普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
211 第三の課題
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
6月24日の今日は〝第三の課題〟の開催される日。
〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟に於ける最後の課題の開催日であり、泣いても笑っても今日優勝者が決まる。
そんな6月24日の朝、俺とアニーはマクゴナガル先生から大広間の脇の小部屋に呼び出されていたのだが…。
「ああ、ロンっ…。……アニーも…」
「わっぷ…っ?!」
「母さん…」
扉を潜った途端、俺とアニーは一緒くたに母さんに抱き付かれた。部屋に居たのは母さんだけでは父さんとビルにチャーリー、それにシリウスも居て、フラーやクラムの家族と思わしき人達の姿も見える。
母さん達がいるのは〝気配〟で判っていたが、音速も斯くやのスピードで突進してくるとは思わなかったので、アニーと一緒にたじたじになってしまう。……どうやら心配を掛けすぎてしまっていたらしい。
よくよく考えてみれば〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟は死者を出した競技である。アニーと一緒に備に母さんからの手紙は届いていたが、今日改めて顔を会わせた途端、その心配が一気に吹き出したようだ。
(……仕方ないか)
そう自戒して、アニーと一緒に母さんの愛を甘んじて受け入れるのだった。
………。
……。
…。
母さんは5分も抱擁していればさすがに安心したらしく、ようやく父さんやビル、シリウスと話せるようになった。
「ロン、アニー、調子はどうだい?」
「今なら、ドラコ・マルフォイが100人になって襲い掛かってきても杖先一つで纏めてダウン出来そうなくらいにはコンディションは調ってるよ」
「比較対象がショボすぎる件について…っ」
アニーは俺の諧謔がツボったのか肩を震わせている。〝やぁ、ポッター〟と、百人なマルフォイがフォイフォイ囀ずる様を思い浮かべると、口にした俺も何だか笑えてきた。中々の破壊力だ。
「……こほん、ところでパースは──まぁ、無理か。〝あんな事〟があったし」
「魔法省は上に下への大騒動だったからね」
「パーシーは今ストレスを溜め込んでるわ。……でもそれ以上に落ち込んでるの」
俺の言う〝あんな事〟とは、云うまでもなくクラウチ氏の件についてだ。クラウチ氏は現在ある程度快復していて、治療が終わり次第裁判に掛けられる事になっている。……斜め読み程度に調べた過去の判例から類推するに、禁錮刑辺りに落ち着くと俺はみている。
……ちなみにクラウチ氏の身柄は既に〝聖マンゴ〟に移されていて、〝闇祓い(オーラー)〟の厳重な監視下にあるそうだ。
「そういや、おじさんとシリウスはよく来れたね。魔法省ヤバいんでしょ?」
パーシーの事が話題に上がり沈みかけていた空気を取っ払うように、俺も地味に気になっていた事をアニーが代弁してくれる。……とはいっても、大体予想は出来ているが…。
「うちの部署は窓際だからね…」
「まぁ、忙しいことには忙しいが義子の晴れ舞台への顔見せくらいなら出来るさ」
父さんとシリウスの口から出てきた言葉は大体予想通りなものだった。
父さんとシリウスが勤めている部署は〝マグル製品不正使用取締局〟──なのだが、父さん自虐していた様に窓際部署なので先の騒動ではそこまで累は及ばなかったようだ。
もちろん一番割りを喰ったのはクラウチ氏の居た部署である〝国際魔法協力部〟だろう。さっき母さんがこぼした様に、とりわけクラウチ氏に心酔していたパーシーの精神がよろしくないらしい。
なので──と云うのか、今回クラウチ氏の代理人として来るはずだったパーシーの、そのまた代わりに魔法省大臣であるコーネリウス・ファッジが第三の課題の審判の代理を務める事になっていたりする。
そして、ビルとチャーリーと歓談したり激励に来たハーマイオニーと話しているうちに課題の開始時刻がやって来た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第三の課題は、判りやすく云ってしまえば迷路探索で、普段クィディッチが行われているピッチに出来た生垣の迷路の最奥にある優勝杯を取った者が〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟の優勝者となる。
となれば、〝優勝杯に触れるだけで優勝とか楽勝じゃね?〟と思うかもしれないが迷路へ侵入出来る順番が順位になっているので、そこらのバランスは取れているのかもしれない。
実況をサブの思考で聞き流しながらアニーに続いて迷路にへと足を踏み入れる。すると数十メートル先に光が浮かんでいるのが見えた。アニーの魔法の光だろう。
「迷路、変わっていると思ったんだがな…。“光よ(ルーモス)”」
そんな事を呟きながら俺も光を灯し、その場から動くようなそぶりを見せないアニーに近寄っていく。ゆくゆくはアニーとは合流するつもりだったので、合流出来るのなら、それはそれでいいと云うものだ。
