英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第5話
4月15日――――
~宿舎~
「―――うん、これでよしっと。」
第Ⅱ分校入学から2週間――――徐々に生活に慣れ始めていたユウナは登校前に鏡で髪の状態を自分が納得するまで直して頷いた。
「はあ………一緒に登校しようと思ったのに、起きたらいないし……」
同室のアルティナがいない事に溜息を吐いたユウナは気を取り直して自分が作っている机に飾っている家族全員が写った写真に近づいて写真を見つめた。
「お父さん、お母さん、ケンにナナも。行ってきます。―――今日も頑張ってくるね。………ああもう!エレボニア人には負けないんだから!」
日課である家族の写真に挨拶をしたユウナはふとかつての出来事――――クロスベル市内で窮地だった自分と妹達を助け、手を差し出したリィンとその後ろにいるセレーネ達を思い出した後すぐに我に返って自身に喝を入れた。
「ハアッ!セイッ!ハァァァァァッ――――斬!!ふう………」
一方その頃宿舎にある鍛錬場で日課である朝の鍛錬を終えたクルトはタオルで汗をふいた。
「―――キレは悪くない。あとは実戦あるのみか。……そう言えば呼吸がほとんど乱れていなかったな。」
自身の評価をしたクルトはオリエンテーションの時のリィンを思い出した。
「”八葉一刀流”―――流石だけど、父上達に比べたら聞いていた程じゃなさそうだ。……所詮は”騎神”と”異種族”頼みの英雄というだけか。後は”飛燕剣”の方だが……兄上達の話では”実戦”にならなければ、”主”達は呼ばないと聞くが……だったら、例え訓練とはいえ”実戦技術”の授業で鍛錬相手として呼んでくれないだろうか。」
リィンに対する評価や今後の事を考えたクルトは上着を着た後鍛錬場を出た。すると上から降りてきたユウナと鉢合わせをした。
「「あ…………」」
鉢合わせをした二人は一瞬呆けたがそれぞれ互いに近づいた。
「「おはよう、その――――」」
更に二人は同時に同じ事を言いかけたが、すぐに中断し、互いに気まずい表情をしていたがやがてクルトが先に口を開いた。
「――おはよう、ユウナ。君も登校か?」
「う、うん。クルト君も型稽古は終わり?毎日毎日、精が出るね。」
「まあ、幼い頃からの日課だから慣れっこではあるんだが……」
「「…………」」
二人の会話は続かず、お互い黙り込んだが今度はユウナが口を開いた。
「―――ああもう!あの時はゴメンなさい!」
「え………」
ユウナに突然謝罪されたクルトは何の事かわからず呆けた声を出した。
「その、平手打ちのこと!どう考えても不可抗力なのに、一方的にやっちゃって……!その後も態度悪かったし、大人気なさすぎっていうか……」
「君は………」
ユウナの話を聞いたクルトは目を丸くして黙り込んだがやがて口を開いた。
「それを言うならお互い様さ。―――しかし、あれから2週間、ずっとそれを言おうとしてたのか?エレボニア人嫌いの君にしては律儀というか、殊勝というか。」
「べ、別にエレボニア人の事は嫌いじゃないってば……!国は国、人は人だし、自分が間違っているんだったら、ちゃんと謝らなきゃって思って……毎日、熱心に稽古をしてるのにあんな言い方もしちゃったし。」
「ああ………」
気まずそうな様子で答えたユウナの話を聞いたクルトはオリエンテーションの時のユウナの発言を思い出した。
エレボニア人が使う、昔ながらの剣なんかよりは役に立つ筈です!
