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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第五十四話 『翠屋~本局出張店~』慌ただしく開店   ★

「さて、改めて自己紹介と少しだけ真面目な話をしましょうか」

 リンディさんの言葉に和やかな空気が少しだけ引き締まり、その言葉共に自身を交渉用に切り替える。 

「時空管理局提督、レティ・ロウランです」

 そして、改めて頭を下げるレティ提督。
 同じように頭を下げ

「魔術師、衛宮士郎です」

 改めてお互いの名を名乗る。

「士郎君も想像はついているかもしれないけど、上層部に提出する前の報告書を確認してもらった一人で私の友人よ」

 提出前の報告書を見た人物。
 俺の予想通りではある。
 だが一つ確認しておきたい事がある。
 それは

「上層部に提出前の報告書という事はレティ提督は」
「ああ、私の事はレティでいいわよ。
 プライベートなんだから」
「ならレティさんと、改めてお聞きしますが貴方は私の魔術をどう認識していますか?」
「武器庫からの自身への武装転送としか知らないわね」

 やはり投影の事はまだ教えていないようだ。
 だが今日ここに連れて来たという事は新たな協力者としてだろう。
 それならば知っていてもらった方がよいのも事実。

 なのでレティさんの言葉にリンディさんに視線を向ける。
 そして、レティさんも俺の質問の意図が分からずリンディさんに視線を向けていた。

「話してもいいのかしら?」
「今後協力してもらえる方でリンディさんの信用のおける人ならば問題はないかと」
「ありがとう、士郎君。
 レティ、これから話す事は私やアースラのスタッフでも一部しか知らない事で、報告もしてない事よ」

 リンディさんの言葉にレティさんは驚くでもなく、まるで予想していたかのように

「やっぱりね。
 いいわよ。誰かに話したりしないわ」
 
 しっかりと受け止めていた。
 そしてリンディさんもやはり

「そう言うと思った」

 予想通りだと言わんばかりに笑っていた。

「なら説明するわね。
 士郎君の使用する魔術、『転送』ではなく『投影』について」

 ゆっくりとリンディさんは俺の魔術について話し始めた。



「これが士郎君の本当の魔術よ」

 初めのうちは平然としていたレティさんだが後半、ジュエルシードを破壊した槍が魔力があれば複製できる話あたりから頭を痛そうに押さえはじめていた。

「確かにこれは報告できないわよね」
「そうね。報告したら厄介事にしかならないもの」

 同情するような視線をリンディさんに向けるレティさん。

 まあその気持ちもわからないでもない。
 これがまだ俺が管理局に技術提供するというならば話はそこまでややこしくないのだろうが、基本的に関わり合おうとすらしないのだから余計に面倒なのだろう。

 もっともこちらからいえば俺の魔術を教えて余計な面倒事に巻き込まれる事自体避けたい。

「だけど事情は把握できたわ。
 士郎君、改めて約束します。
 私もリンディと共に士郎君に協力致します」
「心より協力に感謝します。レティさん」

 握手を交わす俺とレティさん。

 新たな協力者を得る事も出来、その後裁判の状況などを再度確認をして今夜はお開きとなった。

 ちなみに残ったデザートはリンディさん、エイミィさん、レティさん、テスタロッサ家にきれいに分けられた。


 そして翌朝。

 またテスタロッサ家にお邪魔している俺とユーノがいた。

 昨日別れる際に朝食を食べに来てと招待を受けたのだ。
 その招待を受け俺はユーノとアルフと共にプレシアとフェイトの調理を椅子に座ってのんびりと眺めている。

 初めは何もせずに朝食をいただくのもあれなので、プレシアの手伝いをするつもりだった。
 だが楽しそうにプレシアと一緒に朝食の準備をするフェイトの邪魔をする事など出来るはずもない。

 そして、朝食を食べながら今日の事についてのんびりと話す。

「ならプレシアは今日も研究所か?」
「ええ、機材の搬入とかあるかも帰るのは遅くなるかもしれないけど。
 貴方は今日から裁判までの間どうするつもりなのかしら?」
「リンディさんに場所などの確保してもらっていてね。
 喫茶店をやる事になっている」
「実は私とアルフも手伝います」

