DQ8 呪われし姫君と違う意味で呪われし者達(リュカ伝その3.8おぷしょんバージョン)
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第十五話:急がば回れ
前書き
遂にウルポンはリュリュちゃんを泣かします。
(リーザス地方・ポルトリンク)
ラングストンSIDE
リュリュさんの悪いクセが出た。
基本的にウルフ殿の意見に反対する悪いクセが……
ウルフ殿の言う事は全て間違い……そう思い込む悪いクセだ。
巨大イカとの戦闘(ウルフ殿の一方的な苛め)が終了し、海の安全を確保した我々は、彼の指示で一旦ポルトリンクに戻る事になった。
本来であれば、この定期船の目的地に行く訳だから、このまま進んだ方が無駄がない。
だが今回の船旅は、激しい戦闘が予想されていた為、非戦闘員であるトロデ氏と馬姫殿は置いてきたのだ。
当然ながら先に進むのであれば両名を連れて行かねばならない訳だし、ウルフ殿の“戻る”と言う選択肢は至極当然であるのだが、彼の意見に反対したいリュリュさんは、そんな事をスッカリ忘れて先に進む事を声高に提案。
そして例の如く、
『リュリュさんてさぁ……自分の事しか考えないよね。ポルトリンクにはトロデさんと馬姫が残ってるじゃん。置いていくつもり? 酷くね?』
と、嫌味節が炸裂。
自分が間違っていた事を理解してる彼女は、頬を膨らませて
『ちょっと忘れてただけでしょ!』と反論。
黙って膨れてれば良いのに……
『だから忘れてる事自体、自分の事しか考えてない証だっての! グランバニアに居る時は、周囲がチヤホヤしてくれたからって、リュリュさんが絶対正義って訳じゃ無いんだよ。今は故郷は遠く離れ、異世界組として俺等三人しか絶対的な味方は居ないんだ……俺の意見だからって感情的に反対するのは止めようよ。先刻のイカ死刑に反対したのも、俺の意見に反対したかったからだけだろ? 見え見えなんだよね。まぁ先刻の場合は良いタイミングで俺に反対してくれたから、落としどころを探ってた俺には大助かりだったけど』
案の定、手痛く反撃を被るリュリュさん。
しかも先程のイカとの出来事も、利用されたと気が付き激しく激昂。
そんな事は無く、本心からイカが可哀想だったから反対意見を言った……と言いたい様なのだが、激しく怒りがリュリュさんを包んでいる為、上手く言葉を紡げずに泣きながら船室へと撤退してしまう。
流石に場の空気が頗る悪くなり、アハト殿等やゼシカ嬢……更には水夫等も気まずい感じで佇んでいる。
取り敢えずこの場から逃げたかったし、慰めに行こうと思いリュリュさんの後を追おうとしたのだが、
『ラング……あんまりリュリュさんを甘やかさないでくれ。グランバニアに居るのとは訳が違うって事が、未だ分かってない……そろそろ俺のやっている事の先を見据える能力を付けて欲しい。あれでもグランバニアの姫君なんだから』
と、止められてしまいました。
ウルフ殿は兎も角一番にグランバニアの未来を考えてるらしく、今回の異世界冒険を機にリュリュさんの根性を少しでも直そうと考えてるみたいです。
そう簡単にリュリュさんの性格が是正されるとは思えませんが、考え自体は素晴らしいと言えるでしょう。
ですが空気の悪くなったこの場から逃げたい私に、行動を制限する発言はご遠慮願いたいですな。
途方に暮れていると、ゼシカ嬢が気を利かせて話題を変えてくれた。
『そ、そう言えばリーザスの塔での事……ちゃんと謝ってなかったわね』
もう誰も気にしてない事でしょうが、場の空気を多少和ませる効果はありました。
なんせ
『申し訳ありませした!!』
と、体育会系さながらの気合いの入った謝罪。
難しい顔をしてたウルフ殿も、思わず『プッ(笑)』と吹き出す謝罪。
リュリュさんもこの場に居らず、皆さんが安堵する。
なお、如何見ても年上なヤンガス殿がアハト殿を“兄貴”と呼ぶ理由を問うてましたが、ウルフ殿も興味なさそうな表情になったので割愛。
そんなこんなでポルトリンクへと帰還し、再出発は明日の朝に決まった為、今夜は宿屋へ……
海の安全を確保した功績により、今晩は無料で泊まれる事に。
部屋割りを決めると、下船から終始膨れっ面のリュリュさんが即座に部屋へと入っていく。
ウルフ殿やアハト殿は無料宿泊を何度も宿屋側に感謝してるのに……
グランバニアに居るとリュリュさんもそれ程問題行動は起こさない(リュカ様LOVEはノーカウントとする)のですが、環境が変わりウルフ殿と常に一緒という状態に、本性というか何というのか分からない物がモロ出しになってしまってるようです。
ゼシカ嬢も気になったのかウルフ殿に、
「あの美人は何時もあんな感じなの?」
と問いかけました。
「普段はもう少し真面なんだけど……大嫌いな俺と四六時中一緒なのがストレスなんだろうね。国に帰れば誰もがチヤホヤしてくれるからさ」
まさにその通りなんですけど、如何してウルフ殿は余計な一言を言うのですかね? 良いじゃないですか……知る由もないグランバニアでの状態なんて!
