| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

得手不得手

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第三章

「しかしあんな奴ほっぽり出すとかな」
「広岡も何考えてるんや」
「マニエルは出したらあかんかったらやろ」
「あそこまで打つバッターやぞ」
「何で出したんや」
「幾ら何でもあかんわ」
 こう言うのだった、しかし。
 西本は彼等の言葉を聞いてだ、笑ってはいたが真剣な声で言った。
「そこはまたちゃうんや」
「違う?」
「と、いいますと」
「パリーグにはパリーグの事情があってな」
 そのパリーグのチームの監督としての言葉だ。
「セリーグにはセリーグの事情がある」
「それぞれのですか」
「事情があるんですか」
「じゃあ広岡さんも間違いじゃない」
「そうなんですか」
「そや、セリーグには指名打者がないやろ」
 西本はあえてこのことを指摘した。
「あったら広岡もマニエルを出してないわ」
「指名打者にして、ですか」
「それで、ですか」
「そのまま使っていた」
「そうしていましたか」
「そや、セリーグはどうしても守らなあかん」 
 例え誰でも使うならというのだ。
「正直わしもマニエルの守備は使えん」
「あまりにも悪くて」
「だからですか」
「あいつの守備では負ける試合も多い」
 守備での失態によってというのだ。
「シーズンで幾つかは絶対に落とすな」
「そしてその幾つかがですね」
「シーズンを決めてしまう」
「そうなるからですか」
「そや、そやからな」
 だからだというのだ。
「わしもセリーグではどうしてたかわからん」
「マニエルの起用については」
「そうでしたか」
「ああ、それで広岡もパリーグやったらや」
 こちらのリーグの監督になればというのだ。
「そうした奴がおったら指名打者にするわ」
「打つのはよくても守れない選手がいれば」
「そうしていきますか」
「パリーグにはどのチームにもそういう奴がおるしな」
 言うまでもなく指名打者制度が出来てからの風潮だ、もっともそれ以前からそうした傾向の選手はいたが。
「そうしていくわ」
「そうですか」
「その広岡さんいしても」
「そうしていきますか」
「そや」
 実際にというのだ。
「そうしていくわ」
「そうですか、その広岡さんもですか」
「マニエルの守備が問題だと言って放出した人も」
「パリーグだとそうしますか」
「西本さんと同じことを」
「わしはあいつは凄い奴やと思てる」
 笑ってだ、西本は広岡への自分の評価も話した。
「わしの次の近鉄の監督になって欲しい位や」
「そこまで、ですか」
「広岡さんを買っておられますか」
「そうなんですか」
「そやからな」
 それでというのだ。
「あいつもそうすると思うで」
「そうですか、それじゃあですね」
「あの人もですね」
「ああ、そうするわ」
 パリーグの監督ならば指名打者制度を有効に使うというのだ、西本はこう言って広岡を決して批判しなかった。
 そしてこの指摘は的中した、広岡は西武ライオンズの監督になった時にすぐに選手達に守備練習を徹底させたが。
 チームの主砲田淵幸一を指名打者に任命した、そして彼の本来のポジションであるキャッチャーやファーストは他の選手に任せた。
 田淵は広岡のその起用に応えよく打ち西武は優勝しそこから長い黄金時代がはじまった。彼は西本の指摘通りのことをして再び優勝した。セリーグではマニエルの守備を切った彼だったがパリ―グではそうした。


得手不得手   完


                 2017・7・12 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