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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第65話「足止めの戦い2」

 
前書き
―――これが、私の唯一お姉ちゃんを上回るモノ……!

まずはラウラと簪の決着から。
 

 





       =簪side=





「っ……!」

 ゴーレムを二機、私が引き付ける。
 射撃やその腕による直接攻撃を、決してまともに受けないように立ち回る。

「ぐっ……!」

     ギィンギィン!!

 “水”を用いて、上手く腕の攻撃を受け流す。
 そして、その攻撃後の隙を利用して……。

     ギギギギギギギィイン!!

「……チッ」

 ラウラが、銃で攻撃する。……と言っても、装甲で弾かれたけど。
 当然、ゴーレムのAIもそこまで馬鹿じゃないみたく、連携に対応してくる。

「くっ……!」

「……」

 一機が後方へ下がり、銃を構える。
 それを見てラウラがそちらへと意識を向け、私は変わらず目の前のゴーレムと対峙する。

「シッ……!」

 振るわれる腕を避け、そこを狙った銃撃を跳んで躱す。
 同時に薙刀で斬りつけようとするが、もう一機の射撃が飛んできたため、薙刀をぶつけた反動で射線からずれ、回避に専念する。
 すぐにラウラが引き付けて一対一に持ち込んでくれる。

「(流れ弾にさせる訳にはいかない)」

 私もすぐに間合いを詰めて、相手しているゴーレムに銃を使わせないようにする。
 薙刀を振るい、上手く銃を封じる。

「(もう一機は……)」

 攻撃を避けながら、もう一機を探す。
 ……案外、近くにいた。

「(よし…)」

 目だけでラウラに合図を送り、ラウラを下がらせる。
 同時に私がもう一機にちょっかいを出して、二機を相手取る。
 これで、私が引き付けてラウラが後ろから撃つ形になる。

「(でも……!)」

 二機が一斉に私に襲い掛かる所を、“水”で対応する。
 ……けど、それはさっきまでと同じ。

「……千日手」

 思わず、そう呟いてしまう。それほどに、同じことの繰り返しだった。
 連携を取れば同じように連携を取られ、一対一に持ち込めばこちらが圧倒的に不利。
 上手く二対二にしても同じように連携を取られ……後はその繰り返しだ。

「(状況を変えるべき。それはラウラも分かっているはず。…問題は、それをどうやるのか)」

 千日手になっているのは、飽くまで私達がやられないように上手く立ち回っている。……状況を変えるとなると、ただでさえ一歩間違えれば危険な所を、さらに危険に晒してしまう。

「(銃弾は攻撃を阻止するまでしかできない。武器による攻撃も、関節部分以外は碌に通らない。……“水”を宿した一撃以外は)」

 そう。“水”を宿した一撃なら、あの堅い装甲を切り裂く事も可能だ。
 ……でも、私やラウラの“水”では、それが出来るレベルに至っていない。

「(……もっと、“水”を使いこなせたら……いや、せめてマドカみたいに複数の属性が扱えたら……)」

 私とラウラは、そのどちらも一歩足りない。
 “水”は自分に合わせた使い方しか出来ないし、他の属性も“風”と合わせるのがやっとだ。……それでも足りない。

「……ふぅ……っ!」

 出来る限りいなし、その間にラウラに隙を作ってもらう。
 ……でも、その戦法がいつまでも通じる訳がない。

「ッ……!?」

「(動きを変えてきた……!?ラウラの銃撃が、“取るに足らないもの”だと判断された…!)」

 そう。ゴーレムも動きを学習する。
 今まで妨害のために放っていたラウラの銃撃だけど、実の所大した事はない。
 だから、無視してでも先にどちらかを倒すのを優先するようになってしまった。

