ハイスクールD×D 聖なる槍と霊滅の刃
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第二部 英雄派と月の姫君
二人だけの…
「……疲れた」
曹操のせいで着せ替え人形にされて、すごく疲れた。
いろいろな服を視れるのは楽しかったし、曹操にも選んでもらえたけど……本当に、疲れた。
少し恨めしげな眼で曹操を見れば、怪訝そうにこっちを見てる。
「そんなに疲れるものか?」
「………曹操も、されればわかる」
本気で、心底不思議そうな曹操にちょっとばかり恨み節で返す。曹操はこういうことに慣れているのだろうか、私は慣れてないのもあってこんなに疲れたんだけど。
少しばかりもやもやした気持ちも自覚しながら、曹操を上目づかいで見れば…
「では彼氏さんもメンズコーナーで試着はいかがでしょうか!」
「!?」
先ほどの店員さんが、妙に高いテンションで戻ってきた。
ぎょっとした様子の曹操。絶対断りにいくだろうけど……そうはさせない。さっき見捨てられたお返しだ。
「……見立ててあげてください」
「四織!?」
「かしこまりました!」
本当に珍しく、若干声を張る曹操。余計なことを…!とでも言いたげな視線が向くけど、知らない。先に見捨てたのは曹操のほうだから。
どれだけ疲れるか、知ってもらうのも悪くないし。私も、曹操の服を選んでみたいし。
引きずられていく曹操を見ながら、私もその後を追って歩き出そうと…
「あ、お客様!少し、いいですか?」
「?」
…曹操を試着室に放り込んだのか、先ほどの店員さんがそこにいた。
何か用なのかな?首を傾げると、内緒話でもするように声を潜めた。
「実はですね、当店では現在……」
「……?どういうもの、ですか?」
「いかがでしょう。お時間があるようなら、ぜひ見ていただきたいのですが」
「………わかり、ました」
服を選べないのは残念だけど、こっちも興味はある……かな
◆◇◆◇
「……なるほど。意外に疲れるものだな」
あれこれと服を勧められ、俺は少しばかり疲弊して試着室から出てきた。
が、待っているはずの文姫の姿がない。どこに行ったのだろうか。
と、文姫の服を選んでもらった店員がこちらに近づいてくるのが見えた。
「すみません、彼女さんはこちらです。うちでやっているフェアに興味を持たれたようでして」
「…………」
彼女は、今まで「普通」の生活をしてこなかった。だからこそ、こういう機会を体験させてやるのもいいかと思ってここに来たのだが。どうやら、予想以上に楽しんでいるようだ。
まあ、俺の思惑はともかく。ゲオルク達には「偵察」と伝えてあるはずだ、仕事をしなくてはな。
店員に案内されるまま、通路を歩く。階段を上ったあたり、二階にいるのだろうか。
「―――曹操?」
二回に上がってまず目に飛び込んできたのは。
――目の覚めるような、純白のドレスを着た文姫の姿だった。
黒髪と闇色の瞳とコントラストを描く、目の覚めるような純白の、シンプルなドレス。
「…どういうことだ」
周りを見渡してみれば、同じようなドレスがあちこちに展示されている。
上の方にも目を向けてみれば『ウェディングフェア』という横断幕があった。
なるほど、確かにここならあの衣装も不自然ではない。不自然ではない、が―――
「…四織、どういうことだ」
「着てみないかって言われて。断るのは、悪いかなって」
似合う?と首を傾げる彼女の姿は、今まで見たことがないもので。
普段は絶対にしないであろう、豪奢な服装とのギャップが印象的だった。
「ああ、似合っていると思う」
「……ありがとう」
いつも通り返してやれば、笑みが深くなる。感情が心の器から溢れて、そのまま表情となったかのような笑顔。
そんな笑顔に引き付けられたところで、ふと第三者の声が届く。
「彼氏さんも折角ですし、着替えてみますか?」
「……いや、俺はい」
「曹操のも、見たい」
店員からの予想外のアクションに断ろうと声をあげようとするが……その声を遮るように、文姫が小さく呟く。
普段はこういったことに興味を示さず、確たる意思表示もしない文姫だが。今日はどうやら、いつもとは違うようだ。
―――その姿が滅多にないものだからこそ、叶えてやりたいと思ってしまうのは俺の弱みなのか。
半分以上、諦めに染まった頭で考える。
「よろしければ写真も撮られませんか?飾らせていただけるならお会計2割引ですよー?」
その後。俺が着替えて写真撮影に応じたかどうかは、俺と彼女しか知らない。
ただ。珍しく、文姫が表情豊かだったことだけは、確かだ。
◆◇◆◇
少し疲れた出来事はあったけれど、私たちは適当なところで済まして散策をしていた。
クレープ屋を見つけた私は、少し周辺を歩き回りたいという曹操と、待ち合わせ場所を決めて合流することにした。多分、この町を見て回るのだろう。
もともと、護衛として一緒に来たんだからついていくと私が言っても、護衛のことはいいから楽しんで来いと送り出されてしまった。ずるい。私がどうすれば引き下がるか、よく知っているんだから。
「悪いねえ、ミックスベリー味は売り切れなんだよ」
「ん~……じゃあ、これとこれで」
クレープ屋さんで、メニューにあったミックスベリー味を頼むも売り切れで。
仕方がないから、曹操の分も合わせてもう一つ買う。ストロベリーとブルーベリーだ。曹操はブルーベリーのほうが好きかな?
