世界をめぐる、銀白の翼
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第七章 C.D.の計略
襲撃 ギルス
これまでの仮面ライダーアギトは
小沢の要請で、アメリカへと渡ったG3ユニット。
その任務は、不可解な殺人にアンノウンが関与していると思われるためだった。
廃工場の並ぶ区画を警戒していると、G3-X装着員氷川誠は、確かにアンノウンの姿を見た。
だが、真実は違った。
このアンノウンは止めに来ていた。
犯人は、もう一方の青年。
そう、つい二月ほど前に、津上たちの前に顔を出してきた、臆病そうな青年・オルタだったのである。
そして彼は問う。
この世界のあるべき姿は、悪か、善か。
そして、その狂拳が氷川に襲い掛かり―――――
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「氷川さんが重傷!?」
『ええ・・・・まさかあの時顔を出しに来たあの人が、ね・・・』
「EARTH」ビルAGITΩ食堂。そのスタッフルーム。
テーブルの上に置かれたパソコンの前で、津上が驚き身を乗り出す。
彼がアメリカに仕事で行くなんて聞いたときは「お土産、期待してますよ~」なんて言いながら送り出したものだが、まさかそんなことになるっているとは思いもよらなかった。
しかも、交戦相手はオルタというあの青年。
あの時にはそんな人物には到底見えなかったのだが、一体彼に何があったのだろうか?
そして
「ああ・・・なるほどな。そういうことか」
『ちょっと芦原さん?なにがですか?』
「いやぁ・・・そのですね、小沢さん」
「話はこっちに来てからにしてやる。早く帰ってくるんだな」
『ちょっと!?勝手にそっちで話を進めn』
カチッ、と、そこで話を打ち切りテレビ通話の電源を切る芦原。
あーあーと津上はその対応に呆れてしまうも、芦原は意にも介さない。
「どうせ話はあいつに聞けばわかる」
「あの人に?まあ確かにそうですけど・・・・」
そういって、芦原と津上が振り返る。
そこは部屋の隅であり、パイプ椅子が置いてある。そして、その上に座りこんでがっくりと落ち込んでいるのは・・・・
「私の・・・・子供が・・・・・」
「おい。アイツ本当にあのオーヴァーロードなのか?」
「ご本人だと思いますよ?」
「神の威厳も何もあったもんじゃないな」
そう、そこにいたのは「闇の力」オーヴァーロード。
オルタの生みの親であり、この世界に送り出した者である。
だが今はどうか。
その威厳も何もなく、落ち込む姿はそこらへんの人間と何も変わらないではないか。
「おい。いったいどいうことか教えろ」
「まーまー芦原さん」
ズイと乗り出して話を聞き出そうとする芦原を諌めながら、津上が耳を傾けて話を聞こうとする。
すると、ぼそぼそと話し出すオーヴァーロード。
うんうんと頷いてから、津上が芦原のほうを向いて
「信じて送り出した息子が、人の悪意にドハマリして悪堕ちして現れた。ですって」
「やかましい」
「人と分かり合える、強くなれる子として送り出したのに・・・・」
「あー、成長の方向がそっちに向いちゃったのかー」
「のかー、じゃない。奴は悪人とはいえ人を殺しているんだぞ」
「ふむふむ・・・・もうやめて。嫌悪感で死にそう、だそうです」
「この野郎・・・・というか津上、お前この件に関してかなりドライだな」
本当にこいつあの「闇の力」?と思わせるほどに落ち込むオーヴァーロード。
それに対する冷静な態度に、芦原は津上に聞く―――と、オーヴァーロードが念力で芦原の脳内に直接話しかけてきた。
『君が来る前に、彼に一回話した』
(ああ、そういえば俺がここに来たのも津上に呼ばれてだったな)
『その時に一回キレた。今の彼は賢者モードだ』
(理由はわかったが、お前が真顔で賢者モードとかいうと腹が立つ。あと脳内会話してんだからこっちを凝視するな)
『あの、ちょっといいですか?』
『アギト・・・!?こいつ・・・直接脳内に・・・』
「あんた俗世に飲まれすぎだろ。息子が飲まれるのも当然だ」
とまあ、漫才はともかくとして、事態が重いのは変わらない。
「何故オルタはああなった?」
「彼は私が作りだした新たなるアギト。「光の力」から生まれたのがアギトなら、彼は「私」から生まれたアギトということになる」
その彼・オルタを世界に放ち、彼がこの世界で人類や様々な種族と共に生きていけるか。
オーヴァーロードは、その様、その行く末を見て見たいと思ったのだ。
現在、この世界にはさまざまな種族がいる。
そもそも、人間というだけでも能力のあるものないものとでわかれるほどなのだから、以前よりも多種多様さや軋轢は生まれる可能性が大きい。
結合してから約5年程。
そろそろ世界も安定し、そして同時に各派閥も安定するだろう。
以前に蒔風も言っていたことだが「体制を崩そうとする側」の者達もまた、安定してくるころだということだ。
その時期に、彼を投じてみた。
もしかしたら、新たな存在の彼が何かの架け橋になれるかもしれない。
なれずとも、彼がこの世界で生きていけるのならば、この世界に希望はある。