「厄介な……!」

 “水”を扱えると言っても、何度も言っている通りそれは私に合わせた扱い方。
 本来の“水”としては、中途半端もいい所だった。

「くっ……ぁあっ!?」

 ついに、攻撃がいなしきれずに私は吹き飛ばされてしまう。
 幸い、攻撃そのものは薙刀で受ける事ができたから、戦闘は続行できる。

「っ!」

 けど、地面を転がった所でゴーレムの追撃がくる。
 二機が銃を構え、私に向けてきた。
 何とか体を転がし、避ける事は出来たけど、このままではすぐに当たってしまう。

「こっちだ!!」

「ラウラ……!」

 そこで、ラウラが前に出てきた。
 ナイフを二つ構え、果敢に斬りかかっていった。

「(陣形が完全に崩された。どうにかして、打開しないと…!)」

 まず、銃による攻撃は無視されるだろう。
 余程強力な銃でないとあの装甲は破れない。
 ……そして、それは近接武器でも言える事。
 生半可な技術、力では到底傷をつける事ができない。
 例えハンマーのような武器でも、余程の重量と勢いがなければ装甲はへこまない。

「ラウラ……!」

 ……それならば、近接だけで打倒するしかない。
 銃撃は完全に無意味と化した。近接もあまり有効ではない。
 しかし、裏を返せば近接ならば通じる余地がある。
 その点でのみ、上回るしかないだろう。

     ギィイン!

「っ、はぁっ!」

     ギギィイン!!

「っづ……!!」

 ラウラの背後に迫っていたもう一機に割り込むように薙刀を振るう。
 同時にラウラは目の前の一機の攻撃を躱しつつ、背後のもう一機に攻撃を加えた。
 攻撃を喰らった方は間合いを取り、もう一機は追撃を放ってくる。
 その攻撃は私が“水”を使いつつ受け、距離を取るようにラウラと共に吹き飛ぶ。

「……まずいな」

「うん……」

 背中合わせになり、お互い対面にいるゴーレムを警戒する。
 ゴーレムの方も警戒してくれているのか、すぐには仕掛けてこなかった。

「……まずは銃を封じる。そうしなければ一方的にやられるだけだ」

「分かってる。けど……」

 今まででも銃を封じるには至らなかった。
 ただでさえさらに不利になっているのに、それが出来るとは思えない。

「…先程までのと、近接のみでの連携は別物と考えろ。立ち回りが似ているようで全く違う。……それでも行けるか?」

「どの道、やらなきゃやられるだけ。……やってみる…!」

「良く言った。……来るぞ!」

 直後、ゴーレム二機は銃を構え、撃ってきた。近付く気配はない。
 それも当然。唯一気を付けるべきなのは、近接攻撃なのだから。
 ゴーレムにとっては、近づかれなければ絶対に負けない戦いなのだ。

「(だから、まずは接近する……!)」

 銃弾は躱せない訳でも弾けない訳でもない。
 射線上から逃れるように動きつつ、避けられない弾は薙刀で弾く。
 ラウラも私と同じようにナイフで弾を弾きながら、同じ機体に接近する。

「っ……!」

「くっ……!」

 もちろん、ゴーレムが簡単にそれを許すはずがない。
 進路を妨害するように銃弾が撃ち込まれる。
 その度に私達は迂回して、また接近を試みる。

「……残弾が分かればな…」

「弾切れを狙うって事?でも……」

 そんな事を、あの人たちが予想していない訳がない。

「意味がないだろうな。それに…アレを見る限り、弾切れが起きたとしても、すぐに補充されそうだ」

 ちらりとラウラが視線を向けた先には、セシリア達が破壊したガシェットが、新しく補充されていた。……ゴーレムはともかく、弾ぐらいならあんな感じですぐ補充されてしまうだろう。

「……でも、隙はできる」

「……そうだな」

 いくら何でも、弾切れと同時に補充をしても、少しの隙がある。
 ラウラも、私と同じ意見なようで、そこを狙うようにした。

「…見極めろ」

「……うん」

 ラウラは軍人。私は暗部の人間。
 どちらも、実戦慣れしている類の人間だ。
 ……そういう隙を見つける事には、慣れている。

「(手順としては、銃を破壊し、続けざまにゴーレムを倒す)」

 言葉にすれば、ここまで簡潔だけど、その実態は途轍もなく困難だ。

「(二機の連携に加え、弾の補充があり得るのなら、同様に武器の補充もあり得る。銃を破壊出来たとしても、猶予はほとんどない…!)」

 少なくとも、そう考えて行動しなければ、勝ち目はない…!

