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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第141話「がしゃどくろ」

 
前書き
次にアリシア達。
当然の事ですが、かくりよの門におけるがしゃどくろと細かい所が違います。(行動パターンや技とか)
 

 






       =アリシアside=





「アリサ!」

「くっ…!」

「はぁっ!」

   ―――“氷柱”

 がしゃどくろの腕を、アリサは飛び上がって躱す。
 私も飛んできていた呪詛を躱して、御札を投げて術式を発動させる。
 そうする事で、アリサへの追撃を阻止する。

「ォォオオオオオン…!」

「っ、二人共!」

「……!」

 がしゃどくろの呻き声を聞き、すずかが声を上げる。
 それと同時に、私とアリサはすずかの後ろに回って霊力を練り上げる。

「せーのっ!」

   ―――“扇技・護法障壁”

 放たれた呪詛を、三人で張った障壁で防ぐ。
 呪詛は普通の障壁では防げないから、椿たちに習った障壁を使う。

「決め手に欠けるわね…!」

「呪詛の度に防御に集中してるからね…」

「でも、慎重に行かないと…」

 いくら霊力で編まれた防護服があるとは言え、直撃は食らいたくない。
 第一、私達は未だに戦闘に関しては初心者だ。
 実戦経験が足りない中、命の危険性が高い戦闘に身を投じている。

「(……でも、だからと言ってずっと慎重でいたら、格上の相手には勝てない)」

 そう。優輝達は皆、実戦経験が少ないと言ってはいた。
 だけど、同時に実戦においては思い切りや博打も必要とも言っていた。
 それが、格上の相手なら尚更。

「やるしかない……か」

「アリシア?何を……」

「ごめん、フォローは任せたよ!」

 呪詛による攻撃が治まり、がしゃどくろの攻撃が迫る。
 私達はそれを散らばるように避ける。
 この後は、本来なら動きを警戒しつつ攻撃に転じるけど……。

「(下手に術を練るぐらいなら、こっちで…!)」

 今回は違う。司に貰っておいた魔弾銃を持って、私は駆ける。
 それに、がしゃどくろの動きもだいぶ分かってきている。
 攻勢に出るなら、今だ。

「はぁあああっ!!」

   ―――“氷血地獄”

 繰り出される呪詛による弾。
 それを氷の霊術を繰り出す事で相殺する。
 その際に煙幕が発生するけど……好都合!

「っ!ここ!」

 煙の中を突っ切るようにがしゃどくろの拳が来る。
 それを跳び上がってギリギリで回避し、一気にそこへ魔弾を撃ち込む。

「(リロード!っ、してる暇はない!なら!)」

 弾切れを起こすまで撃ち込む。予備のマガジンはあるけど、リロードの暇はない。
 すぐに私は武器を斧に持ち替える。……が。

「っ、ぁあっ!」

 もう片方の手の攻撃が先に来る。
 咄嗟に斧を盾にして、すぐに地面に着地する。

「無茶しないでちょうだい!」

   ―――“バーニングスラッシュ”

「アリシアちゃん!」

   ―――“氷柱雨(つららあめ)

 そこへ、アリサの炎の一閃が腕へ、すずかの氷の術ががしゃどくろの頭へ降り注ぐ。
 私が言った通り、ちゃんとフォローしてくれたみたいだ。

「(チャンス!)」

 好機と見た私は、アリサの攻撃を喰らった腕を駆けあがる。
 途中で跳躍し、がしゃどくろの背中の上を取る。
 狙うは背中……つまり、背骨!

「せぇりゃああああああああああ!!!」

   ―――“斧技・雷槌撃”

 霊力を纏った斧が、帯電するかのように光る。
 そのまま、背骨へと斧を叩きつける。

「(手応え……あった!)」

 今までよりも大きなダメージを与えたと、確信する。

「っ!」

 …そして、同時に膨れ上がった霊力で気づく。
 大きなダメージを与えたのなら、相応の報復が待っていると。

「まずっ…!」

「アリシア!」

「アリシアちゃん!」

 避ける時間はない。焦った二人の声が響く。
 咄嗟に、その場から跳び、同時に御札で障壁を張る。

「ォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「ぐっ……ぁ……!?」

 頭がチカチカする程の衝撃に見舞われる。
 ……吹き飛ばされたと理解するのに、一瞬遅れた気がする。

「ぐ……ぅ……」

 吹き飛ばされ、私は木に叩きつけられた。
 幸いなのは、呪詛による呪いの効果は防げた事だ。
 それに、防護服が思ったより頑丈だったのか、息を整えればまだまだいける。