そう信じ、送り出した。
彼はまず、人間を見て回りたいと思った。
知識や思考は見た目相応だが、なにぶん彼は生まれたばかりだ。自分の目で見て、聞いて、学ぶことは多い。
そうして旅だったはずだったのだが・・・
「あの子はどうやら、人間の悪い面ばかりを目にしてしまったらしい」
「それで、この世界は悪い奴の比率が高い、と?」
事実、それは覆せないだろう。
世界は平穏だと思っているのは、ごくごくわずかな国の住人だけだ。
今でもどこかの国では地雷が起動し、銃弾が人を殺し、火が街を焼く。
そんな景色が当たり前の地域、そんな景色になる一歩手前の水際の地域が、この世界にはまだまだ存在するのだ。
そして彼は、それを強く目の当たりにしてしまった。
ここからはオーヴァーロードの話だが、彼は自らそういった地域に足を踏み入れていったらしい。
より多くの悪を。より強い悪を。より悪い悪を。
それを見て、学び、その多さにまた知る。
「現実」とは「真実」だ。その世界に、これほどの悪が生き延びている。
過去のデータを見た。
確かに、人は正しい方向へと導こうとした。幾度も、幾度も。
しかし、悪は決してなくならなかった。
何とかしてそれらの目をかいくぐり、その存在は常にあった。
無くなりなどしない。
善がない時代はあっても、悪がない時代などあっただろうか?
ならば、この世界で真に強いのは「悪」ではないのだろうか。
オルタの思考は、そうして染め上げられていった。
あれだけ人のいい青年だった彼が、だ。
もともと、悪についても十分に学ばせるつもりではあったらしい。
オーヴァーロードの狙いは「人々の悪意に負けぬ強い存在」を作ろうとしていた。
人間の情報を見て、学び、それがどういうモノかを知ることで抵抗力を上げ、強い存在にするつもりだったらしい。
だが、結果はごらんのとおり。悪意の強さに抵抗し切れず飲まれてしまった。
そして最終的に「悪意のほうが強いではないか」という結論に達した。
「で、より強い悪へと向かっていった結果が、デトロイド」
「悪人を学び、そしてそれを殺すことでさらに近づいていく」
「行く先は・・・・?」
「わからない。もはや彼は私の手を完全に離れてしまった」
ガタリと立ち上がるオーヴァーロード。
身体が徐々に透けていって、彼がその場から去ろうとする。
「彼がこのような形になったのは、何か理由があるはず。もはや私の干渉も受け付けない・・・何か得体のしれない、外部からの力が作用しているようです」
「おい、あいつはどうするんだ!!」
「彼のことは任せます。諭すか、倒すか、それとも・・・・」
「殺すか、か?」
「すべては成行きに任せます。それがこの世界の選択。彼は、この世界に生き残れなかっただけのこと」
「おい!!」
スゥッ、と消えるオーヴァーロード。
その話を聞きながら、津上は黙って拳を握る。
どうにかして救いたい。彼は、この世界には輝きもあると言った。
それを、言葉だけで消してしまいたく、ない。
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夜
昼間訊いた話をまとめるために、芦原は「EARTH」訓練場内の一角にあるプールで黙々とひとり泳いでいた。
明かりは消えており、天窓からの月明かりがその場を照らしている。
「EARTH」訓練場と聞くと、主に地下訓練場の広い空間を思い浮かべる者がほとんどだと思うが、実際のところはそれ以外にもある。
地下訓練場が実践のためのシュミレーションルームだとすると、こちらの方はトレーニングルームと言えるだろう。
そのスポーツジムのような場所にはダンベルや訓練器具があり、そこにプールも置かれている、というわけだ。
元水泳選手ということもあってか、ごちゃごちゃした話を聞いてこんがらがっていた頭も、ひと泳ぎ(と言ってももうすでに3時間だが)するとすっきりしてきた。
後はぼんやりと浮かんでいれば、整理もできるだろう。
オルタは止めなくてはならない。
だが、もし彼が勘違いや思い違いで悪だと言っているのならば、それは正してやりたい。
かつて、自分も勘違いやすれ違いから不必要な戦いをしたことがあったからか、芦原なりに真面目にこのことに取り組むつもりだった。
何よりも、アギトと生まれをほぼ同じにする存在だ。
これ以上のことを起こされては、いまこの世界で「アギトの力」に目覚め散る者達の立場すら危うくなるだろう。
フゥッ、と息を吐き出す芦原。
肺の中の空気が一気に抜け、その身体が水中に沈んでいく。
一旦底まで沈んだところで、蹴って浮上。
大きく呼吸をして、縁に手をかけてプールから上がる。
置いておいたバスタオルを手にしてから、身体を拭く。
そこに
「芦原さん・・・ですよね?」
「・・・・・」
話しかけてくる声。
臆病、というほどではないも、いまだに緊張感の抜けきらない口調。
「氷川さん、案外強くて・・・・少しは自信あったんですけど・・・ちょっと、またへこみそうです・・・」
「なんだ。何をしに来た?」
振り返る芦原。
月明りに照らされたプールに、件の青年・オルタがいた。
昨晩、アメリカで氷川を破ったと言われていた彼が何故今晩にも日本にいるのか?
