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フルメタル・アクションヒーローズ

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第25話 敵のボスには得てして事情があるもの

 男子トイレにて対決する、正義の味方(?)と敵のボス――という構図なんだろうか? コレは。

「そんなに睨むことはないだろう? 別に今ここで戦おうってわけじゃないんだ」
「どっちにしろ敵じゃねーか……いいから話始めろ!」

 飄々とした態度を崩さない古我知さんに、だんだん腹が立って来る。さんざん人を振り回しといて、なに涼しい顔してやがんだ!

「怖いねぇ。ま、君の気持ちももっともだな」

 すると、彼は個室トイレのドアにもたれ掛かり、俺に視線をぶつけてきた。睨み返す……というほど鋭い眼差しではないが、その目は俺の姿を捉えて離さなかった。

「知ってるだろうけど、僕は着鎧甲冑を兵器転用するために『解放の先導者』を造り、君達が言うところの『技術の解放を望む者達』を組織した」
「ああ。んで、救芽井の家族をさらって、着鎧甲冑の利権を奪おうってんだろ」
「そうさ。僕がわざわざこの町に来て、彼ら一家との攻防に興じているのは、『兵器転用された着鎧甲冑』が『本来の着鎧甲冑』と比べてどれほど有用か、というデータを取るため」

 おさらいをするように、淡々と彼は喋り続ける。人が必死にあれこれと手を尽くしてる間に、コイツはこんな調子で兵器がどうのこうのなんて抜かしてんのかよ……!

「そんなことのために、あんたはあの娘を苦しめて、追い詰めようってのか!? 助手だったんだろう!? あんたは!」

 気がつけば、拳をにぎりしめてそんなことを口走っていた。我ながら臭い台詞だとは思うが、こんな時こそ本音をぶつけなくちゃいけないだろう。

「――そんなこと、か。本当にそう思うかい?」
「な、なんだよ?」
「優れた技術とは、得てして兵器に使われるものだよ。そしてそれが戦場で活躍することで質が底上げされ……より良い暮らしに繋がっていく」

 まるで俺を諭すかのような口調で、彼はこちらを見据えている。くっ、なんだか俺が説教されてるみたいじゃないか。

「今、世界中に普及している『インターネット』だって、本来は軍用に作られた技術だった。それに車や船、飛行機のような乗り物もみんな、戦争に使うために兵器として改造され、勝つために改良が重ねられ、やがてその技術が一般社会の暮らしに応用された。『着鎧甲冑』も同じだとは思わないか?」
「う……そ、そんなこと!」
「確かに、救芽井家の発想や信念は素晴らしい。そのための研究を重ね、『粒子化された最新鋭レスキュースーツ』を実現してしまった功績は、本来ならば未来永劫語り継がれるべきだったろう。彼らと苦楽を分かち合ってきた僕には、その輝きは眩しいほどに伝わって来る」

 裏切り者とは言え、なんだかんだで救芽井家に敬意は払ってる……のかな? 悪い奴なりに、事情がある――ってか?

「……だがッ!」
「うお!?」

 と思ってたら、いきなりドアぶっ叩きやがった!? 思わずビビって腰が引けちまった。情けねぇ……。

「彼らは兵器転用の一切を許さず、あくまで人を救うためにのみ、着鎧甲冑の技術を運用すると決めてしまったのだ。僕の忠告を聞き入れないまま! なぜだ!? なぜわかってくれない!? 戦争に使われず、その能力を示す機会を失ったままでは、着鎧甲冑の素晴らしき技術は世に出ることがなくなってしまうというのに! それでは、救芽井家が築き上げてきたものが、水の泡になってしまうというのに!」