「別に気にしてないさ。稽古自体は単なる日課だしね。――――それいしてもクロスベル人っていうのはみんな君みたいな感じなのかい?」
「へ……あたしみたいって?」
クルトの問いかけの意味がわからないユウナは不思議そうな表情で問い返した。
「別に悪い意味じゃないけど。前向きで正義感が強くて人が良さそう(チョロそう)な感じってことさ。 」
「って、君ねぇ!?」
そしてクルトの自分に対する印象を知ったユウナはジト目でクルトを睨んだ。
「だから悪い意味じゃないって言ってるじゃないか。」
ユウナに睨まれたクルトは苦笑をした後手を差し出し
「同じクラスの仲間が信用できそうなのは助かるよ。信頼できるかは別にしてね。」
「む~っ……ホント可愛くないわねえ。ふふっ、でもまあ、改めてよろしくってことで。」
ユウナも手を差し出し、二人は仲直りの握手をした。
「―――お二人とも、おはようございます。」
するとその時タイミング良くアルティナが二人に近づいてきた。
「ア、アルティナ……!?どうして――――とっくに登校したんじゃ!?」
「早朝、定時連絡があってユウナさんを起こさないよう自習室を使用していました。もしかして、部屋を出る時、起こしてしまいましたか?」
「う、ううん。グッスリ寝てたけど……―――ってだから、定時連絡って何より、定時連絡って!」
アルティナの問いかけに戸惑いの表情で答えたユウナだったがすぐに我に返って声を上げて指摘した。
「失礼、秘匿事項でした。」
「……まあ、そろそろ時間だ。同じクラスだし、たまには一緒に登校するとしようか?」
アルティナのマイペースさに脱力したクルトは気を取り直して登校に誘った。
「構いませんが、わたしはお邪魔なのでは?先程の様子から察するに関係性が進展したようですし。」
「か、関係性って……別にしてないってば!」
(しかし独特な言い回しの多い子だな……)
その後3人は宿舎を出て第Ⅱ分校への登校を始めた。
~リーヴス~
「ふう、でもリーヴスって雰囲気もあって良い街よね~。のんびりとしながらセンスのいい店も多そうだし。」
「ああ……田舎過ぎず、都会過ぎない街というか。帝都からそう遠くないから程よい距離感なのかもしれない。」
「以前は、とある貴族の領地だったそうですね。その貴族が手放した後、別荘地が造成されたものの、諸般の事情で頓挫――――その跡地が第Ⅱ分校に利用されたとか。」
「さ、さすが詳しいわね。」
「なるほど、それで都合よくあの規模の分校を造れたのか……」
アルティナの情報にそれぞれ冷や汗をかいたユウナは若干感心している中クルトは納得した様子で呟いた。そして3人は再び歩き始めた。
「そう言えば……アルフィンさんとエリゼさんだっけ?二人は元お姫様と大貴族のお嬢様なのに、料理を始めとした家事全般を普通にできるなんて、正直意外で驚いたわよね~。あたし、てっきりお姫様や貴族のお嬢様は料理みたいな家事全般はみんなメイドさんとか執事さんとかに任せてできないって思っていたもの。」
「幾ら何でもそれは偏見じゃないか……?確かにそう言う貴族の家庭もあるが、貴族の家庭によっては平民の家庭のように令嬢や夫人がその家の家事をしている事もある。実際、僕の家も貴族だが、家事は母上が担当しているしな。」
ユウナの話を聞いたクルトは呆れた表情で指摘をした後説明をし
「そうなんだ……けど確かリィン教官やエリゼさんの実家―――”シュバルツァー家”って、貴族の中でも一番爵位が高い”公爵家”よね?それなのに、シュバルツァー家の令嬢のエリゼさんもそうだけど、元お姫様のアルフィンさんもリィン教官に嫁いで普通の一般家庭の奥さんみたいに家事全般をしている事自体も、結構驚きだと思うけど。」
「それは………」
「というかユウナさんが貴族の”爵位”の事を知っていたなんて、驚きました。」
ユウナの指摘を聞いたクルトが困った表情で答えを濁している中アルティナは目を丸くして指摘した。
「むっ、失礼ね………アルティナも知っての通り、クロスベルが”帝国”に成りあがる前に”六銃士”の人達がメンフィル帝国から1年半前の戦争でエレボニアから贈与してもらう取引をしていて、その取引によってエレボニアの領地の一部がクロスベル帝国に併合されたから、警察学校で貴族についてもある程度は教えられたわよ。それよりも話を戻すけど、どうして”シュバルツァー家”って”公爵家”なのに、家事全般をアルフィンさん達がしているの?」
「まずエリゼ様に関してですが、エリゼ様は元々リフィア皇女殿下の”専属侍女長”ですから、料理を始めとした家事全般は得意である事は当然かと。」
「へ……”リフィア皇女殿下”って、もしかしてメンフィル帝国の跡継ぎのリフィア皇女の事?」