 フェイトの言葉にプレシアが一瞬眼を丸くする。
 どうやらプレシアにいい忘れていたらしい。

「そう、しっかりね。
 時間があったら見に行くから」
「はい!」
「アルフも頑張ってね」
「あいよ」

 プレシアの言葉に満面の笑みを浮かべるフェイト。

 そして朝食の片付けは俺がやるという事でプレシアは一足先に家を後にする。

 朝食の後片付けを済ませ、そろそろ出た方がいいが渡す物があるし、確認したい事があるのでリビングに集まってもらった。

「ユーノは何時頃にこっちを発つんだ?」
「ミッドを発つのは十三時頃だよ。
 翠屋で時間を潰させてもらう事になると思うけど」
「かまわないよ。
 あとフェイト、アルフ、その中身を見てくれるか?」

 俺が指差すのは桃子さんから預かったフェイトとアルフ宛ての荷物だ。

「士郎、これって」
「桃子さん、なのはのお母さんからだよ。
 翠屋のお手伝いをしてもらうようになったらってさ」
「へえ~、なのはのお母さんがね」
「何だろう?」

 首を傾げながら袋を開けるフェイトとアルフ。

「……士郎、これって」

 袋から出てきた物を見てユーノも呆れたような顔をしている。

 フェイトとアルフが手に持っているのはなのはとお揃いのメイド服。
 しかも

 ―――翠屋のお手伝いをしてくれてありがとう。
    これを着て、頑張ってね。
    士郎君、フェイトちゃん達の写真とビデオメール待ってるからね

 とのメッセージカードとメイド服のなのはと執事服の俺が一緒に写っている写真付きである。

「へえ~、士郎達の世界ってこんな恰好で喫茶店の仕事するんだ」
「ちょっと恥ずかしいかも」

 しかもなんだか二人に第97管理外世界の日本における間違えた知識を与えてしまっている。
 かといってこの服を着せずに写真等を送らなかったら桃子さんからどのようなお叱りを受けるかわかったものではないので何も言えない。

「……ユーノ」
「……僕からも言えないから」

 だよな。
 ……人間あきらめが肝心という事だろう……人間ではなく死徒だが。

 念のために試着してみたフェイトとアルフだがサイズ的には問題もないらしく、それぞれが荷物を持って翠屋に向かう。

 翠屋に到着すると椅子やテーブル、ナプキン、テイクアウト用のコップや袋類、店で使う食器類を再度確認する。

 昨日の下見の段階でも思った事だが掃除などはされているし食器類も揃っているので問題はない。
 次に冷蔵庫と食材保存庫を確認すると牛乳や小麦粉などが揃っていた。

 昨日別れる時に

「果物や紅茶の茶葉とかほとんどの物は明日届けるけど、小麦粉とか一部の食材は夜のうちに運び込んでおくから」

 とリンディさんが言っていたが、これの事だろう。

 それにしてもリンディさんもよくこんな事を思いついた物だ。

 実はリンディさんは休暇を使い俺が管理局に行く日程が決まった後に海鳴に来ているのだ。
 その時に桃子さんに翠屋の店名の使用に関するお願いも行ったのだ。
 その嘘の交渉内容が

「じゃあ、士郎君がいくのってフェイトちゃん達がいるところなんですね」
「そうなんですよ。
 でも士郎君は生活費を自分で働いて稼いだりと大変なのにその間収入がないというのも」
「そうね。
 ご両親に関するものだったわよね。
 となる手続きとか面倒なんでしょうね」
「そこで一つ提案があるんですが。
 私達の家の近くについこの間隠居するって言って閉店してしまった喫茶店があるんですが、そこを翠屋の出張店という事で出させていただけないでしょうか?」
「出張店自体は構いませんけど、店主とかどうするんですか?」
「店のオーナーと責任者には私がなります。
 店の取り仕切りは士郎君にお願いしようかと」
「ああ! 士郎君の腕前なら問題ないものね。
 でも手続きとかは?」
「ご安心してください。
 そういったのは得意ですので」

