魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第137話「手分け」
前書き
ここから視点がいくつにも分かれていきます。
……ぶっちゃけ、描写しきれる気がしないです。
=優輝side=
「……では、言った通りのグループに分かれて、各自向かってくれ。だが、深追いや無茶はするな。相手は僕らにとって魔法を使わない、未知の相手だ。霊術に比較的詳しい椿たちにすらわからない事もある。……決して、油断はするな」
「「「「「「「はいっ!!!」」」」」」
クロノの指示を聞き終わり、皆が返事を返す。
あの後、いつもの面子と戦闘部隊の人に指示が下った。
……と言っても、各方面に行って妖の脅威を抑え込めって感じだが。
作戦としては、主に結界で抑え込む形となっている。
警察や自衛隊などとの連携はまだとっていないが、それらの戦力でも何とかできる程度に妖を隔離してしまえば、被害は一気に減らせるだろうとの事。
門を閉じる事ができない状態での判断としては良い方だろう。
そして、霊術が扱え、門が閉じれる面子は当然閉じに向かう事になっている。
管理局員としては不本意だろうけど、アリシア達も作戦に入っている。
僕らと違い、三人で行動になっているが、やはり実戦経験の差で不安なのだろう。
「……問題は大門の守護者の位置か……」
各地の被害などは、現地の警察や偶然居合わせた退魔士が応戦してくれているらしく、そこまで大きくはなっていない。
現地に赴く過程で、非戦闘員の人達が通信を繋げて連携を取れるようにするため、被害自体はさらに小さくできるだろう。
……だけど、大門の守護者に遭遇した場合は別だ。
普通の守護者は大抵は門から動かないため、逃げればいいが、大門の守護者は移動し続けている。おまけに、とんでもない強さなので並の力量で挑めば死んでしまうだけだ。
「アースラからサーチャーで捜索しているが、探し出せるとは限らない。警戒するだけで対処できる訳ではないが、それらしき者を見つけても不用意に近づかないように」
「(今の所、それが最善か……)」
そして、帝から得た情報だが、妖が魔力にも惹かれてくるようになったらしい。実際、各地に散らばっている管理局員からもそういった情報は来ていた。
ただ、妖をさらに呼び寄せる訳ではないため、霊力よりはマシらしい。
「……管理外世界とは言え、管理局の不始末による結果だ。殉職したランスター一等空尉を責める訳ではないが……もう、魔法を秘匿する事も不可能だ。本来秘匿するべき霊術を現地の退魔士の人々も力を振るっている。出し惜しみはするな」
「一般人や自衛隊、警察と言った機関への説明は私達が担当します。……ただ、霊術関連の人達への対応は、草野姫椿さんを筆頭にした霊術を扱える人達に任せる場合もあります。心に留めておいてください」
「…ええ」
シーサーさんはまだこっちには来れない。
自衛隊との連携が取れるようになれば、沖縄も安全が確保できるだろう。
と言っても、沖縄ももう残党しかいないようだから、来ようと思えば来れるだろう。
「では、今すぐに向かってくれ!」
クロノのその言葉を皮切りに、行動を開始する。
まず向かうのは都心の安全確保。
京都はもう門を封印したため、次は東京方面だ。
都心が安全になれば色々と動きやすくなるだろうからな。
次に優先されるのは、一際強いとされる妖の討伐。
これは主に僕や椿たちが担当するが、玉藻前とかの他にも結構いるらしい。
椿と葵が既に討伐した富士龍神と呼ばれる龍も、その部類との事。
「じゃあ、優輝、しばらくは別行動よ」
「決して無理しないでね?」
「念を押すなぁ…。わかってるよ」
「ホントかなぁ?」
別れ際に葵が疑ってくる。
そんな疑われるような事……してるな。うん。
ちなみに、魔導師達は基本的に部隊で行動で、僕らは一人だ。
これは霊力と魔力の相性関係から、多い方がいいと判断したようだ。
だから、僕と椿と葵、それと司や奏も皆一人で行動する事になっている。
「さて……と」
転移し、早速行動を始める。
僕が担当するのは、利根川に由来する龍神となる“利根龍神”。
椿と葵曰く、それぞれ有名な川には龍神がいるらしい。
とりあえず、まずは祠に向かうとするか。
「……さすがに、でかいな」
椿と葵が祠の大体の位置を知っていたので、教えてもらっていた。
その通りに行けば、あっさりと利根龍神の祠は見つかった。
まぁ、利根川を由来にしているのなら、川を沿って行けばいいだけなんだが。
「こいつが利根龍神か……」
見た目はよく日本で知られる龍そのものだ。蛇型の長いアレだ。
水色の胴体に、青い角。ごく普通と言うのもおかしいが、そんな感じの龍だ。
「っ!」
ドォオン!