「先刻も船の上で言ってたけど……彼女、姫様なのよね? 大丈夫なの、あんな事を言っても?」
他所の国ならダメでしょうけど、グランバニアは大丈夫なんです。
でもウルフ殿にはグランバニアも他国も関係ないでしょうけどね。
「大丈夫だよ。何時もの事だし……それに現状では俺の方が地位は上だし。あ、俺こう見えても宰相なんだよ。まぁ部下共には平宰相って言われてるけどね(笑)」
「偉いのか偉くないのか判らないわね(笑)」
「仕事面では命令出来るけど、プライベートでは出来ないだろうから偉くは無いと思うよ。他所の国では如何か知らんけど、少なくとも我が国ではね」
「そ、そうなの……何だか面白い国ね」
ウルフ殿なりの謙遜だろう……
現在グランバニアは近隣諸国に比べ大幅に国力が高い。
下手すると他国の王よりもグランバニアの宰相の方が権力を持ってると言えるかもしれない。
「それはさておき、明日の朝に合流する馬と御者なんだけど……先日リーザスの塔で会った緑の魔物だから。一応人間だった時は王様だったらしいから、言葉遣いだけは気を付けてあげてね。俺が馬鹿にしすぎて、相当メンタル面が弱ってるらしいから(笑)」
「う、うん。気を付けるわ」
「あと馬も人間の時は姫さんらしい。こっちは緑のチビと違って横柄じゃ無いから言葉遣いは気にしなくても良いと思うけども、親御さんが緑の奴だからコイツの前では気を付けた方が良いと思う。まぁ俺は気にしないけど」
「今は魔物と馬だけど、以前は人間だったの?」
「そうらしい。如何やらドルマゲスに呪いを掛けられたみたい。まぁ言うのは無料だからね。ホラ吹いても問題無い」
「ウルフさんは陛下が王様では無いと言うのですか?」
「そんな事は言ってない。アハト君を信じてるから、あの緑が王族なのは疑ってない。でも威張り散らすほど偉かったのかは……ねぇ?」
ウルフ殿の基準ではリュカ様がスタンダードな王様でしょうから、横柄な態度を取る輩は偉くないと思ってるんでしょうね。
ですが一般的な王様ってのは、トロデ氏の様な感じなのが多いです。私から見たら紛う事無くトロデ氏は王族でしょう。
その証拠に、ウルフ殿が苛めたがって仕様が無い感じになってるでしょう。
偉そうな輩を苛めるのは、貴方と貴方の師匠のクセでしょう。
従ってトロデ氏は王族確定ですよ。
夜も明け、まだ朝靄が立ち込める頃……
次の目的地であるマイエラ地方へ出港する為、昨日乗った船に荷物を積み込んでいる。
視界も晴れてきて、荷積みが終わる間近にウルフ殿が……
「よし、忘れ物は無いね。さっさと出港しようゼ(笑)」
と大きな声で宣言。
相変わらずの性格の悪さ。
水夫等に見つからない様に物陰で待機してたトロデ氏が、置いて行かれると思い慌てて、
「ま、待たんか! ワシを置いて行くんじゃない!」
と馬姫様と共に駆け足で乗船。
それを見て腹を抱えて笑うはウルフ殿。
因みに家臣のアハト殿も、ニヤニヤ眺めている。
しかし……昨晩から機嫌の悪いご令嬢が、
「何よ! ウルポンだってトロデさんの事を忘れてたじゃん!」
と、状況を理解してない発言。
新規加入のゼシカ嬢すら呆れ顔。
「ワザとだよ……見て解んねーの? まだ荷積みだって完全に完了して無いだろ」
ここでグランバニアの一般人(一般兵士等も含む)であれば、苦笑いしながら『そうですね。忘れてましたぁ』等と言ってリュリュさんの発言を否定しないんですが、彼は完全否定する。
しかも相手を苛立たせる台詞を付随させる。