「アリシア!」

「っ、待ってアリサちゃん!」

「っぁ…!ぐっ!?」

 こっちに来ようとしたアリサとすずがが、がしゃどくろの腕の薙ぎ払いに阻まれる。
 障壁で直撃はしていないものの、私みたいに吹き飛ばされてしまう。

「(まずい!私の行動で、動きが乱れた…!やっぱり、慣れない事はするんじゃないね…!)」

 咄嗟にこっちに気を引くために弓矢を取り出して射る。
 あの骨だけの体には当たり辛いけど、気を引く程度には使える。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 矢と共に術もいくつか放ち、こっちに気を引く事ができた。
 ……呼吸はまだ整いきってない。ダメージもまだ残っている。
 ここからが、正念場って所だね…。

「(椿たちとの修行を思い出すね。いつも、これぐらいきつかったっけ?)」

 どこか、がしゃどくろの攻撃がゆっくりに見える。
 実際はそんな事がないのだけど、走馬燈に似たものだろうか?

「(いつも……そうだ。いつも、これぐらい…!)」

 修行の時を思い出して、ハッとする。
 そう。“いつも”だ。いつも、これぐらいのきつさだった。
 だから……!

「っ……!」

 振りかぶられた拳を、内側に入り込むようにギリギリで躱す。
 まるで体が軽くなったように解放された感じだ。
 ずっと緊張で体が強張っていたんだろう。

「はぁっ!」

 気合一閃。すれ違いざまに斬りつける。
 さらに振り返りつつ御札を投げ、目暗ましの炎の術式を放つ。

「アリサ!すずか!」

「っ…!アリシア…!」

「アリシアちゃん……」

 一度吹き飛ばされた二人は、少し苦しそうにしながら戻ってくる。
 私と同じく、呼吸を整えれば何とかなる程度のダメージだろう。

「……実戦だからって、必要以上に緊張してた。椿たちの修行を受けていた時を思い出して。これぐらいの苦しさ、経験したでしょ?」

「ぁ……」

「……それも、そうだね…」

 二人も私と同じだったのか、今の言葉で顔つきが変わる。
 まるで肩の荷が下りたように、緊張が消えていた。

「改めて行くよ…!大まかな指示はすずか、任せたよ」

「うん。了解」

「細かい動きは各自で考えよう。これだけ大きな妖なら、もつれあう事もないし」

「そうね」

 そうと決まれば、私達は駆けだす。
 動きを警戒しつつ、身体強化を施す。
 すずかは少し後ろに下がり、いつでも援護射撃ができるように御札を構えている。
 アリサも二刀を構え、私も御札と刀を持つ。

「動きをよく見て!椿たちの攻撃と違って、ちゃんと躱せるはず!」

「分かったわ!」

 途端に振るわれる腕。それに手を添え、跳躍して躱す。
 乗り越えるように躱した私に対し、アリサはハードルのように躱したみたい。
 そうして、空中に躍り出た私達の内、アリサに呪詛が飛ばされる。

「霊力を込めて……切り裂く!!」

   ―――“戦技・双竜斬”

 だけど、それは霊力を込めた二撃で切り裂かれる。
 当然だ。呪いの類である呪詛も、一応は霊力。
 同じ力であるならば、それで対抗すれば切り裂く事も可能だ。

「っと、っと、っと!甘いよ!」

   ―――“氷柱”
   ―――“弓技・氷血の矢”

 私の方にも呪詛が繰り出されるけど、こっちは既に着地して体勢を整えている。
 全部躱して、反撃に術と矢を放つ。
 刀を持っていた意味がなかったけど……まぁ、そこはご愛嬌だね!

「っ、今!」

   ―――“氷血旋風”

 私に気がそれた所へ、すずかが術を放つ。
 しっかりと霊力を練っていた分、強力だ。

「アリサ!」

「分かってるわ!」

 氷の術を何度も当てたからか、がしゃどくろの動きが鈍る。
 畳みかけるためにアリサに声を掛け、同時に攻撃を仕掛ける。

「「はぁああああっ!!」」

   ―――“霊閃撃(れいせんげき)

 凍っているという事は、衝撃に弱くなっているはず。
 そこを突くように、私達は強力な一撃を叩き込む。

「っ!下がって!」

「タフだなぁ!もう!」

 すずかの声に私はそう言いながら飛び退くように距離を取る。
 途端に咆哮と共に呪詛が解き放たれる。

「っつ…!よし、どうってことない…!」

 距離を取った事、霊力を纏った事、武器に霊力を込め、盾にした事。
 それらの要因のおかげでダメージは最小限に抑えられた。
 アリサとすずかも同じらしく、すぐに反撃に動ける。