「……そう言えば兄上から聞いた事がある。シュバルツァー家のご息女―――エリゼさんは若干15歳で、リフィア皇女殿下の”専属侍女長”という大任を任されている話を。それを考えるとアルティナの言う通りエリゼさんが家事全般が得意である事はむしろ当然だな………エリゼさんは皇族―――それも、大国の皇帝の跡継ぎの身の回りのお世話をする筆頭である”専属侍女長”なのだから、特に料理の腕前に関しては宮廷料理人もしくは最高級レストランのシェフクラスだと思うし。」
アルティナの説明を聞いたユウナが不思議そうな表情で首を傾げている中クルトは納得した様子で呟いた。
「15歳でそんなとんでもない存在になっていたって、エリゼさんって実は滅茶苦茶凄い人だったんだ………という事はアルフィンさんも料理を始めとした家事全般ができるのも、もしかしてエリゼさんから教えてもらったから?」
「それもありますがそもそも、”現時点のシュバルツァー家”は貴族の爵位の中でも最下位の”男爵家”ですから、使用人はわたし以外は存在せず、基本的に家事全般は教官達の母親であり、現シュバルツァー家当主であるテオ様の妻であられるルシア様が担当していて、ユミルの屋敷にいる時のエリゼ様やアルフィン様はわたし同様ルシア様の家事を手伝っているのです。」
「へ………”現時点のシュバルツァー家は男爵家”って、どういう事??確かリィン教官、自己紹介の時に”シュバルツァー公爵家”って言っていたわよね?」
自分の推測に対する答えを口にしたアルティナの答えを聞いて新たな疑問が出て来たユウナはアルティナに訊ねた。
「はい。そこに補足する形になりますが、テオ様はシュバルツァー家が”公爵家”になれた理由は教官達の功績なので、跡継ぎであるリィン教官がシュバルツァー家の当主になった時に昇進させて欲しいという希望があった為、”シュバルツァー家が公爵家に昇進する事が確定していますから”、テオ様を始めとしたシュバルツァー家の方々からシュバルツァー家の跡継ぎとして認められているリィン教官が”シュバルツァー公爵家の跡継ぎ”と名乗る事自体には特におかしな点はありません。」
「そんな事情があったのか……」
「何だか微妙にややこしい話ね………それで結局今のシュバルツァー家は”男爵家”だから、家事を担当するメイドさんや執事さんみたいな人はアルティナしかいないから、教官のお母さんや教官の奥さんになったアルフィンさんが家事を担当しているの?」
アルティナの話を聞いたクルトが驚いている中ジト目で呟いたユウナは気を取り直してアルティナに確認した。
「はい。わたしもルシア様達のサポートをさせてもらっています。……ただ、わたしは”シュバルツァー家”の方々をサポートする為に教官達に引き取られたのに一般的に言う”子供のお手伝い”のような簡単な事しかさせてもらえないのが、少々不満です。」
「いや、実際アルティナはその”子供”でしょ。………けど意外よね。確かアルフィンさんって、エレボニア帝国がメンフィル帝国に戦争を止めてもらう為に政略結婚として、リィン教官と無理矢理結婚させられたんでしょう?その割にはリィン教官の婚約者のエリゼさんやセレーネ教官、ベルフェゴールさんやリザイラさんとも凄い仲良しだし、リィン教官との関係に関しては初対面のあたし達ですらわかるくらい、その………リィン教官との夫婦関係が本望であるみたいにリィン教官に対してラブラブだし、リィン教官もアルフィンさんみたいに露骨じゃないけど、アルフィンさんがとても大切で大好きな事は伝わってくるし。」
ジト目になったアルティナの発言にクルトと共に冷や汗をかいて脱力したユウナは疲れた表情で指摘した後アルフィンがリィンやエリゼと接する時の様子を思い出しなが疑問を口にした。
「それに関しては僕も少し気になっている。メンフィル帝国との戦争が勃発した理由を考えれば、皇女殿下が教官に対して罪悪感を抱いても、それが恋愛に発展するなんて普通に考えたらありえないだろうし。」
「へ……エレボニア帝国とメンフィル帝国の戦争が勃発した理由でアルフィンさんがリィン教官に罪悪感があるってどういう事?」
「君も知っての通り、1年半前エレボニア帝国が内戦の最中メンフィル帝国に戦争を仕掛けられた理由はリィン教官とエリゼさんの故郷であり、メンフィル帝国領の一つ―――”ユミル”が貴族連合軍と深く関わり合いがあった”とある大貴族”が雇った猟兵達に襲撃された事だが………その”とある大貴族”が猟兵達にわざわざ他国であるユミルを襲撃させた理由は、当時貴族連合軍の魔の手を逃れてユミルに身を隠していた皇女殿下を捕える事だったんだ。そしてその襲撃の際にユミルにある建物等が一部放火されたり破壊され、領主である教官達の父君であられるシュバルツァー卿は領民達を守る為に猟兵達と戦って、重傷を負ったとの事だ。」
