ソードアート・オンライン~剣と槍のファンタジア~
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ソードアート・オンライン~剣の世界~
2章 生き様
11話 オールラウンダーの2人
前書き
どうも、白泉です!
先日は、少し書いた下書きを間違えてアップしてしまい、読者様を混乱させてしまいました。本当に申し訳ありませんでした。
気を取り直して、いよいよシリカ編突入!いやはや、楽しみですねぇ。僕も書いていて楽しいですw
さて、前回出てきて、題名にもなっている“オールラウンダー”。どんなものかにも注目です!
では、どうぞ!
桜色の色っぽい艶やかな唇を完璧な弧にし、彼女は言い放った。
「わかりました。その依頼、お受けしましょう」
―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―
シリカは、死がすぐそこまで近寄ってくる足音を聞いた。その音は小さいが、確実に近くに、そして大きくなっていく。
猿人型モンスター“ドランクエイプ”が、目の前に大きく振りかぶって棍棒を振り下ろさんとする…
今シリカがいる“迷いの森”では、最強のモンスターだ。それが先ほど、一気に3体もポップしてしまった。元居たパーティーメンバーの一人と喧嘩をして、抜けだしてしまい、隣にいるのは、テイムした“フェザーリドラ”のピナのみ。
が、そのピナは、先ほど驚くべきことに狭い来る攻撃からシリカを守って死んでしまったのだ。たった一本の尾羽を残して…
シリカはピナを殺された怒りから、ドランクエイプに鬼のようにとびかかった。怒りで周りが何も見えなくなり、ただ倒すべき相手に向かって短剣を振るう。
だが、ソロで狩りをしたことがないということは大きく、普通ならパーティーメンバーが飛び込んできてくれるスキル後硬直は、ソロなら最大の隙である。それを知らず、シリカはソードスキルを使い、硬直した。短剣のため、片手剣や両手剣などに比べて時間は短いが、それでも隙なのは変わらない。
その隙をトランクエイプは逃さず、荒削りの木の棍棒のたった一撃でシリカを吹き飛ばした。 それと同時に、シリカの手から短剣が離れて行ってしまう。それは、ドランクエイプの向こう側へと転がっていった。
丸腰となったシリカに、情けの一つもなく、黄色に染まったHPバーを吹き飛ばさんと、棍棒を振り上げた。
結局、そんなシリカの頭によぎったのは、先ほどポリゴンと化して散った、相棒だった。
「ごめん、ピナ……」
せっかく守ってくれたのに、結局自分は死んでしまうのだ。急に悔しさがこみあげてきて、シリカは歯を食いしばった。せめて、自分を殺す棍棒の軌跡ぐらい、見て居よう。ナーヴギアに脳を焼き切られるまで、目を開けて居よう。それが、自分がピナのためにできる唯一の道だと信じて。
それは、武器が今手元にないシリカの、精いっぱいの反抗だった。だが…
刹那、まったく何もないところから強風が吹きあがり、シリカの装備と髪を揺らす。次の瞬間、キイィィン、という甲高い音がした。驚いたことに、ドランクエイプの体がのけぞる。と、もう一度風が起こり、シリカを殺そうとしていたドランクエイプも、後ろに残っていたもう一体も、白い光に当たると、面白いように切断され、悲鳴を上げてポリゴンに変わる。
その光の向こう側にいた2人のプレイヤーが立っているのが見えた。一人はダークブラウンの長い髪を背中に流し、片手剣を持つ少女。もう一人は、肩上ほどできられた漆黒の髪に、その身の丈ほどある長槍をもった青年。
こんな時なのに、不謹慎かもしれないが、シリカはこの2人に思わず魂を抜かれてしまうほど見惚れて、息が止まってしまう。2人共、まるで腕の良い彫刻士が、腕によりをかけて掘り出した彫刻と見間違うほどの端正さだ。人生の中でこれほど美しいものは見たことがなかった。
