内助の功
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第四章
「それでは同じ、ですからここで逃げるよりも皇帝の衣を着たまま死ぬか」
「乱を抑えるか」
「どちらかしかないかと」
「それが皇后の考えだな」
「はい、それも逃げられるには及びません」
テアドラは今度は微笑んだ、そうしてユスティニアヌスにこうも言った。
「今の我々には軍勢があり」
「そしてだな」
ユスティニアヌスも気付いた、今の御前会議に列席している将軍達の中に彼がその才に対して絶対の信頼を置く者がいた。その者の名をベリサリウスという。
そのベリサリウスを見つつだ、皇帝は皇后に応えた。
「その軍勢を率いる将がいるな」
「では答えは出ていますね」
「その通りだ、ではベリサリウス将軍」
「はい」
そのベリサリウスが応えた。
「それではこれより」
「軍勢を与える、その軍勢でだ」
「暴徒達をですね」
「抑えよ、暴徒は暴徒だ」
民ではないとだ、皇帝は厳しい声で言った。
「容赦する必要はない」
「それではその軍勢で」
「あの者達を抑えてだ」
「皇帝に退位せよなぞという妄言をですね」
「潰すのだ、よいな」
「わかりました」
ベリサリウスはその年齢を感じさせながらも精悍なその顔で応えた、そしてだった。
彼はすぐに軍勢を率いて暴徒達に向かい彼等を攻めて騒乱を鎮圧した。そうしてことが収まってからだった。
ユスティニアヌスはテオドラに対して微笑んでこう言った。
「そなたが言ってくれこそな」
「そうしてですか」
「朕はこの度の難を逃れられた」
「では」
「その功と言葉は忘れない」
こうテアドラ、己の妻に言うのだった。
「決してな」
「有り難きお言葉」
「そなたを皇后に選んだ朕の目は間違っていなかった」
そうだったというのだ。
「今助けてくれるとは思っていなかったが」
「こうした時こそです」
「言うべき時だったか」
「そう思いまして申し上げました」
「そして朕を助けてくれたか」
「そうなります」
「そうか、ではだ」
このことを話してだ、そしてだった。
ユスティニアヌスはテアドラを讃えそれからも彼女の助言を大事にした。そうして帝国を治めていった。
テアドラの名は歴史に残っている、確かに女優だった時はふしだらだったと言われそうした話が残っている。しかしユスティニアヌスの妃そして皇后となってからは夫を支え帝国を繁栄に導いた一人として知られている。それが歴史にある彼女の評価である。
内助の功 完
2017・9・17
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