「(既にリロードを4回行っている。このまま続ければ……!)」

 敵の銃弾を凌ぎ続けるという、綱渡りな行動にも適応出来てきた。
 危機的状況に変わりないけど、もし、“補充”があるなら……!

「っ、来るぞ!」

「っ……!」

 そして、その時は来た。
 事前に、弾切れ前に予備の弾が天井から降ってくるように補充された。
 その直後に片方のゴーレムの弾が尽きて……ここっ…!

「はぁっ!」

「ふっ……!!」

 千載一遇のチャンス。私の薙刀と、ラウラのナイフが銃を切り刻もうとして…。





   ―――本能的に、私達は左右に跳んだ。





「っ……!ハンド、ガン……」

「失念、していた……!」

 左右に跳んだのは、弾切れを起こしたゴーレムが、私達に向けて発砲したから。
 ……その手に持っていたのは、今まで使っていたアサルトライフルではなく、ハンドガンが握られていた。

「(迂闊だった……!持っている銃が、アレだけだなんて、誰も言ってない…!完全に、失念していた…!)」

 今までアサルトライフルしか使っていなかったから気づいていなかった。
 ……ううん。これは言い訳。暗部の人間なら、最低を想定しておかないと…!

「くっ……!」

「っ……!」

 すぐに体勢を立て直しつつ、銃弾を躱す。
 幸い、ハンドガンに持ち替えた方は、連射力が低いため、少し避けやすかった。
 けど、そうこうしている内に、二機とも弾を補給し終わってしまっていた。

「予定変更だ!隙を突くのは諦めろ…!私達の力で、打倒するしかない!」

「っ、でも…!」

 どんどん状況は悪化していく。
 狙っていたチャンスも、結局はチャンスではなかった。
 ……このままだと……!

【右に避けてください!】

「っ…!?」

 その瞬間、聞き覚えのある声が聞こえ、咄嗟にその言葉に従った。
 すると、ゴーレムの射線は反対側へずれ、隙を晒した。

「今の、声は……」

「まさか……ユーリ?」

 聞き間違える訳がない。以前と、全く変わってなかった。
 その声は、間違いなく、ここに囚われているはずのユーリのものだった。









       =ユーリside=





「……ここは……」

 桜さん達の言葉に従い、私は基地の避難場所まで来ました。
 そこには、私以外の避難者と……。

「……コントロール、パネル……?」

「はい。基地にあるコンピュータはもちろん、ゴーレムのプログラムも見れます」

 明らかに避難場所にそぐわないコンピュータの操作パネルでした。
 それについて、同じく避難していたクロエさんが説明します。

「どうして、これがここに…」

「…その言葉には、お答えしかねます」

 とりあえず、ふと気になって基地内のカメラにアクセスします。
 何もプロテクトも掛けられていないようで、あっさりと映し出されました。

「…皆さん…」

 そこには、今まさに戦いを始めた皆さんの様子が映し出されていました。

「っ………」

「桜……」

 当然、その中には桜さんも含まれています。
 私と同じように気になった桃花さんの心配そうな呟きが隣から聞こえてきました。

「(……皆さん、劣勢ですね…)」

 始まってしばらくすれば、力量差が見えてきました。
 桜さんと秋十さんはもちろん、束さんと箒さんの差も大きいです。
 織斑先生もご両親の連携には苦戦していました。
 ……そして、簪さん達も揃って押され気味でした。

