大阪の高女
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第五章
「ベランダの向こう側にね」
「出て来て笑ってますよ」
「えっ、まさか」
佳彦は二人の言葉に自分が出した言葉通りの感情を抱いてだ、それですぐに窓の方を振り向いた。するとそこに彼が見慣れている女がいた。
髪は黒く長い、顔立ち自体は整っているがおかしそうに笑っているのであまりそうは見えない。着ている服は白い着物だ。
その女がいてだ、佳彦は恵子と晴香に話した。
「この女の人なんです」
「やっぱりね、この人ね」
「毎晩こうして出て来て気になって」
「ひょっとしたら窓を突き破って襲われるとか」
「そう思って寝られなくて」
「寝不足になってるのね」
「そうなんです」
こう恵子に答えた。
「これが」
「予想通りね、あと私この女の人誰かわかったわ」
恵子は窓の外のベランダの向こう側でけらけらと笑っている着物の女を見つつそのうえで佳彦に話した。
「妖怪よ」
「幽霊じゃなくてですか」
「妖怪よ、高女っていう妖怪よ」
「高女ですか」
「身体が伸びて高い場所まで及んで」
「七階までですか」
「そうしてそこにいる人を驚かす妖怪よ」
高い場所にいるその人をというのだ。
「まあ驚かせるだけでね」
「害はないですか」
「気にしなくていいわよ」
高女、今窓の外にいる妖怪はというのだ。
「特にね」
「そうなんですね」
「夜にしか出ないでしょ」
「はい、そうです」
「それなら窓にカーテンかけるなりすればいいし」
そうして見ない様にすればというのだ。
「いいしね、どうしても気になるなら」
「退治ですか?」
「そこまでしなくていいわよ、ちょっと見ていて」
こう言ってだ、恵子は堂々とだった。
窓の方に歩いていってその窓を開けてだ、ベランダに出て高女に対して言った。
「あんたどうして私の部下を驚かせてるの」
「そんなの決まってるじゃない」
高女は自分の前に出て来た恵子に笑って答えた。
「それが妖怪のお仕事だからよ」
「人を驚かせるのがね」
「だからよ」
「毎晩この窓に出てなの」
「驚かせて笑っているのよ」
「事情はわかったわ、けれどね」
恵子は高女の言葉を聞いてから彼にさらに言った。
「部下の子驚いてあんた見て襲われるか不安になってよ」
「私人を襲うとかしないわよ」
高女はこのことははっきりと言い切った。
「そうした妖怪じゃないから」
「それでもよ、寝不足になって体調が落ちて仕事の調子が悪くなってるから」
だからだというのだ。
「驚かすのは止めてもらうわ」
「止めろと言われて止めろと思う?」
「警察に通報するわよ」
「妖怪は人間じゃないから警察は関係ないわよ」
高女も負けていなかった。
「生憎だけれどね」
「じゃあ大阪の妖怪の棟梁さん呼ぶわよ」
恵子はその高女にさらに返した。
「そうしていいの?」
「迷惑をかけているからって」
「お仕置きしてくれってね」
そう言うというのだ。
「そうするわよ」
「うっ、それは流石に」
「それじゃあ。わかるわね」
「もう二度とこの部屋のお兄さんを驚かすな」
「そうよ」
まさにと言うのだった。
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