 そして笑い合い握手を交わす二人の女性。
 というものだった。
 まあ、提案するリンディさんもリンディさんだが、受ける桃子さんも桃子さんだと思う。

 と過去を振り返るのもこの辺でシュー生地やタルト生地、スポンジなどを作り始める。

「フェイト、すまないがレジを立ち上げて設定してくれるか。
 メニューと値段はこれだ」
「うん」
「アルフはテーブルや椅子とかを拭いてくれ」
「あいよ」

 ミッド語で書かれたマニュアル系は読む事すらほとんど出来ないのでフェイトにお願いするしかない。
 フェイトだけで多少心配だったが相棒のバルディッシュが手伝ってくれているので大丈夫だろう。

 そんな事をしていると

「やっほ~、士郎君、お届けもので~す」
「エイミィさん、ありがとうございます。
 アルフ、ユーノ、運び込んでくれ」

 材料が届き、生地を焼いている間に届いた物を開けてコーヒー豆と紅茶の茶葉を確認して、ケーキ等で使う果物をカットして、生クリーム等の準備をしながら、軽食の下ごしらえやその他もろもろの準備をしていく。




side フェイト

 会計用のレジ機械の設定が終わったのでエイミィに念のために確認してもらって厨房を見て茫然とした。

 まるで全てを見渡しているかのように物すごい勢いで着々と準備をこなしていく士郎。
 その様子に私だけじゃなくてアルフもユーノもエイミィも茫然としている。

「士郎君、このままお店持ってもやっていけるんじゃないかな」
「同感」

 エイミィとアルフがそんな事を話しているを聞きながら、手伝いたいけど手伝える自信がないので士郎の作業を眺めてた。




side 士郎

 よし。
 材料の搬入の関係で慌ただしくなったが間に合いそうだな。
 時計の針は十時五十五分を指している。

 開店予定は本日の十一時四十五分

 本当なら準備に丸一日用意していたのだが本局の手続きのために準備の日がつぶれてしまったのだ。
 おかげでこんな慌ただしい事になっているのだが。

 そして茫然とこちらを見ている四人に気がついた。
 どうかしたのだろうか?

「フェイト、アルフ、そろそろ仕事着に着替えていいぞ。
 俺の準備も後は簡単なデコレーションとジュースサーバーにジュースを入れるぐらいだから」
「え、はい」

 俺の言葉にどこか呆けたように頷くフェイトとアルフが更衣室に消える。

「なになに、仕事着とか用意していたの?」
「桃子さん、なのはのお母さんがフェイトとアルフに用意していたみたいで」
「まあ、私服にエプロンというわけにもいかないしね」

 本当の翠屋の制服はそんな感じなんですけどね……。

「士郎君の仕事着は?」
「フェイト達が着替えたら着替えますよ。
 更衣室が一部屋しかないので」
「あ、そうか。
 それにしてもよく間に合わせたね。
 今日は開店しないんじゃないかと思ったけど」
「リンディさんが店の責任者なんですから、そんなわけにはいきませんよ」

 この店の責任者はリンディさんなのだから開店が延期するよう事はしたくない。

「あ、そういえば艦長がケーキとかがメインだけどランチとかはしないのって」
「一応、パスタとサンドウィッチぐらいは出来ますが、あまり考えていません。
 明日以降であれば可能ですが、お客さんが来ないと捨てる事になってもったいないですし」
「ふ~ん。
 だけど艦長、局内の女の子達に店の話とかしてるし、このお店結構噂になってるよ。
 しかも今日になってレティ提督も士郎君の料理の腕前褒めたし、昨日艦長と一緒に歩いてた少年って話題になってるし」

 なんだその情報伝達の速さは。
 いや、基本的に局の関係者多いから仕方がないのか?

「エイミィさん。
 ランチの材料って確保できますか?」
「ふふ~ん。実はもう用意してありますとも!!
 これリストね」
「ありがとうございます」

 リストに目を通す。
 ハンバーグに、オムライス、この材料ならコーンスープとミネストローネの二種類のスープもいける。
 あとはピザにオーブンの数があるのでロールパンとクロワッサンも焼きたてが丁度出来る。

 開店には少し遅れるが何とかなる。

 よし。やろう。
 と思った時に更衣室のドアが開いた。

「お、おまたせ。
 その変じゃないかな?」



 不意打ちだった。

「そんなことないって、よく似合ってるって」
「ありがとう。アルフ。
 士郎、その……どうかな?」
「あ、ああ、可愛い。よく似合ってる」

 俺の言葉に照れた笑みを浮かべるフェイト。
 なのはのお揃いのメイド服を纏い、頬を赤く染めたフェイト。
 本当に不意打ちだった。

 フェイトの後ろから出てきたアルフもメイド服を着ているが、結構平然としている。
 喫茶店ではこういう服という事で納得しているのかもしれない。

 それにしても海鳴でなのはがメイド服を着て出て来た時は待ち構えてたからすんなりと返事が出来たのだが、今回は他の事を考えて心の準備が出来ていなかった。
 深呼吸をして改めて見てもよく似合っている。