「そ、そうだったの!?じゃあクルト君がアルフィンさんがリィン教官に対して罪悪感を感じているような事を言っていたけど、もしかしてその件が理由で……?」
「―――はい。実際アルフィン様はユミルとテオ様の件でリィン教官に対して罪悪感を感じていたとの事です。……まあ、教官達はユミルやテオ様の件はアルフィン様のせいではないと仰って、アルフィン様が自分達に対して罪悪感を抱く必要はないという事をアルフィン様に伝えていたとの事ですが。」
クルトの話を聞いたユウナの言葉にアルティナは静かな表情で頷いて説明を補足した。
「へ……何でアルティナがそんな詳しい事を知っている――――って、アルティナはシュバルツァー家のメイドさん?のようなものだから、知っていて当然よね。」
「………まあ、”メイド”も”使用人”の一種ですから間違ってはいないかと。ちなみにユミルが襲撃された時、当時貴族連合軍に所属していたわたしがクルトさんが仰っていた”とある大貴族”とは”別の大貴族”の指示によって、ユミル襲撃の混乱に紛れてアルフィン様を誘拐してその人物の下へと送り届け、その後アルフィン様の誘拐を指示した人物とは別の貴族連合軍に所属していた人物の指示によって、故郷の襲撃を知って帰郷したエリゼ様を誘拐する為にユミル近郊に潜んでいましたが、イレギュラーな事態が起こり、急遽誘拐目標をエリゼ様からエリゼ様の母親であるルシア様に変更され、誘拐を実行しようとしましたが、わたしの存在に気づいていたメンフィル帝国大使――――”英雄王”リウイ・マーシルン前皇帝陛下が護衛兼伏兵を待機させていた為、誘拐を実行したわたしはその伏兵達に敗北し、捕縛された為メンフィル帝国の捕虜となりました。」
そしてユウナの疑問に淡々とした様子で答えたアルティナの答えを聞いた二人はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「……所々、聞き捨てならない事を聞いてしまったのだが。」
「っていうか、メンフィル帝国の大使―――”英雄王”って確かメンフィル帝国の前皇帝でしょう?何でそんなとんでもない人がエリゼさん達と一緒にユミルに行ったのか意味不明なんだけど……というか、よくそんな事があったのに、エリゼさんやアルフィンさんはアルティナと仲良くしているわよね?」
我に返ったクルトは疲れた表情で呟き、クルト同様疲れた表情で呟いたユウナはアルティナと親しく話している様子のエリゼやアルフィンの様子を思い出しながら不思議そうな表情で首を傾げた。
「………まあ、お二人の心が寛大である事やルシア様の件に関しては”未遂”ですんだ事も理由の一部と思われますが、”七日戦役”の和解条約締結後発足された”特務部隊”にリィン教官達に引き取られたわたしも所属して教官やエリゼ様達と一緒に行動をし続けた事によって親しい関係を築く事ができましたので。」
「そう言えば、君は1年半前の内戦終結に最も貢献したメンフィル帝国の精鋭部隊―――”特務部隊”にも所属していたとの事だったな。……という事は、皇女殿下と教官達の関係が良好になった理由は君と教官達のように内戦終結の為に教官達と皇女殿下が一緒に行動し続けた事によって、お互い親近感が出た事によるお陰なのか?」
「はい、恐らくそれが一番の理由かと。」
「へ~………まあ、理由はどうあれ、政略結婚がお互い両想いによる結婚になった事は結果的にはよかったんじゃないの?」
クルトの推測にアルティナは頷き、興味ありげな様子で聞いていたユウナは自身の意見を口にした。
「……そうだな。今の皇女殿下の状況を知れば、皇女殿下のその後を気にしていた父上達も安心するだろうな。」
「そうですね。リィン教官達の良好な関係を考えると教官達が避妊処置を行っていなければアルフィン様もそうですが、エリゼ様達もとっくにリィン教官の子供を妊娠、出産してもおかしくないかと。」
ユウナに続くようにクルトと共に頷いたアルティナだったが、その後に口にしたとんでもない発言に二人は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「に、にににに、”妊娠”に”出産”、それに”避妊処置”って事はやっぱりアルフィンさんとリィン教官――――ううん、アルフィンさん”達”ってリィン教官と”そういう事”も既にしていたの……!?」
我に返って顔を真っ赤にして混乱している様子のユウナはアルティナに訊ね
「”そういう事”………?ああ、一般的に見れば不埒過ぎる行為であり、夫婦もしくは恋人の関係になれば当然の行為――――”生殖行為”もしくは”性行為”と呼ばれる行為の事ですか。」
