歌に生き愛に生き
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第二章
「ピアノを奏でるからね」
「気が向いたら歌わせてもらうわ」
「僕はピアノと君がいないと生きていられない」
ショパンはピアノを見て俯く顔で言った。
「けれど君は」
「私は自由がないと生きられないわ」
ショパンではなく自由だった、彼女が必要とするのは。
そうした意味でも彼女は鳥だった、しかし。
「そうだね。僕とは違うね」
「私は私、貴方は貴方よ」
「だから君は自由が必要なんだね」
自分ではない、ショパンはこのことを心の中で噛み締めた。
「そういうことだね」
「暗い話は苦手よ」
ジョルジュはショパンの話を止めさせた。
「気晴らしにワインはどうかしら」
「ワイン?」
「そう。貴方の故郷のワインがあるけれど」
ポーランド、その国のワインがだというのだ。
「飲む?」
「そうだね。じゃあ二人でね」
「ワインはあらゆる憂いを消してくれるわ」
ジョルジュは微笑んで今度はワインのことを話した。
「そして人の心を救ってくれるわ」
「だから僕の心も」
「そう。貴方も自由を必要としてみればどうかしら」
「僕も自由を」
「そうすれば随分と変わるけれど」
「そうなれたらいいね」
ショパンは力のない微笑みでジョルジュに対して答えた。
「そうしたら僕も明るい気持ちになれるね」
「きっとね」
「じゃあ」
ショパンはジョルジュのその言葉に頷きワインを飲んだ。その時は幾分か明るくなれたがそれでもだった。
彼は相変わらず憂いに包まれたままだった。ジョルジュはその彼と長い間共にいたが自由を必要とする彼女はこう彼に言った。
「別れたいけれど」
「自由のままに」
こうした日が来ることは予感していた。だからショパンも驚かなかった。
だが悲しみは感じた。それでこうジョルジュに言った。
「けれど僕は」
「ピアノが必要というのね」
「そして君が」
そのジョルジュを見て言う。
「必要なんだ」
「わかっているわ」
ジョルジュは目を逸らさなかった。じっとショパンの目を見つめてそのうえで確かな声で答えたのである。
「私もそれはね」
「それでもなんだね」
「謝ることはしないわ」
ジョルジュはこの言葉も毅然としていた。
「そして貴方のことは」
「僕のことは」
「愛しているわ」
愛も冷めてはいないというのだ。
「今も。そしてこれからも」
「それでも君は」
「人は愛していても離れなければならない時があるのよ」
「そんな筈がないよ」
ショパンはジョルジュの今の言葉はわからなかった。何故愛し合う二人が離れなければならないのか、それは全くわからなかった。
だからこそ困惑した顔でこうジョルジュに問うのだった。
「愛し合っていればそれで」
「一緒にいられるというのね」
「お金にも困っていないし」
ジョルジュもショパンも名を知られている。それにショパンは元々資産家でもある。それで困っている筈がなかった。
だから余計にだった、ショパンは別れねばならない理由がわからなかった。
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