 それにしてもなのはにしろ、フェイトにしろ、美少女メイドが二人。
 ……桃子さん、今のうちから慣れさせてそのうち翠屋でなのはとフェイトの二大看板メイドとかする気じゃないよな?

 いや、アルフと美由希さんで四人か。

 そんな事になったらすずか達も参加しそうだが。

「フェイトちゃんも、アルフも可愛い!!!
 プレシアさんと艦長達に撮影してデータを送らないと」
「え? エイミィ?」

 色々考える事はあるが、今は興奮したエイミィさんに呆然とするフェイトとアルフにちょっと手伝ってもらおう。
 
「エイミィさんは少し落ち着いてください。
 フェイト、アルフ、ちょっと頼みがあるんだがメニューを追加する。
 フェイトはレジのデータを更新してくれ。
 アルフは食材を厨房に運んでくれ」
「う、うん。えっと追加するメニューは?」
「あ、フェイトちゃんこれでお願い。
 これが日本語版ね」

 やはりというか作っていたか。
 これだけランチの材料などを用意していたのならメニューも用意していると思ったのだが、予想が当たったな。
 というかさっき『今日は開店しないんじゃないかと思ったけど』なんて本当に思っていのか疑いたくなるぐらい準備万端だ。

 ランチのメニューをフェイトに、日本語版を俺に渡すエイミィさん。
 メニューの内容はオムライス、本日のスープ、ハンバーグステーキ、シチュープレート(ビーフ or ホワイト)、カレーセットまである。
 ってちょっと待て。

「エイミィさん、カレーとかビーフシチューとかはさすがに今日は間に合いませんよ」
「大丈夫! 今日用のメニューも作ってるから」

 ……どれだけ準備万端なんだ?
 というかこれで採算とれるのか?
 かなりのお客が来なければ利益が取れないと思うんだが。
 
 でもまあ、そんな事を気にしても材料が揃っているのだから悩んでも始まらない。
 ならばやる事は一つ。

「アルフ、十一時半になったら教えてくれ。
 そしたら着替える」
「お、おう」

 無駄な動きをせずに最速でかつ最高のモノを作り上げて見せる。

 さあ、食材共、調理される覚悟は十分か?



 ふむ、短時間ながらも圧力鍋をうまく使いミネストローネもいい感じに仕上がっている。
 スープの味身をしている時に

「士郎、その……時間だよ」
「ん? ああ、ありがとう、アルフ」

 丁度いいタイミングだ。
 ランチの準備は万端。
 コーヒーや紅茶の準備も整っている。
 あとは着替えて開店を待つばかり。

 しかし間に合ったとはいえ二度とこんな慌ただしい開店準備は勘弁してほしい。

「じゃあ、俺も仕事着に着替えてくるから。
 悪いがジュースサーバーにジュース入れといてくれ」
「うん、わかった」

 調理でジュースサーバーに入れるのを忘れていたのをフェイトに頼み、更衣室に向かう。
 更衣室にはちゃんとロッカーが用意されて名札も張られている。
 そこに私服をしまい持ってきていた執事服に着替える。

 執事服を纏い、ホールに出るとどこか感心したような表情でアルフとエイミィさんから見られた。

「どうかしましたか?」
「いや、なんかすごい自然というか」
「着こなしてるなって」

 エイミィさんとアルフの評価はまあ、俺の経験の長さでいえば当然といえば当然なのかもしれない。
 そして今さらだがアルフ、メイド服を結構平然と着てるな。
 こういう物だと割り切っているのかな?

 そんな事を考えていると

「士郎、ジュースサーバーにジュース入れたよ」
「ありがとう。フェイト」

 厨房の方から出てきたフェイトだが、じっと俺を見つめる。
 どうかしたのだろうか?