問うたところで、あまり意味はないだろう。
芦原は彼の出現に戸惑うこともなく、冷静に話しかけた。
「何故、人の命を奪った?」
「アイツらの悪じゃ、まだぬるいですから」
「?」
「僕が求めているのは・・・ほんとに、ほんとーに悪い奴なんです。もしもそんな存在がいて、それがこの世界からいなくならなかったら、世界がどちら側にあるべきかがはっきりする」
「なぜ殺す必要があった」
「あれじゃ不純だ。最悪だ悪魔だなんだと言われながら、家族だとかの心配ばかりで・・・・娘には手を出すなとかなんとか。そんな中途半端じゃ、こっちが困るから・・・」
ハァ・・・と溜息をもらす芦原。
自分と手、博愛主義じゃない。
自分に関係のない人間は、まあ割とどうでもいいと思ってしまう人間だ。
だがそれでも、身勝手なそういうのは癪に障る。
「ではなぜG3ユニットを襲った?」
「彼らは正義です・・・善に仇名す悪を倒す。もしも彼らがこの世界で勝ち残るなら、世界はそちら側にあるべきということになる」
「そんなことで」
「ですが」
クルリと背を向け、オルタは腕を広げる。
月光を浴びてそれがさも気持ちいいのかのように胸を広げる。
「ボクはまだこの程度。G3-Xの氷川さんも、正義とはいっても最高のではない」
オォ・・・・
「まずは僕が最高のものにならないと」
(こいつっ!?)
「まだまだなんです。段階を踏まないと最高にはなれない。一足飛びなんて無理だ。だから」
カァッ――――!!!
背を向けた青年の向こう側で、その腰の位置で何かが光る。
そして、首だけこちらに振り返りながら視線を向けて、オルタは芦原にはっきりと言った。
「最高のアギトに追いつくため、協力してください。ギルス」
残していた身体をも芦原に向け、両腕を横に伸ばすオルタ。
そこからゆっくりと手の平を上に向けながら、腰の横に持ってきて
「変身」
両腰のスイッチを押す。
瞬間、青年の姿は淡い白の光に包まれ、そこには戦士となった彼――――仮面ライダーオルタが立っていた。
「な」
「話はひとまず終わりです。今は、ただ僕と戦ってください!!!」
ガッ!!と、芦原の肩に掴みかかろうとして、それを腕で防ぐ芦原。
左右に揺すられ、抵抗する芦原だが人間とオルタの力では歯が立たない。
ブンッと振られて、プールに投げられる芦原。
「変身!!!」
プールに落下する瞬間。
芦原は腰に手を当て、一瞬でギルスへと変身する。
光に包まれ、芦原の姿が水中に堕ちると同時に、入れ替わるようにギルスが水中から飛び出していきオルタの胸元に拳をぶち当てた。
「うわっ、すごいですね・・・・今のあなたと僕で、もしあなたに軍配が上がるなら、世界はそちら側・・・ということになります」
「お前は一度、ぶん殴らなきゃわからないようだな・・・・」
「ええ、是非とも――――!!」
取っ組み合う、オルタとギルス。
バシャバシャとその場に残った水が、飛沫を上げて跳ね回る。
果たして、二人の戦いは
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ところ変わって、どこかの道路。
マンホールがゴトリと浮き、ずれて開かれる。
そこから這い出てきたのは、一人の男。
周囲を見回して、標識を見る。
『綾女ヶ丘まであと15キロ』
行き先は見えた。
後はどうとでもなる。
ともあれ
「身体、くっさ」
身だしなみはどうにかせねばなるまい。
そう言って、少し離れた民家に侵入する男。
旅行だろうか、誰もいない。
というか、居ないと所を選んだのだが。
風呂に飯、それから服を頂戴し、男は進む。
「到着は明日、だな」
数か月、地下で醜い醜態をさらして這いずり回ったのだ。
もう我慢することもない。
さぁて・・・・やってやるか・・・・!!
