もおありだから」
「それ故に」
「真田殿もね」
 戦が終わるまで九度山にいればというのだ。
「流罪が解かれて」
「大名に返り咲くこととなる」
「今は八丈島におられる宇喜多殿と一緒にね」
 宇喜多秀家だ、彼は関ヶ原の後八丈島に流されているのだ。
「そうなるよ」90
「宇喜多殿もか」
「そう、あの方も見事な方だから」 
 その心と才を知る家康によってというのだ。
「そうなるから。だからね」
「拙者はここは退き」
「静かにして欲しいんだ、いいかな」
 幸村を見つつ告げた。
「あと少しだけね」
「流罪が解かれ大名に戻れる」
 妖花のその言葉をだ、幸村はまず反芻した。そのうえであらためて彼女に言葉を返した。
「悪いことではない」
「そうだよね」
「このまま退くとな」
「だから」
「しかし」
 ここでだ、幸村は妖花を見据え強い声で言った。
「拙者の考えは違う」
「じゃあどうしてもかな」
「そうだ、拙者も他の者もだ」
 十勇士も大助もというのだ。
「誰一人として帰るつもりはない」
「どうしても?」
「左様」
 そうだというのだ。
「何があろうとも」
「そう、じゃあね」
「勝負をいたすか」
「そうさせてもらうね、私もね」
 彼もというのだ。 
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