「ごめん…君の友達、助けられなかった……」
どこまでも澄んだ声は、今は沈んでいた。友達、と聞き、先ほどの戦闘で自分をかばったピナを思い出す。今まで張っていた緊張がなくなっていたせいで、その思いはすぐに涙となってあふれだした。だが、必死に涙を収め、シリカは首を横に振る。
「いいえ……あたしが、あたしが馬鹿だったんです……。ありがとうございます、助けてくれて……」
小さなしゃくりが言葉と言葉の間に入りながらも、シリカはそこまで言った。少女は、少し目を伏せた後、地べたに座り込んでいるシリカと同じ高さの目線になるようにしゃがみこんだ。
「ね、その羽根、アイテムとかになってる?」
握りしめていた水色の羽根にシリカは目を落とした。普通、モンスターが死ぬときには、何も落とさない。ドロップ品は、直接狩ったプレイヤーのストレージに入れられるため、可視化されることはない。
シリカが震える手で羽根をタップすると、アイテム名が映し出された。
“ピナの心”
再び泣き出しそうになるシリカと、笑みを漏らす少女は、あまりにも不釣り合いだ。シリカが目の端から涙をこぼしながら少女を呆然と見ているのに気付いた少女は、首を振った。
「あなたの使い魔が亡くなったことを喜んでいるんじゃないよ。その心アイテムがあれば、使い魔はまたよみがえる可能性があるんだ」
「…えっっ?」
助けてくれたのに、なんてこの人はひどい人だろうと思い始めていたシリカにとって、その一言は衝撃的だった。
「47層に、“思い出の丘”というダンジョンがあって、その丘の一番上に咲く花が、使い魔蘇生用のアイテムらし」
「ほ、ほんとですか!?」
少女の言葉が終わらないうちに、シリカが声を上げた。一筋の希望が、シリカの心を照らす。
「でも、使い魔の主人本人が行かなきゃ、花は咲かないらしいんだ」
その言葉を聞くと、シリカの顔は曇った。
「47層…」
現在シリカがいる35層から12層も上なのに加え、シリカのレベルは今44。安全マージンは層数+10といわれており、57には遠く及ばない。それでも、シリカは少女の灰茶色の瞳を見つめた。
「情報だけでもありがたいです。頑張ってレベル上げして、いつかは…」
「…ごめんね、そうもいかないんだ」
少女は、目を伏せた。
「蘇生ができるのは3日以内なの。それを過ぎると心アイテムは形見アイテムに変わってしまう…」
「そ、そんな!」
たった2日3日で、10以上のレベルを上げるなど不可能だ。ここがただのゲームならまだしも、ここはデスゲーム。無茶なことはできない。
シリカは再び絶望のどん底へと蹴落とされ、手の中にある水色の羽根を強く、強く抱きしめた。もう、ピナに会えることはないのだ。この世界で、たった一人の友人を、この手で殺してしまったようなものだ。が…
「ねえ。今みたいな時のために、オールラウンダーがいるんだよ」
少女が言った言葉に、シリカは顔を上げた。
オールラウンダー。
この世界でもっとも有名で人気で、そしてこの世界最強ともうわさされる2人組が経営するいわゆる“何でも屋”。素材集めやクエスト代行、プレイヤー間の仲介から、武器製造、料理、素材加工、情報の売買まで、逆に依頼を受け付けないものは何ですかと聞きたくなるほど、なんでもするという。始まりの街にある掲示板に、依頼内容を書いておくと、数日後にその上に赤字で日時と場所指定をされ、そこに行って、彼らが依頼を受けたら完了となる。しかし、いくつか依頼できないことがある。
・オレンジ、レッドからの依頼の場合。
・殺しの依頼の場合。
・努力の範囲内で依頼者が達成できると判断した場合。
・2人に会うために依頼をしたと判断した場合。
最後の条件だと、感情を押し殺して2人に会えばばれないのではないかと思ったプレイヤーが大勢いたが、全員見切られたそうだ。一時は相手の心を読み取る超能力があるかと思われたほどだ。