「………」

 …正直に言って、どうして争う必要があるのかわかりません。
 以前、桜さん達に何度か聞きましたが、“ケジメ”としか返されませんでした。

「(……この戦いで、全力で戦って負ける事に意味があると、桜さんは言ってました。……じゃあ、どうして、ここに“操作ができる”パネルを…?)」

 映像を映すにしても、操作パネルは必要ありません。
 それなのに、態々用意しているだなんて……。

「…………」

「…本当は、わかっているのでしょう?」

「クロエさん…」

 私の様子を黙って見ていたクロエさんが、そう言ってきます。

「私、は……」

 桜さん達がどういった意図でコントロールパネルをここに設置したのか。
 ……似たような状況を、経験した事がある気がします。
 あの時、ゴーレムが襲ってきた際、皆さんを避難させる時のような……。

「(……また、私を試すんですね…)」

 桜さん達は、自分たちに味方をするのはダメだと言っていました。
 …しかし、その逆は何も言っていません。

「………」

 私は、桜さんの事が好きだから、桜さんに味方する事しか考えていませんでした。
 でも、もし、“敵対する事”が桜さんを助けるに繋がるのなら……。
 秋十さん達が、桜さん達をも助ける手段があると言うのなら……!

「っ……!」

 私は、桜さん達と、敵対します……!

「ユーリちゃん、何を……」

「(っ…!?このプロテクトの数……あの時の比じゃない…!?)」

 パネルを操作し始めた私に、桃花さんが疑問の声を上げます。
 それを無視して、まずは通信を繋げようとしますが、やはり桜さん達が設置していただけあって、生半可なセキュリティではありませんでした。

「でも……!」

 以前と違うのは、私も同じです。
 あの時から数年。私もただこの基地にいるだけではありませんでした。
 解析に関する事は、なんだってやりました。そして、だからこそ…。

「(このプロテクトも、突破できる……!)」

 パネルのキーボードで、プロテクトを突破します。
 そして……。

「(通信可能…!でも、これで終わりじゃありません…!)」

 確かにこれで皆さんに通信ができるようになりました。
 しかし、それだけでは意味がありません。
 …ちなみに、さらっと流していますが、秋十さん達の持っている端末にハッキングする事で通信を可能にしています。

「(通信可能にしただけでは足りません…!皆さんを助けられるように……ゴーレムの動きを……!)」

 さすがに、止めるという事は難しいです。
 ですが、ゴーレムもAIで動いている存在。
 それならば、ハッキングを仕掛ける事で、動きを妨害する事が可能なはずです……!

「(ゴーレムへのアクセスは……っ!?)」

 …当然ながら、アクセスするにはいくつものプロテクトを解除しなければなりません。そして、その数は通信接続の数倍の量です。

「(変動し続けている……!?これでは、動きを操作する事が……!)」

 しかも、ゴーレムは操作を乗っ取られないように常にプログラムが変動し続けていました。これではプロテクトを解除してもほとんど意味がありません。

「っ……!く……!」

 ……なんのツールもなしに、私一人ではこれ以上は無理です。
 変動し続けるプログラムを、掌握するなんて事……。

「……ぁ……」

 そこで、私はハッとしました。
 いえ、逆に考えたと言うべきでしょうか……。

「(…掌握できなくても、妨害は……可能……!)」

 そう。私は操作を乗っ取る事に集中していましたが…その必要はなかったのです。
 ただ、動きを乱すだけでも、十分に効果があります…!

