龍が如く‐未来想う者たち‐
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井上 慶介
第一章 禁じられた領域
第七話 龍と少女
男を軽く片付け、2人は湧泉露の1番奥にあるお店に辿り着く。
かつての遊郭を真似て造られた個室道楽施設、洎夫藍。
ここは大阪の、さらに湧泉露の中でも身を隠すのにうってつけな場所だった。
個室が並ぶ中のさらに1番奥、色の違う扉の前に案内される。
中でお待ちですと言葉を残し去っていった店員を見送ってから、井上は扉を躊躇いなく開けた。
白い壁に引き立つ赤い絨毯、そこに座り込む2人の男女と寝かされている男が1人。
横になっている男は間違い無く桐生で、お下げの少女は世間を騒がせた澤村遥だとすぐに理解した。
アイドルとして華々しいデビューを飾るも、自身が元極道・桐生一馬の連れ子だと明かしアイドルを引退。
その後行方不明になっていたはずの少女だった。
彼女の隣に座る膨よかな体格の男が、この2人を今まで匿ってきた人物なのだろう。
この男もまた、テレビで一時期話題になった男だった。
「政治家の……田宮隆造……?」
「昔の話だ。今はもう政治家を退いている」
意外な人物の登場に呆気にとられる井上を余所に、檜山はズカズカと室内に入り田宮の目の前に座る。
田宮の手招きでようやく我に返り、井上は檜山の隣へと座った。
「紅の紹介とはいえ、何で俺らと会う気になってくれたんだ?」
「交換条件だ。アンタのこともよく聞いてるよ、檜山とやら」
「ふーん、情報は大体紅から聞いてる感じか」
檜山はチラリと遥を見る。
少し緊張した面持ちで2人を見ているが、強い眼差しに強い光を感じた。
「緊張すんな、嬢ちゃん。俺たちは悪モンじゃねぇから」
「……私の事は、あまり気にしないで大丈夫です」
「そうか……」
檜山は何かを考え始める中、続けて井上は田宮に話しかける。
「田宮さん、交換条件って会うことを許したくらい良い条件やったんですか?」
田宮はゆっくり頷く。
恐らく話を紅から通した時に、交換条件を勝手に出されたのだろう。
だとすれば面倒な条件を、了解もなく了承したに違いない。
ここから先を聞くのが嫌になった。
「今、東城会の奴らが大阪にいるのは知ってるな?」
「……さっき会いました。バンダナの男が1人」
「そいつは東城会の中でも幹部クラスの男だ。命拾いしたな」
腹の底から沸いて出る異常な嫌悪感が、身体中を走った。
緑のバンダナの男、喜瀬の不気味な笑み。
全くの部外者なら2度と関わりたく無い男だった。
「奴らは、ここにいる桐生一馬を狙って来ている」
「何でまた……」
「大方俺の予想は、東城会の跡目争いのダシに使うだろうと睨んでる。それで、桐生と俺たちに何の関係が?」
檜山の声色が変わったと同時に、田宮の顔つきも変わる。
「桐生一馬を、誰にもバレずに神室町へと運びたい」
それは、井上にとっても願ったり叶ったりな提案だった。
上手くやれば、桐生をダシに使えるかもしれない。
興奮を必死に抑え込む井上の横顔を、檜山はずっと睨んでいた。
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