既に利根龍神は僕にロックオンしているらしい。
尾が振るわれ、僕はそれを跳んで躱す。
既に結界を張っておいたため、多少の事では周辺に被害は出ないだろう。
「っと、シッ!」
スパッ!
胴体に着地し、リヒトで一閃する。
しかし、浅くしか切れない。鱗が丈夫らしい。
「ふむ……」
椿と葵から聞いていたが、利根龍神は龍神の中でも弱い方らしい。
しかし、それでも龍神には変わりないようだ。
質量を利用した尾の一撃に、鱗の丈夫さ。雑魚ではないようだ。
「っと、っと」
当然、乗っている僕に反撃しない訳がない。
身を捩じらせて落とそうとし、直接噛みついてきた。
躱したとは言え、まともに食らえば中々の威力だろう。
「……だけど、それだけだ」
底は見えた。確かに、図体の大きさを生かした攻撃は脅威だ。
尾や牙、爪の攻撃はどれも殺傷能力が高い。
だけど、僕から言わせてもらえば“その程度”だ。
玉藻前のように霊術が得意と言う訳でもない。
図体が大きいだけでは、負ける要素はない。
「さて、悪いが……」
ドンッ!
「グウゥッ!?」
「さっさと決めさせてもらうぞ。後がつっかえているんだ」
爪の一撃を躱し、その勢いのまま霊力を込めた掌底を叩き込む。
念のため、霊術の類は警戒し続けている。
それを踏まえても、負ける気はしないがな……!
=椿side=
「ふっ!」
静岡県のとある場所。少し昔は駿河と言われていた場所で、私は行動していた。
ここは、早めに処理しておかないとダメだもの。
「次から次へと…!」
矢を射る。現れる妖は全て蜘蛛の妖だ。
街にも被害が出ており、蜘蛛の糸塗れになっている。
酷い類では、扉などに糸が張られ、塞がれてしまっている。
「邪魔よ!」
……でも、それでも“前回”よりはマシと言えてしまうわ。
“前回”……つまり、江戸の時。
私は“あの子”と共にこの駿河…蟲毒の社と言われる場所に来た事がある。
この地にある幽世の門は、土蜘蛛を生み出す。
その土蜘蛛によって、蟲毒の社は変質してしまっていた。
……今の街と違って、全滅していた。
「………」
それに比べれば、マシと言えるわ。
「……さすがに、街並みが変わっているから探し辛いわね」
当然だけど、昔と今では建物とかが完全に違う。
そのため、門の位置も分からなくなっている。
「キシャァッ!」
「甘いわ」
物陰から襲い掛かってきた妖を炎の霊術で焼く。
一人とはいえ、この程度の妖で苦戦する事はない。
前回来た当時と比べて、私は遥かに強くなっているのだから。
「……糸が多い。…こっちね」
どうやら、門に近づくにつれて蜘蛛の糸も多くなっているようね。
前回もそうだったから、間違いないわ。
「……もう」
忘れてはならない事がある。それは民間人の救助。
私がすぐに手が届く範囲であれば、助けないとね。
……私個人としても、見捨てるのは後味悪いし。
「弓術士としての本領を見せようかしら」
三階建ての家を見つけ、その屋根から街を見下ろす。
そして、弓を引き絞り……。
「それ以上、手は出させないわよ」
射る、射る、射る。
私は、弓術士として名に恥じない腕を持っていると自負している。
だから、当然のように放った矢は、そこらにいる妖を次々と貫く。
「……これぐらいね」
ある程度殲滅は済んだ。これなら、被害が増大する前に守護者を見つけれるだろう。
「……悠長にしてられないわね。早い事、片づけないと」
手分けしているとはいえ、全てを補える訳じゃない。
管理局の戦力にも穴はある。……と言うか、穴だらけね。
だから、すぐに終わらせれる所はさっさと終わらせた方がいい。
「そう言う事だから、一気に決めさせてもらうわよ」
考えながら行動している内に、門と守護者を見つけた。
守護者は絡新婦。土蜘蛛だから当然ね。