アニーが俺を待っている理由が今一つ判らないが、短い直線距離だったので1分もせずしてアニーが居るところにたどり着く。別れ道の交差点だった。
「待たせた」
「おそぉい、5分遅刻だよ! ……なんて冗談はさておいて、行こうか」
「……そうだな」
アニーは何も言わずに右の道を選んだ俺に追従する。
………。
……。
…。
「〝覇王色〟って便利過ぎない?」
「まぁな」
迷路に入って十数分。道中の〝尻尾爆発スクリュート〟などの障害物を〝おおよそ〟無人の野を行くがごとく突破出来ているので、最早状況は〝お化け屋敷デート〟の様相を呈していた。
……〝おおよそ〟とあるのは途中でクラムに襲われたり、フラーの悲鳴が聞こえたからだが詳しくは割愛。
「……一応、〝競技〟なんだがな」
「どうせ釣られるならロンと一緒が良いからね」
俺のボヤき混じりの言葉に、アニーから予想していなかった言葉が返ってくる。……もうアニーにはこの課題が茶番になっているとバレていると見ていいだろう。
「……何時から?」
「バグマンさんから第三の課題についての説明を聞いた時から」
「一ヶ月以上も前からか…」
俺の呆れを込めた呟きをよそにアニーは自論を述べていく。
「バグマンさんは〝優勝杯に触れた者が優勝だ〟って言ってたよね。〝優勝杯を持ち出した者〟じゃなく。……そう考えれば優勝杯が〝移動キー〟だって事は判る」
(確かにな…)
俺は〝知識〟がある故に、バグマン氏の説明を〝知識〟との擦り合わせ程度としてテキトーに聞いていたが、確かにアニーの言う通りだなと納得。
……アニーの推理タイムはまだ続いていて…
「去年見た夢と合わせて考えると、きっとその〝移動キー〟でボクをヴォルデモートの元に送るつもりなんだと思う。そして、それが出来たのは…」
(お、気付いたのか…?)
「ルード・バグマン氏」
「あー、〝そっち〟にいったか…」
「あれ、違ったの? ……だとしたらかなり恥ずかしいんだけど…」
〝知識〟のある俺からしたあまりにぶっ飛んだアニーからしての犯人像に思わず呟いてしまう。アニーは自分の推論に自信があったのか〝うわー〟と、顔を隠しながら顔を朱に染める。耳まで真っ赤だ。
だがしかし、アニーの話を聞く限り、バグマン氏は頻りにアニーを優勝に導こうとしていたらしい。……そう考えるのならアニーの間違いも仕方ないのかもしれない。
いつだって黒幕は一番利を得る者の可能性が高いから…。
「……で、バグマンさんまで辿り着いた根拠は?」
試しに訊いてみると、アニーは根拠を滔々と語り始めた。
「まず第一にバグマンさんはこのトーナメントの関係者だから」
「ふむ、それなら優勝杯に細工出来るな」
「第二にボクを優勝させようとしていたから」
「バグマンさんがアニーが優勝する事によって何かしらの利があるならな」
ここまでは理に敵っていると云える。……しかし次にアニーからもたらされた根拠に耳を疑わされた。
「最後に──バグマンさん≪死喰い人(デス・イーター)≫である可能性があるから」
「確かに≪死喰い人(デス・イーター)≫なら利益あるだろうな──は?」
バグマン氏が≪死喰い人(デス・イーター)≫──そんな寝耳に水な情報に思わずリアクションが遅れる。
「そ、軽く調べただけなんだけどね。……その記事じゃルックウッドに唆されただけってあったけど、本当のところはどうだか」
「なるほど…」
「でも、バグマンさんが違うとするなら誰なの?」
「〝炎のゴブレット〟に細工された魔法を解明した時、一番饒舌だった奴だよ」
「……それって…。……でもそれ、本当なの?」
「ダンブルドア校長も納得するくらいにはマジだな」
アニーは饒舌に〝炎のゴブレット〟に掛けられた魔法を解き明かしていたアラスター・ムーディを思い出したのか、愕然としている。
「あの時思わなかったか、〝早すぎる〟って? ……〝どんな呪文が使われたのか〟だけならまだしも〝どう〝錯乱〟させられたか〟なんて語りすぎだったんだ。〝ゴブレット〟に目を向けるのも早すぎた」
「でも、どうして〝あの人〟が…」
「……それはホグワーツに戻ってきて、この一連の騒動が一段落ついてからだな──〝あれ〟に触って」
そこで俺は足を止めて前方を杖で指し示す。俺の示唆した先には薄ぼんやりと発光しているものがある。その光が存在しているのは位置的にピッチの中心部なので、その光は優勝杯と考えていいだろう。
アニーもそれを理解しているのか、俺と同じ様な速度で光へ向かっていく。
光のある位置に着いたのはあっという間で、光の正体はやはり優勝杯だった。そこで俺は一旦アニーに向き直る。
「アニー、一応訊いておこう。……俺はアニーに話してない秘密が沢山ある。……それでもアニーは俺を信じられるか?」
「精神と肢体、どっちも明け渡せるくらいにはね」
(……愚問だったか)
少々露悪的に問うも、アニーは即答する。……ちょっとだけ気恥ずかしかったのは秘密である。
「物好きめ──1、2、3でいくぞ」
「了解」
「1、2…」
3──と数えた瞬間、アニーと同時に優勝杯へと手を触れた。
そして、その場には誰もいなくなった。
SIDE END
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