また、特徴としては料金がランダムということがある。しかも、それは依頼が終わった後に請求が来るので、依頼するとき、依頼者が依頼した内容の値段がわからない。最初にどんな値段でも払うという誓約書のようなものを書かされるので、もしそれを破ったらオレンジプレイヤーとなってしまう。
これを聞くと恐ろしくて依頼ができなくなるが、一般論として、どうやら2人は依頼者によって値段を変えているらしい。ほぼ0コルでやってくれることも多いと聞く。
もちろん、ピナのためならシリカは全財産を投げ出すだろう。だが、心配なのは、
「でも、3日以内返事が来るかどうかわかりませんし…」
2人に接触できるのは、2人の返事が来てからであるため、その返事が3日以内に来るかどうかはわからない。
が。
「今目の前にいるよ?」
「…え?」
シリカは目をしばたたかせた。少女の言葉が頭の中をぐるぐると回り、活動がほぼ停止した思考が、それを必死に理解しようとする。
数秒後、やっと彼女の言葉の意味が分かった。
「あなたたちが、オールラウンダー、なんですか?」
少女は、笑みを浮かべ、うなずいた。だが、シリカはそういわれても2人のことを疑った。この世界では、信じるよりも疑うのが基本だということは、この世界に1年半暮らしてきたシリカは十分すぎるほどにわかっていた。
絶世の男女、というところまでは良い。だが、2人の武器はシリカが聞いているものではないし、装備だって違う。
シリカの表情や、武装に走らせた視線で、疑っているのがわかったのだろう。少女は軽く笑った。
「低層にお忍びで来るときは装備を変更するんだよ」
ここで装備は変更できないけど、と言いながら、メニューウィンドウを開く。(この世界で着替えると、数秒間下着表示になってしまうのだ)。そして、淡い光が少女の伸ばした手に棒状に集まり、やがてそれは一振りの片手剣へと変化する。薄紫色の鞘から、その剣を金属音をさせながら引き抜いた。それは、シリカが確かに聞いた形状の片手剣だった。薄紫の先端から、根元に向かうにつれて桜色になるグラデーションが美しい。柄頭には金の檻の中に翡翠の珠が入っている。
青年の手にも、彼の得物があった。一目見て、一番の特徴は、槍身が恐ろしく長いことだろう。ぱっと見でも、一メートル30、40センチぐらいある。普通のスピアの槍身は、柄の4分の1ほどなのだが、彼の持つ槍身は2.5の1ほど。
なおかつ、その槍身は、透き通るように美しい翡翠で作られている。そこには、金色の狼が彫り込まれていた。
シリカはあまり武器には詳しくないためわからなかったのだが、形状で言うと、その槍は“大身槍”というカテゴリに入る。その名の通り、大きな槍身が特徴で、それ故に、ほかの槍に比べて重い。少しでも重量を減らそうと、槍身に溝を彫ることが多かったといわれ、SAOはかなり現実に似せているのだろう。
彼らの武器は、彼らの二つ名の由来にもなっているため、彼らが本物だということは確定された。”桜雨の戦姫”と”翡翠の狼”だと。
彼女は、シリカに向かって手を差し出す。
「あなたが望むなら、オールラウンダーである私たちが責任をもってあなたを47層まで連れて行ってあげる。へたな人よりも信用できると思うけど、どうする?」
微笑む少女のその手は、この世界のどれよりも、そして誰よりも信用していいように思えた。この人たちがいれば絶対大丈夫。彼らには、そう思わせる何かがあった。
「もちろん、お願いします!」
シリカはそう言って、少女の手を取る。少女はそのままシリカの手を引き、立たせた。
「よろしく、シリカ」
「はい!お願いしま…って、なんであたしの名前知ってるんですか!?」
「“竜使いのシリカ”、でしょ?街で聞いたんだ」
知っていてもらえて、悪い気はしない。いや、嬉しい。なにしろ、彼女は有名人なのだから。
「私はリア」
「…ツカサだ」
シリカはこの時初めてツカサの声を聴いた。驚いた顔をしているシリカにリアは苦笑した。