守護者なので当然、他の妖とは一線を画した強さだけど……。
「でも、玉藻前などに比べれば、弱い」
事前に用意していた御札の術式が発動する。
それは、一時的だからこそ強い効果を発揮する身体強化の術式。
絡新婦の糸や足の攻撃を掻い潜り、至近距離から矢の一撃を与えられるようになる。
「悪いけど、すぐ終わらせるわ」
ここから始まるのは戦闘ではなく、蹂躙。
幽世の大門を閉じるには、こんな程度で足止め喰らう訳にはいかないものね。
=葵side=
「ん~、あたしの担当多くない?」
東北地方を駆けながら、あたしは呟く。
……と言っても、実際指示された箇所は一か所だけなんだけどね。
“多い”と言った訳は、それに加えて確かめておこうと思った場所が他にもあって、それをかやちゃんに頼まれたから。
「まずはここから……だね」
本来の担当は北上川にいる北上龍神の討伐。
だけど、今いるのはかつて陸奥と呼ばれていた地。
「……いるかな、悪路王」
そう。確認したいのは悪路王がいるかどうか。
彼がいれば、何か分かったりするかもしれないしね。
……でも。
「……あれ?鬼がいない……」
本来ならいるはずの鬼の妖が少なかった。
進むにあたっては都合がいいけど、もしかして……。
「………いない」
最深部には、誰もいなかった。
「……これは……残り香?」
その代わり、最深部には霊力の残滓が僅かに残っていた。
そして、斬撃の跡や炎が焼けた跡、そして水に濡れた場所もあった。
「ここで、戦闘があった訳だね……」
斬撃はともかく、炎と水の跡は霊術によるものだろう。
……と言う事は……。
「悪路王がいない事から見て、誰かが打倒した……?」
けど、この時代の陰陽師…退魔士ではそれは難しいはず。
土御門家の末裔だったあの子でさえ勝てないだろう。
……だとすれば、式姫か名が知れずとも腕の立つ霊術使いか…。
「……大門の守護者…?」
悪路王は妖の中でも特殊な存在だ。
何らかの理由で大門の守護者と敵対していてもおかしくはない。
……さすがに、考えすぎかな。
「とりあえず、本来の場所に向かおうか」
用意していた術式(魔法)を起動させる。
ちょっと魔力が勿体ないけど、優ちゃんに魔力結晶を貰ってるから問題ないね。
「うーん、了承しておいてなんだけど……きつくない?」
結界を張り、周囲への被害はこれで極力なくなった。
でも、改めて見るその大きな姿に、一人で倒しきれるか分からなかった。
「でもまぁ、やらなきゃ始まらないよね!」
「ォオオオオオオオオオオオオオン!!」
北上龍神の咆哮と共に、戦いの火蓋が切られた。
=アリシアside=
「がしゃどくろ……かぁ」
「あまり聞かないね」
「骸骨の妖ってわかるんだけどね」
山形県の出羽三山と呼ばれる場所に、私達は転移した。
椿たち曰く、ここにいるのは“がしゃどくろ”という妖。
名前からして骸骨系なのは分かるけど……。
「建物を壊さずに済ませる自信ないなぁ」
「そのためにこれを貰ったんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけどさ」
アリサが持っているのは、鳥かごみたいな形の結晶体。
これは、優輝が作ったもので、簡単に言えば即席の結界を張るものらしい。
魔弾銃と同じで、魔力を持ってなくても使えるようだ。
ちなみに名前は結界晶らしい。そのままだね。
「一応、霊力の結界も使えるけど」
「結界に割いている余裕がないかもしれないからね」
「なるほど」
ただでさえ実戦経験が少ないんだから、少しでも節約するのは当然だよね。
出し惜しみなんてしてたらすぐ死んじゃうんだから。
「……ねぇ」
「……分かってるわ」
幽世の門を探して歩いてる際に、一つの池に通りかかる。
