銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第四十六話 勇者達の帰還
フリードリヒ4世の演説はテレーゼがラインハルトのを参考に作成し、
ケスラーが校正。
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第四十六話 勇者達の帰還
帝国暦479年3月12日
■オーデイン
臣民の帰還と称する捕虜交換式典代表者を誰にするか帝国側は決めかねていた。
叛徒との式典自体が異様なのである、通常の精神の持ち主では敬遠するのが当たり前であった。
フリードリヒ4世やルードヴィヒ皇太子が行啓するわけにも行かず。
ましてやテレーゼ自身が発案者だと言っても裏方に徹している事、
また8歳という年齢やベーネミュンデ侯爵夫人の反応を考える以上論外であった。
各尚書とて同じである、直接的責任者は軍務尚書のエーレンベルク元帥だが70歳という年齢が長距離移動に不安を感じさせる上に旧態依然な軍人で有り、陛下の御心を理解できない場合が有る為除かれた。
既に叛徒の俘虜を乗せた輸送艦及び病院船が各地を発進しイゼルローンヘ向かいつつある。
結局の所、皇帝陛下の鶴の一声で特命全権大使に帝国侯爵にして帝国軍中将である、
レギナルト・フォン・ケルトリング侯爵が親補され、皇帝陛下より臣民に向けた詔を受けたのである。
ケルトリング中将はこの年45歳であった。
護衛艦隊1000隻の指揮官として祖父が第二次ティアマト会戦で勇戦し、
先頃の第四次イゼルローン攻防戦で活躍した、
帝国男爵にして帝国軍少将である、クリストフ・フォン・シュタイエルマルク男爵が親補された。
また俘虜交換の実質的な責任者として、グリンメルスハウゼン子爵令息のマンセル・フォン・グリンメルスハウゼン少将が親補された。
また今回もエルネスト・メックリンガー少佐が参謀として参加することも決まった。
病院船にはグリンメルスハウゼン旗下多数の組織員がDNA検査の為乗り込んでいた。
輸送艦には許可を受けた諜報部が見張りを行う為に乗り込んだ。
3月15日、皇帝陛下、皇女殿下御臨席の中、レギナルト・フォン・ケルトリング中将指揮下の艦隊が宇宙艦隊第2宇宙港から出立した。
4月20日艦隊はイゼルローン要塞にて先発した輸送艦病院船と合流1200隻の艦隊と成り、
前回同様駐留艦隊の航海参謀のビュルクナー少佐が水先案内に乗艦しエル・ファシルへと向かった。
前回同様、アルレスハイム、パランティアと危なげなく進む。
4月23日アスターテ星系に於いて叛徒側の水先案内の為の1000隻ほどの艦隊と合流した。
翌24日艦隊は何もなく無事エル・ファシルへ到着した。
宇宙暦788年3月10日
■自由惑星同盟ハイネセン 統合作戦本部記録統計室 ヤン・ウェンリー
資料を読みあさっていたら、室長のオスマン大佐から人事局へ行くようにと言われたので飲みかけの紅茶を飲んでから出頭した。
人事課長からエル・ファシル警備艦隊へ幕僚として赴任するように辞令を受けた。
どうやら古い資料ばかり読みあさっていたので、厄介払いされたらしいな。
15日にエル・ファシルで行われる捕虜交換式に参加する艦船が出るからそれに便乗して行けとの事だった。
はっーぁ・・・折角天国の様な職場だったのに、エル・ファシルなんて前線じゃないか。
世の中やっても駄目な事ばかり、今日は早く帰って酒飲んで寝よう。
宇宙暦788年3月15日
■自由惑星同盟 ハイネセンポリス
ハイネセンでは今熱狂のうちに捕虜交換式に向かう政府高官、軍首脳、各社マスコミそして其れも見送る市民達でごった返していた。
一部のマスコミや市民は今回の捕虜交換が弱腰外交だ全員を取り返せと声を上げていたが、
そう言った声は、憂国騎士団等の組織による襲撃や嫌がらせを受け、
表には殆ど知られなかった。
今回政府側代表者として国防委員長ティボールド・フランクリン以下40人の評議会委員が随員として付き添った、随員を決める際かなりの駆け引きが生じて結局40人という大人数と成ったのである。
