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真田十勇士

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巻ノ百十八 方広寺の裏その一

            巻ノ百十八  方広寺の裏
 家康が方広寺の鐘の文章の件で豊臣家に対して言ったのを聞いてだ、十勇士達はまずはだった。
 怒ってだ、幸村にこんなことを言った。
「これは幾ら何でも」
「全くです」
「言いがかりにも程があります」
「どうにも」
「そうとしか思えませぬ」
「無恥かと」
 こう口々に言う、しかし。
 幸村は彼等にだ、落ち着いた声で言った。
「これは言うには値せぬ」
「値せぬ?」
「と、いいますと」
「国家安康君臣豊楽であるな」
 十勇士達が怒る言葉はというのだ。
「お主達が言うのは」
「そうです」
「その通りです」
「この様な言いがかりをつけるとは」
「言語道断」
「正道ではありませぬ」
「そうじゃな、これだけではじゃ」
 幸村もこう十勇士達に述べた。
「単なる言いがかりじゃ」
「単なるとは」
「ではこのことにはですか」
「何か裏がある」
「そうなのですか」
「そもそも諱なぞ使わぬ」
 幸村は己の学識から十勇士達に話した。
「国家安康じゃな」
「はい、大御所殿の名前を切っていると」
「幕府はそう言っていますが」
「そして君臣豊楽とはです」
「豊臣が上になると」
「これは言葉遊びに過ぎぬ」
 それだけのものでしかないというのだ。
「今諱は使わぬと言ったな」
「はい、確かに」
「大御所殿にしてもどの御仁にしてもそうです」
「諱は使いませぬ」
「それを書いたり呼ぶなぞ」
「そんなことは有り得ぬわ、これは普通に豊臣家が違うと幕府に言えばな」
 それでというのだ。
「済む話、幕府もそれ以上は言わぬ」
「そうしたものですか」
「所詮は」
「この度の方広寺の件は」
「そうしたものですか」
「そこでこれ以上何か言えば幕府の面子に関わる」
 天下にその謀を執拗に繰り返す姿を見せてというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「この度のことはですか」
「豊臣家が言えば退く」
「幕府にとってはその程度のものですか」
「誰か駿府に行き大御所殿に釈明すればな」
 それでというのだ。
「終わる話じゃ、問題はじゃ」
「そこからですか」
「むしろそうなりますか」
「幕府にとっては」
「方広寺の件は絡め手ですか」
「そこからが肝心ですか」
「釈明には然るべき者が駿府に行ってな」
 そしてとだ、幸村は十勇士達にさらに話した。
「大御所殿か本多上総介殿、崇伝殿にお話すればそれでよい」
「それで方広寺の件は終わり」
「そしてですか」
「そのうえで本題に入る」
「その送って来る者に話しますか」
「その通りじゃ、切支丹のことじゃ」
 それの話だというのだ、幕府が豊臣家に言いたい本題は。
「そのまま茶々様に言っても駿府に人は送られぬな」
「茶々様ならば」
「どう考えましても」
「聞かれませぬな」
「それでは」
「だから方広寺で誘い出してな」 
 豊臣家から然るべき者をというのだ。 
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