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儚き想い、されど永遠の想い

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179部分:第十四話 忍び寄るもの五


第十四話 忍び寄るもの五

「そうでした」
「そうだったんだね」
「あの二人は残念なことにです」
「死を選んでしまったね」
「運命の行き違いにより」
 そうなってしまった。この場でも話されるのだった。
 そしてだ。あらためてだった。こんな話も為された。
「ですが我が国ではです」
「歌舞伎ではかな」
「はい、八重垣姫がそれです」
 ここでまただった。この題目が話に出たのだった。
「八重垣姫は武田勝頼と結ばれます」
「我が国ではそうなった」
「敵味方であっても」
「けれど僕達のことは時と場合によっては許されないんだね」
「若しもですが」
 佐藤は自分を見ている義正に話す。
「若し旦那様に恋人か奥様がおられればです」
「真理さんとの恋は許されなかったね」
「その場合はです」
 そうだとだ。彼は義正に話した。
「愛は一途でなければなりませんから」
「すると」
 義正は佐藤の話からだ。思ったのだった。
 そしてその思ったことをだ。彼は述べた。
「よくお妾さんがいる人がいるけれど」
「おられますね」
「我が八条家や白杜家にはいないけれどね」
「それが正しいと思います」
 あくまで今の基準ではというのだ。佐藤は相対的に考え話していく。
「やはり。愛は一人にだけ向けられるものなのです」
「真理さんに」
「考えを変えてみましょう」
 佐藤の視点が動いた。
「若しも真理様がです」
「真理さんに恋人がいて僕を愛したならば」
「その場合はどうでしょうか」
「考えるだけでも虫唾が走る」
 義正はここでは忌々しげに言った。
「そんなことはね」
「そうですね。ですから」
「愛は一人に向けるべきもの」
「そうでなければなりません」
 こう義正に話すのだった。
「そう思います」
「わかったよ。相手の立場で考えればね」
「男性も女性も同じですから」
「今の考えは」
 義正は佐藤の今の言葉にも述べた。
「あれだったね。平塚らいてうさんの」
「近頃女性の権利についても言われていますが」
「その考えも正しいんだね」
「私はそう思います」
 ここでもこう述べる佐藤だった。
「男性も女性も等しく人間なのですから」
「だからだね。そういえば最近天理教という宗教を聞くけれど」
「奈良のあの宗教ですね」
「知っているんだね」
「あの宗教の教会がこの神戸にもあります」
 佐藤はこのことも話した。
「それで知ったのですが」
「天理教の教会だね」
「そうです。あるのです」
「そうだったんだ。それでね」
「その天理教のことですね」
「あの宗教の教祖は」
 義正は身体も佐藤に向けた。そのうえで彼と話す。それまで身体を向けていた青い海は背中に受けてだ。そうして話すのだった。
 
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