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「おおぉぉお!!」
放たれるギルスの拳。
それを腕で受けるオルタだが、それを予見していたのかギルスは即座に一回転して肘打ちを横っ面にぶち込む。
さらにそこから肘、膝と、身体の突起を相手にぶつけ、切り裂くような打撃を与え続けていった。
そして、そこから相手が距離を獲ろうと後ずさった瞬間に、追撃するかのように飛び掛かっての踵落とし。
それがオルタの肩口に命中し、踵から伸びる爪が背に食い込んだ。
ギルスヒールクロウが命中し、雄叫びを上げるギルス。
エネルギーを送り込み、それが爆発する前に相手の胸元を蹴って反転しながら離脱。
「タァッ!!」
いつも通りの、ギルスの常勝パターンだ。
猛攻からの、必殺技。
だがこの男は、まだ未熟とはいえ「闇の力」の息子。
その程度で倒されるのなら、アメリカでG3-Xがとうに撃破している。
ガッ!!
「何!?」
反転し、跳ねてその場から離れようとするギルスの足が、宙でつかまれた。
仰け反る筈だった上体を起こし、片足を掴まれたままオルタを睨むギルス。
そこにいたのは、先ほどの猛攻を喰らいながらも、いまだに余力を残した姿のオルタが――――
ドゥンッ!!
オルタの背から、爆発が起きて火花が散る。
ギルスヒールクロウは間違いなく発動している。
だがその爆発の衝撃に身体を震わせただけで、このオルタは技に耐えてしまったのだ。
「なかなか・・・ですが・・・!!」
「グゥッ!!!」
グブッ!!という嫌な音がして、オルタの拳が一撃でギルスの身体を吹き飛ばす。
プールの中に落ち、派手に水飛沫を上げて沈むギルス。
すぐに水上へと上がろうとするも、ギルスの周囲から水泡が消えると同時に、オルタもまた水中に飛び込んできて、ギルスへと追撃を仕掛けにかかってきた。
ゴポゴポと水泡がさらに水中に漂い、飛び込みながら喉元に掴みかかってきたその腕を払い、エクシードギルスへと強化変身。
腕から鉤爪の付いた触手を伸ばし、オルタを迎え撃とうと体制を整えるギルス。
それを前に、オルタは口から泡を吐く。
まるで「あはっ」とでも笑ったかのように―――――
数秒して、水しぶきが上がる。
飛び込んだものよりは少し小さいものが、三発ほど。
それから、水を斬ったかのような波がザバァッ!!と二度ほど怒ってプールサイドを濡らし、さらに一発、衝撃波が水を割った。
そして、その割れた空間に水が戻っていこうとした瞬間に、凄まじい発光がその中から発せられ、ものすごい衝撃と共にプール内の水の八割を吹き飛ばした。
後に残るのは、ザバザバというプールサイドを流れる水の音、さらには排水溝から流れていく音。
そして、プール内の水を循環させるホースから、水が流れ出てくる音だけだ。
カンカン、と足音を鳴らしながら、プールからはしごを使って上がってくる青年。
乗り越えた、と息を吐き、その場に紙を残して去る。
父すらその進化を恐れた、アギト。
その頂点に立つ男、津上翔一。
彼は一体どれほどのものなのか。
こちらは最高の悪をもって受けねばならない。
まだだろう。
こんなものではないだろう。
ならば、話に聞いた「あそこ」に行ってみよう。
あそこならば、最高のものが身に着けられるはず。
そして、それを知らせれば彼は必ず来る――――
「待ってますよ・・・・アギト。あなたが来るのを。俺は、そこで」
青年は去る。
この「EARTH」から、いともたやすくあっさりと。
to be continued
後書き
オルタさん、着実に力をつけてますね。
キバのお相手レジェンドルガも、目的地が見えているようですし。
アギト編は次回か次々回で終わりそうです。
ただ・・・・次回更新までが、また長引きそうですけどね!!wwww
オーヴァーロードのキャラ崩壊が激しいです(笑)。
これでいいのか?これでいいのだ!!(即答
一体、オルタの向かう「あそこ」とは!?
津上
「次回。オルタの向かったのは・・・まさか!?」
ではまた次回
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