「ごめんね、ツカサ君、人見知りだから、そんなに気にしないで」
「あ、はい。あの、じゃあよろしくお願いします!」
シリカは深々と頭を下げた。そんなシリカにリアは微笑むと、再びウィンドウを操作した。その手から異様な威圧を放っていた片手剣はなくなり、頭を上げたシリカの目の前には、なぜかトレードメニューが開かれていた。そこには、シリカのレベルギリギリで何とか装備できるぐらいのハイスペックなものばかり。
「あ、あのこれ…」
「それを装備すれば、5、6ぐらいはレベル、底上げできるから。一応安全面を考えてね。フィールドは何が起こるかわからないから、保険で」
「で、でもこんな高価なもの…」
リアは首を横に振った。
「最前線なんていけば、こんなものごろごろしてるから。高価でも何でもないよ」
最前線で戦闘などしたことがないシリカには、それが本当かどうか確かめることはできないが、結局悩んだ末に、ありがたく受け取ることにした。
「あの、こんなんじゃ全然足らないと思うんですけど…」
そういいながら、目の前にいるリアに、今ある全財産を送る。しかし、リアがタップしたのは×ボタンで、そのお金はすぐにシリカのもとに帰ってきた。
「依頼料は、依頼が終わった後にもらうから、今はいいよ」
「そうですか…分かりました」
シリカは、潔く引き下がった。それでいいんだよ、というように微笑むリア。普通の人にはわからない(リアにだけわかる)程度で、温かく見守るツカサ。
こうして、シリカの小さな冒険は始まった。
35層主街区“ミーシェ”に、リアとツカサはシリカとともに訪れていた。前を歩くシリカにばれないように、ツカサはリアに耳打ちした。
「いいのか?」
「恐らく、ね。たぶんあの女はこっちにくいついてくる」
ツカサは割合あっさりと引き下がった。恐らく、ツカサもリアと同じ考えが頭の片隅にあったからだろう。
大型の転移門広場に入ると、シリカの顔見知りだろうと思われるプレイヤーが集まってきた。レアモンスターであるフェザーリドラを初めてテイムした少女として、名前は聞いていたが、最近はアイドルのようになっているようだ。確かに、この世界の男女比率は男が泣く程に悲しいものがあるため、シリカのような子に集まるのは容易に想像できた。
「あ、あの、お話はありがたいんですが…」
リアとツカサのほうに視線を送りながらシリカは遠慮気味に言った。
「しばらくこの人たちとパーティーを組むことになったので…」
そこにいるプレイヤー全員の視線が、フードを深くかぶった2人組に注がれる。その視線が胡散臭くなるのも当たり前だろう。今の2人はかなりくたびれた様子のコートだけで、取り立てて強そうな感じは一切しない。
「あんたら、抜け駆けはやめてもらいたいな。俺らはずっとこの子に声かけてきたんだぞ」
「……」
「……」
一切二人は口を利く気配がない。シリカは2人の腕をつかんだ。
「あの、私から頼んだんです、すみません!」
シリカはそういうと、そのまま転移門広場を出てメインストリートに入るまで引っ張っていった。
「…す、すみません、迷惑かけちゃって…」
「いいよいいよ、こんなこと。それにしても、すごい人気なんだね」
「い、いえ、リアさんなんかにはかなわないですよ。あの人たち、あたしの周りにいるけど、リアさんのファンなんです。確か、WGFにも入っていたと思います」
WGFと聞いて、リアは思わず苦笑した。まあ、とそのあとで思い直す。ツカサ以外の男なんてそんなものだろうと。そこに、リアが溺愛する従弟を入れるか悩んだが、答えを出す前に、シリカが話しかけてきた。
「お二人のホームは…」
「もっと低層だけど、せっかくだし、今日はシリカと一緒にここに泊まろうかな」
「ほんとですか!ここのチーズケーキ、結構いけるんですよ」
シリカが嬉しそうに言うのを見て、リアもつられて笑ってしまう。が、その笑いは一瞬にして消え去った。ツカサの袖口をシリカに気づかれないように引く。ツカサはそれに気づき、リアの視線の先を見た。
