世界をめぐる、銀白の翼
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第七章 C.D.の計略
揺蕩う鬼
京介の修業も兼ねて、数々の魔化魍討伐を果たしていくヒビキ。
だが、最初の一体を除いて他の地の魔化魍は姿を消してしまっていた。
誰かが倒してしまったのか、移動でもしたのか。
まさか、自然消滅ということはあるまい。
ともあれ床に着く二人。
今、辺り一面は闇の支配する世界。
静寂かどうかは、わからない。
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草木も眠る丑三つ時。
静かな風の流れる音と、草のこすれる音しかしない。
トゥスクルの一介の村なのだ。夜遅くまで人が出歩くわけもない。
明かりだって、当然ない。
太陽が沈んで暗くなり外に出れない=もう家から出ない時間なのだ。
これが宮殿の城下町だと、もう少し人通りと明かりがあるものだが。
そんな静かな、実に静かな夜。
だが、その中に不穏な空気を感じ取り、闇の中でパチリとヒビキの瞼が開いた。
ガザリと音がする。
風にしては、やけに獣くさい音の鳴らし方だ。
それも、迷い込んだり彷徨うような、そんなごく普通の自然生物のものではない。
長く魔化魍との戦いに身を置いてきた、関東支部最強の鬼の直感は伊達ではない。
その僅かな気配を逃さず感知し、周囲の脅威を察知したのだ。
魔化魍探しで、山の中に一週間近く籠ったこともある。
これくらいはわかるというものだ。
(おい、京介起きろ)
「ぅん・・・なんですk」
(大きな声出すな。何かいるぞ)
(え)
布団の中でゴソゴソしながら京介の肩を揺らして起こし、小声で話すヒビキ。
ちらちらと目配せするも、近づいてきていないのか、それとも気のせいなのか、それ以降ぱったりと音はしなくなった。
(気のせいですよ。早く寝ましょうよ・・・)
明日も早く起きて修行なんでしょ、と言って、早く寝たがる京介。
ヒビキに背を向け、掛布団を肩に引き上げながら再び横になる。
ヒビキも、横になったままだが神経を張り巡らせ観察するも、それ以上のものは感じ取れなかった。
やはり気のせいか。
そう思い、横になり目を閉じた。
そして幾分かしてまどろみの中に入りかけた瞬間―――――
「ッ!!」
「!!」
ヒビキと京介が、同時に飛び起きた。
草のこすれる音。
虫の鳴く音。
風の流れる音。
その音の中に、常人では聞き取ることが困難なほど小さく遠くの「人の悲鳴」を二人は聞き取ったのだ。
「アカネタカ!!」
「ルリオオカミ!!」
ディスクアニマルを起動、投げ放ち、自らも宿から飛び出して外へ出る。
宿、とはいっても空き家となっている一軒家を借りているだけなので、外へはすぐだ。
そこから再び耳を澄ませ、あらかた方向に見当をつける。
そしてそちらへと迷いなく飛び出していき、森の中を駆け巡る。
ガサガサと自分ともう一人の駆ける音。
そして少し先から、もう一つの音が。
足音はない。
だがこのうっそうとした森の中、木々に当たらずに走り抜けることなど不可能だ。
その葉擦れの音を追い、正確な位置はわからずとも駆ける。
すると、先ほど放ったアカネタカが甲高い鳴き声を上げて居場所を知らせた。
そちらへと向きを変え、茂みを飛び越え、木々をかき分け闇の中を疾走する二人。
先ほど一度、目を覚ましていたのが功を為し、夜目が効いてこの森の中でも月明りで一応見える。
そしてその木々と闇の間に白い影を見つけると、変身音叉を取出し木に当て鳴らす。
それを額にかざし、全身が炎に包まれると二人はたちまち「鬼」へと変身してその白い影へと飛び掛かっていった。
「たァ!!」
