普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
225 露見された帝王
SIDE アニー・リリー・ポッター
シリウス達と別れてから数分。〝予言〟はロンが預かってくれて、ボクとロンは無事エレベーターに乗ることが出来た。
「……ちっ」
エレベーターに乗って数秒後、ロンは舌打ちをしながら杖を構えたのでボクも杖を反射的に構えてしまう。更に数秒してアトリウムに到着してエレベーターのドアが開いたその瞬間、ロンが杖を構えた理由が判った。
……十数メートル先に〝誰か〟が居るのが見えたのだ。
「……っ!」
……否、〝誰か〟と云う曖昧な表現を、痛む額の傷が訂正した。……本能的に判る。あの病的なまでに白い肌に黒のローブを纏って佇んでいる男は、間違いなくヴォルデモート卿だ。
「………」「………」
「……一年ぶりだな。アニー・ポッター」
一瞬だけアイコンタクトを交わしたロンと共にエレベーターから降りて数歩。ヴォルデモートが懐かしむ様な語り口で話し始めた。ヴォルデモートの視線の先に居るのははボクだけで、ロンは映っていないようだった。
「そうだね。……とは云っても、ボクからしたらこうしてお目にかかるのは初めてだけど」
「そうだ。お前は去年死ぬはずだった」
「でも生きてる」
「そこのウィーズリーの倅のお陰でな」
ヴォルデモートの視線がロンに向かう。
「……ロナルド・ウィーズリー、俺様は貴様が何を謀っていたかを知っているぞ」
「……〝謀り〟ねぇ…。一体どれの事か判らんな」
「あくまでも白を切るつもりのようだな。……しかし≪ワームテール≫を寄越した事は感謝してやる」
「……つーか、もうじきダンブルドア校長が来るけど、ここに居ていいの?」
「……あの老いぼれが来るまでに未成年の魔法使いを二人殺すことなど造作もないことだ。だが貴様の行動が俺様の復活の一助となったとして、せめて苦しまずに殺してやろう──“息絶えよ(アバダ・ケタブラ)”!」
――“氷河よ(グラシアス)”
ロンが杖を一振りするとボク達と隔てるように氷の壁が出現して、〝死の呪文〟を防ぐ。しかし氷壁ははすぐに砕けてしまう。
「お得意の〝死の呪文〟の様だが当たらなければどうという事はないよな」
滔々と語るロンの口調だが嘲りは見えない。しかしヴォルデモートからしたら癪に障ったらしく…。
「バーテミウス! ウィーズリーの倅を殺れ! 俺様はポッターを殺す!」
「はっ、御意に!」
ヴォルデモートは改めて杖をボクに向け直しながらそう叫ぶと、それに呼応して脇から一人の男が出てくる。……その人物に見覚えがあった。去年マッド‐アイに化けていたバーテミウス・クラウチ・ジュニアだ。
クラウチ・ジュニアはヴォルデモートの命令通り杖をロンに向けていて、何故かボクVSヴォルデモート、ロンVSクラウチ・ジュニアとな状況になっていた。
『アニーなら出来る』
「(……うん、ボクも出来そうな気がする)」
仮にも≪闇の帝王≫と謳われた存在であるヴォルデモートと対峙するのだ、些か緊張してしまっていたがロンからの念話で精神が落ち着いた。
(……我ながらゲンキンだなあ…)
ロンからの激励でリラックス出来るなんて自身の単純さにほとほと呆れながら、ボクも杖を構える。意外な事に、ヴォルデモートにも騎士道精神みたいなものがあったらしく、ボクが杖を構えるのを待っててくれた。
「俺様が直々に遊んでやりたいものだが俺様も忙しい身だ」
「よく言うよ、ダンブルドア校長先生が怖いくせに」
「口うるさい小娘だ。……だが貴様は死に逝く身だ。寛大な俺様は赦してやろう」
「ご託はいいよ」
「“息絶えよ(アバダ・ケタブラ)”!」「“武器よ去れ(エクスペリアームス)”!」
ヴォルデモートが放った〝死の呪い〟とボクが放った〝武装解除呪文〟の呪詛が中央地点で衝突する。まるでボクの杖が、ヴォルデモートから呪文が放たれるタイミングと、放つ位置を知っているかの様だった。
ぶつかりあった二つの呪詛は、中央で緑と赤の光る糸を縒り合わせて球を作ったかの様になっていた。
「……っ…!!」
今でこそあの光球はボクとヴォルデモートのちょうど中間にあるが、押し切られてしまった場合なんて考えるまでもない。……ゆえにボクは全ての力を振り絞る。
……しかし無情にも、〝糸〟は光の球をボクの方に押しやると共に〝緑〟の6割、7割とその割合を少しずつではあるが増やしていく。それはボクとヴォルデモートの力量の差でもあった。
軈て光の球はボクと目と鼻の先まで来て、ボクの杖を激しく揺らす。ヴォルデモートは〝死の呪い〟を放っている。光の球が少しでもボクに触れたら、ボクは間違いなく死ぬだろう。
……可視的な〝死〟が迫りくる今際の際。ボクの中で何かが弾けた。
(……ロンに──真人君に抱かれる前に死ぬ…? ……そんなの…)
「……っ、そんなの──冗談じゃないっ!」
ここで死んだら、ハーマイオニーに正妻ポジションを譲ったのが無意味になってしまう。……だからボクは声を張り上げる。〝殺られてたまっか、こんちくしょうめ!〟──と。
……するとどうだろうか、寸でのところまで差し迫っていた光の球を押し返す事が出来た。それからはさっきと同じパターンではあるが今度はボクの〝赤〟がヴォルデモートの〝緑〟を3割…5割…7割…9割と、押し返していく。
「グッ、オォォォォォォォ…っ!」
そしてボクの時と同じ様に、ヴォルデモートの杖が激しく揺れる。今度はヴォルデモート声が上がり、光の球は最初の様に中間地点で落ち着いた。
……その時だ、不思議な事が起こったのは。
(……っ…! ……?)