ちょうど道具屋から、4、5人のパーティーが出てきたところだった。2人の視線が注がれていたのは、最後尾の槍使いの女性プレイヤー。真っ赤な髪を派手にカールさせ、同じく真っ赤なルージュを唇に引いていて、随分派手な印象を受ける。
シリカは、彼女と目が合うと、すぐに伏せた。その横顔には嫌悪の色が浮かんでいる。だが、逆にそんな様子を楽しむように、女は口の端を釣り上げた。
「あら、シリカじゃない」
声をかけられ、シリカの足は止まる。
「…どうも」
「へぇーえ、あの森から出られたんだ。よかったわね」
言っていることと内心がだれが聞いても違う言葉に、シリカは顔をゆがめた。
「でも、今更帰ってきてももう遅いわよ。もうアイテムの分配は終わっちゃったわ」
「いらないっていったはずです!……急ぎますから」
だが、女…ロザリアはまだシリカを放すつもりはないらしい。シリカの遠ざかり始めた背中に投げかける。
「あれれぇ、あのトカゲ、どうしちゃったの?」
リアは思わず内心でフェザーリドラの種族はトカゲではなくドラゴンだと突っ込んでしまった。そんなことはよそに、
「…ピナは死にました。…でも!」
そういって、シリカはロザリアをキッとにらんだ。
「絶対に生き返らせて見せます!」
ロザリアは驚いたように少し目を見開いた後、ヒュ~と下品に口笛を吹いた。リアも心の中でほくそ笑んだ。…かかった…。
「ってことは、思い出の丘に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略できるの?」
「できるよ」
そういって、リアはロザリアからシリカを隠すようにロザリアの前に立ちはだかった。
「あそこのダンジョンはそんなにレベルは高くないからね」
ロザリアは少なからず驚いたようだった。何しろ、その声は女だったからだ。だが、いつもの鈴を鳴らすような、透き通ったリアの声ではなく、かなり低めの声だった。
「まさかあんたそういう趣味なの?そんな強そうじゃないけど」
この人は、あの戦姫とどんなにすっきりするだろうと、シリカはその言葉が喉から出かかった。だが、ふいに袖を引かれた。驚いて振り返ると、唇に人差し指を当てたツカサがいる。
この2人が今はお忍びでこの層に来ていることを思い出し、シリカは歯を食いしばった。その時、ぽん、と頭の上に温かい手が置かれた。
「別に同性を助けるだけで、そういう趣味ではないし、あなたにとやかくいう資格はないと思うけどな。それに、もしそう言う趣味だったとしてもあなたみたいな醜い人は絶対に選ばないから安心していいよ。それと」
リアはそこで言葉を切った。
「見た目で強さを測っていたら、その醜い顔がもっと醜くなるからやめておきなよ。三十路すぎて唯でさえ見れた物じゃないのに、もっとひどくなったら見てるこっちが反吐が出る」
行こう、とリアはシリカの背に腕を回し、宿屋へと入ろうとする。
「絶対、絶対後悔させてやる…‼」
ロザリアの憎しみがこもった声を背中で聞きながら、3人は宿屋に入った。
とたん、シリカはプッと吹き出し、ツカサはくっくと喉で笑った。リアもそれにつられて笑う。
「あれだけ言ってすっきりしたー」
「まったくだ」
もっとまじめな人たちだと思っていたシリカは、少々意外であったが、それは自分のために言い返してくれたのだと思うと、ぽっとお腹のあたりが温かくなる気がした。
宿のチェックインを済ませ、リアはシリカを一番奥の席に座らせたあと、メニューを選択してから席に戻り、ツカサの隣に腰かけた。
すぐにNPCのウェイターに運ばれてきた飲み物で、簡単な乾杯をしてから、リアは中身をすすった。これはリアがとても気に入っているコーヒー(のような飲み物)だ。あまり酸味が好きでないリアの好みに合わせ、苦みを引き出した一品で、リアが今まで作成したコーヒーの中でトップのできだろう。シリカのは、ミルクと砂糖たっぷりのカフェオレだ。
