フルメタル・アクションヒーローズ
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第6話 ついに俺もヒーローデビュー?
「警察を呼ばれたら困る!?」
公園での乱闘の後、救芽井家に帰ってきた俺は意外な事実を知らされた。
救芽井家と「技術の解放を望む者達」の抗争に、警察の介入はタブーなのだそうだ。
人命救助が仕事の救芽井家が警察から隠れなきゃダメって、どういうことだよ。それに、立派な兵器を抱えた「技術の解放を望む者達」が「警察呼ばれたら困る」って……悪の組織としてそれってどうなのよ。
今度はちゃんと椅子に座らせてもらい、俺は元の姿に戻った救芽井とゴロマルさんの話に応じる。
「剣一さんは『呪詛の伝導者』を最新鋭兵器として、世界の軍需企業に売り出したいだけなのよ。だから、その前に警察にマークされて身動きが取れなくなる事態を避けようとしてるの」
「だから俺が通報しようとしたら、あっさり逃げちまったのか……じゃあさ、なんでこっちから警察に相談しないんだ? 人質取られてるからなのか?」
デリカシーのない質問かも知れないが、正直気になって仕方がない。この一件が片付かないうちは、おちおち受験勉強もしていられないだろう。
「それは違うぞい。剣一は着鎧甲冑のデータを元に『呪詛の伝導者』を造ったが、そのデータ自体も完全なものではないんじゃ。奴はより完璧な兵器を造るために、息子夫婦をさらった……じゃから、警察を呼ぼうが呼ぶまいが、奴が息子達からデータを聞き出すまでは余計な真似は出来ないんじゃよ」
「だったら……!」
「……でも、私達も警察には頼れない。もし警察にこの件が知れたら、どちらも不利になってしまうのよ」
やるせない顔をして、救芽井は俯いてしまう。そうしたいのはやまやまだけど、って顔してるなぁ。
「どういうこった?」
「強引な手段だったとは言え、私達の造ったスーツが兵器に利用されようとしているのは事実よ。警察に助けを求めたら、『技術の解放を望む者達』は簡単に解体できるけど、私達のしてきたことまで危険視されるかも知れないのよ」
「そうなればマスコミにも知れて原因を追及されかねんし、結果としてレスキュースーツとしての採用が認められなくなる可能性があるのじゃ。兵器に使われるような危ない技術なんぞ使えるか、とな」
……なんとまぁ、せちがらい事情があったもんだ。それで、警察は当てに出来ないってことになるのか。
「でも……それじゃあこれからどうするんだ? さっきの戦いを見る限りだと、普通にやって勝てる相手だとは思えないんだけど。それに、戦える人が女の子だけってのもなぁ」
「それなんじゃが――話があるんじゃ。龍太君」
「……え?」
◇
薄暗く、冷たい空間をスポットライトが照らす。その光の中に、俺は連れ込まれていた。
――「腕輪型着鎧装置」を付けて。
「なんだか、ますますややこしいことになってるなぁ……」
『ぶつくさ言わない! 早く着鎧しなさい!』
ブレスレットに取り付けられている通信機から、救芽井の叱責が響いて来る。うぅ、耳が痛い……。
それから、どうやら「救済の先駆者」含む「着鎧甲冑」に変身することは「着鎧」って言うらしいな。
ゴロマルさんの頼みと言うから何かと思えば、いつの間にか救芽井家の地下室まで連行されてしまっていた。なんで一軒家にこんなもんがあるんだよ……まさか造ったのか?
『ちなみに、その秘密特訓部屋はわしが造ったのじゃ。どうじゃ、イカしておろう?』
やっぱりか。でも特訓部屋にしちゃ何もなくて、なんだか寂れてるぞ……よっぽど使う機会がなかったんだろうな。
それから、この場に二人の姿はない。リビングにあるコンピュータから、俺の状況をモニターしてるのだそうだ。
『よいか? これからお前さんには鹵獲した「解放の先導者」と一対一で戦ってもらう。先程話したとは思うが、これはお前さん自身のためでもあるのだからな』
「わかってるよ。さっさと始めてくれっ!」
あーもう、なんでこんなことになっちゃったんだか。
……まぁ、これは俺が古我知さんに声を掛けちまったせいなんだし、致し方ないのかもな。
どうやら、公園の一件のせいで俺までもが「技術の解放を望む者達」のターゲットに入れられちまったらしい。
向こうは死人や行方不明者を出して、警察沙汰になるのは防ぎたいのだから、別に捕まっても命は取られない――とのことだが、代わりに自分達と関わった記憶の一切を消してしまうのだという。
しかも、その余波でそれ以前の記憶まで持っていかれる危険性まであるとか。正直、それは俺にとっての死活問題になりかねん!
