SAO-銀ノ月-
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第二十九話
アインクラッド内での現在の気候は、夏。
この世界に来てから二回目の8月を、俺たちは経験していた。
とは言っても、季節が変わっても何が変わるわけでもなく――もちろん、季節感溢れるクエストはあるが――俺たちは第百層を目指して迷宮攻略を進めていた。
そんなある日、俺は一人のオレンジプレイヤーに接触を受けた。
なんでも、自らが犯した殺人の罪悪感に耐えられなくなり、自分の所属ギルドの情報を売るから、自分を《黒鉄宮》の監獄に入れて欲しい、とのことだった。
そいつの所属ギルドが、《タイタンズハンド》のような中小ギルドだったならば、ただ俺が行っただけで解決したのだが……彼の所属ギルドはなんとあの悪名高き、《笑う棺桶〈ラフィン・コフィン〉》。
最強最悪のレッドギルドの情報ということで、攻略組は一旦迷宮攻略を中断し、急遽《ラフィン・コフィン》討伐戦の作戦を練ることとなった。
情報屋の調べによって、その裏切り者のオレンジプレイヤーがもたらした、『ラフィン・コフィンの本部は低層のダンジョン』という情報が嘘偽りがないことが確認された。
そして、遂にラフコフの大規模な討伐隊が、攻略組を中心に組まれることとなった。
リーダーは、《聖騎士》ヒースクリフが本来は相応しいのだろうが、本人にやる気がないのか――「任せる」だそうだ――聖竜連合の幹部であるシュミットがリーダーを務め、血盟騎士団の《閃光》アスナをサブリーダーとして据えるという布陣となった。
その討伐隊には攻略ギルドだけでなく、キリトのような、腕に覚えがあるソロプレイヤーたちも参加するため、もちろん俺も傭兵として依頼を受け、ラフコフ討伐隊に参加した。
そして午前三時――『レッドギルド笑う棺桶〈ラフィン・コフィン〉討伐戦』が開始された。
しかし、あちらの側にももう殺人をやっていけない裏切り者がいたように、グリーンプレイヤーでありながら、ラフコフの精神性を受け継いでいる人物はいた。
そう、裏切り者である。
午前三時という、寝静まった時間での奇襲に、ラフコフ側は完璧な準備を持って受け止めた。
毒、煙玉、背後からの奇襲……ありとあらゆる不意打ちに、討伐隊は戦線をズタズタにされ、ダンジョン内をバラバラてなった。
……もちろん俺も、例外ではなく。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
ダンジョンの死角となっている横穴に、しばし身を潜める。
キリトやクラインたちとは……はぐれてしまったようだ。
感覚は十全、毒を喰らった様子はない。
ならば隠れている意味はない。
一刻も速くキリトたちに合流するか、ラフコフの首領たるPohをどうにかしなければ、と横穴から身体を通路に戻す。
「見~つけたァ」
下卑な笑い声と共に、背中にゾクリとした感覚。
俺のシステム外スキル《気配探知》が鋭敏に殺気を捉えて、俺を戦闘前の緊張が捕らえる。
背後を振り向くと、どれもこれも見覚えがないため幹部クラスではないのだろうと予想出来る三人。
どいつもこいつも、Pohをリスペクトしているのかナイフぐらいの短刀だ。
……いや、一人だけ、白いマント姿の男だけはフェンシングに使うような金属剣を持っていた。
「切り刻んでやらァ!」
そのうちの1人であるスキンヘッドがバカ正直に突っ込んでくる。
三人まとめて突っ込んでこれるほどの広さはあるのだから、どうせならば三人まとめて突っ込んで来れば良いものを……倒すのが楽だから。
「セッ!」
Pohより遥かに遅いスキンヘッドの、ナイフを持っている腕の付け根を切り裂き、まずは1人の武器を無効化する。
「お、俺の腕がァァァア……」
「やかましい!」
叫びだして動きが止まったスキンヘッドの腹を蹴り、今にも動き出しそうだった向こう側の二人に向かって蹴り飛ばした。
足刀《半月》を伴った蹴りはスキンヘッドのHPを削りつつ、勢いよく残り二人に飛んでいく。
そして更に、追撃にポケットから取り出したクナイを投げつける。
「甘めェェェんだ、よッ!?」
俺の第二の目標であった、髪の毛を逆立たせた男は、飛んで来たスキンヘッドを上手く避けたものの、回避するであろう位置を先読みしたクナイに全弾直撃する。
そしてもう一人の白いマント男は……無事な姿で、ただ立っていた。
代わりに、その傍らにはポリゴン片となり果てたスキンヘッド――!