さらに正式な随員ではない、軍人や家族の票を基盤とする“国防族”とかいう政治家達もなんやかやと理由を付けて随伴していくその数100人以上。
そのうち元軍人が半数以上を占めていた。
別に彼らが、自分達が送り出した為、捕虜に成った者達への贖罪で随員になったわけではなく、
この一大イベントで顔を売り名を売れば次回選挙での票数獲得に多大なる恩恵を浴びる為だけであった。
随伴するマスコミも政府の紐付きや癒着している所が優先的に招待され特別便でエル・ファシルへと向かうのである。
最高評議会議長 ディオニシオ・エンリケス以下最高評議会議員が見守る中、
マスコミのフラッシュを浴びながら、ティボールド・フランクリンは手を振りながらタラップを昇りシャトルへと消えた。
軍側代表者は統合作戦本部次長ミハイル・ブルドゥコフスキー大将以下30人の随員で編成されていた
また捕虜監視や帰還兵のアフターケアー職員、
そして諜報部の腕利き尋問官も混じって居た。
更に一番目たない所から飛び立つシャトルには、
今回の件には関係がない便乗者達が集まり出発していった、
既にエル・ファシルへ向かっている軍用輸送船を追いかけるように出発して居いった。
途中何の障害もなくシヴァ星域にて合流を果たし、
不慮の事件や帝国がだまし討ちを行う可能性を示唆し、
演習の為と称してこの星域に留まっていた、
第7艦隊と合流し進発した。
その後は順調に航海を続け、4月22日にエル・ファシル星域に到着した。
帝国軍到着が24日の予定の為、捕虜達は地上に特設された収容施設に移され監視された。
宇宙暦788年 帝国歴479年4月24日
■エル・ファシル
帝国側が僅か1000隻の護衛しか連れて来なかったにもかかわらず、
同盟側は帝国が今ひとつ信用できない為第7艦隊以下17000隻で出迎えるという、
威圧的な状態であった。
その映像を随伴した組織員やTVクルーが撮影を行っていた。
到着した帝国軍輸送艦、病院船200隻は大気圏に進入しエル・ファシル宇宙港へ降下した。
ケルトリング中将旗艦ウィボイクザームのハッチが開き帝国軍の代表者たる、
ケルトリング中将以下随員が生身の姿を見せたとき、
興奮の囁きがわき起こった。
マスコミのフラッシュ攻勢に曝されながら嫌な顔をせず堂々とタラップを降りてくる。
そして捕虜交換式を行う準備が始まった。
両国の国歌ではなく、両軍の軍楽曲が響く中、
フランクリン国防委員長がケルトリング特命全権大使を出迎え、
握手を交わすと無数のフラッシュが閃いた。
二人は会場内を歩いて、中央のテーブルに歩み寄った。
其処に捕虜のリストと交換証明書が置かれていて、
二人のサインを待っている。
それぞれの前に置かれた二通の証明書に、
二人はサインをし公職の印章を押す、交換して再びサインをし印象を押す。
時間にして二分とはかからなかった、
此で両軍併せて200万の兵士が故郷に帰れる事になったのだ。
■エル・ファシル 帝国側捕虜収容エリア
ケルトリング特命全権大使以下随員が帝国側捕虜の収容されているエリアへ行き、
全捕虜の前で皇帝陛下の詔を読み上げた。
『勇戦虚しく敵中に囚われた忠実なる兵士達に、予は名誉に懸けて次の事を約束する。
卿等全員を名誉ある臣民として遇する。
俘虜になりし事が罪であるがごとき事は此を行わさせぬ。
帰国した兵士全員に此までの俸給と共に一時金を支給し休暇をあたえる。
軍に復帰を希望する者には全員一階級昇進させる。
復帰を希望しない者にも一階級昇進させ、新たな階級を持って恩給を与える。
我が兵士、我が臣民よ、卿等が恥ずべき事は何もない、
卿等は勇戦奮闘したのだから。
胸を張って帰国せよ、予は卿等の帰りを待っておるぞ。
銀河帝国皇帝フリードリヒ4世』
この詔を聞いた帝国軍捕虜は最初呆然としていたが次第に意味がわかると、
大歓声がわき起こった、そして誰とも無く皇帝陛下万歳、帝国万歳の大合唱が起こっていった。
興奮やまぬ中名簿順に順次輸送艦病院船に規律を持って乗り込んでいく帝国軍兵士達、
彼らの顔には希望や嬉しさが見えている、