糸を切らない様に歯を食いしばっていると、鳥の囀り──否、もっと綺麗な──旋律が聞こえてきた様な気がした。
その旋律は前奏曲の様なものだったらしく、不思議な事はまだまだ起こる。
その次は〝赤〟と〝緑〟だった〝糸〟が〝金〟になり幾条にも──それこそ数え切れないほどの数にまで分かれて、〝芯〟と云うべき繋がっている一本を残しボクとヴォルデモートを囲む様にドームの様なものを作っていく。
一番奇っ怪だったのはそれ以降に起こったことだと云える。……ヴォルデモートの杖から、全く知らない人物が出てきたのだ。そして更にその次にナゾの手の様なものが吹き出して、それを皮切りに様々な人物がヴォルデモートの杖から涌いて出てくる。
……ナゾの手が出てきた時、一瞬マドハンドに見えたのは内緒だ。
閑話休題。
一昨年の夏、ブラック邸で見た夢に出てきた老人。次にボクの記憶が正しいのならバーサ・ジョーキンズ。
(……っ、もしかして…)
そこで一つの仮説が出来た。
……ここまで、ナゾの手を除きヴォルデモートが殺めたと思われる人物達がヴォルデモートの杖から出てきている。……ヴォルデモートはここ十数年間、上記の二人しか人を殺していなかったのだとしたら、次には〝ボクを殺し損ねた時に殺した二人〟が出てくるのではなかろうか──と。
その仮説が正しかったことを、ヴォルデモートの杖から出てきた人物が、ボクと鏡写しの女性であるリリー・ポッター──母さんが立証してくれた。
「もうすぐ、お父さんが来るわ」
母さんのゴースト、とでも云えばいいのだろうか? ……彼女が言った様にヴォルデモートの杖からもう一人出て来る。癖っ毛で黒髪の男性だった。写真と変わらない出で立ちの父さん──ジェームズ・ポッターだ。
「……もうすぐ増援が来る。それまで堪えるんだ──大丈夫。アニーなら出来るさ」
「ジェームズ…っ、君なのか!?」
「やぁ、≪パッドフット≫」
「私もアニーに加勢するっ!」
ヴォルデモートに聞こえない様にしたのだろう──小声で囁く父さんの言葉に頷く前に何時の間にか来ていたシリウスの声がアトリウムに響く。シリウスはボクに加勢しようとしてくれたのか杖をヴォルデモートに向けるがそれを父さんが諌める。
「待つんだ、今アニーがヴォルデモートと拮抗出来ているのは奇跡にも等しい状況だ」
「だがっ、このままではアニーがっ!」
父さんのシリウスに対しての諫言も、シリウスのボクに対する心配もどっちも正しい事をボクは直感していた。杖が燃える様に熱い。……おそらくだがあとほんの少ししかこの〝糸〟を維持出来ないだろう。
……その時、ポンッ、と小気味の良い音が聞こえる。〝姿現し〟で現れたのはコーネリウス・ファッジと、パーシーを始めとした〝闇祓い(オーラー)〟の数名。
「アニーとアーサーの末息子がどうして魔法省に? いや、それよりも──まさか、本当に復活していただと!?」
ファッジはヴォルデモートを視認してうちひしがれる。……無事ボクたちの策は成ったのだ。闖入者はファッジ達だけではなく、〝ヴォルデモートが最も恐れている人物〟もエレベーターで階下から姿を現した。
――「その通りじゃ、コーネリウス」
「ダンブルドア」
「ちぃっ! 老いぼれめっ!」
不意に杖から熱が消えた。ダンブルドア校長先生を見た瞬間、ヴォルデモートが〝糸〟を切ったのだ。……それに連動して母さんと父さんのゴースト(?)も以下の様に言い残して消えていく。
「よく頑張ったな、アニー」
「アニー、一目見れただけでも嬉しかったわ…」
ヴォルデモートが居た場所に視線を戻せばヴォルデモートも消えていた。さすがに不利を悟ったのだろう。クラウチ・ジュニアは縄でぐるぐる巻きにされてミノムシの様になっていた。
「ダンブルドア、説明はしていただけるのだろうな?」
「もちろんだとも」
ファッジの詰問にダンブルドア校長先生は鷹揚に頷く。
……斯くして≪闇の帝王≫の復活は露見されたのであった。
SIDE END
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