同期の務め
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第三章
「よく考えてくれ」
「そうさせてもらう」
河原崎も頷いてだ、今は友の前を後にした。そうしてだった。
結城はこの日敗戦の衝撃と友の言葉が気になって深刻な顔のままだった、周りは落胆する者嘆く者自暴自棄になり飲む者と様々だったが。
彼はどちらかというと落胆しそのうえで友のことを心配していた、だが時は過ぎていき夜になるとだ。
当直室の床に入ろうとした、しかし。
ここで扉をノックする音が聞こえてきた、扉を開けるとそこには正装した河原崎がいた。その正装と彼の意を決した顔で全てわかった。
「決断したか」
「やはりな」
「そうか、ではだな」
「俺はこうする」
こう結城に言うのだった。
「そうすることにした」
「そうか、ではだ」
「まさかと思うが」
「介錯をする」
結城も意を決した顔になり河原崎に告げた。
「そうさせてもらう」
「いや、それには及ばない」
友の介錯の申し出、それは断ったのだった。
「俺は腹を切った後自分でだ」
「決めるか」
「その為に銃も持ってきた」
拳銃を出してそれを結城に見せて話した。
「これでな」
「腹を切った後でか」
「頭を撃って終わらせる」
「そうか、では俺は見届けさせてもらう」
「俺の最期をか」
「そうさせてもらう、いいか」
「いいのか、見苦しいものなるかも知れないぞ」
自決をしくじり下手に生きたりここぞという時に怖気付いてというのだ。
「そうなるかもな」
「いや、そうはならない」
「何故そう言える」
「貴様を知っているからだ」
士官学校の同期として傍で見てきてというのだ。
「貴様はそうした者ではない、だからだ」
「見届けてくれるか」
「その最期をな」
「そうか、ではな」
「今からだな」
「終わらせる、外に出る」
そうしてというのだ。
「そのうえでだ」
「終わらせるか」
「今からな」
「では行こう」
見届ける為にだ、勇気もこう応えてだった。
二人で外に出た、そしてだった。
河原崎は皇居の方に身体を向けて正座してだった、自ら軍服の前を開けた。そのうえで彼の傍に立つ結城に言った。
「ではな」
「これからだな」
「腹を切ってだ」
そうしてというのだ。
「自ら終わらせる」
「そうするか」
「最期まで見てくれ」
「安心してくれ」
結城もこう返してそしてだった。
河原崎は小太刀を出した、言うまでもなく切腹の為のそれだ。それで己の腹を十字に切りそうしてだった。
服を正すと腹を切った痛みに耐えつつ銃を出して口の中にその銃を銃口から入れてだった。
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