その瞬間、私達は足を止めた。
「池の中から……それに、この霊力は……」
「京都の土蜘蛛よりも上……だね」
京都の土蜘蛛は、明らかに本来より弱いと分かる強さだった。
…それでも、並大抵な強さじゃなかったけどね。
でも、今感じられる力はそれ以上だ。
「っ……!来るよ!」
「っ!!」
私がそう叫んだ瞬間、散り散りに飛び退く。
同時に、アリサが結界晶を地面に叩きつけ、結界で隔離する。
「呪詛…!すずか!」
「うん!」
現れた骸骨…がしゃどくろから滲み出る呪いの力を見て、すぐに霊力を練る。
組み立てる術式は、呪いに対する耐性を得るもの。
まだ高等な術式だと短時間しか保たないから、今は持続力がある方を選ぶ。
「カカカカカカ!」
「っとぉ!せいっ!」
カタカタと音を鳴らしながら、叩きつけが来る。
少し引き付けてから躱し、すぐに斧を構えて叩き込む。
骸骨だから面での攻撃の方が通りやすいからね。
「効い……てはいるけど、まだまだ…!」
「『アリシアちゃん!』」
「っ!」
取り囲むように呪いの炎が私の周囲にあった。
すずかの伝心と共に、氷の足場が宙に現れたので、それで包囲を脱出する。
術式を込めた御札を投げつけておいたとは言え、威力も不十分で私は無防備になってしまう。
「『アリサ!』」
「『任せなさい!』」
その隙を補うために、アリサに伝心を繋ぐ。
がしゃどくろの背後を取ったアリサは、デバイスを二刀に変え、炎の斬撃を一気に叩き込んだ。
「っ、っと」
「……通ってはいるけど……」
「まだまだ耐えるって感じね…!」
一度全員が集まるように着地する。
手応えもあるし、効いていない訳じゃない。
だけど、倒れる気配はない。……凄いタフみたいだね。
「呪詛の類に気を付けつつ、着実にダメージを与えよう。幸い、あの土蜘蛛のように動きを阻害するようなものはないからね!」
「ええ!」
「行くよ!」
すずかも武器として槍を持ち、三人でカバーしつつ攻撃を続ける。
立ち回りやすい分、あの土蜘蛛よりも楽かもしれない。
だけど、油断はせずに私達は確実に攻撃を与えていった。
=なのはside=
「……シュート!」
「ファイア!」
魔力弾を放ち、街中にいる妖達を倒していく。
重要な妖を任された優輝さん達と違って、私達は各地の妖を殲滅しつつ幽世の門を制圧。封印するまで結界などで封じ込める役割だ。
「はぁっ!」
「っと…!」
はやてちゃんはヴォルケンリッターの皆と同行していて、私はフェイトちゃん、アルフ、リニスさん、ユーノ君と一緒だ。
ちなみに、プレシアさんは次元跳躍魔法を活かすためにアースラに残っているみたい。
妖相手なら気づかれる事なく当てれるもんね。
「範囲が広すぎる……!」
「ここだけじゃなくて、日本中がこうなんだよね……」
「いくらなんでもこっちが先に倒れちまうよぉ」
数も強さも大した事はないけど、規模が大きすぎる。
一回一回丁寧に倒していたら、アルフの言う通り私達が先に倒れてしまう。
「だからと言って、怠る訳にもいきませんよ」
「う……でもさぁ……」
「倒すだけが民間人を守る手段ではありません。…さぁ、次に行きますよ」
リニスさんはそういって他の場所に向かっていった。
「……そうか、倒す必要はなかったね」
「…ユーノ君?」
「ごめん、なのは。しばらく妖について調べてみる。その間、他の妖は任せたよ。上手く行けば一網打尽にできると思う」
「えっ?」
何かを思いついたのか、ユーノ君はそういって近くの妖をバインドで捕まえた。
「……何をする気なのかねぇ」
「……ユーノ君が無駄な事をするなんて思えないよ。……私達も頑張らないと」
とりあえず、この辺りはユーノ君が捕まえている妖以外は倒したから、他の場所の妖も倒さないとね。
