時間が経つのははやいもので、明日は管理局にいく25日。
あの日に日程が決まってから学校には、
『25日から自身の保護者に関わることで海外に行く』と名目で休学届を出している。
保護者の名前が雷画爺さんの名前で、親がおらず、保護者の名字も衛宮と違うという事で、誤魔化すのはそれほど難しくはなかった。
月村家にはバイトの休みと魔術関連の事で家を開けるという事を伝えているし、高町家にも都合で海外に行くという事は伝えている。
もっとも士郎さんや恭也さん達には忍さんから話しが伝わっているだろう。
向こうで生活するための着替え等の準備も出来ているし、家の結界の強化も終わっている。
なのはや月村家には
「結界を強化しているから近づかないように」
と伝えているし、一般人は近づく事すら出来ないはずだ。
さらに向こうでの収入もあの日から何度かリンディさんと連絡をとり確保できた。
まあ、収入はありがたいのだがあんなものを用意するとは思ってもいなかったのだが。
そして俺が前日に準備しているモノはなのはと約束したもの。
それも無事に完成し、俺は明日に備えて眠りについた。
翌日、向こうに行くための荷物となのはに渡す約束の物を持って家を出る。
待ち合わせは海鳴公園。
待ち合わせの時間より早いが俺が辿りついた時にはなのはとフェレットモードではないユーノがもう待っていた。
「「おはよう、士郎(君)」」
「おはよう、二人とも」
挨拶をかわしながらふと疑問に思う。
「ユーノ、荷物はないのか?」
「え? ああ、僕はこの世界に来た時から特に荷物は持ってなかったし、なのはの家ではずっとフェレットだったから」
なるほど。
フェレットだから服なんかが増えるはずはないか。
「あとなのは、遅くなったけど約束の物だ」
「え?」
驚くなのはに手を差し出す。
その手のひらには干将・莫耶をモチーフにした二つのペンダント。
テスタロッサ家が海鳴を去った日、珍しくなのはにお願いされた物。
フェイトに渡した物と同じ白と黒のペンダント。
だがフェイトの物とは違い鍔の所に輝くのは赤色の宝石。
今まで先送りになっていたが海鳴を離れる前に渡しておきたかった。
勿論、海鳴に俺は戻ってくるが俺となのはを繋ぐ眼に見える証として間に合わせておきたかった。
「覚えててくれたんだ」
「ああ、遅くなって済まない」
なのはが手を伸ばし取るのは黒のペンダント。
「黒でいいのか?」
「うん。白の方は士郎君に持ってて欲しい」
なのはの言葉に頷き、ペンダントをつける。
俺の胸元には赤い宝石が輝く白き剣と金色の宝石が輝く黒き剣が並んで光る。
なのはも二つの剣が並んでいる光景に笑みを浮かべなのは自身もペンダントをつけようとする。
「つけてやるよ」
「ありがとう」
なのはの後ろに回りペンダントをつけてやる。
首にかかったペンダントを見つめるなのは。
その時、魔力反応を感知すると同時に目の前に魔法陣が現れる。
魔法陣の中から現れたのは
「おはようございます。リンディさん、クロノ」
「「おはようございます」」
リンディさんとクロノ。
「おはようございます。士郎君、なのはさん、ユーノ君」
「おはよう」
それにしてもリンディさんもクロノも親しい間柄とはいえ提督クラスの役職持ちが出迎えるのはどうなのだろう?
……そういえば初めてアースラに乗った時にも同じような事を思ったな。
「じゃあ、さっそくアースラに行こうか」
「そうね。なのはさんは今回は」
「はい。ちゃんとここで待ってますから」
唯一海鳴での留守番になるなのは。
時間を見つけて連絡をするようにしよう。
荷物を持ち、リンディさん達の方に踏み出す。
その時
「なのは?」
「え、その……」
なのはに手を掴まれていた。
「……ちゃんと戻ってくるよね?」
「ああ、俺はここに海鳴に戻ってくる」
「うん。待ってるから」
手をゆっくりと放し一歩手を下がるなのは。
俺の手を握っていた手はそのまま胸元にある赤い宝石が輝く黒き剣を握り締める。
その姿に荷物を下ろして一歩なのはに踏み出した。
side なのは
士郎君とユーノ君のお見送り。
士郎君はちゃんと約束を覚えてくれて管理局に行く前に絆となるペンダントをくれた。
だけど
「なのは?」
「え、その……」
士郎君の手を自分でも気がつかないうちに掴んでいた。
士郎君の後ろ姿を見た時に無性に怖くなった。
もう二度と士郎君は戻ってこないのではないかと、私を置いてどこかに行ってしまいそうで
「……ちゃんと戻ってくるよね?」
「ああ、俺はここに海鳴に戻ってくる」
「うん。待ってるから」
だけどこれ以上士郎君を困らせるわけにはいかない。
手を離して、下がる。
でも不安は消えなくて絆である黒い剣を握る。
ちゃんと士郎君との繋がりはあるんだと自分に言い聞かせるように
そしたら士郎君は荷物を一旦下ろして離れた分近くに来て頭を優しく撫でる。
「士郎君?」
「大丈夫。約束する。
俺は戻ってくる。
今度戻ってくるときにはフェイト達と一緒に。
だから待っていてくれるか?」
「うん! 待ってる。
だからいってらっしゃい」
「いってきます」
なごり惜しいけど頭を撫でてくれていた手は離れ、士郎君の後ろ姿を見送る。
だけどさっきまでの不安はもうない。
そして、クロノ君の横に立つ士郎君。
転送用の魔法陣が浮かび、光に包まれて士郎君達の姿が消える。
でも不安はないし、日課の朝のトレーニングを始める時間。
今は士郎君に守ってもらったり、支えてもらう事ばかりだから
「よし! 士郎君に追いつけるように頑張ろう!」
一日でも早く士郎君の後ろをついて行くんじゃなくて並んで進めるように
「All right, my master」
レイジングハートと共にいつもの林道の頂上に向かう。
side シグナム
「なぜっ! なぜ気がつかなかった!!」
病院の壁を八つ当たりをするように殴りつける。
「ごめん。ごめんなさい、私」
涙を流すシャマル。
だが私が攻めているのはシャマルではない。
「お前に言っているんじゃない。自分に言っている」
シャマルを責めることなど出来ない。
石田医師より伝えられた病の進行。
麻痺は徐々に上体へと進行し、このままでは内臓機能の麻痺に繋がる危険があると。
なぜ私は疑問に思わなかった?