「っと!はっ!ほっ…っと!」

 振るわれる腕、飛んでくる呪詛を次々と躱す。
 私が注意を引いて、アリサとすずかが攻撃を加えていく。
 偶にアリサと役割が入れ替わりつつ、私も攻撃を躱す際に反撃を与えておく。
 ……そして。

「普通に仕掛けを見逃してくれるのは、助かるね!!」

   ―――“秘術・劫火(ごうか)

 すずかが氷で足止めしたのを合図に、仕掛けておいた術式を発動させる。
 私ががしゃどくろの攻撃を周囲を回るように躱していたのは、このため。
 攻撃を避けながら、術を発動させるための術式を仕掛けておいたのだ。
 ちなみに、椿との修行では碌に仕掛ける事すらできなかった。
 やっぱり、人と妖だと戦い方が全然違うね。

「どう?」

「手応えあり。……でも、倒したとは思えないね」

「凄く丈夫だもんね……」

 一旦、集合して様子を見る。
 私が扱う術の中でもだいぶ強力だけど、これで倒したとは思えない。
 アリサとすずかも同意見なのか、霊力を事前に練っている。

「……今の内に、撃ち込んでおこうかな」

「そうね。あたしも、そうしようかしら」

 魔弾銃をリロードして、そういう。
 アリサも奏から貰っていたらしく、私と並んで構えた。

「すずか、いざという時はフォローよろしく」

「……うん」

 そうと決まれば、術によって煙で見えなくなったがしゃどくろへ向け、発砲する。
 全弾撃ち尽くすつもりはないので、リロードした分だけ撃ち込む。
 弾切れを起こし、リロードをした所で、その場からは飛び退くように離れる。

「『さて、撃ち込んだ訳だけど…こりゃ、まだまだだね』」

「『そうみたいね。まったく、骨なのに丈夫すぎるわよ』」

「『気を付けてね。何かしてくるよ』」

 伝心で会話しつつ、出方を見る。
 ……ここまで何もしてこないという事は、強力な攻撃が来る可能性が高い。

「ォォオオオオオオオオオオオオオン………!!」

「(来るっ!!)」

   ―――“怨嗟の呻き”

 呻き声のようなものが聞こえた瞬間、呪詛がまき散らされた。
 何か来ると分かっていた時点で、私達は大きく距離と取っていたので、防ぐにはそこまで苦労はしない……と思ったのだけど。

「っ……づ、ぅ……!!」

 霊力を纏い、障壁をいくつか張り、武器で切り裂こうとする。
 ……その上で、呪詛の力に身を焼かれる。
 相当威力は減らしたけど、まさかここまでとは……!

「っ……!」

   ―――“中回復”
   ―――“息吹”

 すぐに回復用の術を自身に掛け、伝心を試みる。

「『アリサ!すずか!無事!?』」

『な、何とか……』

『ぼ、防御の上から削られたよ……』

 ……何とか、二人も凌ぎきったらしい。
 それにしても、ここまでの威力なんて…修行の経験がなければ死んでたかも…。

「ここからが本番…とでも言いたげだね、これは……」

 呪詛を直撃でないとはいえ、受けたからか体が重い。
 どうやら、体が蝕まれているらしい。まずは浄化する必要があるね。

「『……一旦集合。態勢を少し立て直すよ』」

『っつ……分かったわ』

『うん…』

 問題は体を蝕む呪詛だけじゃない。
 がしゃどくろの周りには、さっきの呪詛の影響なのか、近づけばそれだけで呪われそうな瘴気が溜まっていた。あれをどうにかしない限り、どうにもならないだろう。

「アリサ、すずか」

「あ、アリシアちゃん、アリサちゃんが…」

 集合してみれば、アリサがだいぶ辛そうだった。

「ぐ……ぅぅ……」

「これは……やっぱり、呪詛…」

 私よりも呪詛に蝕まれてしまったのだろう。
 とりあえず、治療したい所だけど……。

「くっ……!」

「っ…!」

 がしゃどくろの攻撃が止まっている訳ではない。
 振るわれた拳は何とか躱す事が出来たけど、これでは回復の暇がない。

「(消費は大きいけど、仕方ない…!)」

   ―――“旋風地獄”

