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儚き想い、されど永遠の想い

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271部分:第二十話 誰にも言えないその六


第二十話 誰にも言えないその六

 しかしそれと共にだ。落ち着いた笑顔になって真理にこう離したのだった。
「ですが今はです」
「心配はいりませんか」
「あれはです」
 こうだ。その脚気について妻に話すのである。
「食事でどうにでもなります」
「そうでしたね。脚気は」
「前にも何度かお話していますね」
「お医者様にも言われました」 
 そういうことにしてだ。真理は言うのだった。
「ですから。心配には及ばないと」
「大事なことは何を食べるかです」
「それですね」
「白米は確かに素晴しいです」
 その素晴しさは義正も否定しない。
「食べているとそれだけで幸せにさせてくれるものですが」
「しかしそれだけではですね」
「成り立ちません」
 身体がだ。そうだというのだ。
「心は満たされてもです」
「身体はそうはいかない」
「ですから。おかずも食べ」
「そして時にはと。お医者様に言われました」
「パンです」
 西洋から入った。それだった。海軍では麦飯だがここはあえてだ。義正はパンを出してだ。そのうえで真理に対して話すのだった。
「パンを食べることもです」
「大事ですね」
「無論白米とパンに優劣はないです」
 尚後世になって先進国は皆パンを食べている、といった宣伝をしていた大学教授がいた。尚その主張に科学的根拠はなかった。噂ではこの教授は何処からか金を貰っていたらしい。大学教授の中にもそうした輩がいるのだ。
 だが義正にはそうした考えはなくだ。こう言ったのである。
「しかし栄養のバランスが違います」
「白米には白米の栄養があり」
「パンにはパンの栄養があります」
「だから脚気にはパンですね」
「そうです。麦がいいのです」
「その通りですね」
 婆やもだ。パンのことには微笑んで話した。
「実は今日もお嬢様にです」
「パンを出してくれたのですね」
「シェフにお話してそうしてもらいました」
「それはいいことです」
「黒パンです」
 日本において主流となっているだ。白パンではなかった。長い間日本ではパンといえば白パンだった。黒パンは知られていなかった。
 だが義正はだ。黒パンと聞いてこう言ったのである。
「独逸や露西亜の様ですね」
「そちらの国々ですか」
「あちらの国々のパンは主として黒なのです」
「そうだったのですか」
「黒いパンもいいものですね」
 微笑みだ。婆やにこうも話したのだった。
「白パンばかりでは飽きるでしょうし」
「時には黒パンもですね」
「いいと思います」
 義正は実際にこう答えた。
「私も何時か食べたいと思っています」
「わかりました。それでは」
「焼いてくれますか」
「シェフにお話しておきます」
 そうするとだ。婆やは義正に話した。
「旦那様が黒パンを召し上がりたいと仰っていると」
「そうしていただければ何よりです」
 義正は婆やに言葉に笑みで返した。そうしてだ。
 真理に顔を向けてだ。あらためて話した。
 
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