| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

儚き想い、されど永遠の想い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

25部分:第二話 離れない想いその十


第二話 離れない想いその十

「あれは」
「どうしたんですか?」
 友人のその女学生が彼女に問うた。
「何かあったのですか?」
「いえ、あの方は」
「あれは」
 女学生も彼等を見た。今は後ろ姿だ。
 その後ろ姿を見てだ。彼女も気付いたのだった。
「あの八条家の」
「そうですね。あの方は」
「御会いしなくてよかったですね」
 女学生はほっとした顔になってこう真理に話した。
「ここは」
「そうですね。ですが」
「ですが?」
 真理は義正のその後ろ姿を見たのだ。その後ろ姿は。
 端整であった。しかも気品がある。その後ろ姿を見てであった。目を止めてしまったのだ。 
 しかしだ。友人の言葉に我に返った。慌ててその視線を外してだ。そのうえで彼女に対してこう話したのであった。そうしたのだ。
「何でもありませんわ」
「そうなのですね」
「はい、何も」
 何もないということにするのだった。
「ですから安心して下さい」
「そうですか」
「はい・・・・・・うっ」
 ここまで話してだった。不意にだ。
 真理は咳をした。すぐにその口を右手で塞ぐ。
 その姿勢で何度か咳をしてだ収まってから言うのだった。
「収まりました」
「風邪でして?」
「そうでしょうか。風邪でしょうか」
 真理は自分ではわからないといった感じであった。それが言葉にも出ている。
「だとしたら少し困りましたね」
「最近時々咳をされていますが」
 女学生はその真理を気遣いながら彼女に声をかけた。
「風邪なら御気をつけ下さい」
「そうですね。風邪は万病の元と言われていますね」
「だからです」
 それでだと話す女学生だった。
「くれぐれも御気をつけ下さい」
「わかりました。それでは香川さん」
「はい」
 女学生の名前を呼んだのであった。彼女のだ。
「では今から遊びに行くことは止めまして」
「どうされるのですか?」
「家に帰り休むことにします」
 そうするとだ。穏やかに笑って話すのだった。
「そうします」
「はい、それがいいです」
 その女学生、香川麻実子もそれがいいというのだった。見れば小柄であるが丸い顔で色が白い。黒く大きな目をしていてそれがきらきらと光っている。口は小さく鼻の高さは普通だ。黒髪を後ろで束ねている。
 その香川がだ。笑顔で真理に話すのだった。
「では私は」
「どうされますか?香川さんは」
「これから本屋に行きます」
 穏やかな笑みでだ。そうすると話すのだった。
「そうします」
「本屋にですか」
「そしてそこで」
 どうするのかもだ。彼女は話す。
「小説を買うことにします」
「小説ですか」
「それか詩集を」
 選択肢はだ。ここでもう一つ増えた。
「どちらかにします」
「詩集でしたら与謝野晶子は如何ですか?」
「あの方のですか」
「はい、何冊か読みましたがいいです」
 こう話すのだった。
「ですから。香川さんも如何ですか?」
「わかりました。それではその詩集と」
 さらにであった。香川はここでさらに話すのだった。
「赤い鳥を買います」
「赤い鳥ですか」
「はい、あの雑誌をです」
 与謝野晶子が関わっているその雑誌をだ。買うというのである。
 そしてそのうえでだ。また話すのであった。
「買いに行きます」
「赤い鳥もいいですね」
 ふと言った真理だった。赤い鳥と聞いてだ。
「あの雑誌は。読んでいてです」
「心が奇麗になりますね」
「はい、なります」
 そういう雑誌だというのだ。その赤い鳥は。
「素晴しい文学は。読む人の心を清らかにしますから」
「だから赤い鳥もですね」
「はい、奇麗になります」
 そうした雑誌だというのだ。
「ですから。読まれるといいです」
「では。あの雑誌もまた」
「はい、それでは」
 香川は笑顔で頷く。これで決まりだった。
 真理は家に戻り香川は本を買いに向かった。電車を降りた時にだ。
 真理は無意識のうちにだ。義正が去った方角を見た。そちらをだ。
 そしてそのうえでだ。一人こう呟くのだった。
「あの後ろ姿は」
 それを思い出してもしてだ。そのうえで一人呟いたのだった。そうしたのであった。


第二話   完


                2011・2・27
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