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真田十勇士

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巻ノ百二十 手切れその九

「右大臣様が戦の采配を執られるにしても」
「あの方は戦に出られたことがありませぬ」
「これが初陣です」
「槍や弓を取られたことさえ」
 それこそなのだ。
「あまりありませぬ」
「学問ばかりされてです」
「書での戦はご存知ですが」
「肌では知りませぬ」
「それで武芸さえまともにされておらぬ」
「それではです」 
 到底というのだ。
「あの方が采配を執られては」
「その場におられても出来るか」
「実質我等がとなりますが」
「我等が軍を動かしますな」
「そうなるであろうな」
 大野も彼等にこう答えた。
「間違いなくな、そして浪人の中からな」
「長曾我部殿や後藤殿、それに真田殿ですな」
「かつて大名だった方々が采配を執られる」
「そうなりますな」
「格が違う」
 かつて大名だった、このことはというのだ。後藤にしても黒田家で一万石以上の禄を持っていた大名だったのだ。
「やはりな」
「左様ですな」
「そうなりますな」
「大野殿がそうした方々の助けを借りて」
「そのうえで軍勢を動かしていかれる」
「そうなられますな」
「わしよりもじゃ」
 戦になればというのだ。
「その時はな」
「はい、後藤殿や長曾我部殿ですな」
「そして真田殿ですな」
「あの方々が軍勢を大きく動かされる」
「そうなりますな」
「あの方々が兵を率いてくれれば」
 その時はというのだ。
「違うと思うが。しかしな」
「茶々様ですな」
「右大臣様が采配を執られるとなりますと」
「やはりですな」
「口を出されてきますな」
「うむ、そうなる」
 こうなることは火を見るより明らかだった、茶々はこれまで大坂の政で秀頼の母として常にそうしてきたからだ。 
 それでだ、戦もというのだ。
「そうなればな」
「あの方は兵法の書も読まれていません」
「右大臣様より遥かに酷いですぞ」
「右大臣様はまだ馬に乗れます」
 決して上手ではないがだ、巨体過ぎて乗れる馬が少ないことも秀頼にとっては問題なことである。
「刀や槍、弓の稽古もされています」
「茶々様が傷ついてはと言われても」
「それでもです」
「稽古もされることはされています」
「あまりにしましても」
「しかし茶々様は」
 翻って彼女はというと。
「一切です」
「戦のことを承知でないです」
「その茶々様が戦に口出しされますと」
「危ういですぞ」
「政以上に」
「そうなることは明らかだしのう」 
 大野は困った顔のまままた述べた。
「この度のこともな」
「難しいですな」
「それも非常に」
「むしろ政の時以上に」
「厄介ですな」
「どうにも」
「全くじゃ」
 こう言うしかなかった。 
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