町の人々の話を小耳にはさみながら、通りを歩く。
「あ、あのクレープ屋……か、会長、俺たちも…!」
「何を言っているのですか。行きますよサジ」
「………はい」
? あのクレープ屋さん、何かあるんだろうか?
そういえば、ミックスベリー味は恋が叶うだとか言っていたような気はするけど……
クレープを手にして街を歩く。そろそろ、曹操と待ち合わせた公園につくはず。
「――ねー、彼女?一人?」
「だったら俺らと遊ばねえ?」
……なんだか、邪魔が入ったみたいだけど。二人連れの派手な格好の男の人たちが私の前に回り込む。
私なんかに声をかけなくても、もっとかわいい子なんてその辺りにいるのに…
「ごめんなさい、待ち合わせをしているので…」
「えー、ちょっとくらいいじゃん。そんな時間かからねーからさあ」
穏便に断ろうとしても、貼り付けたような笑顔で迫ってくる。どうしよう…流石に目立つのは、避けたいけど。……いざとなったら、強行突破か―――
「――すまないが、俺の連れに何か用か?」
その声に振り返ってみれば、後ろに曹操がいた。あれ?いつの間に。
若干顔が引き攣っていて、鋭く二人を睨みつけている。……なんだか怖いよ?
睨まれた二人連れは凍りついたように動きを止めた後、ぎくしゃくとした動きで去って行った。
「まったく……君は、もう少し自分のことを知ったほうがいいな」
「……どういうこと?」
ちょっとまだ不機嫌そうな顔で私を見てくるけれど、意味が全く分からない。
だから首を傾げて返すと、すごくため息をつかれた。え、なんで?どうして?
…まあいいや。それより
「曹操。買ってきたから、食べよう?」
手に持っているブルーベリー味のクレープを差し出すと、一瞬解せない顔をしたけど受け取ってくれた。
待ち合わせ場所だったはずの公園に入って、ベンチが空いてなかったので、ストロベリー味を一口食べる。うん、美味しい。少し口周りは汚れてしまうけれど。ソースを指で拭って、ぺろりとなめる。
…ストロベリー味だけじゃ物足りないなぁ。
「ね、曹操」
「どうした?」
「一口、頂戴?」
ちょんちょんと指で隣の曹操をつつく。ブルーベリーのほうも気になる。
曹操が差し出してきたクレープに噛り付く。あ、ブルーベリーもおいしい。
勿論、ただとは言わないから。
「私のほうも、あげる」
差し出すと、曹操は予想外だったみたいで一瞬固まる。どうしてもいやらないいけど……
「……自覚してやってるのか?」
「?」
何か言った気がするけど、よく聞こえなかったので、首を傾げる。そんな、理解をできないような視線を向けられても、私も困るんだけど…。
「はい、曹操も食べてみて?」
「いや、しかしだな…………」
「食べて、くれないの?」
「…………わかった」
…泣き落とし(?)は演技だったけど、観念したのか曹操は私のストロベリーを一口齧る。
これで、二人ともミックスベリーを食べれたことにはなる。満足かな。
……少し、眠くなってきたかも。
◆◇◆◇
彼女がどうやら、ウトウトと舟を漕ぎ出したようだ。
二人で旅から旅への生活をしていた時によく見ていた光景ではある。が、旅を始めた当初の頃は、自分の前で寝ることはおろか、近づいたらすぐに飛び起きていたが。
こうやって眠る姿を見ることができるのは、なんだかんだで親密になった証かもしれない。
「……」
ぐらりと、頭が揺れる。意識を手放しかけている文姫を咄嗟に支える。
流石に、公園の地面で横になるのはどうかと思うが。文姫は気にしないかもしれないが、さすがにそれはまずいだろう。
「仕方がない」
力の抜けた文姫の頭を、膝の上に乗せる。そうすれば彼女の髪が広がって。
手で梳いてやると、さらりとした絹糸のような手触りが広がる。手触りの良い黒髪は、俺も嫌いではない。
そのまま何分か経過した頃。不意に、文姫の寝息が止まる。
何事かと訝しんだ直後、ばっと起き上がる。その直後。
「曹操!この大事な時期に一体何を「はぁーい二人共ゆっくり出来たわね?さ、帰るわよ」ジャンヌ!お前の差し金か!」
相当に怒っているらしいゲオルクと、にやにやと笑っているジャンヌが転移してくる。
――どうやら、調査兼息抜きはここまでの様だ。
「ああ、悪い。どうしても、直接見てみたかったからな。文姫を護衛にしておけば、危険もないと判断したんだが」
そう言ってやるとゲオルクは不満そうだが黙りこむ。
「さて、では帰ろうか」
「ん」
すっかり起きてしまった文姫に手を伸ばせば、素直にその手が取られる。
久しぶりの、二人だけの時間だったが。……こういうのも、たまには悪くない。
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