「(それなら……!)」

 思考を巡らせ、限界まで脳の演算処理を速めます。
 パネルを叩く速度も速くなり……。

「【右に避けてください!】」

 ゴーレムの相手をしていた簪さんとラウラさんに通信を繋げます。
 そして、指示と同時にゴーレムの射線を右にずらすように妨害します。

「(上手く行きました……!)」

【今の、声は……】

【まさか……ユーリ?】

 上手く妨害できた事に安堵していると、二人が私に気づきます。
 ……会えなくなってからしばらく経っているというのに、声だけでわかってくれたんですね。









       =簪side=





【はい。………お久しぶりです】

 数年経っても、全く変わりのない声だった。
 ユーリ……まさか、こんな所で再会できるなんて…。

「…久しぶり、ユーリ。元気でやってるみたいね」

【はい。おかげ様で。……お二人も、変わりなく…いえ、以前より強くなりましたね】

「そう…だね…」

 ユーリの声しか聞こえず、肝心の姿は見当たらない。
 …多分、別の部屋から通信を繋げているのだろう。
 声も私達の持つ端末から聞こえているみたいだし。

「悪いが無駄話をしている暇は…っ、ない…!」

【…分かってます。こちらから出来る限りの妨害を仕掛けます。何とか突破口を…!】

「了解……!」

 ゴーレムの制御権を奪える程、軟なプログラムをしていない事ぐらいは分かる。
 だから、ユーリも妨害までしか出来ないのだろう。
 ……でも、私達にはそれで充分…!

「ラウラ…!」

「分かっている!」

 動きが乱れた分、私達の回避が容易になる。
 “乱れる”だけあって、油断すればすぐに被弾してしまうけど……。

「(でも、ユーリが制御を掌握した訳じゃない。飽くまで妨害止まり…。なら、多分武装の補充とかは行われるだろうから……)」

 そこまで考えて、手は一つしかないという解に行き着く。

「(けど、これを決めるには……)」

「ッ……!…どうした?」

 ちらりと、横を同じように避けていたラウラを見る。
 その視線に気づき、ラウラはこっちを見た。

「…ラウラ。少しの間一人で時間稼ぎ、出来る?」

「……決めるつもりか?」

「うん。でも、それをするには少し無防備になってしまうから……」

「了解した。やってみよう。ユーリ、サポートを頼む」

【分かりました…!】

 最後まで言う事なく、ラウラは了承した。
 ……どの道、私達が劣勢なのはユーリがいても変わらない。
 だったら、一撃に賭ける方が良いという判断だろう。

「(なら、それに応えなくちゃ…!)」

 薙刀を構えなおし、呼吸を落ち着ける。
 ……私が放とうとしている技は、戦闘中に使う事が出来ない。
 と、言うより、私がまだ未熟だから戦闘中は無理と言うべきかな。

「(心に、“水”を宿す……)」

 まるで波一つ立たない水面のように、心を落ち着ける。
 これから放つ攻撃に意識を集中させ、だけど思考は静かに。

「はっ……!」

【次、左です!】

「っ……!」

 視界には、ラウラが必死に攻撃を引き付けている。
 何度も危ない状況に陥るけど、それで心を乱す訳にはいかない。
 同時に、それから目を逸らす事も許されない。……この一撃は必ず当てるから。

「ふぅー……」

 息を吐き、呼吸を整える。
 ……行ける。

「っ……!」

 そこで運よくラウラと目が合った。
 私の様子を見たラウラは、すぐに察して……。

「ッ……!」

     ドンッ!

 懐から取り出した爆弾を爆発させた。
 もちろん、爆発の威力は減らしてある上に、ラウラ自身も飛び退いていた。
 つまりは、爆弾を使って緊急脱出を行ったのだ。

「(そして、煙幕にもなる…!)」

 爆弾による煙幕で、一時的にゴーレムの視界が遮られる。
 多分、熱反応とかで私達の居場所は分かっているだろうけど……。
 それもユーリの妨害のおかげで、手間取っているみたいだった。

「(これで、状況は揃った……!)」

 間合いは充分に近い。
 放てるのは一撃だけだから一機しか仕留められないけど……充分。

「これが、私の唯一お姉ちゃんを上回るモノ……!」

 踏み込み、一気に間合いを詰める。
 即座にゴーレムが銃で攻撃してくるけど……。

「ッ……!」

 私はそのまま突っ込む。
 銃弾は私の頬を掠めるように飛んでいく。
 だけど、心は乱さない。乱す訳にはいかない。
 研ぎ澄ました一撃は、そうでなければ放てないのだから……!

