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勇者にならない冒険者の物語 - ドラゴンクエスト10より -

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始まりのジュレット4

「ンー、バルジェンってやっぱり、ちょっといい匂いがするのにゃ」

 おんぶさせておきながら恐ろしい事を口走るジアーデに、彼は不安そうな声を上げた。

「俺は食い物じゃねーよ!?」

「みゃはは、冗談だにゃ」

 笑いながら、ジアーデはバルジェンが肩から下げて腹の辺りに吊るしている布製のポーチに手を伸ばして口紐を緩めると、中から縦20センチ、横15センチ程の大きさの本を取り出して右手で器用に開いて読み始める。
 バルジェンの冒険の書だ。

「ああ! おぶさって来たのはそれが目的か!?」

「ジアーデが気持ちよくして上げてるんだから吠えにゃい吠えにゃい」

「色仕掛けすれば全て許されるとか思われてる!?」

「んーにゃににゃに? 格闘スキルLV70、闘技場で戦えるレベルじゃにゃいけどやっぱりレベル高いにゃあ!」

 ぱらりとページをめくる。

「んでぇ? 職業! あーやっぱり旅芸人選んでるー。どうして素直に武闘家選ばないのにゃ」

「だって、旅芸人はホイミ系の回復魔法も覚えられるし。単独でも仕事出来るかなと」

「回復はジアーデができるからいいにょに、もう! にゃににゃに? LVは35。また中途半端だにゃあ〜」

「中途半端で悪かったよっ」

「んん???」

 ジアーデが何かに気付いた様子で冒険の書を食い入るように見ようとして、思わず左手に力が入りすぎてバルジェンの首を絞めてしまう。

「にゃにゃ? 棍LV100? なんだかLVの表記おかしくにゃいかにゃ?」

「くるじいくるじい、ホールド入ってるスリーパーホールド入ってる!」

「ああ、ごめーんにゃっ。てへ」

「てへじゃねーよ!」

 抗議の声を上げるバルジェンが、今更ながら持っている両手棍に視線を落として見る。
 ジアーデをおんぶしやすいようにか、いつの間にか彼女のお尻の下あたりに横にして持っていたものだ。
 緑色の棍は、金属製の龍の装飾が施されている。

「高価そうな棍だにゃあ、いつ買ったのにゃ?」

「貰い物だよ。ダーマの神官がどうしても持ってってくれって譲ってもらったんだ」

「あの気難しいおっさんがにゃあ〜。珍しいこともあるものにゃ」

「こ、こらーっジアーデ!!」

 2人がそんな会話をしながら歩いていると、放置されたことに気付いたチョウキが慌てて追いかけて来た様子でようやく追いついて来た。

「あんん、見つかっちゃったにゃ」

 名残惜しそうにバルジェンの背から降りるジアーデ。
 ぐいっと冒険の書をバルジェンに押し付けて言った。

「クエストこなして転職できるようになったら、武闘家に転職にゃ?」

「マジですか」

「マジです」

「2人で一体何の話をしているのだ!?」

 チョウキが不機嫌そうに間に入ってくるなり、バルジェンの左腰に抱きついてくる。

「おおう、・・・。ちょっと、歩きにくい」

「ジアーデの事はおんぶしておいて私が抱きつくのはダメだとか言うのは無しだからな!」

 めんどくさいなぁ〜っと溜息をつきながらチョウキの肩に左手を回す。
 歩きにくいと思ってつい回してしまってから、あっしまったと言う顔をするが時遅く、チョウキが熱っぽい視線で見上げて来た。

