儚き想い、されど永遠の想い
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23部分:第二話 離れない想いその八
第二話 離れない想いその八
「満足したよ」
「それは何よりです」
「うん。そういえば」
ここでだ。義正はこんなことも言った。
「珈琲だけれど」
「その珈琲のことですか」
「絶望の様に黒く地獄の様に熱く」
こうした言葉をだ。思い出す顔で出していくのであった。
「天使の様に純粋で」
「そして恋の様に甘い、ですね」
「そう、そうした言葉だったね」
こう話すのだった。
「確かこの言葉は」
「タレーランだったでしょうか」
佐藤がこの名前を述べた。
「フランスの政治家だった」
「そうだったと思うよ、彼だったかな」
「人間としては非常に問題のある人物だったようですが」
佐藤は首を捻りながらだ。こうしたことも述べた。
そのうえでだ。彼はこうも言った。頭の位置は義正とあまり変わりがない。だから義正もだ。彼のその頭の動きを見られたのだ。
「ナポレオン以上に厄介な人物だったようです」
「能力だけではなくだね」
「はい、その人間性も」
それもだというのである。
「あのナポレオン以上にです」
「英雄以上の人間というのかな、じゃあ」
「少なくとも英雄以上に厄介な人間だったようです」
それがタレーランだというのだ。
「それは間違いないようです」
「確か賄賂を取り」
「女性問題も派手でした」
「姦淫やそれどころではなかったようだな」
「はい、口に出すのもはばかれる程だったようです」
佐藤は今度は顔を顰めさせている。その引き締まった端整と言っていい顔をだ。その顔から少なくとも彼はタレーランを好きではないことがわかる。
「僧侶階級出身だったそうですが」
「あちらの僧侶は我が国の僧侶よりも酷いと聞いているけれど」
「その中でもタレーランは特にです」
別格だったというのである。
「女性問題もあり賄賂も取り。しかも陰謀家でした」
「とんでもない人間性だったんだね」
「最悪と言ってもいいでしょう」
「その彼がナポレオンの下にいたんだったね」
「当然あの英雄に対しても忠誠心はありませんでした」
実は本人は違うとは言っている。しかしその実際の行動を見ると怪しいとしか言い様がない。タレーランはそういう人物なのだ。
「裏切っています」
「ナポレオンを破滅させた男の一人だね」
「私は思うにです」
佐藤はここでさらにだ。こんなことを言うのであった。
「フランス革命はまず多くの革命家がいました」
「ラ=ファイエットなりミラボーなりだね」
「そうです。そして一人の独裁者がいました」
革命家だけではないというのだ。
「ロベスピエールです」
「それに一人の英雄だね」
彼についてはだ。もう言うまでもなかった。
「ナポレオンだね」
「そうです、そしてです」
ここからがだ。佐藤が今言いたいことであった。
「二人の怪物も生み出しました」
「その一人がタレーランだね」
「もう一人はフーシェですが」
これまたナポレオンに仕えた男の一人だ。だがこの人物もだ。お世辞にも信頼できる人物ではなかった。それも全く、である。
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