「シッ……!!」

   ―――“止水の一太刀”

 ゴーレムの剛腕を、スルリと避けると同時に、薙刀を一閃する。
 瞬間、時間が止まったかのような空白が訪れる。

「(実際に当てるのは、これが初めて……さぁ、どうなる…?)」

 今まで、この技は木刀か、良くても模造刀でしか使った事がなかった。
 何せ、未完成の状態でも本物の刀を使って放ったら、的が一刀両断されたのだから。
 あまりの鋭さ故に、実戦で使ったのは初めてだ。

 ……故に、だからこそ。



     ズゥウウン……



「っ……!」

 その威力は、保証されたものだった。
 ゆっくりと、ゴーレムは真っ二つになってその場に崩れ落ちる。

【す、凄い……】

「………」

 ユーリの驚く声が聞こえる。
 だけど、それに対して私はすぐにさっきと同じように心を落ち着ける。
 まだ、ゴーレムはもう一機残っているのだから。

「せぁっ……!」

 同じように踏み込み、もう一機へと一閃を放つ。
 けど、同じ要領で放ったはずのその一撃は……。

「っ……!?」

 ……上手く、いかなかった。
 ゴーレムには大きな切れ込みが入る程度で、活動停止にまでは至っていない。
 連発するには、私の技量がまだ足りなかったみたい。

「っ……!」

「いや、焦る必要はない」

「ラウラ…!?」

 すると、そこへ復帰してきたラウラがゴーレムに飛び掛かる。
 幸い、私の一撃とユーリの妨害でゴーレムは動きを止めている。
 反撃を喰らう事もなく、ラウラはゴーレムに飛び掛かる事ができていた。

「いくら装甲が堅くても、中身は丈夫じゃないはずだ……!」

 そういって、ラウラは私が斬りつけた場所から銃を装填している分全てを撃った。
 さらに、その中に手榴弾を放り込んで……。

「伏せろ!」

「っ!」

 私に駆け寄り、離れるように伏せた。



     ドォオオオオオオン!!





「っ、どうなったの…?」

「分からん。だが、無意味ではないはずだ…」

 爆風を耐え切り、治まると同時に爆風を利用してパッと起き上がる。
 そして、ゴーレムがどうなったのか油断せずに構える。

「…………」

【……大丈夫です。どうやら、倒し切れたようです】

 煙が晴れると、そこには体の大部分が欠けたゴーレムがあった。
 ラウラの言う通り、内部はそこまで丈夫じゃなかったみたい。

「やった……っ!?」

【簪さん!?】

 倒した。そう思った瞬間、私はその場に崩れ落ちた。
 どうしてそうなったのか一瞬理解できなかったけど…。

「……ダメ。“水”を宿したから……さっきの技の反動で、動けない…」

「……奇遇、だな…私もだ…」

【ラウラさんまで!?】

 ラウラも、直撃は避けたとはいえ、爆風を一度受けている。
 その上で無理して動いたのだろう。私と同じようにその場に膝を付いた。

「……これは、援護に行けんな……」

「…ユーリ、後は頼んだよ…」

【……分かりました】

 そういって、ユーリは別の端末と通信を繋げに行った。

「……ユーリのおかげで、私達が一番早く決着を付けれたけど……」

「あっちもユーリが敵に回っているのを知っているはず…。私達と同じようにはいかないだろうな……」

 部屋の端の方に何とか体を動かし、この戦いの行く末を見届けるように壁に体を預けた。











 
 

 
後書き
とりあえず決着。武装や爆発はなるべく非殺傷に近づけてますが、当然直撃すれば死にます。……それを覚悟で戦ってるんですけどね。
簪は“水”の力を常に使い続けても本領が発揮できませんが、一瞬だけ真髄に近い効果を発揮します。その一撃で、ゴーレムを両断するに至りました。 
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