バナナ&ピーチ
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第一章
バナナ&ピーチ
どちらの国でもない。日本でのことだ。
アメリカからの留学生であるアーサー=オークリッドは中国からの留学生袁龍起にこんなことを言った。
「前から思っていたけれど中国人っていうのはね」
「まさかと思うけれど差別的な発言はしないよね」
袁はそのオークリッドにこう返した。
「第二次世界大戦前の人種主義者みたいね」
「馬鹿言ったらいけないよ、そんなことは言わないさ」
オークリッドもそれは否定する。グレーの瞳がよく動く。
「人種的な観点なんて何にもならないからね」
「科学的な根拠は何もないからね」
袁もそのことを言う。見れば彼の目は横に切れ長になっている。オークリッドの顔は完全にコーカロイドのそれで髪もブロンドなのに対して袁はモンゴロイドで髪は黒い。
その二人が今日本の居酒屋でこんな話をしていたのだ。
「だからそうしたことは言わないさ」
「約束できるね」
「今するよ。とにかく中国人っていうのは」
どうかとだ。オークリッドは自分の中国人に対する考えを今言った。
「多くの民族がいるね」
「漢民族以外にもっていうんだね」
「うん、五十の民族がいるね」
「満州民族も苗族もね」
「まさに民族の坩堝だね」
「否定しないよ。十数億もいるんだ」
中国の人口は多い。その数は世界一だ。
そしてその民族構成がかなりのものだと中国人の袁自身も言う。
「色々な民族がいるよ」
「そして漢民族自体もだよね」
オークリッドは袁にさらに言う。
「一口に漢民族というけれど」
「混血しているよ」
「二千年前の漢民族と今の漢民族は違うと聞いたけれど」
「そうさ、混血してるよ」
実際にそうだと答える袁だった。
「というか東周時代にもうね」
「ああ、孔子とかの時だね」
「それ以前の商の頃からだね」
歴史は遡る。その頃の話になる。
「王朝が交代して色々な民族が混血していっているよ」
「そうだね。で、その東周時代も」
日本では春秋戦国時代と言われる時代だ。多くの国に分かれて互いに争っていた時代だ。
「秦とか楚は漢民族の血は薄かったね」
「西方や南方の異民族と混血していたよ」
「けれどそうした国が一つになっていって」
「うん、漢民族ができていったから」
混血を重ねてそして漢民族となっていったというのだ。
「それで北の異民族が入ったりもして」
「混血が進んだね」
「鮮卑とかね」
隋や唐を築いた民族だ。とはいってもそれぞれの王室は自分達では鮮卑よりも漢人だと思っていたふしが強い。何はともあれ唐代の漢民族は漢代のそれとはかなり違ってきていた。
そしてさらにだった。そこから。
「モンゴルが入ったから」
「そこでまた混血したね」
「文化的にもね。清代にもね」
袁は中国最後の王朝について自分から言及した。
「それでできていったのが今の漢民族だよ」
「だから言うけれど」
「混血して民族の坩堝になっているっていうんだね」
「うん、漢民族もそうだし漢民族が一番多い中国人もね」
「否定しないよ。事実だし悪いことじゃないしね」
袁は淡々とさえしてオークリッドに返す。今二人はその日本の居酒屋でサークル仲間達と共に飲んで食べながら話をしているのだ。
その中でそれぞれビールを飲み和食のつまみを食べながら言うのだ。
「確かに中国は色々な民族、文化が存在しているよ」
「そう、それが中国だね」
「けれどそれは君の国も同じだね」
袁は反撃ではないがこうアメリカ人であるオークリッドに返した。
「アメリカもね」
「そうだね。我が国もね」
オークリッドは自分の国を背負う様にして述べた。
「実際にね」
「多くの人種で構成されているね」
「移民の国だよ。ヨーロッパだけじゃない」
彼の様な、というのだ。
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