「わー!わー!お、女の子がこんな朝っぱらから、そんな事を口にしちゃダメよ!」
ユウナの遠回しな言い方の意味が一瞬理解できなかったアルティナだったがすぐに納得した表情になって呟き、アルティナの言葉にクルトと共に冷や汗をかいたユウナは顔を真っ赤にした状態で声を上げた後指摘した。
「ユウナさんから話を振ってきたのに、何故わたしにそんな事を指摘するのか、理解不能です。」
「というかそれ以前に、内心察してはいても知り合い―――それもこれから顔を合わせて授業をしてもらう教官達が既に”そんな関係”の間柄である事を知ってしまうなんて気まずくなるだけだから、正直口にはして欲しくなかったのだが……」
ユウナの指摘に理解できていない様子のアルティナにクルトは困った表情で指摘し
「はあ。ですが、お二人に限らず第Ⅱ分校の皆さんもリィン教官達が”そんな関係”である事は”察して”いたのでは?アルフィン様がリィン教官の妻で、エリゼ様達はリィン教官の婚約者である事は既に本人達も明言されていたのですし。」
「それは………」
「それはそれ!これはこれよ!というか何でアルティナは教官達が”そういう事”をしている事まで知っているのよ……まさかとは思うけど、教官達が”そういう事”をしている場面を見た事があるのじゃないでしょうね?」
アルティナの指摘に返す事ができないクルトが言葉を濁している中ユウナは反論した後、ジト目でアルティナに訊ねた。
「教官達が”そう言った行為”をしている時は大概ベルフェゴール様達が魔術による防音結界を展開していると、以前のアルフィン様達―――女性達だけの”がーるずとーく”という話し合いで教えて貰った事があり、その後教官もしくはアルフィン様達の私室に結界が展開されている様子を何度か見た事がありますから、その時に教官達が”そう言った行為”をしている事は察しました。それと極稀ですが、教官達が休暇等でユミル郊外である山中で行楽等をしている最中に、わたし達の隙をついてその場から離れたリィン教官とアルフィン様達の誰かが”そう言った行為”をしている所を実際に見た事がありますので。……勿論、その際はクラウ=ソラスのステルスモードを使って、即座にその場から離脱しましたが。」
ユウナの疑問に答えたアルティナはかつての事を思い出してジト目になり
「わー!わー!この話はもうおしまい!……魔術をそんな事に利用している所か、外で”する”なんて、やっぱりあの女好き局長の下にいたから影響を受けたのかしら?もしそうだったら、考えたくはないけどロイド先輩もリィン教官のように局長の女好きかつエッチな事が大好きな影響を受けているのかな……?ううん、さすがにあんなに真面目なロイド先輩が局長みたいになるなんて、それはありえないわ!」
「ふう………リィン教官に降嫁なされた皇女殿下のその後については父上達共々気にはなっていたが、知りたくもない皇女殿下達の家族内の事情まで知ってしまうなんて、皇女殿下に対して申し訳がないな……」
一方アルティナの話を聞いてクルトと共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたユウナは我に返った後顔を真っ赤にして声を上げて無理矢理話を終わらせてジト目になって小声でブツブツと呟き、クルトは疲れた表情で溜息を吐いた後困った表情で呟いた。
「そう言えばベルフェゴールさん達の件で思い出したけど、教官の他の”婚約者”の人達って、一体どういう人達なのでしょうね……?確かリィン教官にはエリゼさん達を含めて婚約者が8人いるって、話でしょう?今わかっている教官の婚約者はエリゼさんにセレーネ教官、ベルフェゴールさんにリザイラさんだから……後4人いる事になるし。」
「?後四人の内の一人に関してはユウナさんもご存知だと思うのですが。その人物は現クロスベル皇帝の一人―――ヴァイスハイト・ツェリンダー皇帝の養女にして、クロスベル皇女であるメサイア様なのですから。」
ユウナの疑問を聞いたアルティナは不思議そうな表情でユウナに指摘した。
「あ……そう言えば局長……じゃなくてヴァイスハイト皇帝陛下に即位前から養子がいて、その養子がメンフィル帝国との関係強化にメンフィル帝国の関係者と婚約している話は聞いた事があるけど、その相手ってリィン教官の事だったんだ。」
アルティナの指摘を聞いてある事を思い出したユウナは目を丸くして呟いた。
「はい。メサイア様はアルフィン様達の護衛を担当しているベルフェゴール様やリザイラ様と違い、今もリィン教官の”使い魔”の一人としてリィン教官の身体と同化して状況を見守っていますから、教官が必要と感じた時はメサイア様を召喚すると思います。」
「ええっ!?それじゃあ、メサイア王女はメヒーシャさん達みたいに”主”である教官と”契約”していて、今も教官と一緒にいるんだ……」