「おりゃ!!」
ヒビキの跳び蹴りと、白い影の抱えていた人影をキャッチする強鬼。
抱えられていたのは、幼い子供だ。歳はまだ二桁も行っていないのではないか。
ルリオオカミらをその子につけて村へと帰らせ、二人は現れた白い影のほうへと向き合った。
魔化魍・バケネコである。
主に、夏に出現する魔化魍だ。まだ6月ではあるが、おそらく暖かい気候に影響されて生まれたのだろう。
大きさは等身大程度。我々とそう変わらない。
ただ、この魔化魍に限らず、夏の魔化魍というのはなかなか厄介な特徴を持っていて
「ニャア~」
「ギニャァ!!」
「フシィ!!」
増殖するため、数が多いのだ。
このバケネコの場合、ある程度成長したら尻尾を切り離し、そこから新たな個体が出現する。
よって響鬼たちは囲まれ、こうして多くのバケネコの眼光にさらされていた。
だが多勢に無勢というこの状況にもかかわらず、響鬼と強鬼は全く持って落ち着いた雰囲気のままであった。
「あの子はディスクアニマルがついてるから大丈夫のはずです」
「ってことは、俺らはこいつら倒せばいいってわけね!!」
クンクンッ!と、後ろ腰に装着していた音撃棒・烈火を取出して回してから構える響鬼。
ベルトのバックルに当たる音撃鼓・火炎鼓を取出し、今にも投げつけようとする強鬼。
「行くよっ!!」
「はいっ!!」
響鬼の掛け声に、強鬼が動き出す。
一瞬で全身が発光し「響鬼紅」へと強化変身した響鬼は、音撃鼓なしで音撃を次々にバケネコへと叩き込んでいく。
この響鬼紅という形態は、音撃を叩き込むのに「音撃鼓」のセットが必ずしも必要ではない。
むろん、セットすればより強いが、このように数が多い相手だとこの形態は有利だ。
強鬼はというと、こちらは音撃打に火炎鼓が欠かせないため、一体一体付け直しだ。
本来このような相手には、複数人でかかり、一体一体しっかりと多めに音撃鼓を持ち込むのだが、それを面倒くさがった彼はというと、彼独自の戦い方を会得することとなり
「ハッ!!」
ドンッ!!
「フッ!!」
ドドンッ!!
「セッ!!」
バキッ、ドン、ガッ、ドン!!
「ギィイいい!!」
「ニィアッッ!!」
掛け声と、打撃音と、爆発音。
強鬼は次々に、バケネコ倒しに成功していっていた。
音撃鼓の設置は、対象の魔化魍の肉体に直接貼り付けるように行われる。
そしてそれは、ある程度の束縛効果も得られる代物だ。
まず最初の一体目に音撃鼓を投げつけてセットする。
背後から襲い掛かるバケネコを後ろ蹴りで突き飛ばし、正面の一体に音撃を一撃で叩き込み、回し蹴りで音撃鼓を蹴り飛ばした。
すると一体目から剥がれた音撃鼓は、別の個体の胸へとセットされそこに向かって次の一撃をブチ込むのだ。
そうすることで一々音撃鼓をセットするという手間を解消し、周囲のバケネコを休むことなく次々に撃破していっていたのである。
比較的小さい等身大の魔化魍とはいえ、音撃は数撃程叩き込む必要があるのが定石だ。
だがこの強鬼、一撃を的確な個所にブチ込むことで、ただそれ一発で倒すことに成功していたのである。
これが、去年の夏の大量発生したカッパを相手に、音撃鼓なしで音撃を繰り出せるヒビキに対してスコアで勝った強鬼の技術だ。
そうして次々にバケネコの数は減っていき、中には逃走を試みる個体も現れ始めた。
そうはさせるかと、音撃棒から烈火弾を放ち焼き倒す響鬼。
だが一気に周囲へと逃げられては対処も追いつかない。
響鬼が一旦別行動をとるか、と簡単な指の動きでシグナルを送り、強鬼が頷く。
となると、現状の戦い方からして役割分担としては
向ってくる魔化魍:強鬼
逃げていく魔化魍:響鬼
ということになる。
ならば、と強鬼を中心に少し外側へと出ようとする響鬼。