 そこで、私は霊力を大きく消費する代わりに、大きな規模で術を発動する。
 風の刃を大量に展開し、がしゃどくろを覆うように放つ。
 大したダメージにはならないけど、目的はそこじゃない。

「よし……!すずか!」

「うん!」

 風属性の術を扱ったのは、砂煙を巻き起こすため。
 大規模に風の術を使う事でがしゃどくろの視界を封じたのだ。

「ここまで来れば、少しは持つはず」

 すぐに移動して、木々に隠れる。
 目暗ましでそんなに時間を稼げるとは思っていない。
 即座に砂煙は払われてしまうだろう。だから、すぐに事を済ませる。

「………」

   ―――“快方(かいほう)の光”

 術式を構築し、浄化の光をアリサに浴びせる。
 この術は、司と私しか習得出来なかった術で、だからこそすぐに出来る浄化の術の中でも効果が高い。これで、呪詛の効果も消えるはず。

「……っ……う……」

「アリサちゃん!」

 少し呼吸が楽になった様子で、アリサは少し呻き声を漏らす。

「…助かったわ。アリシア」

「困った時はお互い様。……でも、あれには気を付けないとね…」

 私はすぐに術で回復して、すずかの場合は夜の一族で、呪いの類には若干の耐性があったから大丈夫だったのだろう。
 ……でも、それでもまともに受けていいはずがない。

「がしゃどくろそのものの動きは、各自で対処できるのは分かったわ」

「……でも、あの呪詛が厄介…か」

「…私も前に出た方がいいかな?私なら、呪いの類には耐性があるし…」

 まだ見つかっていない内に、どうするべきか決めておく。

「前に出るのはいいとしても、耐性があるからって楽観視はダメだよ」

「うん。でも、経験が活きている今なら、考えて動くよりも、感覚に頼った方がいいと思って」

 すずかの言う通り、今は経験が活きている。
 特にすずかの場合は、元々考えて動く性格なのに、夜の一族の身体能力もあって実際は感覚で動いた方が良い動きができたりする。
 あ、ちなみにすずかが夜の一族だって言う事は、修行に参加した面子は全員知っている。まぁ、吸血鬼の葵がいるから今更って感じだもんね。

「まずはあの周りにある呪詛を祓う必要があるね」

「確か……聖属性が有効だったわね」

「うん。この中では、私が一番得意だから、二人は気を引いて」

 反対に一番苦手なのはすずかだったりする。夜の一族だからね…。
 アリサも扱えると言えば扱えるけど…やっぱり、私がやるべきだろう。

「すずか、これを渡しておくね」

「いいの?」

「まず肝心なのは呪詛を祓う事だからね。それは今はいらないよ」

 すずかに渡したのは、魔弾銃。
 今言った通り、呪詛を祓うのには必要ないからすずかが持っていた方がいい。

「……さて、気づかれたみたいだね」

「…そうね。すずか、同時に仕掛けて気を引くわよ」

「うん」

「じゃあ、その隙に死角に回り込んでおくね」

 こっちに気配を向けているのが良く分かる。
 作戦としては単純で、まず同時に飛び出す。
 アリサとすずかが魔弾銃で気を引いて、その隙に私は死角に入り込む。
 魔弾銃の弾が尽きたら術に切り替え、そして私が聖属性の術を叩き込む。
 …割と簡単に思えるけど、大前提としてがしゃどくろの攻撃は全部躱さないといけない。呪詛が混じっている攻撃はまともに受けれないからね。

「よし……3、2、1……ゴー!!」

 合図と共に、私達は飛び出す。
 同時にアリサとすずかが魔弾銃で攻撃する。

「っ…!(呪詛がその場に留まって、足の踏み場が……!?)」

 …が、そこで誤算が生じる。
 呪詛のせいで足の踏み場が減っているのだ。
 私はともかく、がしゃどくろを引き付けている二人が危険だ。
 攻撃を躱しながら、足元にも気を付けないといけないなんて…!

「くぅううう……!」

「このっ……!」

 氷の障壁をいくつも重ね、すずかが攻撃を防ぐ。
 避ける事が難しくなった以上、あの方法が適しているだろう。
 アリサも、気を逸らすために横から斬撃を喰らわせている。

「(今の内に……!)」

 タイミングを少し早める事になるけど、術式を組み立てる。
 霊力の高まりにがしゃどくろが感付くけど……二人を放置だなんていい度胸だね?