 お、おおぉ……なんか一人で勝手に熱くなってやがるな。意外におしゃべりなのか? コイツ。

「ま、待てよ。兵器にならなきゃ、着鎧甲冑の技術は進歩しねぇって言いたいのか?」
「……その通りだ。現に今の救芽井家では、試作機として『救済の先駆者』が一体作られているに過ぎない。新たな後継機を開発するには資金が足りないし、十分なデータも取れない。だから兵器転用して、積極的に世界中の紛争地帯に売り込めば、資金もデータも貯まって開発を進めることができるだろう。着鎧甲冑の技術はいずれ世界を変え、救芽井家の理想はより現実に近しいものとなる」
「難しいことはわかんねーけど、要するに金がないから稼ぐために兵器にしろよ、って話なんだな。だけど、やっぱりそれはダメだろうよ。理想だか現実だか知らねーが、人助けしたくて作ったスーツで人殺してたら本末転倒だ」
「……そうだね。だけど、そう言っていられる時間にも限界がある。僕は早いうちに、『技術力向上のため』に兵器として改修する案を幾度となく出したさ。このままでは着鎧甲冑の素晴らしさが、日の出を見ないまま朽ち果ててしまう。そんな結末だけは、僕が尊敬していた救芽井家のためにも避けたかったんだ。でも、彼らは一歩も譲らないまま、本来の使い道を尊重するやり方で開発を断行した。やがて、僕はクビになったよ。『君はここにいるべきじゃない』ってね」

 ……あれま、なんだかしんみりした話になってきたなぁ。古我知さんは古我知さんで、救芽井家を心配してたってことなのか。

「僕は、それが堪えきれなかった。僕が尊敬し、誰よりも讃えたい一家が、自分達の夢に溺れて実現を遠退けてしまうことが。だから、僕は彼らを排除してでも、彼らが生み出していったものを形にしたかった。歴史に名を残すような素晴らしい発明品に、したかったんだ」
「……それで、『技術の解放を望む者達』、か」
「そうさ。僕は確かに悪かもしれない。それでも、そう蔑まれてでも、成し遂げなければならないことがあるんだ」

「成し遂げなければ、ならない――ねぇ。バカじゃねぇか」

 思わず口をついて出た俺の台詞に、古我知さんが目を丸くする。事情を話せば、赤の他人に過ぎない俺を説得して、味方に付けられる――なんて考えてたのかもな。
 あいにく、俺はそこまで情に厚くはない。ついでに言うと、俺はもはや『赤の他人』じゃない。

「その家族のためだとかなんだとか言っといて、結局そいつらをまとめて泣かしてんじゃねーか。そんなはた迷惑な親切は、誰から見たって御免被りたいね」

 そう。救芽井は、さらわれた両親のためにこの町に来て、あんなに怒ったり泣いたり戦ったりしていた。『普通の女の子』の彼女がそんなことをしなきゃならないのは、古我知さんが余計なマネをしているからに他ならない。
 なら、俺がやらなくちゃならないことは一つ。

「そんなもん、ブッ壊してナンボだろ」

 そんな俺のキメ台詞が効いたのか、古我知さんは一瞬キョトンとした――と思ったら。

「あはは……そうかそうか。ブッ壊す――か」

 割と平然でした。
 ……いや、あのねー。こういう説教タイムって大抵、敵ってたじろぐもんなんだと思うんですよ。だからちょっとくらいうろたえてくれたっていいんじゃないかなー。

「夕べ、遠回しに君のお兄さんに同じ話題を振った時、同じことを言われたよ。『悪いのは、勝手なことしでかしてる奴の方だ!』ってね」
「……あ、兄貴が?」
「ああ。――いやぁ、やっぱり兄弟だねぇ。君自身、彼になにか素晴らしい輝きを貰ったことがあるんじゃないかい?」

 からかうような口調で、古我知さんはニヤニヤしながら俺の反応を伺う。その一方で、ボソボソと「『一煉寺道院』なんて場所を隣町で見たことがあるが……まさかね」とか呟いてるが。

「……素晴らしい輝き、ねぇ。そんなよく出来たエピソードなんてないなぁ。あいにく、ダサくて薄汚れたお話しか持ち合わせがねーんだ、これが」

 ――俺と兄貴の話。そこには、素晴らしい輝きなんてない。
 あるのは薄汚さ、ダサさ、そしてちょっとの眩しさだけだ。
 
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