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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第百三十二話 残暑に入ってきてその九

「あの役で歌ったことがあります」
「カルメンじゃなくて」
「カルメンは私の声域には合わないので」
 だからだとだ、早百合さんは僕に話してくれた。
「歌わない、いえ歌えないです」
「カルメンが主役でも」
「はい、あの役はソプラノでも重い声域かメゾソプラノでないとです」
 そうした声域でないと、というのだ。
「歌えないです」
「そうした役ですか」
「はい、では今から」
「早百合さんのところにですね」
「参りましょう」
「それじゃあ」
 僕は裕子さんの言葉に頷いてそしてだった。
 二人でピアノ部の部室に入った、すると部室の真ん中にあるピアノに早百合さんが座っていて丁度演奏していた。だが。
 僕達を見てだ、早百合さんはこう聞いてきた。
「何か」
「はい、実はです」
 僕が早百合さんに話した。
「マイヤーベーヤの曲を聴きたくて」
「私に演奏して欲しいと」
「それで、です」
「こちらにいらしたのですね」
「そうなんです」
「マイヤーベーヤですか」
 早百合さんは僕の話を聞いてそのうえでこう言ってきた。
「面白いですね」
「面白いですか」
「はい、どうもです」
 ここで早百合さんは少し寂しそうに話した。
「今は人気がないので」
「歌劇で」
「はい、しかし音楽はです」
 マイヤーベーヤのそれはというと。
「素晴らしいので」
「マイヤーベーヤの音楽も」
「それを演奏出来ることはです」
「いいんですか」
「よく歌劇の曲も弾きます」
 そうしてもいるというのだ、実際に早百合さんは歌劇の曲もよく弾く。毎朝の演奏の時もよく演奏している。
「ですがヴェルディやプッチーニが多く」
「あとモーツァルトやワーグナーですね」
「そうした音楽家の曲が多くて」
「マイヤーベーヤはですか」
「はい、最近です」
 少し残念そうにだ、早百合さんは話した。
「弾いていませんでした」
「そうなんですね」
「ですから」
 それでとだ、早百合さんはまた話してくれた。
「私も楽しみです」
「マイヤーベーヤを久し振りに弾けて」
「実は忘れていました」
 少し苦笑いになってだ、早百合さんはこうも言った。
「マイヤーベーヤは」
「そうだったんですか」
「恥ずかしながら」
「実はです」
 裕子さんもここで話した。
「マイヤーベーヤは世界の歌劇場でも今は」
「あまり、ですね」
「清教徒は上演されていますが」
 それでもというのだ。
「あまりです」
「そうですね」
「はい、どうしてもヴェルディやワーグナーが多く」
「あとプッチーニですね」
「そしてロッシーニも多くなっています」
 最近の世界の歌劇場の上演の傾向はというのだ。
「モーツァルトは変わりません」
「モーツァルトは永遠の定番ですね」
「そうなっています」
 天才と言われただけはあるだろうか、僕は聞いていて思った。
「歌劇でも」
「ピアノでもです」
「やはりそうですね」
「はい、私もよく弾きます」
 モーツァルトのピアノの曲はというのだ。
「歌劇の方も」
「そうですか」
「はい、しかしです」
「マイヤーベーヤはですね」
「本当にです」
 これまではというのだ。 
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