真田十勇士
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巻ノ百二十 手切れその七
「大坂を手に入れるが」
「それでもですな」
「右大臣殿のお命は奪わず」
「そのうえで、ですな」
「戦を進めていきますか」
「そうする、では出陣の用意じゃ」
ここまで話してだ、家康もまた出陣を命じた。戦は避けられぬ事態になったことは明らかだった。
豊臣家は天下の大名達に文を送った、だが。
その返事にだ、茶々は大野に勘気を出して言った。
「どの家もか」
「左様です」
大野は茶々に畏まって話した。
「豊臣家にはです」
「つかぬか」
「左様です」
「七将の家もか」
「はい」
まさにというのだ。
「どの家も。ただ」
「ただ。何じゃ」
「平野殿ですが」
「誰じゃ、それは」
「田原本五千石の御仁ですが」
いぶかしむ茶々に話した。
「ご存知ないですが」
「知らぬ」
「その者が当家への参陣を言いましたが」
「そうであったか」
「江戸に召し出されました」
即ち幕府にというのだ。
「そうなってしまいました」
「ではその者もか」
「はい、大坂には来ませぬ」
そうなったというのだ。
「その者も」
「そして他の者もか」
「来ませぬ、大名もそれより下の者達も」
「誰一人としてか」
「大名家を抜けて馳せ参じる者はいますが」
「大名が来てこそじゃ」
茶々は大野に怒って言った。
「そうではないのか」
「それはそうですが」
「大名は一人もか」
「左様です」
大野は平伏したまま再び茶々に答えた。
「そうです」
「恩知らず共が」
茶々は怒りに満ちた声をここで漏らした。
「豊臣の恩を忘れたか」
「はい、ただ内密ですが」
「手を貸してくれるのか」
「兵糧を出してくれる家もあり」
「ほう、兵糧をか」
「黒田家等が。それに」
大野は顔を上げてさらに話した。
「何かあれば右大臣様をです」
「右大臣殿をか」
茶々は己の隣にいる秀頼を見た、巨体をそこに誇示して何も言わず堂々とした態度で座っている。
「如何すると」
「肥後の加藤殿、薩摩の島津殿が申し上げています」
「島津とな」
「まずは肥後まで落ち延びられ」
そしてというのだ。
「薩摩の奥に入れば」
「それでというのか」
「右大臣様を万全に匿えるので」
薩摩は天下の端にあり南と西、東は海であり北の国境の警備も厳重だ。そして中に入っても他の国の者は言葉からすぐにわかる。
そうした外の者が入りにくい国だからというのだ。
「匿えると」
「では我等が負けるというのか」
「万が一の時とのことです」
「馬鹿を言うでないわ」
そう聞いてまた怒った茶々だった。
「天下人の豊臣が敗れるものか」
「だからですか」
「いらぬ心配は無用じゃ」
目を完全に怒らせての言葉だった。
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