主はやてと出会った時に足が不自由というのを自然と受け入れた。
もっと詳しく調べればわかったはずなのだ。
主はやての病の正体。
それが闇の書の呪い。
主はやてと生まれた時から共にある闇の書は主はやての身体と密接に繋がっていたのだ。
抑圧されてきた強大な魔力はリンカーコアが未成熟な主の身体を蝕み、肉体機能どころか生命活動すら阻害していたのだ。
そして、第一の覚醒によってそれは加速した。
守護騎士を維持するためにわずかとはいえ消費する主はやての魔力も無関係とはいえない。
治療系を専門とするシャマルでも闇の書の呪いとなると手が出ない。
我々、守護騎士に出来る事も限られている。
「この件、衛宮には」
「知恵を借りたいところではあるが、管理局に行っている今連絡の方法がない」
衛宮が海鳴を離れ管理局に行ったのが二日前。
あまりにもタイミングが悪い。
魔術であればまだ何か方法があったかもしれないがいつ帰ってくるか明確にわからない今待っている事は出来ない。
なにより
「衛宮には我々の事を管理局に隠してもらっている恩もある。
これ以上の迷惑はかけられない」
衛宮がその気なら闇の書の存在を管理局に話すなり、我々を脅す事すら可能であった。
しかし衛宮は私達を受け入れ、管理局に隠す事も約束してくれたのだ。
もし戦いになったとしても、単純な剣の腕ならば衛宮に負けない自信はある。
だが剣以外の戦いにおいて勝てるという確証はない。
我々の魔術に対する知識は少ない上に、この海鳴の地は衛宮の管理下にあるのだ。
どんな隠し玉があるかわかったものではない。
ならば我々が出来る事は一つ。
「主はやての身体を蝕んでいるのは闇の書の呪い」
「はやてちゃんが闇の書の主として真の覚醒を得れば」
「我らが主の病は消える。少なくとも進みは止まる」
「はやての未来を血で汚したくないから人殺しはしない。
だけどそれ以外なら……なんだってする!!」
今からする事は主との誓いを破る事になる。
「申し訳ありません。我が主。
一度だけあなたとの誓いを破ります」
レヴァンティンを握り、騎士甲冑を纏う。
シャマル達も私に倣う様に甲冑を纏う。
「我らが不義理をお許しください」
主との誓いを破ってでも主はやてを救いたい。
そのために武器をとる。
だが蒐集を行う上で気をつけねばならない事もある。
「衛宮がいつ戻ってくるかはわからんが、それまでに可能な限り蒐集を行う。
衛宮が海鳴に戻ってきてからは一旦海鳴の外に出てから蒐集だ」
「そんなんじゃ時間が」
ヴィータの気持ちもわかる。
魔法を使わず海鳴の外に出るだけで余分に時間がかかる。
「だが海鳴内で魔法を使えば確実に衛宮に把握される。
それは避けねばなるまい」
「ザフィーラの言うとおりだ。
それに衛宮が蒐集に気がつかれなければ主はやてと我々が海鳴内にいる間は衛宮の庇護下に入る。
そうなれば管理局も簡単には手が出せない」
海鳴での一番のメリットを手放したくない。
この管理外世界の中で独自技術を持つことにより、衛宮の管理下にある海鳴。
管理局が強制できない場所であるこの地は衛宮と敵対しなければ潜伏場所として好条件な場所なのだ。
若干不満そうながらも頷くヴィータ。
「ならば……行くぞ!!」
「「おうっ!」」
「はいっ!」
ビルの上から飛び立ちに我らは戦場に向かう。