『事が終わったら念話で知らせるよ。……しばらく戦力になれないけど、頑張って』
「『うん。ユーノ君こそ、油断して不意を突かれないでね』」
妖はどこからともなく現れる。
人気が多い場合はその場に出現って言う事はないけど…。
とりあえず、不意を突かれる事もあるから、私達自身も気を付けないとね。
「魔力や戦力よりも、体力が足りなくなる……」
「…そうだね」
「……なのは、まだ余裕そうだね?」
「にゃはは、実は、お兄ちゃんたちに頼んで最近は体力作りもしてるんだ」
小学六年生の時、疲労が原因で私は倒れた。
その後、優輝さんに言われた“周りを頼る事”を実行するため、お兄ちゃんやお父さんに少しばかり鍛えてもらうように頼みこんだ。
別にまた無茶をし続ける訳ではないけど、体力があるのに越したことはないからね。
その結果、今の私は以前の運動音痴が嘘のように動けるようになった。
「っ、フェイト!」
「危ない!」
フェイトちゃんの背後に迫っていた妖を、防御魔法を纏わせたレイジングハートで突き、弾き飛ばす。……こんな風に動けるようにもなった。
「あ、ありがとうなのは…」
「休む暇がないね……。レイジングハート、いきなりだったけど大丈夫?」
〈No problem〉
レイジングハートは普段杖だ。だから、あまり近接武器には向いてない。
フルドライブすれば槍みたいになるからいいんだけどね。
「……!なのは、下……」
「え?……っ!」
下を見てみれば、助けた人達が私達に注目していた。
……そうだよね、人が空を飛んでて、妖を魔法で倒してたら気になるよね……。
「…って、テレビ局まで…!フェイトちゃん、アルフ!ここから離れるよ!」
「もう!妖から民間人まで、面倒臭いね!」
「アルフ……面倒なのは分かるけど、我慢して…」
あまりに注目された身動きが取り辛くなるので、私達はすぐにそこから移動した。
……写真とか撮ろうとしてる人、こんな状況なのに余裕だね。
=ユーノside=
「ガァアアッ……!」
「……相性が悪くても、霊力そのものをぶつけられなければ魔法も普通に通るみたいだね。……なのはとはやてが強力な妖を倒したと聞くし、色々何とかなりそうだね」
簡易的な封時結界を張り、その中で妖をバインドで固定する。
「……僕の読みが上手く当たれば、結界で妖を捕らえる事もできる……」
魔法での結界だと、上手く妖だけを隔離する事ができない。
さらにここまでの規模になると、多くの民間人を巻き込んでしまう。
だから、妖を妖だと区別できる結界が張れれば、戦闘はかなり楽になると思う。
優輝達なら張れると思うけど、これ以上の負担は掛けさせられないからね。
「……………」
僕だって考古学で名のあるスクライア一族の一人。
直接調査をすることに関しては、長けていると自負している。
所謂学者肌なこの僕の力を、今こそ活かす時……!
「…実体はある。けど、その構成材質は実体を持たない。優輝や帝が作り出す武器と似た原理だね。……幽世の存在、つまりこの世ならざる者。……うーん、さすがに本質とかまでは分からない……か。…でも、掴めた」
霊力を扱えないから、これ以上の解析は無理だろう。
だけど、普通の人との差を見つける事はできた。
後は、それに応じた術式を練って……。
「名付けて……妖捕結界、かな」
完成した術式を行使し、結界を張る。
すると、周囲にあった民間人の気配が消え、残ったのは……。
「成功だ…!」
妖のみとなった。
……これなら、民間人の救助がぐっと楽になる。
「……さて、こいつらを倒してなのはたちに知らせないとね」
攻撃魔法が苦手でも、戦い様はある。
優輝に教えてもらった攻撃方法なら、僕でも十分に戦えるからね。
=out side=
―――ヒョォォォォ……!