「“呪黒剣”!!」

「ナイスすずか!はぁあっ!!」

   ―――“剣技・緋霞(ひかすみ)

 すずかががしゃどくろを囲うように黒い剣を展開する。
 葵がよく使う、呪属性の術だ。すずかも相性がいいらしく、使いこなせるらしい。
 そして、その剣を足場にアリサががしゃどくろの頭上に跳躍。
 刀に圧縮した霊力の一閃を解き放った。

「ォオオオオオオオオン!!」

「気を取られたのは、失策だったね!!」

   ―――“神槍”-五重展開-

 アリサの攻撃で怯んだ事で、術式が完成する。
 放つ術式は神槍。……その五つ分。
 大規模に展開されたその術式が、がしゃどくろごと呪詛を蹂躙する…!

     ドドドドドドドドド!!

「っとと!おまけよ!」

   ―――“火焔地獄”

「私も、もう一回…!」

   ―――“呪黒剣”

 さらに二人が追い打ちの術をがしゃどくろに放つ。

「(もう一度アレをされる前に、倒しきる!)」

 あの呪詛をまき散らす攻撃を、またやらせる訳にはいかない。
 呪詛による瘴気に邪魔される事がない今が、勝機!

「ォオオオオオオオオ!!」

「(っ、好都合…!)」

 接近する私に気づき、がしゃどくろは拳を振りかぶる。
 だけど、今回ばかりは好都合だった。
 ……正面から、迎え撃ってやる!

「(効果時間は大体5秒!競り勝つには、十分!)」

 今から行うのは、まだ使いこなせていない身体強化の術。
 椿曰く、効果は強いものの、効果時間が極端に短いらしい。
 さらに、使いこなせていない私の場合、さらに効果時間が短いだけでなく、効果が切れると同時に、他の身体強化の術式も維持できずに途切れてしまう。
 ……つまり、私は無防備になってしまう。
 でも、今回はそこを考慮する必要はない。……存分に、力を振るえる!

「奮い立て!鬼の力よ!!」

   ―――“斧技・鬼神”

 斧を構え、霊力を術式に通す。
 その瞬間、途轍もない力が私の中を駆け巡るのが理解できる。
 ……“行ける”。そう確信して、私は斧を振るった。

     バキィイッ!!

「ッ――――――!!」

 拳を叩き割るように、弾き返しす。
 がしゃどくろの拳には罅が入っており、大ダメージも与えていた。
 作用反作用の法則を伴ったその衝撃は、途轍もないものだったのだろう。
 巨体なはずのがしゃどくろは、大きく仰け反っていた。

「ッ……!今!!」

 そして、攻撃はそこでは終わらない。
 何のために私だけが前に出たのか。何のために拳を弾き返す事を選んだのか。
 ……答えが、これだ。

「はぁあああっ!!」

   ―――刻剣“火紋印(かもんいん)

「はっ!!」

   ―――“槍技・一気通貫(いっきつうかん)

 私の後ろから駆け抜けるように、アリサとすずかが突貫する。
 まず、アリサが刀に炎を宿し、腕などを切り裂きながら胴体へと向かう。
 同時に、すずかががしゃどくろの目の部分へと向かい、一気に槍で貫いた。
 骨しかないように思えるがしゃどくろだけど、目の部分には瘴気か何かによる闇色の光が灯っているため、効果はあるはずだ。

「もう、一発!」

   ―――“氷柱”

 槍を突き刺したすずかは、すぐに槍を手放し、もう片方の目に対して、拳を叩きつけるように霊術を叩き込んだ。

「(まず、目を潰した……!)」

 身体強化の反動で無防備になりながらも、私は状況をしっかりと把握する。
 体勢を立て直すまで、10秒かかる。その内の5秒は、突貫からのすずかの攻撃だ。
 そして、残り5秒の間は……アリサだ。

「せりゃぁあああああああああああ!!!」

   ―――“速鳥”

 炎を刀に宿したアリサは、速度を上げる霊術を使って、何度も斬りつける。
 攻撃に特化させるために二刀に変えたアリサは、怒涛の攻撃を見せる。

「(凄まじい……けど、あれ絶対消耗も大きいよね?)」

 明らかに全力疾走の如き攻撃っぷりだ。絶対長くは持たない。
 その代わり、がしゃどくろがその場に膝を付いて動けなくなる程にダメージを与えているみたいだけど。

「……まぁ、これで十分なんだけどね」

 既に私も体勢を立て直した。
 そして、弓と一本の矢を展開する。
 ここまでダメージを与えたのなら、もうこの一撃で片が付く。

「………アリサ!」

「っ!」

 足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会。
 そこまで来て、アリサに声を掛ける。
 すぐさまアリサはその場を飛び退き、すずかと共に置き土産に拘束術を発動させる。

「椿直伝…!存分に、食らいなよ!!」

 そして、離れを行った。

   ―――“弓奥義・朱雀落”

     カッ―――!!