この数ヶ月、なけなしの脳みそをフル回転させて励んだ受験勉強。その努力の結晶を、わけのわからんサイエンス集団に掻っ攫われるなんて御免だ!
――ということで、俺はいざ「技術の解放を望む者達」に狙われても自分の身を守れるようにと、救芽井も学んだという「対『解放の先導者』用格闘術」の訓練を受ける羽目になったわけだ。今回は、そのために「解放の先導者」の強さをまず知っておくことが目的らしいのだが。
しかし、「格闘術」かぁ……。残念ながら、俺には、実戦経験がない。せいぜい、少林寺拳法を嗜んでる兄貴から「申し訳程度」に護身術を教わってるくらいだ。
自分の身を守るため、それなりに修練を積んできたという自負はあるにはある。だが、実戦で活かしたことのない拳法にどの程度の効果があるというのだろう。……不安しかねぇ。
『何をボサッとしてるの、変態君! 「解放の先導者」が来るわよ!』
自分の無力さに嘆息してる暇もなく、向かいの扉からおっかない顔をした機械人形が、フラフラと這い出して来る。うげぇ、人間じゃない分余計に気味が悪いなぁ〜。
「やるしかないな……よーし、着鎧甲冑ッ!」
俺は「腕輪型着鎧装置」にあるマイクに、勢いよく音声を入力する。
すると、目の前が真っ白な光に覆われ――気がつけば、俺は「救済の先駆者」の姿に成り果てていた。昨日まで、この姿をテレビや新聞で眺めてるだけだったのが嘘みたいだな……。できるだけ全身を見渡してみると、スーツが俺の体に合った形になってるのがわかる。
これが現実であると確認するために、俺は機械の鎧に包まれた両手で、頬を叩いてみる。微妙に衝撃は感じるけど……全然痛くない。
改めて着鎧甲冑の凄さに感心していると、『実戦でそんなことしてる暇なんてないわよ!』と救芽井に怒られてしまった。あぁそうだった、俺って今戦わなくちゃいけないんだっけ。
実戦を演出するためなのか、「解放の先導者」との戦いはゴングもなしに始まった。姿を見せるなり、奴はいきなり襲い掛かって来たのだ。
「解放の先導者」は両手を広げて、覆いかぶさるように迫って来る。それに対して、俺は両腕で頭を守るようにしながら、右足の膝を上げた。少林寺拳法で言うところの、「待ち蹴」の体勢だ。
相手が仕掛ける瞬間、こっちから蹴りを決めて距離を取る――言うなれば、「カウンター」の技だ。
少林寺拳法には「守主攻従」という、守りを第一にした原則ってものがある。自分からガンガン仕掛けるやり方は、俺には合わないってことだ。
「はッ!」
早すぎればかわされ、遅すぎれば攻撃を喰らう。そんな微妙なタイミングで、俺は短い気合いの声と共に、上げた膝を伸ばして蹴りを放った。
金属同士が激しく接触する音が鳴り響き、奴の突進が止まる。や、やった! 決まったぞ!
『……ほほぉ』
通信機越しに、ゴロマルさんの感嘆の声が聞こえて来る。どやっ! 兄貴仕込みの蹴りの味はっ!
……などと喜ぶ暇もなく、再び奴は俺に向かって来た。おいおい、一応みぞおちは狙ったはずだぞ!? もう少し痛みに悶えてもいいんじゃないか!?
「――くそッ、なら!」
でも、今は焦ってる場合じゃない。
俺は二、三歩距離を取り、今度は左足の膝を思い切り上げる。さらに、その向きを右斜めに曲げた。
空手にもある、人間の顎にある急所「三日月」を狙い撃ちする「三日月蹴り」だ。顎の横を薙ぎ払うように蹴る技なのだが、これは急所を狙うというだけあって危険なものでもある。
だけど、相手は人間じゃない。人間みたいに動くだけの、機動兵器に過ぎない! ならば、手加減は無用ッ!
「だああッ!」
スパッと振り抜かれた俺の蹴りが、奴の顎を掠めていく。そして機械人形の鉄の首は、関節技でも決められたかのように、グキッとひん曲がってしまった。
うーむ、後味は悪いが……これならダウンは必至だろう。初陣は白星で確定だ!
と、思っていたのに。
「う、嘘ッ!?」
奴は何事もなかったかのように、ガシャリと首を元に戻してしまった。そして、指先から鋭利な爪を出したり、胸から機銃のようなものをガチョンと出現させたりして来た!
ちょっと待て、お前それでも人間か!?
あ。
――人間じゃ、ありませんでしたね……。
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