だが、その瞬間に彼らに巨体が襲い掛かった。
ズォオッ、という音とともに、宙を蛇のようにくねって飛来してきたのは魔化魍・ウブメ。
牙の生えた巨大な魚に、羽根が生えた姿をしたこの魔化魍は、空を泳ぐように飛んで響鬼たちを強襲してきたのだ。
それをとっさに回避する響鬼。
すると、その先に居たバケネコたちがその牙の餌食となり、そうでなくとも巨体に撥ね飛ばされて芥となって消えてしまった。
「ヒビキさん!!」
「っとぉ、こりゃぁちょっとヤバいかもねぇ」
バケネコは、一応この場にいたのはすべて撃破した。
だが問題はウブメだ。
魚の見た目の通り、こいつは水辺で成長する魔化魍だ。
そして羽根は飾りではなく、見て分かるように飛んでいる。
このような魔化魍に対して、打撃の鬼は些か不利である。
打撃の鬼は、接近戦を主とする。
無論、遠距離攻撃技を持たないわけではないが、ウブメ相手に当てられるかどうかと問われると難しいところだ。下手に外して、山火事にもしたくはない。
こういう場合は、遠距離を主とする管の鬼が受け持つ相手だ。
となると、ここはいったん引き村の護衛に専念。
改めて管の鬼である者に任務を依頼しなおすしかない。
だがそうするとしても、また一つ問題が。
「うぉっ!!」
「このォッ!!」
木々を縫って飛来し、ヒビキ、強鬼へと噛みつこうと襲い掛かるウブメから、無事に引けるかどうかである。
このまま村まで駆けることは可能だろうが、それではこいつの「餌場」までの道案内になってしまう。
響鬼はすでに紅を解き通常状態に戻っていた。
ウブメは倒さねばならないかもしれない。
若しくは、どちらか一人がウブメを引き付け、もう一人が村の警護に当たる。
だがどちらにどちらが就くとしても、どちらも疲弊を極めることになる。
そうなったとき、自分たちは守り切れるのかといわれると――――
「京介!!倒すぞ!!」
「わかってますよ!!」
やはりこれしかない。
ウブメを倒す。
方法は一つ。
あいつの攻撃は基本ヒット&アウェイ。
突っ込んできて噛みつき、そのまま走り去る戦法だ。
取り付くのは無理だ。
オトロシとは違う。振り落される。
組み合う事ができる相手でもない。
ならば、すれ違いざまに音撃を叩き込むまで―――――
ウブメが来る。
強鬼、響鬼ともに地面に倒れこむようにしてその牙を回避する。
そして即座に立ち上がり、その腹に向かって音撃鼓をセットしようと腕を振り上げ
「京介ェ!!」
「な、うぁッ!!!」
位置が悪かった、というほかない。
ウブメが通過したのは、強鬼、響鬼の順。
即ち、回避から立ち上がりは強鬼のほうが早くそして、牙が通過していった後に唸る尾に叩き付けられたのも、強鬼であった。
「ガはっ!!」
「ぐうっ!!」
バチィっ!!と弾かれた強鬼の身体は、響鬼のほうへと吹っ飛んでいき、彼の身体ごと地面に倒し込んだ。
何とか転がり、響鬼の上から退く強鬼だが彼はすぐには動けない。
上の強鬼がいなくなったとはいえ、響鬼もまた腰を着いたこの状態から起き上がるには時間がかかる。
そしてその数秒の時間のうちに、ウブメは再び鬼を喰らおうと突進し
「う、お!!」
「食っ!?」
ゴポン、と
飛来してきた液体に尾を捕えられ、前に進むことが叶わなくなっていた。
「え?」
「なにあれ」
絶体絶命の危機はどこへやら、そんな間の抜けた声を出してしまう両人。
二人が身体を横にずらし、ウブメの後方を覗き込むと、そこにいたのは黒い鬼。
正確には黒というよりは、限りなく黒に近い青―――つまりは濃い群青色だ。
もはや並べて見せてくれないと、黒との見分けがつかないほどに濃い群青。
だがその群青は、闇夜において黒よりもなおその陰に溶け込んでいた。
「キィー!!!」
