静寂
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第二章
「食べものも一杯貰ってるし」
「そういえばどの鹿も毛並みいいですね」
「適度に太ってますし」
「それだけ栄養足りてるんですね」
「食べるものも充分ですか」
「そう、しかも鹿煎餅貰えるし」
丁度日海夏達のすぐ傍で売られている。
「子供のお弁当とかおやつ強奪するし」
「それ駄目ですよね」
「人間だったら犯罪ですよ」
二人はその話には冷めた目で返した。
「というかそんなことまでしてるんですか」
「悪い奴等ですね」
「あと雑誌や新聞紙も食べるから」
その辺りに落ちているそういったものもというのだ。
「栄養満点よ」
「何でも食べるんですね」
「それでこれだけ大きくて毛並みもいいんですね」
「そうよ、あと悪戯したらこっちが油断した時に絶対に仕返しするから」
玲は二人にこのことも話した。
「絶対にちょっかい出したら駄目よ」
「性格悪いんですね、奈良の鹿って」
「そうだったんですか」
「そうよ」
実際にというのだ。
「これがね」
「だからちょっとでもからかうと」
「大変なことになりますか」
「その時は何もしないのよ」
からかったその時はだ。
「けれどね」
「その後で、ですか」
「何もしないと思った時に」
「背中とか狙って来るから」
本当にそうしてくるのが奈良の鹿だ、その行いはゲリラに似ている。
「ちょっとからかった子供が屈んだところ頭に頭突きされたこともあったわ」
「うわ、本当にそうしてくるんですね」
「実際に性格悪いんですね」
「それが奈良の鹿で」
「からかわない方がいいんですね」
「そうよ、人間慣れしててしかも大事にされてるから」
神様の使いということでだ。
「やりたい放題で性格もかなり悪いの」
「わかりました、それじゃあです」
「悪戯はしないです」
日海夏も優も玲に真剣な顔で答えた。
「仕返しはされたくないですから」
「ですから」
「それが身の為よ、鹿は角だけじゃないのよ」
雄の頭にあるそれだ。
「体重あるから体当たりでもかなりのものよ」
「だから馬鹿にするな」
「からかうなってことですね」
「そうよ、わかったわね」
玲は二人だけでなく他の生徒にも奈良の鹿達のことを話していた、鹿達は緑豊かな奈良公園の中を我がもの顔で闊歩し堂々と横たわっていた。日海夏も優もその彼等を横目で見ながら。
東大寺に入った、そして大仏を見てだった。
二人共だ、これ以上はないまでに見上げて唸った。
「いや、大きいわ」
「写真で観た通りね」
「鎌倉の大仏さんより大きいわね」
「特撮のロボットか怪獣みたいね」
「というか今にも立ちそうね」
「そうよね」
「それはないわよ」
玲は大仏を見上げている二人に横から話した。
「そもそも立ったらこの建物壊れるでしょ」
「そういえばそうですね」
「この建物の高さならそうなりますね」
「天井完全に突き破って」
「大変なことになりますね」
「そうなるしそうした造りになってないから」
立ったり動いたりする様な、はというのだ。
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