フルメタル・アクションヒーローズ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第237話 決戦の幕開け
城下町から遠く離れた、とある村の跡地。
人はおろか動物さえ住まぬ、死臭に塗れた砂漠の廃墟。
かつて、瀧上凱樹が守り切れず――狂気に堕ちるきっかけとなった村であった。
一人残らず焼き尽くされ、弔う者もいないまま朽ち果てたその地は、今も当時の惨状を残したままでいる。まるで、忘れようとする者達に訴えかけるかのように。
あるいはこの跡地こそが、村の人々が眠る墓標なのかも知れない。
だが、その墓地を荒らし――自らの隠れ家にする者達がいた。
地下を掘り、死臭ゆえに現地民ですら近寄らないこの場所に潜む、悪の秘密結社。武器密売シンジケートの中枢である。
「来た……やっぱ来やがったぞ、国防軍の奴ら!」
「どうします、ボス!」
「あ、慌てるんじゃねぇテメェら! 今夜になれば、取引先の武装組織と合流できる。今日さえ凌げりゃ、この国から逃げ切れるんだ!」
焼け跡に隠れた兵士の双眼鏡に映る、無数の装甲車。そして、トラックに控えている屈強な兵士達。いずれも、一筋縄で行く相手ではない。
その軍勢にたじろぐ私兵達に、肥え太った醜悪な男が怒号を飛ばす。しかし、シンジケートのボスであるこの男も焦りを隠せずにいた。
「ちくしょう、なんだってこんなとこまで追い詰められちまってんだ! ダスカリアンは女だらけで、人身売買の商品調達にうってつけなんじゃなかったのかよ!」
「男性兵士が増えてきたってだけなら、ここまでいいようにはやられねぇ。全部、『赤い悪魔』の仕業さ。奴が来てから、何もかもが狂い始めた……!」
「まさか、あんな死に損ないの国に着鎧甲冑を投入できる予算があるなんて! 一体なにがどうなってんだよッ!」
早すぎるアジトの捕捉。早すぎる進撃。その全てに予定を狂わされ、シンジケートの兵士達にも動揺が広がりつつあった。
その波に飲まれ、冷や汗をかきながら――ボスは唇を噛み締める。
(おのれ……あの生意気な女王めがッ! この戦闘を乗り切り、取引先と合流してこの国を脱出した暁には――必ず軍備を整え逆襲してやる! 城下町は再び焼け野原となり、貴様はワシの性奴隷となるのだッ!)
獲物であるはずの国に返り討ちにされ、絶体絶命の窮地に追いやられている屈辱。その感情が、ボスの戦意に火を付けた。
「ぼやぼやするなッ! このアジトにはああいった輩を排除するための用意があるだろうがッ! 死にたくなければ配置に付けェッ!」
「ハ、ハハッ!」
怒り狂う首領の叫びに突き動かされ、兵士達は焦りを感じつつも、各々の持ち場へ向かっていく。
その頃。
村の跡地に踏み入った特捜隊は対戦車地雷による奇襲を受け、混乱に陥っていた。
「ひぃっ……装甲車が、こんな、こんなバカなッ……!」
「落ち着け、パニックを起こすな!」
訓練ばかりで実戦経験に欠ける者が多い男性兵士で構成された特捜隊は、早くも瓦解の危機を迎えている。その中で唯一、冷静さを保っているルナイガンも、額に焦燥の汗を滲ませていた。
女性が中心だったダスカリアンを変え、男の強さを証明するために編成された、この特捜隊。その急先鋒たる自分達が敗走したとあっては、今まで築き上げてきた地位を失いかねない。国民に不安を煽らせないための少数精鋭、という持ち味も失うことになる。
特捜隊が発足するまで国防軍を支えていた女性兵士達に「貴様らは用済み」と大見得を切った手前、無様な負けは晒せない――という意地もある。
出世を重ね、女王を手に入れることに執着していたルナイガンにとって、それは耐え難い結末であり……それゆえにそうなってはならない、負けてはならないという強迫観念が、彼自身を追い詰めていた。
その隙を狙うように現れたシンジケートの兵士達が襲撃してきた時、その表情はさらに強張ったものになる。
「ちいっ! 後退、後退しろ! 体勢を立て直せェッ!」
特捜隊の兵士達はルナイガンの指示に応じ、ひっくり返った装甲車の影に逃げ込んで行く。それを目撃したシンジケートの兵士達は、装甲車に向けてがむしゃらに銃を連射した。
「ひ、いい……こんな、こんなはずじゃあ……!」
「ちくしょう、ちくしょう! このままで、終われるかぁぁ……!」
銃弾そのものは当たらなくとも、その攻撃は特捜隊の戦意を大きく削いでいる。負けじと撃ち返す兵士もいたが、勢いはシンジケートに奪われたと言っていい。
村の跡地を戦場にした、特捜隊とシンジケートの銃撃戦は膠着状態を迎えようとしていた。
……その一方。
女王陛下から同行を命じられ、この戦場に向かっている――はずだった保安官は。
「ねぇ、先輩! もっとスピード出ないのこれ! 国防軍の女性兵からも応援されてるんだから、ちょっとは気張りなさい!」
「とほほ、変身ヒーローのマシンが軽トラってどういうことなのよ……」
錆び付いた三輪トラックで、ゆっくりと現場に急行していた。本来ならば同行するはずのない上司を、荷台に乗せて。
(さてと……剣一が言っていた「鉄拳兵士」とやらは……どう出るかな)
――だが。その眼差しが剣の如き鋭さを纏っていたことに、気づく者はいない。
ページ上へ戻る