先に進めぬ、という不自由を強いられ、ウブメが抗議の声を上げる。
だがそんなことは知らぬと言わんばかりにその群青の鬼は、音撃棒の先端からさらに攻撃を放って行った。
水だ。
響鬼が音撃棒から烈火弾(火炎弾)を投げ放つのだとすれば、この鬼は水弾を投げ放っている。
その水がどういうわけか魔化魍の身体に張り付き、その動きを止めているのだ。
そしてある程度全身にそれが張り付くと、今度は音撃鼓を取出し宙にセットする。
何かに張り付いたわけでもなく、しかしそこに浮き巨大化する音撃鼓。
そしてそこに鬼が音撃棒を当てると、一気に水がボヨンと飛び出してウブメの全身を包み込んだ。
飛び出したのは水ではあるが、その溢れ出方はシャボン玉のそれに近い。
ぷくりと膨らみ、そのまま音撃鼓から離れることなく魔化魍へと延びてそれを包み込んだのだ。言わば、水のネットで捕まえた様なものだ。
そして、鬼はカンカンッ!!と音撃棒を打ち鳴らしてから振り上げ、それを振り下ろして一気に叩き始めた。
ドドッ
「音撃打」
ドドカドッ
「無想連打の型」
ドダダダダダドドドドドッッ
「ハッ、ぉオオっ!!」
リズミカルに、それでもとめどなく叩き続けられる音撃鼓。
一切の乱れなく振られ続ける音撃棒。
音撃鼓から発せられる音撃は、そのまま水を伝ってウブメの全身へと全方向から襲い掛かった。
考えてみれば、通常の音撃よりこれは強力なはずである。
何せ、水の振動は空気の振動よりも4倍は早い。
そうして鬼の音撃がいよいよ締めに入り、ダダン!と止まる。
コォォ―――という爆発前兆の音がして、それに合わせて鬼が再びカカンッ!と音撃棒を鳴らした。
そして、そのタイミングでウブメは爆発。
水はバシャンと大地に落ち、その場に沁みこんでいってしまった。
ピチャン・・・と、音撃棒の先から、先ほどの攻撃の名残か水滴が滴る。
目の前の光景に唖然とする響鬼。
一体どこの鬼なのか。
そもそも、まだ猛士にトゥスクル支部などはないはずだ。
「あの・・・・あんたは?」
おずおずと問う響鬼。
首から上の変身を解き、一歩二歩と近づくと、まるで初めてこちらに気付いたかのようなそぶりで――――というか、本当に今気づいたのだろう。その鬼はこちらに向き直った。
「某は絶鬼と申す者。貴殿も鬼であるか」
「は、はぁ」
つい生返事をしてしまったが、何とも妙な話し方をする鬼だ。
まるで、時代劇か何かを見ているかのような気がする。
そういえば、この鬼の雰囲気もなんとなく――――――
「いまだ悪鬼たる者を祓えぬとはな」
「は?」
そういって、鬼は音撃棒を構えた。
ピチャリと、水滴がまた垂れる。
しかし、今先端から滴った水滴は先ほどの名残ではなく、この鬼が臨戦態勢であることの証で
「斬り捨て、御免」
ビャゥッッ!!
水が迫った。
何物をも絶つと言わんばかりの、水の刃が襲い掛かる。
to be continued
後書き
さあ、出てきましたよ!!
響鬼編のデミライダー・絶鬼!!
一体彼が何を考えて響に襲い掛かるのか!!
響
「うぎゃー!?なんで自分に来るのさー!?」
あ、ちげぇや。
でも響はそれでいいと思うんだ!!(ゲス顔0円スマイル
響
「貴音ー!!助けて貴音ぇ!!」
貴音
「かかってくるのです、ブラックサン!!」
真
「やめて・・・やめてくれシャドームーン!!」
響
「何してるんさァ!?」
光太郎
「信彦ォーーー!!!」
響
「次回。ってえ!?自分がやるのか!?」
また次回予告できてない!!!
蒔風
「というか響鬼さん勢が一人も次回予告に出ないってどういうことなの・・・・」
ではまた次回
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