 射法八節の最後、残心をこなし、放った矢の行く先を見る。
 矢はがしゃどくろの額に見事命中していた。

「(……勝った)」

 それを見て、私は確信した。
 これで、倒したも同然だ。

「ォォオ……ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!?」

 刺さった箇所から、炎が膨れ上がる。
 あの矢に込めた霊力は、この戦いで放った術の中で最も多い。
 だからこそ、膨れ上がった炎はがしゃどくろを丸ごと包み込む。

「ありったけの火属性の術式を込めた矢。これで焼き尽くせなかったら、それこそ私達の手に負えない相手だね」

「凄い火力……さすがね…」

「椿、こんなの何度も放てるんだね……」

 燃え尽きていくがしゃどくろを見ながら、そんな事を呟く。

「……倒したね」

「アリサとすずかは見ていて。私は門を閉じてくる」

 ほぼ燃え尽きて灰になっているとはいえ、油断はできない。
 見張りを二人に任せ、私は門を閉じに行った。







「……よし、と」

「これでようやく…ね」

「まだまだ日本中にはあるんだよね…」

 門を閉じ、端末で門を閉じた事をアースラに伝える。
 私達が移動するにはアースラを介した方がいいからね。

「……暗いなぁ…」

「一応、私は夜目が利くから、先頭を行くよ」

「任せるわすずか」

 夜の一族であるすずかは、当然のように夜の時間帯の今でも周囲を見渡せる。
 ……それにしても、よくこんな暗い中で戦ったなぁ…。
 まぁ、何度か放った火属性の術とかが光源になってたから……。

「……あ」

「アリシア、どうしたの?」

「……火、消し忘れてた」

 ふと見渡せば、戦闘で放った火属性の霊術が、木に燃え移っていた。

「しょ、消火ー!!」







 ……この後、アースラからの迎えが来るまで、私達は消火活動をすることになった。















 
 

 
後書き
バーニングスラッシュ…innocentに登場するアリサの技。炎を纏った剣で切り裂く。斬撃を飛ばす事も出来、本編ではこれを行った。

氷柱雨…術の氷柱を雨のように繰り出す術。

氷血旋風…水+風の術。名前の通り、氷を纏った旋風で切り刻む。

霊閃撃…霊力を込めた斬撃。斬撃ではあるが、命中と同時に霊力を炸裂させる事で打撃攻撃にもなる。込めた霊力にもよるが、割と強力な技。

秘術・劫火…火属性の術。かくりよの門では一定時間退避していないと使えない(レイド)。強力な術ではあるが、アリシアや椿達の場合は発動前に術式を仕掛けなければならない。

怨嗟の呻き…がしゃどくろ・鏡(レイド)の溜め技。呪属性の全体攻撃で、毒と悪臭(道具封印)のデバフを掛けてくる。本編では、強力な呪詛をまき散らし、近づけなくする。呪詛は体を蝕むため、早々に浄化しなければならない。

中回復…文字通り中くらいの回復量の術。アリシアだと気軽に使えるのはここまで。

息吹…所謂継続回復の術。術の効果が途切れるまで徐々に体力が回復する。

快方の光…味方単体の状態異常をランダムで一つ回復する。本編では浄化系の術で、ゲームでの効果に加え、呪いの類を打ち消す力を持つ。

剣技・緋霞…斬+火属性の全体技。主人公(剣豪)限定技。火属性の霊力を圧縮し、斬撃として放つ。一閃を放った直後は、その熱で陽炎が見える程。

斧技・鬼神…斧(傾奇者)限定のバフ。物理系の属性を大幅に強化する。ただし、効果が極端に短く、ゲームでもあまり使われない。(瞬歩と合わせれば辛うじて運用可能?)

火紋印…火属性付与&強化。炎を纏わせる事で、斬った箇所を焼き尽くせる。

槍技・一気通貫…器用さによる防御無視ダメージがある突属性技。文字通り、一気に間合いを詰めて放つ突きで、対象を貫く。


オチがしまらないけど、とりあえず終了。
実戦経験がなくても、戦闘技術自体はなのは達に劣っていません。戦い方によっては既にアリシアはなのは達に勝つ事すら可能です。 
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