「(……そして”飛燕剣”の使い手であるという、兄上の話にあった人物の妹に当たる”女神”も教官の”太刀”と同化して常に共にいると兄上から聞いた事があるが………そう言えば教官は”太刀”を2本腰に刺していて、オリエンテーションの時は1本しか使っていなかったな……という事は使っていないもう1本の”太刀”に件の”女神”が……?)しかし……話を聞いていて気づいたがリィン教官の伴侶となる人物は、偶然とは思えないくらい高貴な方が多いな。」
アルティナの説明にユウナが驚いている中、クルトはある事を思い出して考え込んだ後気を取り直して自身の意見を口にした。
「た、確かに………エレボニアとクロスベルの皇女と結婚、もしくは婚約している上、将来”公爵家”になる事が決まっている教官の妹のエリゼさんやリィン教官と同じ貴族で、しかも当主のセレーネ教官とも婚約しているし……」
「そこに補足する形になりますが………エレボニア、レミフェリアのそれぞれの上流階級からリィン教官の縁談の話も相手方の方から提案されているとの事です。」
「ええっ!?ただでさえ、今でもリィン教官は結婚している上たくさんの婚約者がいるのに、まだ増えるかもしれないの………!?というか何で相手の家は教官は既に結婚している上、たくさんの婚約者がいるとわかっているのに、縁談を持ってくるのかしら……?」
クルトの推測に冷や汗をかいて同意していたユウナだったがアルティナから更なる話を聞くと再び驚き、そして困惑の表情を浮かべた。
「まあ、リィン教官はアルフィン皇女殿下を含めて、メンフィル、エレボニア、クロスベルの三帝国の皇族に連なる人物達と結婚、もしくは婚約している事で三帝国の皇族との縁戚関係になる事が確定しているからな。上流階級の者達からすれば、リィン教官と縁を結びたい相手だろう。しかも教官には多くの婚約者がいるから、その中に自分の娘も入れて貰える可能性もあると考えているのだろう。」
「そうですね。実際、教官は縁談を持ってくる相手方からはヴァイスハイト皇帝のように”好色家”として見られているようですし。……まあ、教官はその風聞を知った時頭を抱えて『何で、そんな風に見られてしまうんだ……誤解だ!』と叫んでいましたが。」
クルトの話に同意したアルティナは以前聞いた事があるリィンの心の叫びを口にし、それを聞いた二人は冷や汗をかいた。
「誤解もなにも、実際ヴァイスハイト皇帝陛下みたいにたくさんの女の人を侍らせてハーレムを築いているんだから、そんな風に見られて当たり前じゃない………そう言えば、さっきクルト君はリィン教官は”三帝国の皇族と連なる人物と結婚、もしくは婚約している”って、言っていたけどリィン教官が婚約者しているメンフィル帝国のお姫様って、どんな人なの?」
「何だ、知らなかったのか?メンフィル帝国の皇族に連なる人物はセレーネ教官だぞ。」
「ええっ!?セ、セレーネ教官が!?でも確かセレーネ教官って、自己紹介の時”アルフヘイム子爵家の当主”って言っていたわよね?しかも名前にもレン教官みたいにメンフィル皇家のファミリーネームである”マーシルン”もないし。」
クルトの口から語られた驚愕の事実に驚いたユウナは困惑の表情で指摘した。
「セレーネ教官の双子の姉である”蒼黒の薔薇”―――ツーヤ・A・ルクセンベール様はメンフィル皇家の分家の養子縁組を組んでいるのです。その為、ツーヤ様の妹であるセレーネ教官もツーヤ様と養子縁組を組んだメンフィル皇家の分家の養子にしてもらったとの事です。」
「そ、そうだったんだ………ねえねえ、アルティナ。上流階級の人達がリィン教官に縁談を提案しているって言っていたけど、もしかしてその中にはあたしでも知っているような凄い身分の人とかもいるの?」
セレーネの意外な出自を知って目を丸くしたユウナは興味本位でアルティナに訊ねた。
「そうですね…………”セイランド家”でしたら、ユウナさんも知っているのでは?」
「へ………”セイランド”って、もしかしてウルスラ病院に外科医の一人として務めているセイランド先生の事!?」
アルティナの問いかけを聞いてある人物に心当たりがあるユウナは驚きの表情でアルティナに確認した。
「はい。正確に言えば、ユウナさんが言っている人物の”姪”に当たる人物である”ルーシー・セイランド”という人物との縁談が提案されたとの事ですが。」
「驚いたな……”セイランド家”といえば、”レミフェリア公国”を代表する医療機器メーカーの一つ―――”セイランド社”の創始者の一族で、大公家とも連なる一族のはずだ。という事はひょっとしたらその縁談はレミフェリア公国の大公家の”意志”も関わっているかもしれないな………」