「っ……また……」
「くぅ……」
海沿いを歩いて移動している那美は、もう何度目かになる鳴き声を聞く。
聞いた事のない、未知の鳴き声だからこそ、那美と久遠は気にしていた。
「……うぅ……」
「…くぅ」
度々襲い来る妖を倒しつつ、二人は着実に鳴き声の方へ行く。
「何と言うか……気持ち悪さに混じって、哀しさがあるような……」
「………」
「……どっち道、幽世の門が開いているのなら、閉じないとね……」
そういって、那美と久遠は鳴き声の下へと向かった。
―――ヒョォオオオオン!
「っ、近い…!」
「那美、あそこ…!」
一際近くから聞こえた鳴き声を頼りに、声の主を見つける久遠。
那美も久遠と同じ方向を見て、ついに見つける。
「あれは……一体……!?」
そこにいたのは、大きな獣のような存在だった。
「虎?え、猿…?」
「……くぅ、わからない」
いくつかの動物が入り混じったかのようなその姿に、那美は困惑する。
その妖の名前は鵺。かつて平安京で猛威を振るった妖怪だ。
「っ!」
「那美…!」
「大丈夫、行くよ久遠!」
那美達に気づいた鵺は薙ぎ払うように爪を振るう。
すぐに戦闘態勢に入った那美はそれを躱し、久遠も武器を構える。
久遠の武器は優輝に創造魔法で作ってもらった薙刀だ。
御札に収納しており、持ち運びが楽になっている。
「……!」
「(強い…!他の妖とは全然違う!それも、今までの門の守護者よりも、ずっと…!)」
久遠の振るった薙刀が躱され、反撃の爪で弾かれるように後退する。
那美にも鵺は襲い掛かり、その度に那美は障壁を張りつつ攻撃を躱す。
「でも……!」
「くぅ……!!」
ピシャァアアアアン!!
しかし、侮るなかれ。
久遠のその力は、今では椿と葵でさえ本気で対応しなければならない程。
いくら実戦と言う違いがあるとは言え、久遠の強さは相当なものだ。
繰り出された雷は鵺の体表を焦がし、大きなダメージを与える事になる。
「っ、させない!」
―――“旋風地獄”
霊力を溜めたのを那美が察知し、即座に術で妨害する。
鵺の体を包むように風の刃が展開され、動きを阻害する。
「ヒョォオオオオオオン!!」
「くぅ…!間に、合っ、た……!」
―――“神鳴”
―――“三雷”
一際大きな雷と、三つの雷がぶつかり合った。
結局の所、那美の術は完全に妨害するに至らず、少し遅らせただけだった。
しかし、久遠にとってはそれでも充分で、放たれる術に対抗する術を用意できた。
「くぅぅぅ……!!」
「っ……!今の内に…!」
雷のぶつかり合いは拮抗し、久遠は踏ん張る。
その間に那美も霊力を練り、術式を起動させる。
「貫き、祓え!」
―――“神槍”
聖属性の霊力で編まれた槍が、鵺に降り注ぐ。
同時の攻撃に対処しきれなかった鵺は槍に貫かれ、態勢を崩す。
そのまま久遠の術も対応しきれずに、再び鵺は雷に焼かれた。
「よし、これで……!」
「押し、切れる…?」
若干、その場に膝を付いた鵺を見て、このまま押し切れると二人は思う。
「油断せずに、畳みかけるよ!」
「うん……!」
再び霊力を編み、術式を構築する。
しかし、その瞬間………。
―――“痛かった”
「っ………!?」
悲しみが乗った、言霊のような呪いが飛んできた。
「く、ぅ…?」
「何、今、の…!?」
それは、心に突き刺さる精神攻撃。
鵺であって鵺ではない“何者か”の声に、那美と久遠は膝を付く。
あまりにも悲しく、あまりにも辛さを感じる声だったから。
「ダメ、これで、倒れたら…!」
「っ、那美…!」
精神攻撃だけでなく、爪による攻撃も迫る。
咄嗟に久遠が那美を突き飛ばすように動き、那美もその場から飛び退く。
間一髪、鵺の攻撃を躱した。
「一体、何が……」
「分からない……でも、とても悲しい…」
それは、かつて取り込んだ陰陽師の記憶。
かつて鵺は、一人の陰陽師の力を取り込んだ。
そして、取り込んだ陰陽師にとって“死をもたらした妖”となり、その記憶によって自らを強くしていた。
―――“届かなかった”
「っ、ぁ……!?」
その悲しき“記憶”からの攻撃に、那美は動けなかった。
その“記憶”からの声があまりにも辛く、哀しいものだったから。
既に、那美は鵺のソレに呑み込まれそうになっていた。
「っ、させ、ない…!」
久遠が必死に那美を守りつつ、応戦する。
しかし、久遠もまた“記憶”の声に呑み込まれかけていた。
「(あれ……この声、どこかで…確か……)」
声に呑み込まれ、徐々に意識を失っていく那美。
そんな那美に、一つの声が響く。
『那美、聞こえるかしら?……那美?』
「……ぇ…」
それは、一人の年下の知り合い。鈴の声だった。
伝心によって、連絡を取ろうと鈴から繋げてきたのだ。
そして、伝心は相手の精神状態を軽く感じ取る事もできる。
『那美!?どうしたの!?まさか……!』
「鈴……ちゃん……?」
『っ……間に合え、転移……!』
「(……そうだ、どこか聞いた事のある“声”だと思ったら…)」
「那美……!」
久遠が横へと吹き飛ばされ、那美に爪が振り下ろされる。
あわや切り裂かれるかと思った瞬間……。
―――リィン…
ギィイン!!