「士郎、写真撮ろう!」

 いきなりだった。
 だが桃子さんに送る分の写真もいるので丁度いいといえば丁度いいか。

「ああ、いいぞ。
 撮るならお店をバックに撮ろうか」
「いいね。撮影は任せて。
 アルフやユーノ君も」

 俺とエイミィさんの言葉で全員が店の外に移動する。
 そんな時、フェイトがエイミィさんに近づき何やら小声で話していた。

「エイミィ、その写真なんだけど」
「任せて。ちゃんとフェイトちゃんと士郎君のツーショット撮るから」

 残念ながら何を話しているかは聞こえなかったが、フェイトが笑顔を浮かべて本当にうれしそうにしていた。

 そして始まった写真撮影。
 初めは俺とフェイト、アルフ、ユーノ、エイミィさんの全員集合。
 桃子さんに送る用の俺とフェイト、アルフの三人。
 で最後はなぜか俺とフェイトのツーショットなのだが

「あの、フェイトさん?」
「士郎、いや?」
「嫌ではないんだが」
「ならこれで」

 少々問題が起きていた。
 それまでの撮影ではフェイトは俺の横に少し恥ずかしそうに立っていたのだが、ツーショットになった時、顔を真っ赤にして俺の左腕を抱きしめたのだ。
 
 フェイト、その上目遣いは反則だと思うぞ。

「それじゃ、撮るね」

 物凄く楽しそうなエイミィさん。
 絶対今の俺の顔は赤い。
 そしてフェイトの顔も真っ赤なのだが、そんな笑顔をされていたら腕を振りほどけるはずもなかった。

 無事写真撮影も終わり、大きく深呼吸をする。

 これから開店だというのに顔を真っ赤にしたままというのはまずいと思う。
 よし!!

「それじゃ、フェイト、アルフ。
 色々慣れない事も多いと思うし、出来る限りフォローはするから。
 今日も一日よろしく頼む」
「うん。よろしくお願いします」
「おう。任せとけ」

 そして開店時間の十一時四十五分になった。
 翠屋~本局出張店~、開店。

 で第一号のお客様は

「こんにちは」

 計っていたかのように開店時間と同時に入ってきたリンディさんである。

「い、いらっしゃいませ」
「あら、フェイトさんに、アルフさんも可愛い!
 写真で保存しておきたいわね」
「艦長、写真撮影ならさっきしましたよ。
 こんなのとか」
「あらあら、いいわね。
 あとでデータのコピーこっちに頂戴ね」
「了解しました!」

 ……本人の前にそんなやり取りをしないでほしい。

「それにしてもリンディさん。
 急遽メニューが増えましたね」
「ごめんなさいね。
 もともとここのお店ってランチがメインだったから、その方が利益が取れるかなって」
「そんなにすぐ利益が上がるとは思えませんが」

 いくら元々ランチをやっていたお店の後とはいえいきなり出てきたお店にそんなに集客できるとは思えないんだが。

「大丈夫よ。
 管理外世界からの期間限定の出張店舗。
 お店のマスターは9歳の子供執事と色々噂は流したから。
 それに部下の女子達にお勧め出来る味って教えてるから」

 情報を流したり、宣伝もしてるんですね。
 

 そして、その宣伝効果の高さを身にしみて理解する事になるのはこれから数時間後の事。


「まあ、リンディさんの宣伝に期待しておきますが、まずはランチでも。
 エイミィさんとユーノも奢りだから」
「あら、なら私はカルボナーラセットでスープはミネストローネで」
「僕はペスカトーレセットでスープはコーンで」
「オムライスセットで、私もミネストローネ、お願いします」
「かしこまりました。フェイト、アルフ、ホールは頼んだ。
 なにかあったら声をかけてくれ」
「うん」
「あいよ」

 三人のランチを作るために厨房に戻り、二種類のパスタとオムライスが同じタイミング出来るよう調整しながら作業を進める。
 とホールから

「いらっしゃいって、ランディにアレックス」
「こんにちは、アルフ」
「まあ、なんというかすごい恰好だね」
「ん? まあ、こっちじゃあんま見たことない恰好だけど。
 こっちの席でいいかい?」
「うん。ありがとう」

