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儚き想い、されど永遠の想い

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261部分:第十九話 喀血その十三


第十九話 喀血その十三

「子供はまだでしたが」
「大人として見ていたのですね」
「そうです。あの頃はどうなっていくのかわからず」
「日本が」
「異国もあってあちこちで殺し合いがあり」
 そうした時代だった。まさに幕末の動乱の頃だった。
「そして戦があり」
「京都では特にでしたね」
「そうです。新撰組ですね」
 幕末を彩った彼等の話も出る。
「あの方々を見たこともありますよ」
「まあ、新撰組もですか」
「ほら、あの局長の」
「近藤勇ですね」
「まことにお口が大きく」
 覚えているその顔立ちを手で輪郭をなぞりながら。真理に彼のことを話す。この時代で既に半ば伝説となっている彼のことを。
「いえ、拳でも何でもです」
「入りそうだったのですか」
「そこまでお口の大きい方でした」
「あの人はそうだったのですね」
「それと副長のです」
 今度は彼の話になった。
「土方歳三ですね」
「あの方はどういった方だったのですか?」
「確かにお顔はよかったです」
「写真にある様にですね」
「いえいえ、あのお写真よりも」
 どうかとだ。婆やは笑って話す。
「遥かにです」
「立派な顔立ちの方でしたか」
「冷たい感じはしました」
 婆やはこのことは否定しなかった。土方は新撰組副長として辣腕を振るい志士達を斬り拷問し隊内の粛清にあたっていた。新撰組で最も血生臭い話が多いのだ。
 そうした彼だからだ。冷たいというのだ。
「ですが本当にです」
「お顔立ちがですね」
「見事な方でした」
「左様でしたか」
「そも他の方々もです」
 近藤と土方以外のだ。新撰組の面々もだというのだ。
「見たことがあります」
「婆やにとってはいい思い出なのですね」
「あの頃はとても恐ろしかったです」
 婆や自身もそのことは否定しない。
「ですがそれでも」
「そうですか」
「今思うとよい思い出です」
「左様ですか」
「あの頃のこともです」 
 今思うとだとだ。遠い目になり話すのだ。
「今では思い出です」
「思い出として婆やの中にあるのですね」
「そうなりますね」
 にこりと笑ってだ。真理のその言葉にも頷く。
「言われてみれば」
「そうですか」
「はい。本当に幕末も明治も」
 そうした時代はだった。
「あっという間でした」
「そして大正は」
「今度はゆっくりと過ごしたいです」
 婆やはここでもにこりと笑って真理に話す。
「今度は」
「ゆっくりですか」
「はい、ゆっくりと」
 また言う婆やだった。
 
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