「っ、間一髪…!」
鈴の音が聞こえると同時に、振り下ろされた爪を一振りの刀が防ぐ。
そこには、つい先ほどまで伝心で会話していた鈴の姿があった。
聞こえた鈴の音は、彼女の付けていた鈴から聞こえていた。
「……やっぱり、こいつか……!」
「…ぁ、鈴、ちゃん……」
「立ちなさい、那美。ここで挫けていてはダメよ」
鵺を睨み、対峙する鈴。
何とか立ち上がった那美にとって、その姿は年下にも関わらず、とても頼りに思えた。
後書き
利根龍神…利根川にいる龍神。かくりよの門では、龍神系で最初なため、相応の強さになっている(要するに弱い)。
蟲毒の社…作者がかくりよの門をプレイした際、リアルで血の気が引いた場所。BGMはなく、風が吹くSEのみ。入口のNPCの“もう誰もいない”の言葉に関わらず存在する他のNPC。雰囲気が一変したため、印象に残っています。(by作者)
絡新婦…蟲毒の社に出る守護者。上半身が長髪の女性で下半身が蜘蛛と言った姿をしている。正直、蟲毒の社そのもののインパクトが強くて印象が薄い。
北上龍神…龍神系の三番手。ちなみに二番手は富士龍神。呪縛(レイドにおける交代禁止)を付与する攻撃をよくしてくる。現在では雑魚扱い。でもタフ。
がしゃどくろ…出羽三山の五重の塔にいる髑髏の妖。かくりよの門では、妖ではなく妖怪として出た(あまり違いはない)。レイド用として、強化バージョン(がしゃごくろ・鏡)がいる。
結界晶…本編で言った通り魔力なしで結界が張れるアイテム。優輝はどんどんこういった便利アイテムを作って管理局に提供しています(人手不足解消のために)。
妖捕結界…妖を隔離する事に適した魔法。ユーノが妖の生態を直接調べる事で編み出した。
鵺…ストーリーボス初の特殊BGM持ち。猿の頭に虎の体を持った妖。かくりよの門では、実装当初はこの鵺の直後のボスである“鵺の記憶”が、その強さと物語の精神的ダメージで猛威を振るった。本編の鵺は両方の性質を持っている設定。
旋風地獄…風属性全体攻撃。風の刃が広範囲を切り裂く。
神鳴…所謂霊術の雷。久遠の雷に似ているが、こちらの方がちゃんとした術式なので強い。
三雷…久遠の雷を三つに束ねたもの。ちなみに、現在は五つが限界。(五尾なので)
利根龍神は実装当時、エンドコンテンツ扱いでしたが、サービス開始から三年ほど経った今では、初心者ばかりのレイドでもない限り、瞬殺されてしまう可哀想な存在になっています。本編でもその影響があり、本来なら強いのに手強い描写がありません。……優輝(熟練)ではなくアリサやすずか(ビギナー)なら少しは変わっていましたが。
……今更ですけど、これって原作の項目にかくりよの門を加えるべきですかね?
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