儚き想い、されど永遠の想い
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217部分:第十六話 不穏なことその九
第十六話 不穏なことその九
シューベルトの優しく奇麗な音楽の中でだ。婆やはさらに。
真理にだ。あるものを出したのだった。それは。
「これも」
「本ですね」
「はい、志賀直哉がありました」
「あの人の本ですか」
「実は私も」
「志賀直哉は読まれているのですか?」
「最近小説を読むようになりまして」
それは真理の影響からだ。婆やも彼女の影響を受けてきているんどあ。
「それでこの人と同じ流れの」
「白樺派ですね」
「その武者小路実篤の本を読んでいます」
ここまで話してだ。婆やは頬を赤らめさせた。
そしてそのうえでだ。こう話すのだった。
「恥ずかしいことに」
「何故恥ずかしいのですか?」
「この歳で武者小路実篤は」
「あの人の本を読むことはですか」
「恋愛小説ですね」
「はい」
真理もそうだと答える。武者小路実篤といえばやはり恋愛小説だ。その中での人の心を書いていくのが彼の小説なのである。
それを読んでいるからだと。婆やは恥ずかしそうに言うのだった。
「ですから」
「いえ、それは」
「それは?」
「恥ずかしいことでないと思います」
そうだとだ。真理は婆やに話すのだった。
「よい小説は幾つになってもです」
「読んでもですか」
「いいものだと思います。それにです」
どうかとだ。真理は言葉を続けていく。
「婆やも女の方ですから」
「私が女だから」
「だからいいと思います」
こう真理に話すのである。
「ですから」
「ですが。十代の娘の様に」
「いいではないですか。幾つになっても女の方ですから」
「だからいいと」
「そう思いますが」
「左様ですか」
そう言われてだ。婆やは。
少し戸惑いながらも納得する顔になってだ。それで言うのだった。
「では。それでは」
「これからもですね」
「読みたいと思います」
そのだ。武者小路実篤の小説をというのだ。
「是非共」
「そうですね。それで」
「はい、それで」
「志賀直哉の作品ですが」
今読んでいるだ。彼の作品についての話になった。
真理はベッドの中で半身を起こして読みながらだ。婆やに話すのだった。
「実は。殆んどの作品は好きですが」
「好きではない作品もありますが」
「あの長い作品。題は忘れましたが」
志賀直哉は基本的に短編作家だ。この辺りは芥川と同じだ。
「ですが。その作品は」
「お好きではありませんか」
「読んでいません」
それもしていないというのだ。
「実は」
「それは何故ですか?」
「最後まで読めないと思い」
それでだ。読んでいないというのだ。
「ですから」
「長い作品は。そうですね」
「終わるかどうかもわかりませんし」
その終わるのが何時になるかさえだった。
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