皆がにこやかである。
乗船すると美人の女医や看護婦達による健康チェックが行われはじめた、
その話を聞き、多くの兵が我先にと検査を受けに来て女医や看護婦に見とれながら、
レントゲンやCTスキャン血液検査などが行われたのである。
そして病気を持つ者は病院船へ移されて治療を受け始めたのである。
実際此はテレーゼが人間心理を考えて女医を配置したのであり、
それでも中々来ない人間は注意するようにしたうえ、
血液検査にかこつけ、フェザーンの独立商人コーネフ氏から密かに買い込んだ、
DNA検査キットにより詳しい親族チェックが進んでいたのである。
そんな中、クリストフ・フォン・ケーフェンヒラー大佐は心電図に異常が見られた為、
病院船へ移り詳しく検査した結果、
心筋梗塞に成りつつある事が判明し早急な処置を行われる事と成った。
■エル・ファシル 同盟側帰還兵収容エリア
同盟軍の帰還兵達は幽鬼のような兵達が多数であった、
地獄を生き抜いた者達は、隣同士でも啀み合い、
中には既に掴み合いをする兵すら居る。
その者達をMPが厳しく取り締まるが、
兵達から『安全な内地にいる犬っころ野郎共』と罵声が飛ぶ。
その喧噪の中、国防委員長が現れ長い訓辞を話し始めた、
苛つく帰還兵達、騒ごうとするがMPが銃で威嚇を始めている。
『俺達は国の為に働いたのにこんな仕打ちかよ』
多くの兵が苛つきを隠せない。
やっとの事で国防委員長以下の長い演説から解放されたが、
今度は国防族が兵達に万年筆や靴下とかタオルとか時計を配りだした。
そういった品物にはなんと委員個人の名前や政治団体の名前が記入してある。
早速100万の有権者にたいして選挙運動をし始めているのである。
帰還兵達は口々に『俺達を戦場に送り出して、謝罪に来たかと思ったら選挙運動かよ、巫山戯けんな!』
『てめーらは、ハイネセンでぬくぬくしやがって、矯正区で地獄を見やがれ!』
など口々に罵声を浴びせ始めた。
その声を聞いたある議員が、
『君達が帰れたのは私たちの努力のたまものなのです。
感謝こそされても罵声を浴びるような事はしておらん!』
などと火に油を注ぐ状態になりMPが割って入る始末であった。
帰還兵は順次取り調べを受け、少しでも怪しい帰還兵は別室へ連れられ監禁された。
此は諜報員の侵入を防ぐ為のモノであるが、
取調官の余りの態度にキレる兵が続出し大変な混乱と成っていった。
また、疑いのない兵達は解放された喜びから、
なんかと箍をはずして行動し、彼方此方でトラブルを起こしまくっていた。
酒を飲み、基地内の兵士やエル・ファシル市街へでて喧嘩をする。
女性にからんだり襲ったりする。
町中や通路で立ち小便をしたり器物を損壊したりする。
その他数え切れない事を次々に行っていった。
駐留部隊幕僚のヤン中尉もその取り締まりに参加させられ、
一発殴られ気絶する有様であった。
■エル・ファシル捕虜収容施設
帰還兵の中で網膜パターンの合わない者、怪しい者が4857人も居た為、
彼らこそ諜報員だと判断し全員をエル・ファシルからハイネセンの諜報部へと移送する事になり、特別な輸送船により一足早く出発した。
そして航行中も厳しい尋問が続いたのである。
結局大半の兵が帰りたいが一心で死亡者の認識票を利用しその者に成りすまして帰国した事が判ったのはハイネセン到着前日であった。
軍上層部はその成りすましに対して確固たる態度で臨む事を決め、
兵達は軍法会議に掛けられる事と成ったのである。
諜報部としては4857人全員がDNAと網膜パターンにより実在の人物と判った為、
諜報員として帝国側に寝返った者が居ると断言した。
さらにメンツの上でも100万人の帰還兵を監視できるように部署を特定し調べるように提案した。
同盟内部では疑心暗鬼の芽が発生していたのである。
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増補しました
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