「察するに素晴らしい攻撃だ。このスキンヘッドに当たれば大ダメージ。避ければその位置にクナイか。……つまり、察するに貴様の攻撃の回避方法は」
白いマント男は癖なのだろうか、演説のように両手を広げながら話しかけてくる。
そして、トドメを刺すかのようにスキンヘッドのポリゴン片をフェンシングで刺し、完全に消滅させた。
「この男を殺すこと、だろう?」
――正解だ。
その言葉を、俺は心中のみに留める。
確かに、今の攻撃の最も最適な回避方法は、あの白いマント男の言うとおりである……が。
そんな方法を取る人間が、果たしているのか……いや、いていいのか……!
「おっと、貴様は察するに怒っているようだな。何故なのか更に察すると、ワタシがあの男を殺したからだろうか。しかしそれは……」
「……少し黙れ」
《縮地》を使用し、白いマント男の目の前へ一瞬で移動する。
いきなり俺の姿が目の前から消えたことに、白いマント男は対応することが出来ず、俺の斬撃はその身体を正確に切り裂く。
このままでは、背後の髪の毛を逆立たせた男……今はクナイに塗ってある麻痺毒で動けなくなっているようだが……と挟まれてしまう位置のために、バックステップにより元の位置に戻る。
「うふふわははは! ワタシの身体の状態を察するに、痛いじゃあないか!」
――こいつ、ヤバい。
そう思わせる眼光が俺を射抜き、姿勢を低くし、一直線に俺にダッシュで近づいてくる。
ならば待ち構える。
待ち構えるのに、もっとも適した技である抜刀術《十六夜》をするために一旦日本刀《銀ノ月》を鞘にしまう。
「察するに貴様は自らの攻撃を受けた時にどう対応するッ!?」
貴様自身の攻撃……?
白いマント男が《縮地》を行うことはまず不可能だ。
ならば、俺が行った攻撃と言えば……!
俺が何なのか思いたった瞬間、白いマント男は仲間である筈の髪を逆立たせた男を、俺に向かって投げ飛ばしてくる。
あの勢いをつけたダッシュは、俺へと向かう意味もあったろうが、あの髪を逆立たせた男を投げる為の勢いをつける為でもあったようだ。
そのことと武器から、あの白いマント男は敏捷重視であることが確実となったが……まずはどう対応するかだ。
逆立たせた男を斬り殺すのは論外として、そのまま当たるのもいただけない。
結論、普通に避ける。
回避位置を先読みして攻撃を行うことは、簡単に真似出来ることではない。
結果としてその判断は正解だったようだが……敏捷重視である白いマント男の追撃は素早かった。
「察するに貴様は……避けられない!」
そう言いながら、白いマント男は細剣の上位ソードスキル《スター・スプラッシュ》を俺に放ってくる。
八連撃という大技だが、それに比例して隙は大きい……!
「そこだッ!」
先程から準備していた抜刀術《十六夜》が煌めき、フェンシングの剣部分を切り裂き、残すは柄だけとなった。
しかし、柄だけになろうとも発動させたソードスキルは止まらず、何の威力も無い八連撃ソードスキルを続けなくてはならない。
「察するにワタシは……負けたようだ」
六連撃あたりで、白いマント男を麻痺毒をつけたクナイで無効化し、髪を逆立たせた男と共に縄で縛ってそこらへんに蹴り飛ばした。
俺は、オレンジプレイヤーを相手するのは手慣れているからともかく……はぐれてしまったキリトたちが心配だ。
みんなは……いや、俺も、そう簡単に相手の命を消すことなんてしない。
しかし、このラフコフの連中は違う。
殺人に対して何も思っちゃいないんだ――殺すことも、殺されることも。
だから、せめてキリトたちと早く合流しなくては……
「……って、思ってたけどな」
日本刀《銀ノ月》の刀身にこびりついた血を、日本刀《銀ノ月》を振りかぶることで払い、目の前のオレンジプレイヤー……いや、レッドプレイヤーに向ける。
「お前だけは許せないんだよ……!」
俺の恨みの言葉を聞いたにも関わらず、奴は……ラフコフのリーダーである《Poh》は、自らも《友斬包丁〈メイト・チョッパー〉》を構えてニヤリと笑う。
「おいおい違うだろ《銀ノ月》? こういう時は、niceな展開じゃないか、だろ?」
「……そうだな」
チャキ、と日本刀《銀ノ月》から鍔なり音が響き、この相棒も俺に応えてくれていることを確認する。
「ナイスな、展開じゃないか……!」
後書き
祝、800ポイント!
そんなわけで、これからラフコフ討伐戦編に入ります。
……まあ、多分そんなに長くなりませんが。
そして、名無しのモブキャラのくせに主人公よりキャラが立っている白いマント男……!
察するに貴様、何者だ……!?
では、感想・アドバイス待ってます。
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