 という会話が聞こえてきた。
 ランディとアレックス。
 確かアースラのスタッフで見た覚えがある。
 いや、それ以前に

「アルフ、使いなれない敬語を使えとは言わないが、もう少し丁寧な言葉を心がけてくれ」
「う、りょ、了解」

 アルフの言葉遣いに関しては不安が残るがまあ、大丈夫だろう。

 リンディさん達がランチ食べ終わった後に、エイミィさんの要望で同僚の女性スタッフ達におやつの差し入れでケーキを箱に詰める。

「じゃあ、私も戻るから何かあったら連絡してね」
「僕ももう行かないと」
「ああ。ユーノはつき合わせて悪かったな」
「結構見てて面白かったからいいよ。
 裁判までには戻ってくるから」
「ああ、あとこれお土産」

 ユーノにはコーヒー、リンディさんとエイミィさんには紅茶をテイクアウト用の袋に入れて渡す。

「エイミィさん、差し入れのケーキ少し多めに入れていますので」
「ありがとう、士郎君」
「それじゃ」
「また時間が出来たら見に来るから」
「はい。ありがとうございました」

 店を後にする三人を見送る。
 時間は十二時半少し前。

 そして『翠屋~本局出張店~』はこれからが本当の戦いだった。

 リンディさん達がいなくなって十分過ぎたぐらい

「ごちそうさま」
「おいしかったって士郎君にも伝えてて」
「はい。ありがとうございました」

 ランディとアレックスを見送るフェイト。

 そして入れ替わりに女性の5人組。
 すぐ後に三人の男性。
 カウンター席にお一人の男性二人に女性一人。

 なんだか席がどんどん埋まっていき、本当に忙しくなってきたのだ。

「メイドさん、注文いいですか?」
「あ、はい」
「すいません」
「はい。今行くからちょっと待って」
「テイクアウトって出来ます?」
「はい。こちらのメニューでしたら」
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
             などなど

 海鳴の翠屋よりも小さい店舗だが十五時ぐらいまでお客さんがひっきりなしに来る状態だった。
 それも一段落したので、

「フェイト、アルフ、交代で休憩をとってくれ。
 お昼のサンドウィッチ用意したから」
「あいよ。フェイト、先に休んできなよ」
「うん。ありがとう」

 少しフラフラしているフェイト。
 アルフはまあ、体力的にはまだいけるか。
 そんな事を考えている時

「こんにちは」
「レティさん、いらっしゃませ。
 おひとりですか?」
「ええ、だけどランチじゃなくてテイクアウトを頼んでいいかしら、十人分なのだけど」

 十人。
 多いな。
 会議か何かで忙しいのだろうか?

「お昼を摂りに行く時間もないですか?」
「残念ながらね。
 あとデザートと飲み物も」
「はい。テイクアウトはサンドウィッチやクラブサンド、ホットドックになりますが」
「ええ、それでいいわ。
 デザートはおすすめを適当に。
 飲み物はホットコーヒーとティーを五つずつ」
「かしこまりました。
 カウンターにかけてお待ちください」
「ありがとう」

 カウンターにかけたレティさんにミルクティーを出す。

「これは?」
「サービスです。
 量が量なので少し時間がかかると思いますので」

 まあ、待たせるという事よりも椅子に座った時に大きなため息が聞こえたのでそのサービスだ。

「ありがとう、いただくわね」
「はい。では少々お待ちください」

 そういいサンドウィッチとクラブサンド、ホットドックの準備にかかる俺であった。


 その後、初日にしては驚異的な売り上げで一日を終えた俺達だったが、そんな事を喜ぶ事が出来ないぐらいフェイトとアルフは疲れ切っていた。

 俺は俺で明日の営業のために新たにカレーとシチュー(二種類)とその他の下拵えに奮闘するのであった。




 そして僅か数日で翠屋~本局出張店~は執事の少年と二人のメイドさんでやりくりされる絶品の店として管理局本局内で人気の店となるのであった。

「ユーノにも執事服を着せて手伝わせるべきだった」

 とは『翠屋~本局出張店~』の店主、衛宮士郎のつぶやきである。 
 

 
後書き
というわけで完全にネタの慌ただしい平和な一幕でした。

そして、先週の後書きになったメイドフェイトも公開。
あと貫咲賢希さんから新たなイラストを頂きましたので「宝具設定一覧」の挿絵を追加しています。

それではまた来週お会いしましょう。

ではでは 
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