「大公家って、レミフェリア公国のトップの大公の一族の事でしょう?セイランド先生がそんな凄い家の出身だったなんて、知らなかったわ…………っていうか、何気にリィン教官との縁談相手になったその人も皇族の関係者って事じゃない。結婚しても、皇族関係者の女性との縁談の話が来るって、リィン教官の女性運って一体どうなっているのよ………」
アルティナの説明を聞いたクルトは目を丸くした後考え込み、ユウナは信じられない表情で呟いた後疲れた表情で溜息を吐いた。
「ユウナさんの意見には同意します。リィン教官に提案されている新たな縁談の中にはエレボニア帝国の皇女もいますし。」
「へ………”新たな縁談の中にはエレボニア帝国の皇女もいる”って事は、エレボニア帝国にはアルフィンさんの他にもお姫様がいるの?」
「ああ。リーゼロッテ皇女殿下という方で、元々ユーゲント皇帝陛下の正妃であられるプリシラ皇妃殿下の実家の子女として育った方なのだが、1年半前のメンフィル帝国との和解条約の件でアルフィン皇女殿下が降嫁された事で、エレボニアの民達からすれば”帝国の至宝”の片翼として民達にとても慕われていて、内戦終結に最も貢献したアルフィン皇女殿下がメンフィル帝国との和解の為に自ら責任を取ってエレボニア帝国から去った風に見られていて、それが理由で内戦やメンフィル帝国との戦争の件もあってエレボニア帝国全体が暗い雰囲気に陥りかけたんだが………その雰囲気をなくすために、明るい話題として、既に両親を亡くされていて皇妃殿下のご両親であられる祖父母の元で育っていたリーゼロッテ皇女殿下が選ばれて、アルノール皇家と養子縁組を組まれる事になったんだ。今では”新たな帝国の至宝”という呼び名で、民達の人気もアルフィン皇女殿下に劣らないと言われている程、民達に慕われている方だ。」
「そうなんだ………あれ?でも、エレボニア帝国の皇家って、既にアルフィンさんがリィン教官と結婚しているからリィン教官達との縁は十分あるわよね?なのに、何でリィン教官に新たな縁談を提案しているのよ?」
「………まあ、あくまで僕の推測だが教官との縁談はアルフィン皇女殿下の件同様”政略結婚”で、しかもエレボニア帝国政府の意向が関わっていると思う。エレボニア帝国は14年前の”百日戦役”、そして1年半前の”七日戦役”でメンフィル帝国との”力の差”を嫌という程、思い知らされたからな。しかも1年半前の戦争の件で国家間の関係は微妙な状況の上、メンフィル帝国はメンフィル帝国同様国家間の関係が微妙な状況になっているクロスベル帝国との関係は良好だから、1年半前連合を組んでカルバード共和国を滅ぼしたように、再び連合を組んでエレボニア帝国を滅ぼされない為に組まれた縁談かもしれないな。アルフィン皇女殿下とリィン教官の政略結婚はメンフィル帝国の要求で、あくまで1年半前の戦争の”和解条約”の一つとして組まれていただけだから、万が一メンフィル帝国との何らかの国際問題が発生して再びメンフィル帝国に戦争を仕掛けられた場合、アルフィン皇女殿下を理由に和解、もしくは戦争を止めてもらう事は恐らく不可能だと思われるしな。(しかし、リィン教官とリーゼロッテ皇女殿下の縁談の話があがっているなんて………まさかとは思うがその為に、陛下はリーゼロッテ皇女殿下を養子に取られたのか……?)」
ユウナの疑問に対する答えを推測で答えたクルトは真剣な表情で考え込み
「な、何それ………その為に養子にした人までリィン教官と政略結婚させようとするなんて、あたしには全然理解できない世界だわ。…………それにしても話は変わるけど、エレボニアの士官学校がこんなにハードとは思わなかったわ。訓練や実習は仕方ないけど、数学とか歴史とか芸術の授業まで……範囲とかレベルも普通の高等学校以上じゃない?」
一方ユウナはジト目で呟いた後話題の内容を変えた。
「文武両道はエレボニアの伝統だからね。……特にトールズは大帝ゆかりの伝統的な名門だ。たとえ分校であっても、その精神は変わらないんだろう。」
「むしろ今年からは本校の方が大きく変わっているようですが。」
「それは……」
「?よくわからないけど、気合を入れるしかないわね。他のクラスに後れを取らないようあたしたちも頑張りましょ!」
アルティナの言葉にクルトが言葉を濁している中、クルトの様子を不思議に思ったユウナは自分達への喝を入れた。
「……まあ、やるからにはね。といっても、授業の大半がⅧ組かⅨ組と合同ではあるけど。」
「別々なのはHRくらいですね。」
「うーん、そうなのよね。人数を考えると当然だろうけど、それじゃあⅦ組って――――」
「ハッーーーー選抜エリートが仲良く登校かよ。」