「いつになく、その・・・積極的だな・・・」

「・・・・・・えっと、ゴメン。疲れ、・・・そう、ちょっと脚が疲れちゃってだな」

「あ、」っと何かに気付いた様子で「す、すまぬ。そうであったな。お主は病み上がりなのだ。勝手に盛り上がってしまって、すまぬ」

「ああ、いやっ、その・・・。女の子の肩を借りるってのは少々情けない限りだが」

「気にするでない。私は嬉しいぞ、頼ってくれて」

 居たたまれなくなって視線と話題をずらすバルジェン。

「所で、討伐に行ってたんだろう? もう終わったのか?」

「いや、対象の生息域が広がっていてな。あと2日はかかりそうだから、お前の事も心配だし回復アイテムも揃えようとな。急遽戻って来たのだ」

「そんなにも大変な内容なのか?」

「なに、モンスター自体は大した事もないが、探すのが大変でな。街道をキュララナ海岸めがけてひたすら歩いても依頼の討伐数に足りないのだ」

「討伐する必要あるのか?それ」

「獣の類であれば、民草に被害が出ていなければ放置しても問題なかろうがな。今回の討伐対象はスマイルロックと言う岩石に魔力が宿ったモンスターなのだ。近付かなければ害はないが、気付かずに近づいてしまうと唐突にジャンプして人の頭上に突っ込んでくる。ちなみに重さは1トンは軽いだろう」

「死ねるな・・・。でも、そんなに遭遇しないんだろ?探すのに手間取るって事は」

「遭遇する恐れがある、というレベルでの魔法戦士団からの依頼でな。被害が出る前に駆除すべき数が出現していると言う事だな」

「まぁ、妥当な依頼か」

「所でだな」

「うん」

「幾らか小遣いは置いていくから他所の女にホイホイ着いていくなよ」

 言いながらキュッと抱きついてくるチョウキに、バルジェンはドギマギしながら即答した。

「わかった、わかったからそんなにギュってするな。元気になっちゃ困るところが元気になってしまう」

「具体的に?」

「言わせるんかい!?」

「ふふ、遊びが過ぎたか?」

 チョウキは悪戯っぽく笑うとバルジェンから身体を離して微笑んだ。

「別に夜這いをかけにきてくれてもいいんだぞ?」

「するか! 俺はどんな卑怯者だよ!?」

 ふふふっ、と満足げに笑うチョウキを見て、ジアーデは両手で頬を抑えながら2人の少し後ろを歩いている。
 普段から赤い肌が信号機のように真っ赤になっていた。

(にゃんでかにゃ!? にゃんでかにゃ!? 冷静ににゃってみるとにゃんでジアーデはバルジェンにおんぶされてたにょかにゃ!?)

 少し先を並んで歩くウェディとエルフをしばらく眺めると、うっとりとして大変な事を考える。

(ウェディが美味しそうな匂いしてるからきっといけないのにゃ。スパイスをかけてパクってすればきっと治るにゃ。・・・パクって食べたらきもちいいかにゃあ・・・?)

 ふと、振り向いたバルジェンと目が合う。

(キモチ・・・・・・)

「おおい、ぼーっとしてるけど大丈夫かー?」

「って一体何を考えてるのにゃあジアーデは!! キモチイイってなんにゃ!?」

「いやいや・・・。何考えてたか知らんが本当に大丈夫か?」

 怪訝そうに伺うバルジェンの瞳をじっと見つめてフリーズするジアーデ。
 なんだか心配になって彼はジアーデに向き直って小首を傾げる。

「おおい、ジアーデ? 大丈夫か?」

「・・・っは!!!」

 びっくりしたように目を見開いて両手をワナワナさせるジアーデ。
 え? という不思議そうな顔をするバルジェンに、ジアーデが叫ぶ。

「呑むにゃ! 快気祝いにゃ! 今宵は祝杯にゃあ!?」

「いやいや、本当に大丈夫かあんた」

「にゃーーーーすっ!!」

 奇声を上げてジアーデがバルジェンに突進した。
 うおおっ! っと慌てて飛びのく彼の脇をすり抜けて、ジアーデはそのまま走り去ってしまった。

「宴会にゃー! 今日は呑むにゃー! バルジェンたべていい!?」

「ダメだよ! 俺は食い物じゃねーよ!!」

「うにゃああああっっっはーーーーーーー!?」

 ジアーデはみるみる遠くなり、あっという間に宿屋に入っていってしまった。
 後に残されたウェディの青年とエルフの少女は、唖然としてその場に立ち尽くした。

「ええと、あの娘って結構ああなのか?」

 目が点になってオーガ娘の走り去った軌跡を眺めるバルジェンに、チョウキも戸惑ったような表情で同じように彼女が走り去った軌跡を眺めて言った。

「付き合いはまだ浅いからわからないが、あんな暴走もするのだな・・・」

「・・・大丈夫なのか?」

「きっと大丈夫。だと、思う」

 2人は多少の不安を覚えながらも、宿屋に向かって歩き出した。 
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