報復
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第一章
報復
秦の将軍白起は名将であり秦では切り札と呼んでいいまでに信頼され頼りにされていた、だが。
その国の名将は敵国にとっては強敵だ、特に彼の場合は特別な事情があった。
「よいか、敵兵はいつも通りだ」
「はい、捕虜にすることなくですね」
「皆殺しにせよ」
「そうせよというのですね」
「そうだ、秦の軍法通りにだ」
こう己が率いる兵達に言うのだった。
「殺せ、いいな」
「わかりました」
「では敵兵は全て殺します」
「一人も生かすことはありません」
「そうせよ」
こう告げて実際に敵兵は全て殺していた、そして楚を攻めた時はその王達の陵墓をだった。
全て焼いた、これには楚の者達も怒り狂った。
「何ということを」
「王の墓を焼き尽くすとは」
「白起、そして秦め許さんぞ」
「この恨み忘れぬ」
「秦は楚が滅ぼす」
「必ずな」
こう誓った、だが白起は強く誰が戦っても勝てなかった。それは楚だけでなく他の国も同じだった。
戦えば敗れ皆殺された、特に長平では。
趙は四十五万、実際は四万かそれ位だと思われるが当時としては破格の大軍を以て秦と対峙した。秦はここを決着がつける時と見て将に白起を送った。白起は見事な采配で趙軍を完全に囲み。
数ヶ月そうして餓えさせ遂には下した、彼はその下った趙軍の生き残り俗に言われる四十万を。
全て生き埋めにした、多くの者達が穴を掘らされその中に入れられそして埋められた、瞬く間に多くの命が奪われた。
これには天下が唖然となりだ、今度は怯えた。
「何という男だ」
「四十万もの者を生き埋めにするとは」
「白起は鬼か」
「恐ろしい男だ」
こう言って誰もが恐れた、この戦いは事実上秦の覇権を決定付け。
秦はそれから数十年後全ての国を飲み込み統一した、誰もが白起のことを覚えて恐れていた。
だが一人恐れていない者がいた。その者は幼い時から自分を育ててくれている叔父に対して言っていた。
「白起何するものぞです」
「あの男をそう言うのか」
「はい、あの男が今生きていれば」
その少年項籍、字は羽は叔父である項梁に強い声で言った。
「私が必ず破り殺します」
「白起をか」
「あの男は楚の陵墓を焼き敵の兵を皆殺しにし長平で四十万の兵を生き埋めにしました」
「恐ろしい男だ」
「その恐ろしいことを私はあの男、いえ秦にしてみせます」
声には怯えはない、その逆に覇気があった。
「そして秦を焼き尽くしてみせましょう」
「あの国がしてきた様にか」
「例え家が三戸になろうとも秦を滅ぼすのは楚ですね」
楚で実際に言われてきたことだ、楚の秦への憎悪は陵墓や滅亡だけでなくかつて懐王が騙されて捕らわれてその地で死んだこともあり実に根深く項羽もそれは同じなのだ。
だからだ、彼は叔父に言うのだ。
「ですから私がです」
「秦に対してか」
「そうしてやります」
こう強く言う、しかし項羽はこの時まだ子供に過ぎず秦も始皇帝の治の下強かった。項梁もまさかと思った。
だがその始皇帝が死に国は忽ち乱れ項梁も機と見て楚の王室の者を立てて挙兵した、言うまでもなく項羽もその中にいた。
項羽は強かった、戦えば必ず勝ち巨大な身体に矛を持ち自ら馬に乗り敵を屠りもしていった。
途中叔父は秦軍に殺されたがこれが余計に彼の怒りを震い立たせた。
「秦の兵達は生かすな!」
「一人もですか」
「これから戦う秦の兵達は」
「そうだ、奴等は叔父上を殺した」
自分を育ててくれた親に等しい彼をというのだ。
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