そしてユウナが疑問を口に仕掛けたその時、クルトとは別の男子の声が聞こえてきた。声に気づいたユウナ達が視線を向けると、そこには金茶髪の男子生徒がいた。
「あなたは―――」
「えっと、たしかⅧ組・戦術家の………」
「……おはよう。僕達に何か用件か?」
「クク……いや、別に?ただ、噂の英雄のクラスってのはどんなモンなのか興味があってなァ。Ⅶ組・特務科―――さぞ充実した毎日なんじゃねえか?」
クルトの問いかけに対して金茶髪の男子生徒――――アッシュ・カーバイドは不敵な笑みを浮かべて皮肉を交えた答えを口にした。
「………………」
「悪いが、入ったばかりで毎日大変なのはそちらと同じさ。」
「そうね、”あの人達”のクラスだからって今の所カリキュラムは同じなんだし。第一、それを言ったら貴方のクラスも、主計科のクラスもそうじゃない。Ⅸ組・主計科にはリィン教官達同様1年半前の内戦終結に大きく貢献した”特務部隊”の所属で、しかもリィン教官の次に有名でもある”参謀”だったレン教官がいるし、貴方のクラス―――Ⅷ組・戦術家に関してはクロスベル帝国にとっては英雄の”特務支援課”のランディ先輩と、え~と………名前は伏せておくけど、ランディ先輩よりも、もっと有名な”クロスベルの英雄”もいるじゃない。」
「だったらどうして、わざわざ別に少人数のクラスなんざ作ったんだ?明らかに歳がおかしい上噂の英雄と深く関わり合いがあるガキもいるし、毛並みの良すぎるお坊ちゃんもいる。曰く付きの場所から来たジャジャ馬の”留学生”もいるしなァ。おっと、この国からすればあの場所の出身者を”留学生”と呼ぶのは色々と思う所はあるかもしれないなァ。」
「………っ………」
「無用な挑発はやめて欲しいんだが。言いたい事があるならいつでも鍛錬場に付き合うが?」
アッシュの皮肉に対してユウナは唇を噛みしめてアッシュを睨み、クルトは呆れた表情で溜息を吐いた後表情を引き締めてアッシュを見つめた。
「クク、いいねぇ。思った以上にやりそうだ。だが生憎、用があるのは――――」
「うふふ、仲がよろしいですね♪」
そしてクルトの言葉に対してアッシュが不敵な笑みを浮かべて答えかけたその時、その場にはいない新たな女子生徒の声が聞こえてきた。
「あ……」
「たしかⅨ組・主計科の。」
「……ふん?」
声に気づいたユウナ達が振り向くとミュゼがユウナ達に近づいて立ち止まり、そして上品な仕草でスカートをつまみげて会釈をした。
「ふふ、おはようございます。気持ちのいい朝ですね。ですが、のんびりしていると予冷が鳴ってしまいますよ?」
「……確かに。」
「……そっちはまだ絡んでくるつもり?」
ミュゼの指摘にクルトが納得している中ユウナはジト目でアッシュを睨んで問いかけた。
「クク……別に絡んじゃいねぇって。そんじゃあな。2限と4限で会おうぜ。」
「ふふ、ごきげんよう。1限、3限、4限でよろしくお願いします。」
ユウナの問いかけに答えたアッシュはその場から去って分校へと向かい、ミュゼも続くように分校へと向かった。
「はあ……何なのよ、あの金髪男は!いかにも不良って感じだし、あんなのが士官候補生なわけ!?」
「露骨に僕達”Ⅶ組”に含みがありそうだったが……(いや……僕達というより―――)」
ユウナの疑問に答えたクルトが考え込んだその時、予冷が聞こえてきた。
「って、ヤバ……!」
「急がないとHRに遅れそうです。」
「ああ、行こう……!」
予冷を聞いたユウナ達は急いで分校へと向かった。
「ふう………ようやく2週間ですか。」
「ふふっ、どのクラスの子も頑張ってついてきてくれてるね。トールズ本校以上のスパルタだから大変だとは思うけど。」
一方ユウナ達の様子を見守りながら出勤していたリィンがふと呟いた言葉に対してトワは苦笑しながら答えた。
「ええ……加えて本校には無かった”教練”と”カリキュラム”もある。第Ⅱ分校――――プリネ皇女殿下達からある程度の予想は聞いていましたが、政府側の狙いが少しずつ見えてきましたよ。」
「うん……でも、この分校の意義はそれだけじゃないと思うんだ。トールズの伝統を受け継いだ”あの日”もあるんだしね。」
「”あの日”……ああ……アリサ達から聞いた事がある”あの日”ですか。”部活”の件も含めて放課後、伝えるつもりです。」
「うん、よろしくね。―――それじゃあ”リィン教官”、今日も頑張っていきましょう!」
「ええ――――”トワ教官”も!」
そして二人もユウナ達を追うように、分校へと向かった――――――
後書き
今回の話でアルティナがリィン達の家庭内事情まで暴露しちゃいましたwwしかも、新たなリィンのハーレムの一員になる可能性があるキャラ達のネタバレまで(ぇ)
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