昨晩からずっと膨れっ面だったリュリュさんは、更に頬を膨らませて発言者を睨み付ける。
「ねぇリュリュ……彼の粗を探すのは止めた方が良いわよ。貴女じゃ余計ストレスを被るだけ」
見かねたゼシカ嬢はリュリュさんにウルフ殿と言い争うのは止める様進言。
“坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”じゃありませんが、ウルフ殿を擁護する様な発言をするゼシカ嬢まで、憎らしく睨み付けるリュリュさん。
でも流石にゼシカ嬢に罪は無い事を理解したのか、また膨れっ面に戻って船(自分の船室)に早足で撤退する様子。
しかし……「リュリュさん。いじけるのは構わないが、自分の荷物くらいは運び入れろ! お姫様らしく他者の手伝いをしないのは見逃してやるから!」とウルフ殿の痛烈な口撃。
グランバニア王家のマリーちゃんを除く皆様が、王族として特別扱いを受ける事を嫌う。
そんな中、『お姫様らしく』と言えば強烈に自尊心を傷付ける事になり、尚且つ『見逃してやる』と追い打ちを掛けられれば、性格的に逃げる事を選択出来なくなる。
案の定、踵を返すと自分の荷物を乱暴に掴み、早足で船室へ入れると、他の荷積みも顰めっ面で行っている。
しかも時折涙を流し、それを周囲に見せない様に素早く袖で拭いながら。
何か声をかけたい……だが、何と声をかければ彼女の心を楽に出来るのだろうか?
「リュリュさん……泣くぐらいなら俺に噛み付くのは止めろ。俺も今回の出来事の先々を考える必要が有るから、リュリュさんの面倒を見るのも楽じゃ無いんだ」
私が言葉に悩んでいると、ウルフ殿が追撃とも言える発言をリュリュさんに浴びせる。
「リュリュさんは良いよ……目の前に嫌いな俺が居て、その俺の粗を探して口撃の隙を突けば満足なんだから。だけど俺は、貴女を含めて全員を無事に故郷に帰す事を考えなければならないんだ。何せリュリュさんには出来ない事だからね」
「べ、別にアンタの粗探しなんかしてないモン!」
「じゃぁ俺の発言の行く先を常に予想してくれ! 性格が悪いのは認めるが、それだけで他者を苛つかせてる訳じゃぁないんだよ。苛つかせる事によって発生する相手の心の揺れを感じ取って、それに対応すべく行動してるんだからさ……」
その通りだ……
リュカ様の弟子であるウルフ殿は、常に相手の心を探り、それに対する言動を行っている。
彼の発言の行く先を予想出来ないのであれば、ただ黙って見守っているのが一番。
「もう良いわよ。アンタになんか話しかけないから!」
何度も涙を拭いながら、捨て台詞の様に言い放ち、最後の荷物を船倉へ運び込むリュリュさん。
後を追って良いのかウルフ殿に視線で確認すると、大きく溜息を吐き……軽く手を縦に振って許可を表した。
だが大きな溜息……
“またお前が甘やかすのか……”と言わんばかりの溜息。
甘やかせない……彼女の為にも、ただ甘やかす訳にはいかない。
夕方前には船が到着するらしい……その間は彼女の愚痴を聞き続ける事になるだろう。
だが彼女の言い分を全て肯定してはダメだ。
悪い部分はキッチリ否定して、彼女の成長を促さねばならない。
しかしながら……ウルフ殿の悪口は否定出来ないだろう。
だって、あのひと……性格が悪すぎるんですから!
ラングストンSIDE END
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