「美味しい…」
目を真ん丸くしたシリカに、リアは嬉しそうだった。
「あの、これは…」
「これは私が作ったコーヒーなんだ。NPCレストランは、持ち込みができるの」
「え、コーヒーって作れるんですか?」
「これがなかなか難しくてね、料理スキルと調合スキルをマスターしてなきゃ作れないんだ」
「へぇ、そうなんですか…このコーヒー、今まで飲んだ中で一番おいしいです」
「そういってくれて嬉しいな」
リアのうれしそうな顔にシリカも笑い返し、再びカップに口を付けた。
やがてカップが空になると、徐々にシリカの顔が曇っていくのがリアにもわかった。先ほどのことを思い出しているのだろう。
「どうして…あんな意地悪なこと、言うのかなぁ…」
シリカの言葉は、つぶやき程に小さいものだった。先ほどの笑顔はリアの顔からは消え去っている。
「シリカは、MMORPGをやるのは初めて?」
「はい…」
リアはカップを置き、背もたれに寄りかかった。
「私もね、そこまでゲームをやってきたわけじゃない。だから確信みたいなものをして言えはしないんだけど…ゲーム内に入ると、人格が変わる人は大勢いると思う。もちろん、それはただのゲームだし、それがRPGの醍醐味といえる。だけど、SAOは違う」
リアはそこで言葉を切り、息を吸った。
「このちっぽけなHPバーが吹き飛んだら、現実世界の私たちも死ぬ。つまり、自分の命が可視化されているというだけで、現実と何ら変わりはない。こんな世界で、唯一ないのは…法律だよ」
「法、律…」
リアはゆっくりとうなずいた。
「法律がなくなった世界で、人はどうするか。…現実世界にたとえ戻れても、この世界でのことで逮捕されるなんてことはない。罰せられないから、犯罪を犯す。…この世界には、人間の鏡のようなものだと思うよ」
「人間の、鏡?」
「そう。何にも縛られていない。何をやってもいい。そんなとき、あなたはどうしますかって。つまり、現実世界で違法とされているものをこの世界でやる人は…きっと現実世界でも、そういうことをやりたいとずっと思ってた人なんだろうね」
リアは、そこまで言うと、ゆっくりと息を吐いた。うつむき気味の瞳には、憂いとも、悲しみともとれる色が広がっている。
「もちろん、強制されてやる人も中にはやると思うよ。だけど、そういう人も、自分のしてしまったことに対して、これから罪を償わなければいけない…」
だんだん小さくなっていく声。まるでそれは、自分に言い聞かせているようでもあった。ふっと顔を上げたリアの視界に、痛々しそうな顔のシリカが映り、リアは思わず微笑んだ。
「ごめん、暗い話だったね。まあ、何はともあれ、明日は絶対にシリカを守るから」
「リアさん…」
視界がにじんだ。
シリカは胸に手を置いて、ゆっくりと目を瞑った。
後書き
はい、いかがでしたか?ここら辺は割と書きやすくて、バンバン進んでおります。なんか、テストなんてどうでもよくなってきてしまいましたw
まあ、ご想像の通り、キリトではなく、われらのオリキャラ、リアとツカサにシリカを救出してもらいました。それと、この話で明かされた、オールラウンダー。調べればわかったと思いますが、何でも屋のことです。この設定は、僕自身がものすごく好きなのです!やっと出せてうれしくてたまりません!
もう一つ忘れてはいけないのは、2人の二つ名!結構悩みましたね、これ。特にリアのほうが大変だったんですよ…
なんていうのはさておき、次回は、47層説明と、フローリア!あの人たちがご参上するかどうかはまだわかりません。今回文字数の関係で結構変なところで切れてしまったので。
では、テスト放り出して書く可能性が濃厚になってきましたw次話もお楽しみに!
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