レーヴァティン
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第三十九話 神の斧その四
「狩りですらないでござるな」
「それじゃあ狩ってもな」
例えそうしてもというのだ。
「何か狩った気がしないな、しかも全然無抵抗だっていうしな」
「無抵抗な相手を狩ることは」
「相当餓えてたら狩るかも知れないぜ、俺も」
まさにそれを食わねば死ぬという時はというのだ。
「それで生肉でもかぶりつくかもな」
「それでもでござるな」
「ああ、普通の状況ならな」
「無抵抗で簡単に狩れる獲物はでござるか」
「狩ったら駄目だって気がするんだよ」
「貴殿の信条でござるな」
「いじめみたいでな」
そう思うからだというのだ。
「俺はしたくないな」
「いじめは嫌いでござるか」
「弱い者をいたぶるのは剣道じゃない」
久志は真剣な顔で言った。
「俺が小学校の頃剣道の先生に言われた言葉さ」
「左様でござるか」
「ああ、もうな」
それこそというのだ。
「そんなことする位なら剣道はするな」
「それでだね」
今度は淳二が言って来た。
「ステラーカイギュウは狩りたくないんだ」
「それで他の無抵抗な生きものも」
「狩りたくないんだよ」
「その辺りこだわりだね」
「ああ、せめて逃げないとな」
そうでもして身を守る生きものでもというのだ。
「狩ったら駄目だろ、ましてそうした生きものを好き好んで狩ってたらな」
「絶滅するね」
「あっちの世界のステラーカイギュウみたいにな」
彼等の本来の世界のだ。
「そうなるな」
「確実だね、それは」
「だからな」
「彼等を絶滅させない為にも」
「狩るものじゃないだろ、襲って来たウォーターリーパーや熊は食ってもな」
そうした相手は狩って食べてもいいというのだ。
「無抵抗な相手は止めようぜ」
「うん、じゃあ鯨かな」
剛は久志のここまでの言葉を聞いて言った。
「鯨を獲ろうか」
「おい、鯨ってな」
「うん、湖には出るんだ」
鯨もというのだ。
「大きくてしかもね」
「美味いな」
「うん、二十メートルあるのもいるし」
「それじゃあ湖の漁師さん達も獲ってるか」
「そうしてるよ、それで食べるよ」
「成程な」
「その鯨はどうかな」
「食いたいけれどな」
それでもとだ、久志は剛の提案に微妙な顔で返した。
「けれどな」
「それでもなんだ」
「ああ、鯨を獲ってもな」
「術を使えば結構楽だよね」
「問題はその後だろ」
そこからがだというのだ。
「どうして捌くかな」
「二十メートルもの大きさの鯨をね」
「それって相当特別な技術だぜ」
現実に日本を含めた捕鯨国では鯨の解体は特別な技術であった、あらゆる部分を使える無駄のない生物だがそうするには技術が必要なのだ。
「俺達にそんな技術ある奴はな」
「いないね」
淳二が笑って言ってきた。
「流石にね」
「そうだろ、熊とかは捌けてもな」
「普通のお魚もね」
「それが二十メートルの大きさになるとな」
それこそと言うのだ。
「無理だぜ」
「そうだね」
「それ言ったらステラーカイギュウもか」
久志はまたこの生きものの名前を出した。
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